「Common」インタビュー<Japanese Style編>

「Common」インタビュー<Japanese Style編>

2020.09.04

長く使えるテーブルウェアを、つくりたい。
そんな思いから生まれたブランド「Common」。
2020年9月、新しくラインナップに
“Japanese Style”が加わりました。
日本製の飯碗、汁椀、お箸、小皿。
安定した品質と価格帯まで含めて、
いったいどんな風にデザインされたのか?
「Common」をデザインしている角田陽太さん、
マーチャンダイジングに携わる福島仁さん、
陶磁器の技術開発を担う阿部薫太郎さん、
中心となる3人のデザイナーに話を聞きました。
(インタビューはZoomにて行っています)

 

角田陽太 デザイナー
仙台市生まれ。2003年渡英し、さまざまなデザイン事務所で経験を積む。2007年、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)修了。2008年に帰国後、無印良品のプロダクトデザイナーを経て、2011年、自らのスタジオ『YOTA KAKUDA DESIGN』を設立。多岐にわたる分野で国内外にデザインを発表し続けている。

福島仁 MD(マーチャンダイザー)
東京都出身。早稲田大学卒業後、武蔵野美術大学にて空間デザインを学ぶ。卒業後は、株式会社イデーにて商品開発、デザイン、物流管理まで幅広く携わる。2009年より、CLASKA Gallery & Shop "DO"にて、商品開発、グラフィックデザイン、出店業務などを担当。他社との商品開発やブランディングなど、ディレクション業務も行う。

阿部薫太郎 陶磁器デザイナー
花巻市生まれ。大学修了後、2000年、KONST FACK K&G (スウェーデン)に留学。2年間タイ国の陶磁器メーカーに勤務。2006年に帰国後、長崎県波佐見町を拠点とする。以降、陶磁器デザイナー、エンジニアとして国内外の企業、デザイナーとプロダクトを発表。代表作にHASAMI PORCELAIN / Common / Sabato などがある。

 

アジアの伝統を、シンプルな飯碗に込めて。

――:
今回新しく発売する商品について、順番にお話をおうかがいしていきたいと思います。最初に、飯碗から。これまでの「Common」の焼きもの同様に、波佐見町でつくっています。デザインが、江戸時代に波佐見町でつくっていた “くらわんか碗”に似ているように思いました。

飯碗。これまでの「Common」シリーズのメインカラーと同じWhite,Gray,Yellow,Navyの4色がある。

角田:
どちらかというと、沖縄の飯碗、“マカイ”に似ているかもしれないですね。今回は沖縄の伝統的な形状にインスピレーションを受けた部分が大きいです。

――:
どういう部分でインスピレーションを受けたんですか?

角田:
特徴としては高台(うつわの底につけられた台)が広い。円の直径が大きいということですね。あと、横から見たとき高台の角度が下に向かって細くなっているのが珍しいんです。ふつう、飯碗の高台はハの字に広がったものが多いので。だから、この飯碗は純粋な和風じゃないですね。

阿部:
和風っていうより、ちょっぴりアジアの雰囲気がしませんか。波佐見の “くらわんか碗”ももっと掘り下げると、中国の“広東(かんとん)碗”の系譜なんです。だから沖縄の“マカイ”も、たぶん“広東碗”の流れを汲んでるんじゃないかな。こういう形はアジア独特っていう気がする……本当のところはわからないけど。ベトナムとかにも似た形がありそう。

角田:
ありそうだね。

――:
アジアの文化を抽出してデザインされているんですね。ちなみに使い勝手はどうでしょう?

阿部:
この飯碗は高台が広くて安心感がありますよ。今回、角田さんのデザインは高台が広くて厚みもしっかりしています。飯碗でこれだけ高台が広いのは少し珍しいかも。本来、焼きものは高台が小さいほうが製造するときに歪みが生じにくいんです。僕としては製造する際に歪まないように、かつ持ったときにそこまで重く感じさせないようにエンジニアリングしています。実際に手にとって、確かめてみてほしいですね。

 

天然の漆にこだわった汁椀。

――:
漆の汁椀は業務用漆器の大手、福井クラフトさんでつくっていますよね。どういう経緯で製作をお願いしたんですか?

