窯元探訪【福峰陶苑】vol.44 福田和峰『手描きが最速、ってこともある。』
波佐見には、町のいたるところに波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。
点を打つ。線を引く。花びらや模様を描き込む。
これだけ機械化の進んだ現代においても、手描きを続ける窯元があります。今回訪ねた「福峰陶苑(ふくほうとうえん)」もそのひとつです。
パット印刷や転写など、量産を支える技術を発達させてきた波佐見。Hasami Lifeの取材を通じても、それらの技術がいかにものづくりを助け、精度の高いものなのかを実感してきました。
ゆらぎや滲み、この世に一点しかない特別感など、手描きの魅力はもちろんいろいろと思い浮かびます。手描きのほうが、あるいは機械のほうが優れていると言いたいのではありません。
けれども、手間も労力もかかるやり方をあえて続けるのはなぜか? その理由を探ってみたくもなる。
「手描きのほうが速いこともあるんですよ」
福峰陶苑で専務を務める福田和峰(かずたか)さんは、こちらの疑問に鮮やかに答えてくれました。
手描きならではの速さ、とは。ものづくりの現場に、その真意をたずねます。
手描きの職人がいなくなったら、うちは終わり
波佐見の中心街を走る県道1号線から、一本裏手に入った静かな通り。以前Hasami Lifeでも紹介した食品サンプルのお店「日本美術」のほど近くに、福峰陶苑の工場はあります。

1968年にこの場所で創業した福峰陶苑。当初は窯元ではなかったそう。
常務取締役の福田和峰さんが教えてくれました。
「もともとうちの祖父は博多人形をつくっていて。それから生地屋さんになったんですよ。で、生地屋から窯元に」

「創業時からの従業員も一人だけいます。今もう75歳ぐらいになるんじゃないですか。一応午前中だけですけど、まだバリバリ仕事してますよ。レジェンドです」
和峰さんが手で示す方向に目をやると、まさにそのレジェンドが作業中。背筋をすっと伸ばして淡々と進むその仕事ぶりに、こちらの背筋も思わず伸びます。

素焼き、絵付け、釉薬がけ、窯の積み下ろし、検品・梱包・発送、事務方など、さまざまな仕事からなる窯元。ここでは現在、22名の従業員さんがそれらの役割を分担しながら、日々焼きものをつくっています。
そのなかでも福峰陶苑の特徴は、なんといっても手描きの絵付けです。全体のほぼ半数の10名は、絵付けの職人さんが占めているそう。

「今の時代、即戦力として手描きの絵付けができる人ってほぼいないので、素人から入ってもらって、徐々に力をつけていくんです。高校生も2人アルバイトで入ってもらってます」
「ベテランの人じゃないと描けない柄もあります。その人たちが一気に辞めてしまったら、うちは終わりですね(笑)。手描きはほかのメーカーさんが簡単に真似できない、うちならではの特徴だと思います」

たとえ管理が大変でも、「指定柄」がいいと思った
器に描かれる、さまざまな柄。工場内をパッと見渡した限りでも、かなりの種類があることがわかります。
以前は「フリー柄」が多かったそう。
フリー柄とは、どこの商社でも仕入れて販売できる柄のことです。
ところが現在は、「指定柄」が大半を占めています。つまり「この柄は、この商社だけで販売する」と決まっている器がほとんど。
すると何が起こるかというと、扱う柄の数が増えます。オリジナルで調合している釉薬の種類も増える。柄と釉薬、それに形も組み合わさるので、管理がとても大変になるそうです。

それでは、指定柄を選ぶのはなぜでしょうか。
「フリー柄だと、数多くの商社さんから注文をもらえます。ただ、一回の注文数が少ないんですよね。20〜30個の注文をちょこちょこもらっても、絵柄ごとに使う絵の具や筆が違うので、手描きで対応するのが難しい 。
それに、一部の商社さんが特売品みたいな形で安く販売すると、売値に差が出るんで、その商品が軒並み売れなくなるんですよ」
「せっかくつくった商品が売れなくなるのはもったいない。なるべく長く売りたいっていう気持ちがあるんで。だったら指定柄のほうが、金額の変動も他社に左右されないし、一気にどんと注文をもらえていいかなと」
数をつくることと、一つひとつ丁寧に売ること。
小さな規模でつくって売る作家業であれば話は別として、ある程度の量産を前提とする窯元にとって、それはいつの時代も葛藤の種だろうと想像します。
手描きの価値や誇りを守りながら、いかに事業を続けていくのか。柄に対する考え方にも、福峰陶苑の矜持が表れているように感じました。

手描きだからできること
そんな流れのなかで、話題は「手で描くことの意味」へと向かっていきます。今回の取材でまさに聞きたいと思っていた部分です。
身構えるこちらとは裏腹に、和峰さんはあっさりと、こんな話を聞かせてくれました。
「手描きだとサンプルを楽につくれるんですよ。転写とかパット印刷は、版を起こさないといけない。その修正が難しいですもんね。手描きだったら、この線は外してほしいとか、この柄をもうちょっと大きくしたいとか、すぐにできるんです」
なるほど。量産のフェーズに入れば、機械を使ったほうがどんどんつくれるけれど、最初の小回りは手描きのほうが利く。考えてみたら当たり前ですが、あらためてお話を聞くと新鮮に感じました。
「もうちょっとここをこうしようかって、話しながらその場で描くこともできるし。柄の色も大きさも、なんでも修正が利くので。そこはうちの強みではありますね」

商社から相談を受けてサンプルをつくり、修正して完成に至るまで、ものによっては1週間以内で形になるそうです。
もちろん窯や職人の手の空き具合にもよりますが、依頼から2週間後には量産をはじめられる商品もあるのだとか。
和峰さんの言う「手描きの速さ」とは、このアイデアが形になるまでのスピード感のことです。
たしかにそれは、機械やAIでは簡単に代替できないものだと思います。職人の技術や経験と、商社の視点やアイデア。それらを持ち寄り、人と人とが対話を通じて創造と修正を繰り返して、頭のなかにあるものを形にしていく。
ああ、たしかに手描きって速いのかもしれない。当然の、でも新鮮な気づきを与えてくれるお話でした。
後編では、和峰さんの思考を深掘りします。ぜひ続けてご覧ください。
(つづく)
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