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窯元探訪【紀窯】中川紀夫さん vol.13 「スリップウェア」という世界。

by Hasami Life 編集部
窯元探訪【紀窯】中川紀夫さん vol.13 「スリップウェア」という世界。

波佐見町には全部で59つの窯元があります。そして小さな町の至るところに、波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。今回は、波佐見の中でも異色な存在感を放つ「スリップウェア」をつくる、紀窯(きがま)の中川紀夫(なかがわ のりお)さんを訪ねました。一度見たら忘れられない印象的な模様をはじめ、スリップウェアの個性的な魅力をお届け。器づくりについてはもちろん、ふだんは見られないプライベートな顔まで全3回でご紹介します。

そもそもスリップウェアってどんなもの? どうやってつくっているの? テーブルコーディネートしたらどんな感じ?
スリップウェアがはじめましての人にも、もう大好きで集めている!という人も、一緒に楽しんでもらいたい、第1回目です。

中川紀夫(なかがわ のりお)
波佐見町の陶郷・中尾山で生まれ育ち、秋田公立美術工芸短期大学を卒業後は益子・大誠窯にて修行。そののち波佐見町に戻り、父の営む「孔明窯」の隣で「紀窯」として独立し、スリップウェアを中心に作陶をしている。

 

スリップウェアって?

中川さんのお話を伺う前に、まずはスリップウェアについて簡単にご紹介をさせてください。

 

「スリップウェア」とは...

泥状の化粧土(スリップ)で文様を描きだす手法によってつくられた陶器。イギリスをはじめとしたヨーロッパを中心に、17世紀ごろからつくられるようになった。日用食器として18~19世紀にかけて盛んにつくられたが、時代が移り変わり、次第に製作が途絶えてしまった。

イギリスで廃れてしまったスリップウェアにスポットライトを当てたのが、日本の民藝運動家たち。柳宗悦や濱田庄司、バーナード・リーチらが日本に持ち帰って、その価値を伝えた。彼らは、かつて現地の人びとの暮らしに根付いていた“無銘の日用食器”の持つ素朴な風合いに、普遍的な美しさを見出したのだ。

参考:『英国のスリップウェア』(財団法人 大阪日本民芸館刊)
   『スリップウェア』(誠文堂新光社刊)

そこからスリップウェアは日本で広がり、民藝の世界にとどまらずひとつの焼きもののジャンルとして人気に。今では日本各地にスリップウェアをつくる作家がいます。中川さんもその一人です。

それでは、中川さんにその魅力やつくり方を聞いてみましょう。

 

存在感がありながら、料理映えする器。

――:
スリップウェアの魅力ってどんなところでしょう?

中川:
伝統的なスリップウェアの魅力は不規則な線。なんとも言えない美しさがありますね。形は単純なんですが、線とあいまって普遍的なよさがあります。

中川さん所有の古陶スリップウェア。左がアメリカでつくられたたレッドウェア。まるで漆のような風合い。右が18世紀のイギリスのスリップウェアで、金継ぎされている。

――:
わたしもはじめてスリップウェアというものを目にしたとき、その線の存在感に驚きました。

中川:
やっぱり線は印象的ですよね。今はいろんな作家さんがいてスリップウェアといってもデザインの幅が広いんですけど、もともとイギリスでつくられていたスリップウェアの線はゆるやかなので、僕も線のやわらかさを意識してつくっています。

――:
このスリップの模様を描くのは一発勝負ですよね。きっちり「こういう線にしよう」決めて書いているというより、その場その場で偶発的に生まれるものなのでしょうか。

中川:
ああ、僕も以前はそういう考えでした。自由な線を生み出すために、お酒を飲みながら模様を描いてみたこともあるんですけど、「ちょっと違うな」と思って考えを変えましたね(笑)。というのも、スリップウェア作家の友人知人から話を聞くと、みんなかなり細かく計算しているんです。もちろん、偶発性もあるんですけど、ある程度うまくなればコントロールできてしまうものでもあります。

――:
やわらかい線を意識しているとおっしゃってましたが、どうしたらそんな線が描けるんですか?

