窯元探訪【studio wani】vol.21 恐竜シリーズ、漫画の一輪挿し。夫婦ふたりの手仕事。

窯元探訪【studio wani】vol.21 恐竜シリーズ、漫画の一輪挿し。夫婦ふたりの手仕事。

2022.08.01

波佐見町には、工業組合に名を連ねているだけでも59つの窯元があります。そして小さな町の至るところに、波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。「studio wani(スタジオ ワニ)」さんは、2017年に夫婦ふたりでスタートした窯元です。

できるだけ機械は使わず、自分たちでろくろをひき、絵付をし、作陶してきたおふたり。webshop に入荷するたび、すぐに売り切れてしまうほど人気の「DINOSAUR シリーズ」のこと、波佐見町を舞台にした漫画『青の花 器の森』に登場する星空の一輪挿しのことなど、じっくりお話を伺います。わたしたちHasami Life 編集部も大ファンの『青の森 器の花』の最終巻は2022年8月発売予定! 取材協力をされてきた綿島さん夫婦もぜひこのタイミングでと、インタビューを受けてくださいました。

綿島健一郎さん(写真左)と綿島ミリアムさん(写真右)。
健一郎さんは、1982年熊本県に生まれ。薬科大学に進学するも中退、料理を勉強する。最終的に焼き物が性に合うと気づき、陶芸の道へ。ミリアムさんは1983年ドイツ生まれ。12歳のときに陶芸の魅力にとりつかれ、陶芸家になるために焼き物と日本語の勉強に打ち込んできた。夫婦ふたりで2017年に「studio wani」を開業。

 

入荷するたび即完売! 古伊万里風「DINOSAURシリーズ」

――:
ミリアムさんが、人気の「DINOSAURシリーズ」を生み出したのはいつ頃ですか?

ミリアム:
独立してすぐですね。しっかり稼いで「studio wani」を続けていくために「これまでと違うことをしなきゃ」と思ってアイデアを考えていました。

――:
どうやってこのデザインを思いついたんでしょう? 古典的でありながら、ユーモアもあって、とても個性的です。

ミリアム:
最初は単純に、古伊万里風の古い感じのものが作りたくて、古いモチーフを合わせたいなと思ったんです。今存在してる動物だと雰囲気が合わないから、 龍とか麒麟みたいな実在しない動物だったらどうかな? とかいろいろ考えて恐竜にたどり着きました。わたしは恐竜にものすごく詳しいわけではないんですけど(笑)。


【古伊万里とは】
主に江戸時代につくられた伊万里焼のこと。現在の伊万里焼は佐賀県伊万里市でつくられる焼きものだが、古伊万里は波佐見町を含む肥前地区で制作されたもの。これは伊万里港から肥前地区全体の焼きものがヨーロッパへ輸出されていたため。磁器が焼かれはじめた直後に登場した青藍色で描かれた染付(そめつけ)から、「金襴手(きんらんで)様式」と呼ばれる色絵と金彩の豪華絢爛なものなど、さまざま。

――:
もともと染付の古伊万里が好きだったんですか?

ミリアム:
好き! ただ、好きだけど、古伊万里を完全に再現しようとはしてないですね。釉薬を当時とまったく同じにしようとか、ガス窯じゃなくて薪窯で焚かなきゃとかっていうストイックさはないです。

――:
それはなぜなのでしょう?

ミリアム:
家業として伝統を受け継いでいる方もいらっしゃるなかで、ドイツ人のわたしが同じように日本の伝統を極めようとするのは難しいと思っています。勝てないですよね(笑)。それに、わたしは「昔のものは昔のもの」という考えなので、昔とまったく同じ方法でつくらなくてもいいと思っています。

――:
デザインをするときに大事にしてることはありますか?

