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【住めばよかとこ波佐見 vol.8】夫婦で古民家をセルフリノベーション。民泊を営みます。

by Hasami Life 編集部
【住めばよかとこ波佐見 vol.8】夫婦で古民家をセルフリノベーション。民泊を営みます。

―――自分が暮らす場所は、自由に選ぶ。長崎県波佐見町にも、少しずつ移住者が増えています。波佐見町にやってきたきっかけは、みなさん十人十色。波佐見町に住んでみて、どうですか? 移住者のみなさんにリアルな声をうかがいます。

「住めばよかとこシリーズ」の第3弾の後編です。波佐見町に暮らしはじめて、物件を探し、ある日役場に「処分しようと思っている」と相談があった古民家を買った河内拓馬さん。地域おこし協力隊の任期を終えるタイミングで民泊をオープンするはずが、思った以上にセルフリノベーションに時間がかかったそうです。

建築士の資格を持つ拓馬さんが工事期間を見積もっても、まったく思い通りにならない古民家リノベーションが「おもしろい」のだそう。どういうことでしょう? 今や拓馬さんも認めるDIYスキルをもつ奥さまの友紀乃さんも一緒に、ご夫婦ふたりにお話をうかがいました。


即決で購入した、理想の古民家。

――:
この古民家は、いつ買ったんですか?

河内拓馬(以下、拓馬):
引っ越してきて地域おこし協力隊として働いて、1年ちょっと過ぎたころに。役場に「家を処分しようか迷ってる」と相談が来て、建築士の仕事として家の状態とかを見に来て「僕が買います」とすぐ言いました。持ち主の方の家じまいを待って、僕たちが波佐見に引っ越して1年半後の秋ぐらいから片付けをはじめました。今から2年前ですね。

――:
最初からすべて、自分たちでリノベーションしようと思ってたんですか?

拓馬:
そうですね、それが移住するにあたってのひとつの夢でしたから。東京で建築士として仕事をしていたときに携わる家って、綺麗な新しい家ばっかりだったので、 古民家にふれてみたかったんです。移住のタイミングを逃したら、今後そんな機会はないでしょうから。

――:
古民家の購入・リノベーションのために、ある程度資金をためてから移住しようという計画はあったんですか?

拓馬
もちろんです。やっぱり古民家を改装するための原資を持ってこようと思って。移住は、資金が貯まるタイミングでもあったんですよね。 移住する前、仕事がいくつも重なって入ってきたので、忙しくなるけどこれを乗り切ればある程度資金をまかなえると考えてました。とはいえ、ほとんど自分たちでリノベーションしているので費用はかなり抑えられてますけどね。

 

古民家のポテンシャルを引き出す、セルフリノベーション。

――:
拓馬さんと友紀乃さんのおふたりだけで、リノベーションされたのですか?

拓馬:
基本はふたりで、あとは手伝いにきてもらうこともありました。高校の同級生が大工なのですが「新型コロナウイルスの影響で暇だ」と言ってたこともあって「ちょっと手伝いにきて」と呼んでました。あとは波佐見町の知り合いに手伝いにきてもらって、そのぶんごはんをごちそうしたり。

――:
友紀乃さんは慣れない肉体労働をすることに抵抗はなかったんですか? 東京でしていたデザインの仕事とはかなり違うと思うのですが。

河内友紀乃(以下、友紀乃):
そうですね、最初はしんどいなと思うときも多かったです。この家もかなり老朽化していて、床も壁も一部ないところがありました。彼には「今日1日、ずっと釘を抜いといて」って言われたときもあって(笑)。あまりにリノベーションのゴールが遠くて「これで家ができるのかな?」って疑問に思うこともありました。でもわたしはものづくりが好きだから、できることがどんどん増えてきたらやっぱり楽しかったです。

まだ工事中だが、友紀乃さんのアトリエもある。ここで自身のブランド「ももんが洋品店」で販売する洋服を制作する予定。

――:
では、今はすごい戦力になってるんですね。

拓馬:
そうですね。たとえば木箱をつくるのって結構スキルが必要で、DIYに慣れていないと難しいんです。だけど彼女は、このあいだキッチン下のゴミ箱用の木箱も自分で木材を使ってつくってました。僕も彼女も、ふたりとも上達しました。僕も東京では実際に現場で作業する職人じゃなかったんですけど、 めっちゃうまくなりましたね。我ながらプロ並みだなって思います(笑)。