阿部:
僕たち3人で何軒か工場見学に行って、決めましたね。大手で生産体制の部分でも安心だし、凝った“木粉入りのメラミン樹脂”がつくれる技術を持ってること、さらに天然の漆で加工できるっていうところが決め手でした。

汁椀。Red,Blackの2色。

――:
“木粉入りのメラミン樹脂”って、はじめて聞きました。

阿部:
木の粉と樹脂を混ぜて固めてるんです。この技法はひと昔前のもので、プラスチック製のものと違ってそんなに一気に数がつくれないみたいですけど……それでも「この技法でつくってほしい」とお願いしています。

――:
その技法を使うと、どんなところが、ほかの商品と違うのでしょう。

阿部:
近年主流となっているのは、より量産に向いた椀の製造技術です。ただその技術では均等な薄さでしか成形できないし、加えて素材が限定されてしまうんです。僕たちがつくりたかったのは「Common」の飯碗と並べて使いたくなる、ふっくらとした厚みのある汁椀。そこで、“木粉入りのメラミン樹脂”を採用しました。できるだけ木材に近い素材を使いたかったという気持ちもあります。

――:
天然の漆を使うのは、最初から考えていたんですか?

角田:
そうですね。ウレタンの塗装にはしたくなかった。ちゃんとテーブルウェアとしていいものをつくりたかったので、それには天然の漆が必要でしたね。

――:
漆のどういうところが、すぐれていると思いますか?

角田:
うーん。相対的にほかの仕上げが、よくないんです。

阿部:
一応、漆以外の塗装でも試作をしてもらいました。それで、やっぱり違うなって。

――:
漆ありきではなく、試作をしてみて、漆になったということでしょうか?

角田:
結果としてはそうなのですが、予想はしていました。漆が一番いいだろうなと。そして予想通りになった。

福島:
やっぱり直接手でふれたり、口をつけたりする部分ですから。機械で塗料を吹き付ければ安く済むでしょうけど、手仕事で天然素材の漆が塗られているほうがうれしいですよね。

汁椀に編集部でつくったぜんざいを。ふだんのおみそ汁以外にも活躍。椀の口が広いので、おたまで汁を注ぎやすい。

――:
天然の漆は、決して安いものではないと思います。今回の汁椀は3000円。漆器が発売されると聞いたとき、もっとお値段がするんじゃないのかな、と個人的に予想していたので驚きました。この値段はどうやって実現できたのですか?

阿部:
そこはもう、福井クラフトさんの企業努力のおかげだと思います。

福島:
たとえば、作家さんによる漆椀の場合、木材を挽いてお椀の形を作り出します。「Common」の汁椀の場合はそうではなく、さきほど話に出た“木粉入りのメラミン樹脂”を成形してお椀の素地を製作しています。これによってコストダウンをしつつ、厚みのある椀に仕上げることができるのです。
素材にメリハリをつけながら技法を選び抜いた生産体制は、福井クラフトさんにご協力いただいてるからこそです。

――:
福井クラフトさんとみなさんのやりとりの積み重ねで、この価格になっているんですね。漆は経年変化していく素材で、使い込んでいくうちに光沢感が出てくると聞いたことがあります。使うときに気をつけることはありますか?