ミリアム:
完璧すぎないこと、です。恐竜もリアルを追求するとかわいくないですね(笑)。シンプルに描いて、リズミカルな線のよさを活かしてます。鉄粉も味わいのために、恐竜シリーズではあえて散らしています。うつわを焼くとできてしまう黒い点は、普通は欠点になってB品扱いなんです。でも逆にこれが味になって、雰囲気が出る。

――:
確かに鉄粉があると、古典的な雰囲気が増しますね。

ミリアム:
でしょ? 生地もろくろをひくときにあえて手の跡を残してます。完璧すぎなくて、手仕事のあたたかみが感じられること。それは恐竜以外のデザインでも意識しています。

 

漫画『青の花 器の森』に出てくる「星空の一輪挿し」も制作

――:
健一郎さんがつくっている白磁の一輪挿しは、創業時からラインナップにあったんですか?

健一郎:
ろくろの練習でずっとつくってたものなので、独立してしばらくしてから販売するようになりました。

――:
ろくろについて、素人で全然わからないんですが、お皿や茶碗をつくるより、一輪挿しのほうが難しいのでしょうか?

健一郎:
うーん、なんだろう。「この形にしたい」っていうのを厳密に目指してつくったら、めちゃ難しいですね。ろくろは「もう一個同じフォルムのものを再現する」のが難しい。なのでうちの webshop では、それぞれ個性のある、形の違う一輪挿しを販売しています。

鏡を前に置くことで、姿勢を変えずにろくろでひいた生地のフォルムを確認できるという。

――:
小玉ユキさんの漫画『青の花 器の森』に登場する「星空の一輪挿し」の実物を「studio wani」さんがつくられましたよね。

健一郎:
そうですね。小玉さんがうちに取材に来られたときに、ちょうど白磁の一輪挿しを何個もつくってたんですよね。だから、制作依頼が来たのかもしれません。

――:
なるほど、漫画がスタートする前から、取材協力されてますもんね。

健一郎:
漫画の影響は大きいですね。白磁の一輪挿しは個体差があるんですけど、漫画に出てくる形状に近い一輪挿しがどんどん先に売れていきます(笑)。

波佐見町の西の原にある「モンネ・ルギ・ムック」にある星空の一輪挿し。「波佐見のリアルがギュッ!『青の花 器の森』とショートトリップ」記事より。

「studio wani」さんのギャラリーには、小玉ユキ先生の色紙も飾られている。

――:
一輪挿しをつくりはじめたのは、いつごろなんですか?

健一郎:
さかのぼると、僕が窯業大学で焼きものについて学んでいたときのことでしょうか。福岡県の小石原にいる作家さんのお手伝いにいったんですよ。そしたら「ろくろ、ひいてみて」って言われて。 まず「できるだけちっちゃいコップをつくって」って。次は「じゃあそれに口をつくって」。言われたとおりにしたら、「これがろくろの基礎練習のすべてだよ」と教えてくれたんです。それから家に帰ってからも、ちっちゃい一輪挿しをつくる練習をするようになりました。

――:
小さいものをつくるほうが、難しいんでしょうか?

健一郎:
土ってちょっとさわるだけでも伸びていくので……ほんのわずかな圧力で、生地の厚さが均一じゃなくなってしまうんです。指先がさわってるかさわってないか、ぐらいの感覚で伸ばしていく。

――:
繊細さが求められるんですね。

健一郎:
一輪挿しは、胴部分をつくったあとに口を小さくするぶん、上部の生地が分厚くなりやすく、さらに均一にするのが難しいですね。また『青の花 器の森』に出てきた星空の一輪挿しの特注品の依頼をいただいているので(https://bloomavenue.jp/2774/)、100個、頑張ってつくります。

ささっとろくろをひいて、糸で半分に切り、断面を見せてくれた。すぼめた上部まで、生地の厚さが均等なのがわかる。

 

どうやってデザインを考えてるのか?

――:
おふたりはデザインも自分たちで手掛けてらっしゃいます。よい職人が必ずしもよいデザイナーとは限らないと思うのですが、デザイナーとしての技術はどうやって磨いてこられたのですか。

ミリアム:
最近は、仕事と子育てで忙しくて新しいデザインはやれてないですけど……。

健一郎:
ミリアムはセンスがあるもん! ドイツの大学でもプロダクトデザイン専攻だったし、スケッチブックにデザインのストックがいっぱいあるんですよ。

――:
ミリアムさんは、絵柄のデザインをどのように学んできたのですか?