――:
柱や外観に古い感じを残しつつ、もっと近代的な内装にすることもできたと思います。でも河内さん夫婦は土壁や漆喰を塗ってみたり、わざわざかまどを置いたりもされていますよね。それってもちろん楽しみもあると思うんですけど面倒くささもありそうだな、と。

古いかまどを修理してキッチンに設置。かまどを使って羽釜で炊くごはんは、おかずなしでもおいしい。

拓馬:
まあ、大変です(笑)。確かに現代の建築っていうのは、石膏ボードを貼って、パテ打って、壁紙を貼ったらそれで終わりなんですけど。その真逆の事をしてみたかったんですよね。今までの仕事は効率重視だったので、 その対極にある昔の家づくりをしてみたかった。古民家っていうのは不思議なもので、工事を進めていくと少しずつ古民家に促されるんですよ。「こういう風にしてくれ」って。向き合っている人を成長させるのが古民家かなあ。最初に工事をはじめたころの感覚だったら、この状態には仕上がってないです、たぶん。だんだんやってるうちに、イメージとかセンスとかが変わってきました。不思議だし、おもしろいです。だから全然予定通りに進まない(笑)。

――:
建築士として、最初からきっちり細かく図面書いて工事の予定を立てたけど、その通りにはならない?

拓馬:
途中から大幅に変わっていきましたね。

――:
特に大きく変わったところってありますか?

拓馬:
そうですね……じつは今ある場所にウッドデッキを作るつもりはなかったんですよ。もともとあそこは壁だったので、別の場所につくろうと思ってました。ここの壁がなくなったらいい景色だろうなっていうイメージは多少あったけど、ぼんやりとしてて。

もとは壁だったところを一面窓に。景色のよさを邪魔しない、シンプルなガラス窓をつくってはめてある。

 

友紀乃:
一部だけ壁を壊してみたら、「すごいぞ!」 ってなって、全面窓にすることになりました。「天空のウッドデッキをつくるんだ!」って彼も興奮してて。

拓馬:
どんどん壁の穴が広がっていったんだよね。それで工事が延びたっていうのも大きいですもん、止まらなくなっちゃって。一面の壁を壊しちゃったんで、しばらくブルーシートで覆って過ごしてました。寒かった〜(笑)。もともと、このウッドデッキとつながっている部屋が床の間だったんですよね。でも「どうして壁にしてたの?」っていうくらいすばらしい抜け感じゃないですか。びっくりしました。ウッドデッキをつくってみたら、視点が少し上がることで、また景色のレベルが上がるんですよね。なんだか浮いてるみたいな感じになって、まさに「天空のウッドデッキ」になりました。

――:
家のもともとの造りをただ生かすのではなく、家の持ってたポテンシャルがどんどん出てきた……そんな感じでしょうか?

拓馬:
そう! この古民家のポテンシャルが出てくるんです。そうすると僕も、「そのレベルまで家のクオリティを上げてあげないと!」みたいになっちゃって。最初は照明器具も買ってくるつもりだったんですけど、「照明器具も自分たちでつくらないとね」って気持ちになって……すっごい回り道してます(笑)

家の雰囲気に合うよう、糸巻きを使って照明も自作。

 

古い箪笥も活用して、キッチンテーブルの一部に。

 

日本の棚田百選に選ばれた土地、鬼木郷に住んでみて。

――:
鬼木郷は日本の棚田百選にも選ばれた、波佐見町のなかでものどかで田んぼの多い土地ですよね。日々の暮らしはどうですか?

拓馬:
居心地いいですよ。住んでるみなさんの、鬼木への思い入れがすごいんです。

友紀乃:
みなさん鬼木を愛してるから。私たちの古民家改装や民泊の計画のことも「鬼木にこういう新しい場所をつくってくれてありがとう」みたいな感じで温かく見守ってくださってるので、居心地がいいです。

拓馬:
鬼木郷のなかにも小さい班があって、僕らを入れて6軒が「中野河内」って班なんです。この家に引っ越してきたとき、班の方たちが「河内くんが引っ越してきたから一緒にバーベキューしよう!」って6軒全員が集まってくれて、バーベキューして連絡先も交換しました。すごくないですか? 都会だと引っ越したとき、ご近所に挨拶するかどうかもためらうじゃないですか。引っ越してきた隣人を、バーベキューをして迎え入れてくれる、そういうことが本当にありがたいです。そうやって知り合ってから今まで、僕たちが困ってることがあったら、ご近所さんがすぐ来てくれます。それも、見返りを求めずに。