阿部:
漆のつや感や色は、だんだんと変わっていくでしょうね。漆は軽くて強度が高く、熱や水気には強い素材です。一方で、食洗機が使えなくて、直射日光にも弱いんです。最近は漆食器を使ったことがない人もいるでしょうから、色が変わると驚かれるかもしれません。天然の素材なので、むしろ使いこんだときの変化を楽しんでもらえたらうれしいです。

 

最良の素材が、箸をつくらせた。

――:
次は箸についてうかがいます。こちらは木材加工の老舗、ニッタクスさんでつくっているんですね。

角田:
箸はどちらかというと、素材ありきでつくりました。樺(かば)の木の板を何枚も重ねた「積層材(せきそうざい)」を使っています。

箸。230mm210mmの2サイズ。色もBlown,Blackの2色。

――:
素材ありきだったんですか。

角田:
ニッタクスさんの樺積層材はすごく箸に向いている素材なんですよ。だから、それ以外の素材はまったく考えなかったですね。たとえば竹の箸をつくろうとか、そういう考えはなかった。

福島:
「この素材ならば、Commonに箸があってもいいよね」っていうくらい、いい素材です。

――:
お箸に向いている特性って、なんでしょう?

福島:
そうですね。お箸って使うと、先が痛んだり、曲がったり、反ったりすることもあるじゃないですか? でもこの素材は、ほとんど劣化がない。すごく強度が高くて、業務用や学校給食で採用されている実績もあるんですよ。

――:
お箸に塗装はされていますか?

福島:
していません。仕上げの段階で、なにかを塗ったり、吹き付けたりはしていないんです。積層材に樹脂を浸透させて固めて箸の形に切り出すのですが、最終的に「磨き」の工程を経て、この光沢が出ています。

――:
(箸をまじまじと見て)つやがあって、なにも塗っていない感じがしないです。すごい技術ですね。汁椀と違って食洗機対応とのことだったので、なにかが塗ってあるのかなって思ってました。

福島:
実際にニッタクスさんで製作工程を見せていただいたんですけど、磨いてないとカサカサで、なんていうか本当に……素地、という感じでした。それが磨き終わったものをみると、光沢があってすごく持ちやすくなっていましたね。

――:
しかもこの箸、両端は丸いんですけど、握るところはほんのり四角くなっていますよね。シンプルでありながら工夫を感じます。どういう意図でデザインされたのでしょう?

角田:
「転がらない丸」ですね。箸を使うとき、丸いほうが手にはなじむと思うんです。でも置いたときに転がったら困るので、転がらない機能をプラスしたデザインにしました。

持ちやすいデザインの箸。この写真で使用しているのは230mmのBlack。

福島:
このデザインを実現するために、角田さんはすごく「磨き」の工程にこだわってました。磨くことで丸みのあるフォルムを出し、意図したデザインに落とし込んでいるんです。研磨する機械を何回転させるかというところまで、細かく詰めて指示していました。箸に光沢を出すためだけに磨きの工程があるわけではないんですよ。

 

生活に溶け込み、ベーシックになりたい。

――:
最後の質問です。「Common」を今後、どういうブランドに育てていきたいですか?

福島:
日々の食生活をより豊かにするブランドにしていきたいなと思います。永遠に品目を増やしていこうと思えばできるシリーズだと思うんですけど、本当にどこまで必要なのかは常にみんなで考えて話し合っていますね。

阿部:
今の食生活は劇的には変わらないだろうから、「Common」も20〜30年はもう大丈夫じゃないかな。もしも僕たちが退化して、手が小さくなったら大変だけど(笑)。同じクオリティでつくり続ければ、いいと思う。できるだけ値段も変えずに販売していきたいですね。

角田:
長く続いていくブランドになってほしい。使う人にすべてのテーブルウェアを「Common」で揃えてほしいとは思っていないので、ベースとしてさりげなく生活に溶け込めるものになってほしいと思います。

「じつは飯椀と汁椀は高さを揃えているんです。ひそやかに食卓が整って見えます」と角田さん。セットでテーブルに並べると、美しい。

 

【Common】

国籍やスタイルの垣根を超え、時代にも左右されないテーブルウェアを追求したブランド。普遍的なデザインに裏付けられた実用性とともに、品質と価格帯を確保し、より多くの人に、より長くつきあっていただけるテーブルウェアを実現しています。 2014 GOOD DESIGN AWARD/2015 IF DESIGN AWARD

https://hasamilife.com/collections/common

 

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この記事を書いた人
Hasami Life 編集部