HOME よみもの 波佐見の人 【住めばよかとこ波佐見 vol.5】新天地で人生を再開拓、司法書士の10年。 2020.12.25 【住めばよかとこ波佐見 vol.5】新天地で人生を再開拓、司法書士の10年。 by Hasami Life 編集部 ―――自分が暮らす場所は、自由に選ぶ。長崎県波佐見町にも、少しずつ移住者が増えています。波佐見町にやってきたきっかけは、みなさん十人十色。波佐見町に住んでみて、どうですか? 移住者のみなさんにリアルな声をうかがいます。 「住めばよかとこ」シリーズの第2弾。今回は司法書士として町内外問わず活躍している倉科さんに、移住するきっかけや住みやすさなどをお聞きしてきました。前後編の前編です。 倉科 聡一郎(くらしな そういちろう)、1977年生まれ。神奈川県横浜市出身。2010年に司法書士として「くらしな事務所」を開業。趣味は読書と、バスケットのNBAの試合をTVで観ること。 移住は、人生をゼロから開拓し直すこと。 ――:倉科さんは司法書士として波佐見町で開業なさって10年経つそうですね。 司法書士の資格試験は司法試験に次ぐ難しさで、合格率は3%前後! かなり狭き門ですが、目指すきっかけは? 倉科:大学で法律を学んでいたので「司法書士っていいなあ」という気持ちは多少ありました。でも本格的に目指したのは大学を卒業して数年後。私は会社に勤めることが向いていなかったんです。独立できる仕事をしようと考えたとき、改めて司法書士という選択肢を魅力的に感じました。司法書士の試験は非常に難しかったので何年も落ち続けて、30歳になるころにやっと合格しました。 ――:司法書士の試験に受かってから、波佐見町に移住されたんですよね。 倉科:そうですね。司法書士の試験に合格してから1年半くらい、貯金をしたり開業場所の選定をしたりして準備しました。33歳のときに東京の司法書士事務所を辞めて、波佐見町へ引っ越してきて独立し、今に至ります。 ――:倉科さんは横浜出身で、東京の司法書士事務所で働いていらっしゃいました。どうして開業する土地として波佐見町を選ばれたんですか? 倉科:最初は、東京の代官山や中目黒で事務所を開こうと思っていました。ですが、あるとき気づいたんです。司法書士の資格があれば、日本全国どこでも仕事ができるし、どこへ行ってもいいんだと。それで視野を広げて候補地を探して、波佐見町へ来ました。 波佐見町の中尾山。古くから焼きものを量産してきた土地は、今もその名残を残す。倉科さんも最初は民泊で中尾山を訪れた。 ――:代官山と波佐見では、大きく違いますよね。どういうところが決め手だったんですか? 倉科:これという決め手はなかったですね。母親が長崎県出身だったり、引っ越し前に民泊した際に波佐見町の人にやさしくしていただいたり……いろんな縁や要因があって、気づいたら波佐見に決めていました。 すごく正直なことを言うと、私は最初から波佐見に惚れ抜いて引っ越してきたわけではないです。司法書士の資格があるので、失敗したらまた別の土地でやり直そう、という身軽さはありました。 ――: とはいえ、住み慣れた場所を離れ地方を選ぶのは、勇気のいる選択だったのではないでしょうか。 倉科:そうですね、私はもう一度人生をゼロから開拓できることがうれしかったんです。見知らぬ町へ引っ越せば、生活環境も人間関係もすべて変えることができます。知らないところへ行ってみたいという好奇心がありました。10年前のことなので、そのころの自分が考えが思い出せない部分もあるんですけどね。 ――:移住はすべてを変えるチャンスでもあったんですね。 倉科:海外旅行が好きでアフリカなどへも行っていたので、自分の環境を変えるおもしろさを、もっと長期的な形で味わいたいと思った部分もあるかもしれません。移住してきたら、誰も知らないんですよ、私のこと。どんな人生を歩んできて、どんなことが好きで、どんな暮らしをしてきたか、過去すべてを誰も知らない。それって、すごいことじゃないですか? ――:そう考えるとすごいです。本当に、開拓ですね。 倉科:個人的な好奇心のほかに、冷静に分析もしていました。長崎県内でもほかに候補地として視察したのは五島や平戸など、そこまで人口が多くないところ。