はじまる、クラフトツーリズム vol.1

はじまる、クラフトツーリズム vol.1

2019.11.01

“クラフトツーリズム”ってなんですか?

みなさんは波佐見町にどんなイメージがありますか? 長崎県内で唯一海がなく、美しい鬼木の棚田など昔ながらの田園風景が残り、多くの人が焼きものに関わって暮らす。人口14000人余りの小さな町では、いま、新しい取り組み「クラフトツーリズム」がはじまっています。

窯業(クラフト)を主軸にした観光事業(ツーリズム)、それがクラフトツーリズム。当たり前のようにそこにあった地域資源に磨きをかけ、波佐見町でしかできない“体験”を通し、ズバリ波佐見町を好きになってもらうための取り組み。モノの売買だけでは得られない付加価値を付け、焼きものの町を丸ごと体感してもらうことを目標にしています。


2019年8月28日に行われたクラフトツーリズムのキックオフミーティング。経済産業省、県や町の職員ほか、窯業や観光関係者らが集合。県内外から約50人が参加した。

事業を中心的に進めている西海陶器株式会社の代表取締役会長・児玉盛介さんは「焼きものを売るだけの産業から、観光を結びつけた新しい形を次世代へ繋げたい」と語る。

国によるクールジャパン事業の一環として、2019年決定したのは5つの取り組みです。輪島(石川県)、京都(京都府)、豊岡(兵庫県)、唐津(佐賀県)、そして波佐見(長崎県)。波佐見は、世界をマーケットに「クラフト・ツーリズム産業」ブランド構築事業として採択されました。その他に、世界的建築家の隈研吾氏による輪島漆器の新開発、外国人コスプレイヤーによる観光事業、城崎温泉でのハイクラス向けのツアープランニング、国産植物を原料にしたオーガニック化粧品のプロジェクトなど、オリジナルの地域資源を活かしたテーマは多種多様。これらは『Japan Treasures』(日本の宝)と称されています。

 

波佐見町が抜擢された3つの理由

波佐見町では、これまでもクラフトツーリズムを本格的にスタートするべく、独自に準備を進めていました。今回のクールジャパン事業採択は、未来へ大きく前進するための、きっかけに他なりません。


【その1】産業としてのクラフト文化
美濃焼(岐阜)、有田焼(佐賀)につづき、国内で第3位という和食器の出荷額。長い間、先人が培ってきた確かな手仕事は、すでに町の産業として定着している。

【その2】『文化の陶 四季舎』の存在
陶芸体験、味噌づくり体験のほか、地元住人との交流を通して波佐見を楽しんでもらうための観光拠点「文化の陶 四季舎」。クラフトツーリズムの前身ともいえる活動は、NPO法人グリーンクラフトツーリズム研究会によって20年以上前からスタートしていた。

【その3】創造の拠点『西の原』の誕生
製陶工場跡地に建設された人気の観光スポット。陶器や生活雑貨のショップやカフェなどが集まり、週末はもちろん、平日まで女性客や若者を中心ににぎわっている。

 

クラフトツーリズムの未来

―――400 年の歴史があるものづくりの町に新しい価値を創造する場所をつくる。この目的のために、西の原は誕生しました。窯元であった幸山陶苑が廃業した後、古い建物の佇まいを活かしながら手を加え、若手の作家やアーティストが活動できる場所として生まれ変わり、古さと新しさの融合した創作の場が誕生したことで、波佐見町はいま、大きく変化を遂げています。

現在は、「HANAわくすい」、「monné porte」、「南創庫」、「GROCERY MORISUKE」、「にぎりめし かわち」、「monné legui mooks」、「イソザキ珈琲 Shady」、「氷窯アイス こめたま」、「833WALL」の9つのショップが連なり、近年、県内外からの来訪者が急激に増加。1989年に17万人台だった観光客は、2017年に111万人を突破しました。


西海陶器株式会社の代表取締役社長・児玉賢太郎さんは、現在、大学と波佐見がコラボして進めているという「コーヒーが一番美味しいマグカップ」の開発について紹介。新しい視点での商品開発や海外展開など、前例のない方法で積極的に波佐見を発信する予定だ。

2000年代に入り、有田焼から独立して歩み始めた波佐見焼。美しいデザイン性や食卓になじむ使いやすさでブランド力がアップし、若者からの注目度もどんどん高まっています。今後は、海外からの観光客誘致のほか、波佐見の「食」が楽しめる魅力ある飲食店、ゆったりと滞在してもらえる宿泊施設を増強することがカギになるといわれています。クラフトツーリズムの可能性は、無限大。町一丸となってのチャレンジを今後も随時レポートしていきたいと思います。

 

(つづきます)

この記事を書いた人
Hasami Life編集部