中川:
ものすごく単純に言うと、バーって早く描くと線が硬くなって、逆にゆっくり描くとゆるやかな線になります。ただあんまりゆっくり動かしてるとどんどん太くなっちゃうんで、あくまでもゆるやかに見えるような「線」として描いてます。

――:
ゆっくり描くというより、ゆったりとしたやわらかい線に見せる技術が必要なんですね。

中川:
そうですね。ただ、線を描くのはやっていけばうまくはなるけど、おもしろくなくなっちゃう。僕は毎回「うまくやらないようにしよう」って意識してますね。スリップをやる人の中には、わざとスポイトを扱いづらくして描く人もいます。

スリップウェアはスポイトなどを使い、線を描く。中川さんはスポイトを使用しているが、人によって道具もさまざまとのこと。

――:
ちなみにスリップウェアって、どういう料理と相性がいいと思いますか?

中川:
スリップウェアは派手な色味ではないですし、結構なんでも合いますよ。「模様が強烈!」と言われたりもしますが、料理をのせてみると意外とうるさくないんです。僕も家で普通に使ってます。料理屋さんも僕のスリップウェアをよく買ってくれて、とてもおもしろく使ってくれています。洋食よりは和食のお店さんが多いですかね。

中川さんのお家で撮られた写真。ポンとフルーツをのせるのも似合う。

――:
とくに印象的だった使われ方はありましたか?

中川:
あるお店の方が、僕がつくってる中でもいちばんでっかい皿を買ってくださったことがあって。「どんな風に使うのかな?」と思って後日食べに行ってみたら、ナスの揚げ浸しを器いっぱいに入れてカウンターに置いてありました。きれいでしたね。料理映えしますし、スリップウェアの柄と料理ってケンカしないんだなと、そのとき改めて思いました。

 

平らな生地に模様を描く、特徴的なつくり方

次に、つくり方をご紹介!

日本でつくられている焼きものは、ほとんどの場合、成形した生地を一度素焼きしてから、絵付を施してもう一度焼きます。けれどスリップウェアは成形するより先に、模様をつけるのです。中川さんに実演していただきました。

①中川さん自身で酸化鉄をブレンドした土を練ります。練ることで陶土の中に残っているゴミや空気が取り除かれるとのこと。

②まとめた生地を、ワイヤーでスライスします。生地の両側に木の板を置いて、厚みを均一にします。

③新聞紙を巻いた板の上にのせて、化粧土をかけます。この化粧土で木の板が汚れないようにして、使うたびに新聞紙を包み直すそうです。

④スリップ(泥状の化粧土)で模様をつけます。描き終わったら木の板を軽く台の上に叩きつけ、空気を抜きなじませます。

⑤ほどよく乾燥したら型に押し付けて、成形。その後乾燥させてから焼き、釉薬をかけてもう一度焼いて完成!

スリップウェアをつくる工程で一番楽しいのは、「焼く前に、型からポンっと生地を外したとき」と語る中川さん。模様を描いたときに平面で見て「いいな」と思っても、成形すると印象が変わってしまったり、焼き上がりはコントロールが難しかったりするそう。だからこそ、焼く前の一番完成形に近い段階を見るのが好きだと言います。

中川さんに「どのくらい修行したらスリップウェアをつくれるようになりますか?」とお聞きしてみると、「線を描くのは案外素人の方のほうがよかったりするんですよ。でも土の管理とか窯焼きとかが大変なんですよね。ぜんぶ自分でやるとなると、どのくらいかなあ?」とおっしゃっていました。熟練の技術でいくつもの工程を経て生み出されているんですね。

<第2回に続きます>

+++

ちょっと不思議で、一度ハマると抜け出せない強烈な魅力を放つスリップウェア。イギリスの伝統的な雰囲気と、中川さんのおおらかなで素朴な人柄が感じられる焼きものにはファンが多数! 日本各地で個展や展示会が行われています。展示会などのお知らせは、中川さんの奥さまが更新しているインスタグラムをご覧ください。

中尾山にある紀窯の工房の隣には小さな展示スペースがあり、そこで販売も行われています。波佐見町にお越しの際は、ぜひお立ち寄りください。

※紀窯の器はHasami Lifeで取り扱っておりません。

【紀窯】

Instagram
https://www.instagram.com/kigama_nakaoyama/

長崎県東彼杵郡波佐見町中尾郷665-1
電話・ファックス: 0956-85-3338
メール: kigama.hasami@gmail.com
営業時間: 8時~17時
定休日:日曜日
※定休日の場合でも営業している場合があるとのことです。電話にてお気軽にお問い合わせください。



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