司法書士は資格がいるので、そうした土地では大都市に比べると競合相手が増えにくいんですよ。波佐見町には司法書士をされてる方が少なかったので、仕事のチャンスがあると思いました。戦略的に決めた部分もあります。本当に、ひと言では移住の理由を言い表せないですね。 波佐見に住みはじめたら、大幅コストカット。 ――:実際に波佐見町に住みはじめて、どうでした? 倉科:圧倒的に生活コストが下がりました。私が最初に波佐見町で借りたアパートは「家賃が少し高いですよ」と言われたんですけど、築2年くらいの駐車場つき物件で家賃が5万円だったんです。引っ越す前に住んでいた家賃6万円の古いワンルームと比べたら、部屋は倍以上の広さで綺麗! 住居のコストは半分以下ですよ。 最初は自宅が事務所を兼ねており、その点でも事務所開設の初期投資は抑えられたと話す倉科さん。 ――:大きな違いですね……! 倉科:食費も安くなりましたね。波佐見の人は農業をやってる方も多いので、野菜などをもらうことも多くて、よく自炊していました。 ――:波佐見に住むメリットはどんなところですか? 倉科:電車に乗らなくていいところ。波佐見町は駅もないですし。小さいことかもしれないですけど、私はもう満員電車に乗りたくないなと思ったんです。ですが都市部で生活していたら避けられない。波佐見町は空気がよくてゴミゴミしてないですし、ストレスがありません。 ――:デメリットもあれば、おうかがいしたいです。 倉科:別に、ないんじゃないですか。ああ、強いて言うなら、うわさ好きなところですかね。みなさん仲が良くてつながりがあるので、情報が広まるのが早いんです。私もなにかうわさされてるんでしょうか……できることなら、よく言ってもらいたいですね(笑)。 ――:移住を考える場合、どんな準備をしたらいいでしょう? 倉科:まずはどう稼ぐかを考えることですよね。生活基盤は大事です。それさえできれば、環境はいいと思います。先ほどもお話ししましたけど低コストで暮らせるので、そんなにがむしゃらに稼がなくても暮らせるとは思いますよ。 結婚、そして棚田の美しい鬼木郷での暮らし。 ――:暮らしていくうちに、波佐見町の鬼木郷に住む方とご結婚されたんですよね。どこで知り合ったのでしょう? 倉科:波佐見町で仕事をする中で知り合って、1年くらいお付き合いをして結婚しました。結婚と同時に、妻とお義母さんがふたりで暮らしていた町内の鬼木郷の家に私が引っ越しました。自然ななりゆきでしたね。 棚田の広がるこの鬼木郷で、現在は妻とふたりのお子さんと4人で暮らしている。 ――:どんなお家にお住まいなんですか? 倉科:築50年以上の風情のある家です。広いですよ。2階建てで、6部屋くらいあるはずです。3部屋くらいしか使ってないですけど(笑)。うちは鬼木郷でも山の上の方に建っているので、眺めがいいですね。星がとても綺麗に見えるんですよ。 ――:同じ波佐見町でも、以前倉科さんが住んでいた役場も近い町の中心部と、より自然豊かで結束力の強い鬼木郷で暮らすのでは、違いもあるのではと思いますが、いかがですか? 倉科:鬼木では、地区で集まる機会が多いですね。みんなで草刈りや清掃をやったり、お祭りをしたり、お酒を飲む機会も多いです。昔から結束して田植えや稲刈りをしてた名残だと思うんですが、今でも協力しないとスムーズに進まないことがいろいろあります。 倉科さんは地域の消防団の団員も務める。万が一の場合、初期の消火を行うため、訓練も行っているのだとか。 ――:それまでの暮らし以上に人と関わることが多そうですが、人間関係で苦労されたことはありませんでしたか? 小さなコミュニティだとよそ者には風当たりが強いという話も聞きます。 倉科:みなさんいい人ばっかりで、嫌な思いをしたことがないです。「よそ者のくせに」みたいに言われたことなんて、一度もありません。「よく鬼木郷に来てくれたね」とやさしく受け入れてくださいましたね。 焼きもの以外でも、波佐見ならチャンスはつくれる。 ――:生活がとても充実しているんですね。現在のお仕事のことも詳しくお聞かせください。改めて、司法書士としてのお仕事内容を教えていただけますか? 倉科:人が亡くなったり、土地を買ったり売ったり、財産が動いたりするときには法的な手続きが必要になります。個人でも企業でもそうです。