ミリアム:
じつは絵は大学では勉強してなくて、波佐見で働いてた「陶房青」さんで勉強してきました。絵付師の村上三和子さんのアシスタントをさせてもらえたのが、とっても勉強になりました。

――:
村上さんのこと、存じています。現在は個人で活動されてる、凄腕の絵付師でありデザイナーさんですよね。

ミリアム:
はい。陶房青で働いてたときは、本当にお世話になって、絵付の技術だけじゃなくデザインも教えてもらいました。村上さんの作品って自由じゃないですか。今はフリーでお仕事されているので、陶房青にいたときとはまた違うテイストも描いてるんですよ。
わたし、まだまだですけど、 村上さんと一緒に働けて、技術もデザインも含めて「絵付ってこんな自由なんだ」って思えたことは大きいです。

――:
うつわの形状についてはどうでしょう?

ミリアム:
焼きものは、人間が火を使い始めたころからつくってきたから、もうすでに世界中いろんな形状がありますよね。そこからヒントをもらってます。恐竜のシリーズも、波佐見で江戸時代のころからつくられてきた「くらわんか」を参考にしてます。 もともと明治時代につくられたくらわんか皿が家にあって、それを毎日使ってたら「これは使いやすいよね」ってなって。

健一郎:
ふたりで実際にいろんなうつわを使ってみて、使いやすい形を参考にしながら、相談しています。「もう少し大きい方がわたしたちにとっては使い勝手がいい」とか「ここの角度をもう少しゆるやかにしたい」とか意見を出し合って、サンプルをろくろでつくって。何度も調整してると、だんだんほしい形になっていきます。

ミリアム:
リサイクルショップやネットオークションなどでも、中古のお皿を集めています。町内でも、焼きものショップの「OYANE」へ行って、サンプルの一点物など「かわいいじゃん!」と思ったうつわは買って、使って、試しています。

しのぎシリーズは「家で恐竜シリーズばっかり使っていたら白い器が欲しくなった」ということで商品化された。

健一郎:
大きさを検討するときも、15cm、17cm とセンチ刻みにするより、3寸、4寸、5寸と寸刻み(1寸=約3.3cm)でつくる方が感覚的にしっくりきて、使いやすいこともわかってきましたね。

ミリアム:
やっぱり「人が使っていて気持ちいい基準」があると思います。和食器としての基準から、大きくはみ出たフォルムのものはつくってないですね。

 

手づくりを大事にしたい理由

――:
「studio wani」さんの作品は、手づくり手描きのものがほとんどですよね。波佐見は分業制で焼きものづくりをしている町なので、型に生地を流し込んで均一な生地をつくることもできますが、手間をかけてろくろでつくるのはなぜですか。

ミリアム:
すごく感覚的なんですけど、機械や型でつくった生地に絵付すると、「自分は機械と戦っている」気持ちになってしまうんです。大量生産なので絵付する枚数もとっても多くて、一日で数百枚も絵付することもあるので。そもそもわたしは、絵付より、ろくろがしたいのが本音です。

健一郎:
ミリアムは絵付に注目されることが多いですけど、彼女としてはろくろが一番やりたいんですよ、昔から一貫して。

ミリアム:
今も、ろくろは一部担当してます。「studio wani」として世に出しているので、どれを担当しているかわざわざ言わないですけどね。

健一郎:
大量生産するには型を使うのが便利ですけど、ミリアムや僕がろくろをひいてつくった生地には、なにかしら訴えかける温度とか表情があると感じてます。

ミリアム:
生地も絵付も、機械に任せずにやると、とても手間はかかります。でも、やっぱり自分たちの手を動かせることが、何よりも楽しいんですよね。

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【studio wani】

Instagram
https://www.instagram.com/studiowani/

webshop
https://studiowani.theshop.jp/

※「studio wani」の器はHasami Lifeで取り扱っておりません。


 

 


 


この記事を書いた人
Hasami Life 編集部