【長崎・佐賀 うつわめぐり】焼きもの、買い付け旅に同行しちゃいました。2024
佐賀〜長崎にまたがる焼きもの産地を巡って
唐津、伊万里、武雄、姫野、有田、佐世保、平戸、波佐見。うつわ好きの人なら一度は聞いたことがある地名も多いのではないでしょうか。
佐賀〜長崎にまたがるこの地域は「肥前」と呼ばれ、現在も多くの窯元が残る陶磁器の一大産地です。
波佐見町にある陶磁器ショップ&ギャラリー『ÔYANE(オーヤネ)』では7〜8月にかけて企画展『長崎・佐賀 うつわめぐり』が開催され、肥前地区にある6つの産地で生まれた焼きものが並びます。
企画展をはじめ、店内に並べる商品の買い付けを行っているのがバイヤーの田﨑美雪さんです。
5月下旬のある日。今年も企画展で展示・販売するための焼きもの買い付けに行くと聞いてHasami Life編集部も同行し、その様子を取材させてもらいました。3日間にわたって長崎〜佐賀に点在する窯元を巡った買い付け旅の様子をお届けします。
【1日目】波佐見町から1時間ほどかけて唐津、伊万里、嬉野へ
初日は朝8時に長崎県波佐見町を出発。移動中の車内で、今回買い付けを担当する田﨑さんにお話を伺いました。
「産地それぞれに特色があるので、その産地を代表するような、伝統的なものから現代的なものまで買い付けたいと考えています。直感的に選ぶことが多いですが、価格帯やお客様の買いやすさ、使いやすさも考えなくてはならないのでそのバランスが難しいです」(田﨑さん)
1時間ほど車を走らせ到着したのは佐賀県北西部に位置する唐津市。唐津焼の産地です。
<唐津焼>三藤窯(みとうがま)
長閑な田園風景の中を進むと見えてきたのは、最初の目的地である三藤窯さん。ギャラリー兼工房に入ると、しっとりとした空間に茶碗やぐい呑みなどの和の雰囲気を持った作品が並びます。
「一点もののうつわと、一般家庭でも気軽に使える食器を制作しています」と教えてくれたのは作陶家の三藤るいさんです。
「もともと焼きものが好きで15年間の会社員生活の後、有田の窯業大学校に入り直して。修行期間を経て15年前にこの場所に窯を開きました」
唐津は分業化されていない作家の町。基本的に最初から最後の工程までを自分の手で作ります。さらに三藤さんは焼きものに欠かせない“土”も、自分の足を使って探すところから始めるのだそうです。
「肥前地区の山をまわって使えそうな土があればテストして、山の持ち主の方に交渉します。新しい土と出合って、土に合ったデザインをしていく。素材から探すのは大変ですが、その土の持つ力強さや魅力を活かしたものづくりに魅力を感じています。
私はどちらかと言えば深く掘り進めたいタイプ。高台の厚さ1mmにもこだわって毎年成長していければと思っています」
<唐津焼>大杉皿屋窯(おおすぎさらやがま)
次に向かったのは唐津市呉服町の商店街にある大杉皿屋窯さんの直営店です。バイヤーの田﨑さん、お店に着いて早々にお目当ての商品を見つけたようです。
「キャンドルホルダーです。去年もお客様から好評でした」(田﨑さん)
店頭に立つ、創業者の娘、大橋友枝さんにもお話を伺いました。
「昭和46年に創業し、家族4人で営んでいます。大杉皿屋窯という名は、現在、窯がある『大杉』という地名と、唐津焼発祥の地である『皿屋窯』を組み合わせたものです。呉服町に窯もあったのですが、ショップを残して移りました」
「唐津焼はゆるやかな線の絵柄が多い。でもうちは父がぶどうや梅、草花とさまざまな絵を描いてくれるので、唐津焼の中では絵柄や色味も豊富なほうだと思います」
土ものの温かみのを感じる唐津焼。伝統的なものから現代的なものまでたくさんの焼きものを仕入れて唐津を後にしました。
<伊万里鍋島焼>青山窯(せいざんがま)
車で40分ほど移動し、到着したのは佐賀県伊万里市大川内町。伊万里鍋島焼の産地です。窯元が多くある街の入り口には関所跡がありました。
「ここ大川内山は佐賀藩(鍋島藩)の御用窯(ごようがま)が置かれた場所で、その高い技術が外に漏れないように関所が設けられていました。伊万里鍋島焼は、将軍家や諸大名に献上するための焼きものだったので、江戸時代が終わるまで庶民は知らなかったといわれています。廃藩になった後、明治16年に民間の窯として開業しました」と教えてくれたのは、青山窯の川副貴子さんです。
