量産を支える手仕事。波佐見の転写屋さん【協和転写】を訪ねて
焼きものに絵柄をつける技法のひとつ、「上絵転写(うわえてんしゃ)」。
色鮮やかな伝統柄からブランドやお店のロゴまで、多様な表現を可能にする上絵転写。その一枚の器の裏側には、多くの手仕事がありました。
今回、訪ねたのは、波佐見町折敷瀬郷で40年以上にわたり地域の転写を支えてきた協和転写。波佐見の焼きものづくりに欠かせない存在です。
一枚の転写紙ができるまで
「ひとつの版が準備できれば、あとはそれを使って何十個でも、何万個でも、同じ柄をつくることができます。そこが転写のいちばんのおもしろさ、魅力です」
そう話すのは、協和転写の代表・山下晃広さん。見せてくれたのは、一枚の器と、その元になった手描き原稿でした。



よく見ると、赤は赤、金は金、黒は黒。それぞれの色ごとに別々の紙へ描き分けられています。
「版画と同じなんです。例えば、この絵柄は12色使っています」
12色なら12版。一色刷って乾かし、また次の色を刷る。そんな工程を繰り返しながら、まず一枚の転写紙がつくられます。
それを器に貼り付け、窯で焼き付ける。それが焼きものの業界における「上絵転写」という方法です。




柄は、ひとつ描き起こせば、あとはパソコン上で拡大・縮小もできます。しかし、そこまでの準備には大きな手間がかかります。
デザイナーの仕事は、ただ絵柄を描くだけではありません。お客さんから受け取ったデータをPhotoshopやIllustratorで器の形に合わせて調整したり、過去の絵柄のパーツを組み合わせて新しいデザインを提案したり。
データの残っていない古い絵柄を手描きで写し取り、デジタル化して保存することもあります。
「花や模様を組み合わせれば、新しい柄をつくることもできます。ただし、何でも自由に組み合わせればいいわけではありません。色の入り方や柄の組み合わせには、昔からのルールのようなものがあるんですよ」


デザイナーのひとり・森山弘文さんのパソコンには、積み重ねられた柄のデータが並んでいました。
「作業はまったく追いついていないんだけど……」
そう話す森山さん。そのデータは単なる素材集ではありません。波佐見という産地の歴史や技術を未来へ残していく、貴重な記録でもあります。
転写はカラープリンターじゃない
柄と並んで重要なのが、色です。
「みなさん、カラープリンターみたいなイメージを持っているかもしれないのですが、転写はコピー機のように一度でドーンとたくさん印刷できるわけではありません」


送られてきたデータが30色だったこともあるそうです。しかし、色が違えば、その色ごとに「版(はん)」が必要になります。版とは、絵柄を印刷するための“型”のようなもの。
30色のデザインなら、30枚の版が必要になる計算です。それは現実的ではありません。最終的には12色まで整理してもらったといいます。
さらに、色見本帳などで指定された色も、そのまま再現できるわけではありません。できるのは、あくまで「近づけること」。何度もサンプルをつくり、色を確認し、修正する。そんな色づくりを担っているのが、鈴田さんです。


色づくりは、見本の色を再現すれば終わりではありません。ベースとなる器の色によって発色は変わりますし、転写紙の上では良く見えても、焼いてみると違う色に見えることもあります。
そのため、「この器に貼って焼いたら、最終的にこの色になるはずだ」と予測しながら調整していくのだそうです。ものによっては8色、9色と何度も色を重ねることもあります。
しかも紙は季節によって伸び縮みするため、色を重ねるたびに位置合わせの微調整が必要になります。何度も試し刷りを重ねながら、色も位置も少しずつ整えていく。ほんのわずかな差が仕上がりを左右する世界です。
転写紙は、貼るのではなく“伸ばす”
柄と色が決まり、転写紙ができあがると、今度は器へ貼り付ける工程です。見学では、実際の作業を見せてもらいました。
①転写紙を切る

②水につけてから器に貼る

③ヘラで空気を抜く

④完成

「まず、転写紙を伸ばすんですよ」
山下さんは何度も同じ言葉を口にしました。
転写紙は平面。器は立体。そのまま貼れば、必ずシワになります。だから、最初に器の形に沿うよう、少しずつ伸ばしながら位置を決め、ヘラで水を抜き、仕上げていくのです。
「伸ばしてくださいと言っても、その感覚がなかなか伝わらないんですよ」と山下さんは笑います。切り絵付け体験で意外と苦戦する人が多い理由も、そこにあるのかもしれません。

さらに驚いたのは、転写紙が季節によって性質を変えることでした。真夏は自然に伸びる。放っておくだけで数ミリ伸びることもあるそうです。一方、冬は硬くなり、割れやすくなる。そのため、貼り作業の前に器を温めることもあります。
“ちょっと温かいくらいが貼りやすい”ため、大きな丼などを貼るときは、器をこたつに入れておくこともあるそうです。工場の中で聞く「こたつ」という言葉の意外性もまた現場のおもしろいエピソードです。
貼る人がいるから設計ができる
現在、この作業の多くは地域の内職さんたちが担っています。会社で転写紙をつくり、貼り方を設計し、それを内職さんが家で貼る。完成した器を回収し、焼成して商品にする。そうした分業によって、波佐見のものづくりは支えられています。


「でも、転写紙だけ作っている会社と、貼って焼くところまでやっている会社はちょっと違うんですよ」と山下さんは言います。
転写紙は貼ると伸びる。しかも季節によって伸び方が変わる。だからデザインの段階から、その変化を見越して設計しなければなりません。「ここは少し縮めておこう」そんな判断ができるのは、実際に貼る現場を知っているからです。


お客さんが持ち込んだ転写紙を、貼りやすいようにつくり直すこともあるそうです。デザインと現場。その両方を知る人たちだからこそできる細やかな技術がここでは垣間見られます。
つくりたい気持ちに応える
かつては何千個という注文が当たり前だった商品も、今では何百個単位に変わってきています。
それでも協和転写は、1個からでも相談に応じるといいます。
「もちろん、1個だけつくる場合でも版代や準備費はかかります。機械で印刷する以上、どうしても単価は高くなる。それでも『同じものを10個だけつくりたい』『昔の柄を復刻したい』という依頼には、できるだけお応えしたいんです」



転写の仕事は器だけではありません。「高速道路のパーキングエリアにあった記念碑の名前を陶板に残したい」という依頼を受けたこともあるそうです。皿やマグカップ、花瓶、コースターなど、陶磁器であれば転写可能。その可能性は意外なほど広がっています。
50個、100個といった小ロットの注文も珍しくありません。
必要な分だけつくる。
大量につくって余らせるより、本当にほしい人に届ける。
そんな考え方が、波佐見にも、ものづくり全体にも広がっているのかもしれません。
転写の世界もまた、時代に合わせて少しずつ形を変えながら続いています。


「ひとつの版が準備できれば、あとはそれを使って何十個でも、何万個でも、同じ柄をつくることができます」山下さんの言葉どおり、転写は量産のための技術です。
上絵転写は、決してひとりでは完結しません。柄を受け継ぐ人、色を生み出す人、転写紙を器に貼る人。その版がひとつできるまでには、多くの手仕事が重なり合っています。
量産を支える技術の裏側には、今も人の手による仕事が息づいていました。

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