HOME よみもの 波佐見の人 窯元探訪【studio wani】vol.22 波佐見で出会い夫婦で開業。「フェアであること」がともに生きるルール。 2022.08.06 窯元探訪【studio wani】vol.22 波佐見で出会い夫婦で開業。「フェアであること」がともに生きるルール。 by Hasami Life 編集部 波佐見町には、工業組合に名を連ねているだけでも59つの窯元があります。そして小さな町の至るところに、波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。「studio wani(スタジオ ワニ)」さんは、2017年に夫婦ふたりでスタートした窯元です。できるだけ機械は使わず、自分たちでろくろをひき、絵付をし、作陶してきたふたりにじっくりお話を伺いました。 家族としても、「studio wani」の経営者としても、「フェアであること」を大切にしていると言います。子育ても仕事も、分かち合い助け合っています。しかし、ときには喧嘩もするそう。日々いろいろな壁にぶつかりながら歩んできた、ふたりのこれまでの道のりを辿ります。 写真左が、綿島健一郎さん。1982年熊本県に生まれ。薬科大学に進学するも中退、料理を勉強する。最終的に焼き物が性に合うと気づき、陶芸の道へ。写真右が綿島ミリアムさん。1983年ドイツに生まれる。12歳のときに陶芸の魅力にとりつかれ、陶芸家になるために焼き物と日本語の勉強に打ち込んできた。夫婦ふたりで2017年に「studio wani」を開業。 焼きものを勉強しにきた波佐見で出会い、結婚。 ――:ミリアムさんは、どういうきっかけで陶芸にハマったんですか? ミリアム:12歳くらいのとき、学校の陶芸部に入ったんです。陶芸部があるのは、ドイツでも珍しかったですね。学校に小さな窯もありました。 ――:それから陶芸に打ち込んでこられたんですね。 ミリアム:18歳で学校を卒業したあと、韓国人の陶芸家さんに3年間弟子入りしました。そのあと大学へ行き、交換留学生として日本で半年間過ごしました。卒業後、「もっと焼きものの勉強をしたい」と思い、あらためて日本に。波佐見の「陶房青」さんに通うようになって、就職しました。2012年に働きはじめたから、波佐見町に住んでもう10年経ちましたね。わあ、長い(笑)。 ――:健一郎さんは、社会人経験を経てから、陶芸を学びに波佐見にきたんですよね。 健一郎:親が薬剤師だったので薬科大学へ進学したんですけど、後から思えばやりたいことではなくて。中退して、イタリア料理店やコールセンターで働いたりしてから、2013年に波佐見に来ました。それで焼きものの勉強しはじめたら……僕は手先が器用なんで、けっこううまくできたんですよね(笑)。「向いてるのかな」と思って波佐見の「光春窯」さんで働きはじめました。 ――:健一郎さんの働いていた光春窯さんと、ミリアムさんの働いていた陶房青さんは、同じ中尾山にある窯元で、距離も近いですよね。 昔ながらの情緒ある町並みを残している中尾山。今もいくつもの窯元さんが軒を連ねている。 ミリアム:そうですね、共通の知り合いも多くて、友だちになったんです。わたしは当時、会社近くの社宅に住んでいたので、うちで昼ごはんを一緒に食べることもあったんですよ。 健一郎:お互い働きはじめたばかりでどうしても貧乏だから、ふたりで食費を出し合って自炊して、生活費を切り詰めようって。最初は歳の近い職人の友だちみたいな感じで、仲良くなりました。 ――:その後お付き合いを経て、2016年に結婚。いつから独立して開業しようと考えていたんですか? 健一郎:結婚したときには、もう独立のことを検討してはいました。近い将来、子どもが生まれると考えたときに、自分たちで自由に動ける環境のほうがいいんじゃないかって。 ミリアム:会社では育休をとることもできるけど、子育てをするなら独立して、もっと長いスパンで自由に時間を使えるほうがいいなと思いました。 健一郎:金銭的な面でも、独立は必要な選択でした。僕たちふたりは親に大学に通わせてもらいました。子どもたちを無理なく大学へ通わせるには、早い段階から収入を増やすような手立てははじめないといけないよねって。 ミリアム:わたしが勤めてた陶房青さんもすごいよくしてくれたし、リスクもあるチャレンジだったけど、それでも「やってみよう!」ってふたりで決めました。自分たちのつくりたいものをつくって、頑張ってみようって。 健一郎:今の工房を「空き工房バンク」で探して借りて、自分たちでリフォームして。2017年1月に開業届を出しました。 トライアンドエラーの精神でwebでの販売に注力。 ――:感染症が流行する前から、web での販売に注力してきたのは、現在の経営にプラスになっていますよね。 