――:
わたしも波佐見町に住みはじめて1年半なので実感しているのですが、本当にみなさん見返りを求めないで、野菜を分けてくださったり、手助けしてくださったりしますよね。


拓馬:
とくに印象深かったことがあって。うちのすぐ近くの農家さんが、今年の田植えの時期に骨折して入院してしまったんです。そうしたら入院してる間に周りの人がその農家さんの田んぼにぜんぶ苗を植えてあげていて、びっくりしました。自分の田んぼのことだってあるのに、そういうことを平気でしてあげる人たちなんですよね。スーパーマンたちの集まり。朝早くから夜遅くまで働いて、本当に尊敬します。

――:
これまでの都会暮らしとは、かなり距離感が異なると思います。ご近所さんとの距離が近い環境で暮らしていくために心がけていることってありますか?

友紀乃:
ただただ、ありがとうございますっていう気持ちです。野菜などをもらったら、お料理にしてお返しすることがあるんですけど、そうするとまたたくさんもらっちゃったりして(笑)。ありがたく頂いて、素直によろこんでいいのかなって思っています。それから、今までたくさん応援してもらったので、これから民泊を運営するなかで鬼木の人たちに恩返ししていけたら。

 

都会では味わえない贅沢、民泊「oniwa」。

――:
最後にこの古民家での民泊のことを教えてください。

拓馬:
体験民泊で、田舎の古民家暮らしを体験してもらえます。たとえば、朝食は自分たちでかまどに火を入れて羽釜でごはんを炊いてもらったり、ウッドデッキにある五右衛門風呂に入ってもらったり、野菜畑での収穫体験や里山での自然体験もできます。

見晴らしのよいウッドデッキには、五右衛門風呂がついている。冬には足湯にもなるそう。

――:
なかなか都会では味わえない体験ばかりですね。

拓馬:
今のはほんの一例です。その季節と、遊びに来てくれる人のやりたいことに合わせて、柔軟に対応できればと思っています。

友紀乃:
天空のウッドデッキで、夕方にお酒を飲むだけでも気持ちいいですよ。 畳を敷いて七輪を出しておつまみを焼くのも、ちょっと贅沢な気分を味わえます。

夏に畳をテーブルをウッドデッキに出しているときの様子。息子さんが寝っ転がって本を読んでいる。

――:
わあ! やってみたいです!

拓馬:
とりあえず1日1組で、最大で大人8人まで。料金はプレオープン中は1泊2食付きで1人11,000円です。慣れてオペレーションがスムーズにできるようになったら、もうすこし値段も上がるかと思います。ウェブサイトももうすぐオープンする予定です。

――:
楽しみですね。そういえば、民泊を「oniwa」という名前にしたのはどうしてですか?

拓馬:
鬼木郷の「おに」の字をいれたくて。

友紀乃:
最初は彼が「鬼の宿」って名前するって言ってたから、必死で止めたんです(笑)。

拓馬:
やっぱり、鬼木郷の人たちがこれまでこの土地を守ってきてくれて、住みはじめた僕たちにもやさしくしてくれて、そのおかげでこの鬼木郷で民泊をできるので。名前にも入れたかったんですよ。

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都会に住んでいた河内さんたちだからこそ、古民家のよさを深く理解し、自然の恵みを新鮮に受け取って暮らしているのだと思いました。これからオープンの民泊も楽しみです。

河内家のみなさん、ありがとうございました!

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「oniwa」

Instagram:https://www.instagram.com/hasamioniwa/

(シリーズを最初から読む)

◎福田奈津美さん編◎

【住めばよかとこ波佐見 vol.1】わたしが波佐見へやってきた理由

【住めばよかとこ波佐見 vol.2】「空き工房バンク」がスタートするまで

【住めばよかとこ波佐見 vol.3】結婚、子育て、波佐見でのリアルな暮らし

【住めばよかとこ波佐見 vol.4】地元の人を大事に。移住者としての心得

 


◎倉科聡一郎さん編◎

【住めばよかとこ波佐見 vol.5】新天地で人生を再開拓、司法書士の10年。

【住めばよかとこ波佐見 vol.6】早朝の交流会に100回参加してきた理由。

 


◎河内さん夫妻編◎

【住めばよかとこ波佐見 vol.7】東京から移住した4人家族の、暮らしの変化。

Hasami Life 編集部
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