青山窯のある大川内山では毎年、夏に「風鈴まつり」が開催されています。
「風鈴は年間を通して国内外のお客様から人気が高いです。絵付けはもちろんすべて手書きです」
「伝統的なエッセンスを大事にしつつも和モダンが得意。伊万里鍋島焼にはあまり見られない黒色のうつわも作っています。シンプルなデザインが多いですが、これからはもっとクラシックなものをベースに、少し現代的な要素を足した商品を作ってみたいです」(川副さん)
セレクトした商品の製作をお願いし、青山窯さんを後にしました。
<肥前吉田焼>副千製陶所(そえせんせいとうしょ)
1日目の最後に訪れたのは佐賀県嬉野市にある肥前吉田焼の窯元・副千製陶所です。古くから急須や土瓶など「ふくろもの」と呼ばれる焼きものを得意とする窯元です。
「ふくろものはパーツが多い分、手がかかります。焼きものは不思議なもので、手をかければかけるほど焼いた時に傷が出てくるんです」と教えてくれたのは社長の副島謙一さんです。
副千製陶所さんのもう一つの特徴がこの水玉模様です。かつてはこの地区で量産されていた水玉模様も、この地区で制作を続けているのは副千製陶所さん1軒のみ。
「焼きものは自然の力に左右され、どうしても難もの(B級品)ができてしまい、かなり量を焼かないとA品(出荷可能な商品)は届けられない。業界全体で頑張ってそれをOKとするか、価格を上げるかしなければいけないんだけど。そうすることで資源を守り、焼きもの産業を長く続けていけるようになると思うんだけどね」
「この茶碗の色は変えられますか? 7色を10個ずつ欲しいです」とOYANEオリジナルカラーの要望を伝える田﨑さん。
「できるできる〜」と気前よく答える副島社長。いつもこうして柔軟に相談に乗ってくれるのだそうです。
【2日目】波佐見町のお隣・有田、三川内へ
買い付け旅2日目は、波佐見町のお隣、佐賀県有田町からスタートです。
<有田焼>やま平窯(やまへいがま)
やま平窯さんは業務用食器をメインに制作する窯元。シェフや料理人に人気のある、高い技術を活かした繊細なうつわを数多く制作しています。
「これは昨年も大人気だった泡(AWA)シリーズです。大阪や関東から来られるお客様がけっこう買われていきますね」とバイヤー田﨑さん。
社長の山本博文さんにお話を伺うと、泡(AWA)シリーズはとあるリゾートホテルからの要望で考案したそうです。
「海辺に建つリゾートホテルだったので海や砂浜をイメージして作りました。独自の技法で模様をつけています。実際の泡を使っているので同じものはないんです」
<有田焼>北川美宣窯(きたがわびせんがま)
次に向かったのは、同じ有田市内にある北川美宣窯。彫刻ものを得意とする窯元です。箸置きや陶器の人形、年末になると干支のおきものなどの小物を中心に制作しています。
この日は三色団子の箸置きを作っている現場におじゃまし、社長の北川朝行さんにお話を伺いました。
「白く残したい部分にマスキング効果のある液体を塗った後、ピンク、緑、透明の釉薬と、段階を分けて掛け分けしていきます。できあがったものからは分かりにくいですが、一つひとつにこれだけ手がかかっているのです」
現在、箸置きだけでも100種類以上あるのだそうです。
<有田焼>皓洋窯(こうようがま)
こちらも同じ有田町内にある皓洋窯さんです。窯主である前田洋介さんと美樹さんご夫妻にお話を聞きました。
「うちは曲線的で温かみを感じる、やわらかい雰囲気を持ったアイテムが多いかな。買い付けの際にリクエストをいただいたり、売り場のお客様の声を聞かせてもらえるので助かっています」(洋介さん)
皓洋窯さんの絵付けはすべて手描きです。
「白地に絵付けの焼きものが基本。絵柄によって地の白色の見え方も異なるので不思議ですよね。絵付け師さんは二人いて、男性の絵付け師はきっちりとした線描きをする方で、女性の絵付け師は大胆な線を描く方なんです。二人の絵付けがいいバランスになっているんだと思います」(美樹さん)
<有田焼>西 隆行(にしたかゆき)さん
陶芸家の西隆行さんの工房にもおじゃましました。
西さんの代表的な作品はこの「雫」シリーズ。磁器そのままの白さを生かし、上半分に分厚めにかけた青磁釉が窯の中で溶けて流れた表情が印象的です。