健一郎:率直にいうと、めんどくさいから web に切り替えたんですよね。 ――:めんどくさい、というのは? 健一郎:開業してすぐのころは、毎週のようにイベント出展をして、いろんなところへ行きました。イベント出展ってなると、梱包なんかの準備をして、移動して、ときには宿泊して、帰ってきて、片付けて……というのが1セット。手間も時間もかかるので、焼きものをつくる仕事が止まってしまうんです。 ミリアム:開業して数ヶ月してから、試しに波佐見町のふるさと納税にも出品するようになりました。そうしたら、すぐに注文が入るようになったんです。作業の合間に梱包して発送できるから、すごく楽だねってことになって。イベント出展も楽しいんですけど、たくさんやるのは大変でしたから。 健一郎:それで「webメインの販売でいいんじゃない?」という話になって、ふるさと納税だけじゃなく、自分たちでも web shop をつくって販売するようになりました。 ――:ものづくりに集中できる環境づくりのために web メインになったんですね。 ミリアム:web で販売をはじめて2年くらい経ったらコロナウイルスが流行って、世の中の人たちがもっと web での買い物に積極的になって。うつわは手に取って実物を見たいって人もいるけど、ずいぶん抵抗感がなくなったと思います。 健一郎:web で自分たちで販売するなんて、やってみないとわからなかったけど、「駄目だったらやめればいいしね」っていう気持ちでした。 ――:起業するのもそうですし、web での販売もそうですけど、「とりあえずやってみよう」というアクティブさがおふたりとも共通してあるんですね。 健一郎:開業当時、「トライアンドエラーだよ」とよく言われてたんです。隣町の有田にある古道具屋カフェ「Fountain Mountain」の前のオーナーさんの言葉なんですけど、いろいろアドバイスをくれましたね。ほかにも、開業してからずっと応援してくれている方がたくさん。そのおかげで今がありますね。 取材中、生地に使う土を土屋さんのご夫婦が配達にきたひとコマ。ミリアムさんが生まれたばかりの次女の写真を見せてなごやかな雰囲気。 共同経営は喧嘩が多発! それでも個人名義ではなく、「studio wani」で活動するわけ。 ――:「studio wani」を立ち上げて、ご夫婦でもありビジネスパートナーでもあるという関係性に変わったと思うのですが、その点はどうですか。 ミリアム:しんどいです!(笑) 健一郎:大変です!(笑)もうかなり慣れましたけど。 ――:「仕事のことは家庭に持ち込まない」みたいなルールはあるんですか? 健一郎:ないです、もう持ち込みまくりです。子どもの世話をしながら、家でずっと仕事の話をしてることもあります。それに、工房で夫婦喧嘩することも多かったです。 ミリアム:スタッフが入社してくれてからは、できるだけ工房では喧嘩しないようにしてるけど……。喧嘩の理由はいつも小さいことなんです。家でも工房でも一緒なので、ストレスが溜まってしまうのだと思います。 ――:どういう理由で喧嘩をするんですか? ミリアム:たとえば、忙しいのに健ちゃんが遊びのうつわをつくっていたから、とか。 健一郎:同じものをずっとつくってると飽きるじゃないですか。 だから息抜きと思って、普段つくらない一点ものをろくろでつくって、ミリアムに「こんなのどう?」って見せたら……。 ミリアム:「それは今つくるべきじゃないでしょ!」って、わたし、怒る(笑)。 健一郎:そしたら僕も「じゃあもういいわ〜!」って怒る。机ダーン! とかして。でも作品は壊さないように(笑)。作品を壊さないように喧嘩をするのがうまくなりました(笑)。 ――:ひとつの選択肢としての話ですが、「studio wani」としてでなく、それぞれの名前で活動することもアリだと思うんです。実際、陶芸家の方々のなかには個人名で、それぞれまったく違うテイストの作品をつくるご夫婦もいらっしゃいますよね。そういう形態は考えなかったんですか? 健一郎:うん、考えました。でも僕たちの場合は仕事でも子育てでも、サポートしあえる環境がいいなと思ったんです。それぞれ活動していたら、忙しさの波も違いますから。「お互いフェアでいよう」っていうのが、結婚するにあたってのルールでした。 ミリアム:「studio wani」をはじめたとき、いろんなうつわのアイデアを出し合って、それをふたりで一緒につくろうって決めました。だんだん恐竜のシリーズが売れるようになったけど、ずっと恐竜の絵柄だけでやっていこうとは思わないです。作家というと、自分の名前がブランドになって、ひとつの作風をずっと求められる感じがします。