ふくらむ線、たまる色。判子の器。
ちょっと小ぶりな、かわいい絵柄のカップ。古きよき文様を、現代にふさわしくデザインしています。そば猪口と名付けられていますが、おひたしや白和えを入れたり、お茶を淹れたり、アイスカップに使ったり、用途はいろいろ! さりげなく活躍してくれる一品です。
このシリーズは、名前のとおり「判子」を使った絵付が施されています。そう、みなさんの想像しているあの判子です。器に判子を押す作業は機械化されておらず、波佐見の職人さんによる手作業で行われています。
そもそもこのシリーズは、「もっと波佐見の職人さんたちの腕を生かす商品開発をしたい」という、デザイナー阿部薫太郎さんの思いから生まれたもの。今回は阿部さんに直接、判子シリーズの魅力を伺ってきました。
判子の味わいは、職人の技術から
陶磁器デザイナーとして、古今東西の焼きものに精通している阿部さん。まず見せてくれたのが、なんと江戸時代の判子を使った波佐見焼。およそ300年前のくらわんか碗でした。
「江戸時代の頃から、判子は使われてきました。筆では時間がかかる部分を、判子で表現していたんですよ。筆と判子、技術を組み合わせて効率よく焼きものをつくっていたんです」
「今は機械で正確に絵柄を表現する「パット印刷」のような技術もあります。加えて、シンプルな無地の器も人気ですよね。でも、波佐見には絵付をしたり判子を押したりする職人さんがたくさんいます。その人たちの腕を生かせる器もデザインしていきたい。なぜなら、一度失ってしまえば技術を取り戻すことは困難だからです」
ただ古くからある技法だから採用した、というだけではありません。判子にはほかの印刷技術とは違うよさがあるといいます。
「職人さんが手で押していくので、ほどよい揺らぎがあるんです。抜け感がある、というか。押したときに、ゴムの弾力で線がかすかにふくらんで……このふくらみは判子だからこそ出せる味わいです」
それでは、阿部さんがデザインした判子の柄3種類をご紹介します!
ゆきはな
うさぎ
ひょうたん
細部まで考えられたデザイン
「わかる人にはわかっちゃう、ちょっとツウなポイントがあって」と話す阿部さん。カップのふちの部分は、昭和初期に使われていた技術で色をつけているそう。
通常、ふちに指をかけて釉薬に沈めるので、作業上ふちには顔料をつけられません。それを素焼き後の生地に"塩化コバルト"という特殊な顔料を染み込ませることで実現させているとのことでした。つまり判子の絵柄とは異なる顔料で、手間をかけてふちを彩っているのです。
「デザインした当初、ふちは塗ってませんでした。でもちょっとさみしい印象になるなと思っていたんです。そこでふちに色をつけることで、製品として全体の印象がグッと締まりました。手間はかかりますが、どうしても必要だったんですよ」
そして、もうひとつのポイントが、カップの内側に。
「カップの内側の底にも、判子を押しています。これは昔からある五弁花(ごべんか)という文様を元に、リヤカーのタイヤを模してデザインしています」
これまで紹介してきた3つのカップを含む「essense of life」は西海陶器のブランド商品です。西海陶器は戦後の波佐見町で、初代がリヤカーで焼きものを売り歩いたところからはじまった商社。その歴史も込めて、デザインしたのだそうです。
細部まで気を配ったデザインですが、阿部さんはつくり手に任せる部分は任せていると教えてくれました。
「機械でなく人の手でつくっているため、個体差があります。色の濃淡や小さなかすれも含めて楽しんでほしい。たとえば判子を押す位置も、月日が経って職人さんたちの癖が出て変わっていきます。でもそれがいいんです。だって、人間の手仕事ですから」
阿部さん、ありがとうございました! 判子シリーズの紹介第2弾では、阿部さんと窯元に伺い、実際に職人が判子を押しているところをみなさんにお見せできればと思っています。お楽しみに!
ちなみに判子シリーズのカップは「essence of life」の es cup〈S〉と同じ形状! 編集部では組み合わせて使うことも多いです。お試しあれ。
▼判子シリーズと同じ形のカップはペアで使うのもオススメです。
▼判子シリーズはプレートも2種類あります!