そうした法に関連する手続きの書類をつくることが私の仕事です。「複雑で難しいので代わりにやりますよ」と。 玄関部分がガラス張りで入りやすい「くらしな事務所」。 ――:仕事をしていて、どんなことによろこびを感じますか? 倉科:お客さまに「問題が解決してよかった、倉科さんありがとう」と言っていただいたら、それが一番うれしいですよね。依頼時にお客さまが困っていることが多い仕事なので、頼りにしていただけることが多いと思います。 ――:波佐見は焼きものづくりが盛んですが、お客さまも焼きもの関係者が多いのでしょうか? 倉科:全然そうではないです。もちろん関わることも多いですけど、さまざまな業種のお客さまがいらっしゃいます。なので移住を考える人も、焼きもの関係の仕事だけに的を絞らなくてもいいのかなと思います。いろんな可能性がありますよね。 ――:司法書士に限らず、波佐見町は独立・開業しやすいと思いますか? 倉科:しやすいと思いますよ。まったく縁のない私に町のみなさんが依頼してくださって、こうして10年間仕事をしてこられたことが証明しています。 ――:確かに閉鎖的な土地だったら、開業してもお客さまが訪ねてこない、なんてこともありそうです。 倉科:そうですね。町のみなさんがやさしく受け入れてくれたことに感謝しています。「よそ者がなんでうちの町で商売をしてるんだ」となれば、もう撤退しかありませんから。新しく事業をしたい人もチャレンジしやすい町ではないでしょうか。 ――:倉科さんは新しい土地で、最初はどうやってお客さまと出会ってきたのですか? 倉科:私の場合は、波佐見町の『朝飯会(ちょうはんかい)』に参加したことで、一気に流れが変わりましたね。朝6時半から町の方々を中心に集まって、朝ごはんを食べて語り合う会なんです。そこでものすごく大きな出会いがあったんですよ。 <後編へ続きます> 次回は、【住めばよかとこ波佐見 vol.6】早朝の交流会に100回参加してきた理由。 をお届けします。 (シリーズを最初から読む) ◎福田奈津美さん編◎ 【住めばよかとこ波佐見 vol.1】わたしが波佐見へやってきた理由 【住めばよかとこ波佐見 vol.2】「空き工房バンク」がスタートするまで 【住めばよかとこ波佐見 vol.3】結婚、子育て、波佐見でのリアルな暮らし 【住めばよかとこ波佐見 vol.4】地元の人を大事に。移住者としての心得 ▼倉科さんへご相談の方はこちらからどうぞ。 『司法書士 くらしな事務所』長崎県東彼杵郡波佐見町宿郷631-2TEL 0956-76-7753FAX 0956-76-7757E-mail: kurashina770529@sound.con.ne.jp Tweet 前の記事へ 一覧へ戻る 次の記事へ Hasami Life 編集部 この記事を書いた人 Hasami Life 編集部 関連記事 2023.09.29 窯元探訪【丹心窯】vol.28 長﨑忠義『水晶彫の秘密。』 波佐見には、町の至るところに波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。今回、おじゃましたのは、佐賀県武雄市との県境にある波佐見町小樽郷に窯を構える『丹心窯(たんしんがま)』さん。まるでジュエリーのような輝きを放つ、唯一無二の美しい波佐見焼、その手仕事の秘密に迫ります。 2023.09.22 窯元の火を止めるな! 技術と雇用をつなぐ、波佐見焼企業のM&Aに迫ります。 後継者不在を理由に事業をたたむケースも増えているなかで、窯元の高山陶器(現・株式会社高山)と、商社である西海陶器株式会社はどうやって事業承継に結びついたのか。その先にどんな未来を見据えているのか。 新旧の社長に話を聞きました。 2023.08.25 【編集スタッフ募集中】波佐見焼の魅力を伝える Hasami Life 編集部に密着! 「波佐見焼や波佐見町、職人の手仕事のことを知ってもらいながら、ご自宅に波佐見焼を迎え入れてほしい!」これがHasami Life編集部の願い。週1回のよみもの配信を中心にさまざまな活動をしています。実際、どんな仕事をしているのでしょうか? 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