でもそうじゃなくて、「studio wani」として、もっと新しいことをたくさんしたいです。 ――:喧嘩をすることもあるけれど、ふたりで一緒に「studio wani」をはじめたことはプラスになっているんですね。 健一郎:それは間違いないです。もしひとりだったら、今の成果には100%たどり着けていないと思う。ふたりでよかったです。 ミリアム:お互いフェアだから、仕事も家事も育児もふたりでやってます。なんでも助け合いながらできるのは、いいことですね。 ****** 【studio wani】 Instagramhttps://www.instagram.com/studiowani/ webshophttps://studiowani.theshop.jp/ ※「studio wani」の器はHasami Lifeで取り扱っておりません。 続きをお楽しみに! (窯元探訪を最初から読む) 窯元探訪【一真窯】眞崎善太さん vol.1 焼きものは “もやう”もの 窯元探訪【一真窯】眞崎善太さん vol.2 話題の「白磁」、デザインの原点 窯元探訪【一真窯】眞崎善太さん vol.3 食器つくりから心の器つくりへ 窯元探訪【翔芳窯】福田雅樹さん vol.4 修業時代に知った焼きものの面白さ 窯元探訪【翔芳窯】福田雅樹さん vol.5 器と料理の関係。「ホワイトライン」が目指す姿 窯元探訪【翔芳窯】福田雅樹さん vol.6 採用基準や育成方法、新しい試み 窯元探訪【利左ェ門窯】武村博昭さん vol.7 土から生まれる色、質感、表情。 窯元探訪【利左ェ門窯】武村博昭さん vol.8 400年の歴史の先に創りたいもの。 窯元探訪【利左ェ門窯】武村博昭さん vol.9 魔法のような職人たちの手仕事 窯元探訪【一誠陶器】江添圭介さん Vol.10 絵付を生かした器づくり。 窯元探訪【一誠陶器】池田希美さん vol.11 手描きの技術を絶やさないためのデザイン 窯元探訪【一誠陶器】絵付職人 vol.12 丁寧に、繊細に描く絵付職人 窯元探訪【紀窯】中川紀夫さん vol.13 「スリップウェア」という世界 窯元探訪【紀窯】中川紀夫さん vol.14 スリップウェアに出会って"夢中"を知った 窯元探訪【紀窯】中川紀夫さん vol.15 かっこよすぎないバランスで。 窯元探訪【洸琳窯】江添三光さん vol.16 鳥獣戯画の絵付も習得した京都修行 窯元探訪【洸琳窯】江添三光さん vol.17 白磁を活かした器に、料理が映える。 窯元探訪【洸琳窯】江添三光さん vol.18 「絵付に近道はない」若手の育成が使命 窯元探訪【筒山太一窯】福田太一さん vol.19 ふたつの窯を操る2代目に聞く、育てる波佐見焼・白化粧と御本の魅力。 窯元探訪【筒山太一窯】福田太一さん vol.20 料理を盛ってなんぼ。模索し続ける、和食器の可能性。 窯元探訪【studio wani】vol.21 恐竜シリーズ、漫画の一輪挿し。夫婦ふたりの手仕事。 Tweet 前の記事へ 一覧へ戻る 次の記事へ Hasami Life 編集部 この記事を書いた人 Hasami Life 編集部 people 関連記事 2022.08.07 窯元探訪【studio wani】vol.23 夫婦ふたりから、窯元として成長。気持ちよくものづくりをするためのビジョン。 「studio wani」さんへの窯元探訪、最終回。注文の多さと子育ての忙しさから、現在ではスタッフを雇ってより窯元らしく成長しています。人を雇い育てること、気持ちよくものづくりをするために配慮していること。前進し続ける「studio wani」の今と、これからの青写真とは。 2022.08.01 窯元探訪【studio wani】vol.21 恐竜シリーズ、漫画の一輪挿し。夫婦ふたりの手仕事。 波佐見町の窯元探訪、8軒目は「studio wani(スタジオ ワニ)」さん。2017年に夫婦ふたりでスタートした窯元です。自分たちでろくろをひき、絵付をし、作陶してきたおふたり。大人気の「DINOSAUR シリーズ」のこと、波佐見町を舞台にした漫画『青の森 器の花』に登場する星空の一輪挿しのことなど伺いました。 2022.03.30 大塚さつきさんの暮らしとうつわ【後編】〜農家の知恵が詰まった竹ざる弁当〜 長崎県波佐見町に隣接する町で夫とふたり農業を営む大塚さつきさんは、『毎月農業共済新聞』でレシピ連載を持つほどの料理の腕前! 前編に引き続き、後編では実際にさつきさんに作っていただいた“ふだんごはん”をいただき、Instagramで人気に火がついたきっかけについても伺います。
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