注文が殺到し、現在は新規の受付をストップしているという人気ぶり。今回の企画展に並べる商品は昨年から制作をお願いしていたものです。
「技法や作風自体は新しいものではないのですが、釉薬の調合、形と流れ方などを考えて調整しています。そのため、作った時期によって色味や濃淡が違うと思います」(西さん)
「これは窯の中で釉薬が流れ落ちて副産物として取れるもの。陶器市で販売しているほか、ハンドメイドのアクセサリー作家さんが購入していきます」
自然にできたものなので個体差があるのもまた魅力です。
<三川内焼>平戸窯悦山(ひらどがまえつざん)
2日目の最後に訪れたのは、長崎県佐世保市三川内町にある平戸窯悦山さんです。透き通るような薄手の白磁の急須や徳利のほか、龍や虫籠など精巧に細工が施された作品が並びます。
もう一つ、バイヤー田﨑さんが心を掴まれていたのがこの「舌出し三番叟(しただしさんばそう)人形」です。猿の首がくるくるとまわり、傾けることで舌が出てきます。
「舌出三番叟人形は江戸時代から作られている三川内焼の伝統的なおもちゃで、長崎の出島からお土産品として輸出されていました。1867年のパリ万博では、ナポレオン三世の奥様が気に入ってたくさん買い求められたという文献も残っています」と教えてくれたのは、14代目平戸悦山の今村均さんの娘であり、15代目のひとみさんです。
現在焼きものでこれを作れるのは世界で平戸窯悦山さんだけ。一家相伝の技術だそうです。
「こういった美術品は、たとえば1年かけて10個作り、焼き上がって窯出ししてみると一つも成功しないなんてことはザラです。それでも先人たちが『白磁でこれだけのものができるんだ』というすごい技術に挑戦してきたという歴史があって、その先人たちを超えたいという思いが父にはあるのだと思います。わたしも工房で父の仕事を盗み見ていますが、81歳であんなものを作っているのだからすごいなって。ものづくりに対する姿勢を尊敬しています」
【3日目】波佐見で旅を締めくくる
<波佐見焼>一真窯(いっしんがま)
買い付け旅の最終日は朝から波佐見町内にある一真窯さんへ。手彫りで一点ものの花器やグラスを制作する窯元さんです。
「今は白い釉薬に彫りデザインを施したものがメインですね。たまに色釉薬も使うけれどやっぱり白に戻る。同じアイテムでも彫りのデザインを変えることで、十分個性が出るんです」と語るのは、社長でありデザイナーの眞崎善太さん。
工房に移動して実際に鉋(かんな)で彫りを入れる作業を見せてもらいました。鉋は30種類以上あるのだそうです。
「土ものの飛び鉋はどちらかというと男っぽい印象になりますが、磁器でやると繊細さが出ます。角皿や深いうつわの内側に飛び鉋を入れるのは技術がいり、全国的に見てもあまりないです」
簡単に彫りを入れているように見えるけれど、生地はビスケットのようにもろく、少し力を入れただけで割れてしまいます。繊細な職人技を間近で見せてもらい、「一点もの」の価値を実感した編集部一同でした。
<波佐見焼>光春窯(こうしゅんがま)
買い付けの旅の最後を締めくくるのは、中尾山にある光春窯さんです。ショップに入ると日常使いしやすそうなシンプルな形で、繊細かつ多様な色づかいの食器が並んでいます。
「7〜8月の展示なので海っぽい、涼しげなイメージのうつわを仕入れました」(バイヤー田﨑さん)
「釉薬も独自に調合しているので、微妙な色やさじ加減も表現できます。思い通りの色にならなかったときは調合を変えたり、焼き方や窯の位置を変えたり試行錯誤。釉薬は奥が深いです」と話してくれたのはスタッフの大石則子さんです。
「(光春窯の)馬場社長はとにかくオープン。何でも聞いてくれ、何でも答えてくれます。知識の幅も広く、技術的なことも聞けばすぐに答えが返ってきます。好奇心の塊です」
3日間にわたって10の窯元を訪ね、制作現場を見て、聞いて、触れて。
買い付けが終わる頃には6つの産地、それぞれの特徴がはっきりと浮かび上がりました。編集部にとっても貴重な体験となり、こうして一つひとつ選び抜かれた焼きものが並ぶ企画展がますます楽しみになりました。
企画展のお知らせは後日、Hasami LifeのWebサイトとInstagramで発信します。
取材にご協力いただいた皆様、バイヤーの田﨑さん、ありがとうございました!