
「もったいない」から全国に灯火を。波佐見のろうそく屋・野田武一商店のしごと
6月、鬼木の棚田は幻想的な灯りに包まれました。
約4,000個ものろうそくが灯される「鬼木燈火まつり(おにぎともしびまつり)」。
波佐見町が誇る美しい棚田が無数の灯りによってライトアップされるようすに、訪れた多くのひとたちが感嘆の声を漏らします。
じつは、この景色をつくり出しているろうそくは、すべて波佐見町で作られているものなんです。
今回は、波佐見町で葬祭用ろうそくや線香をメインに製造・販売を手がける「野田武一商店(のだぶいちしょうてん)」さんに取材に伺いました。
「もったいない」からはじまったろうそくづくり
取材を快く受けてくださったのは、5代目の野田洋市(のだ よういち)さん。
製造の現場やろうそくを軸にした商品の企画だけでなく、福祉施設と連携した事業も担っています。
「昭和元年、『荒物問屋(あらものどんや)』という、ほうきやたわしといった日用雑貨を卸す店として創業しました。じいちゃんの代です。3代目がわたしの父で、そのころから葬祭用の線香やろうそくをメインに扱うようになったんです。
そして、4代目の母のとき。卸先のお客さんの、使用済みのろうそくを回収するようになりました。
線香・ろうそくの専門卸になったけれども、同業者とおんなじやり方をしていると、どうしても価格競争になってしまう。それが全然おもしろくなくて。
お客さんと話をするなかで、『使用済みのろうそくがもったいない』と聞いたときに“これだ”、と思い回収を始めました」
事業の主軸は葬祭用のろうそく。斎場業者さんでは、一度使ったろうそくを使いまわすわけにはいきません。
それまでは捨てられていたものをどうにかしようと回収を始めたものの、その処理方法に悩みました。
「もともとは、ろうそくの製造はまったくしていませんでした。作り手にまわったのは、わたしが波佐見に来てからで、15年くらい前のことなんです。
『お客さんが助かるならよかね』と思ったし、回収がきっかけで新しいお客さんも増えました。
だけども、つくるノウハウはまったくない。
そんなふうにやっていると、どんどんろうそくが溜まっていって『どうしよう』と。
悩んでいると、波佐見のいろいろな仲間たちが協力してくれて、廃材の一斗缶にノズルをつけて、ろうを溶かして流せるようにしたり、塩ビのパイプを切ってろうそくの型にしたりして……それなりのものができたんです。
そうやって、手づくりの道具から始まって今に至ります」
現在は、工場内に多くの機械が導入されています。なんと、専用の機械や道具はすべてリユース品。
太さも長さも異なるたくさんのろうそくをつくるための機械が所狭しと並ぶようすは圧巻です。
「あるとき、栃木にあるろうそくメーカーさんが廃業されることになり、機械を譲り受けました。次に佐賀と東京のメーカーさん。3社から、ぜんぶで20台ほど譲っていただくことになったんです」
使用済みのろうそくを、使わなくなった機械でつくる。野田武一商店ではこのように、循環的な取り組みが実践されているわけなのです。
新品よりむずかしい、リサイクルろうそくの製造
回収したろうそくは、どんなふうに生まれ変わるのでしょうか。
「そのまま溶かして流せばいいかというと、そうではないんです。ろうそくってすごく繊細で、微妙に汚れがついているとうまく火がつかなくなります。
観賞用のキャンドルとちがってろうが流れてしまうとクレームにもつながるし、葬儀用ろうそくはシビアな世界ですから、気を使わなきゃいけませんね」
汚れを取り除くために、とことん濾しまくるといいます。
何度もざるで濾して、できる限り不純物が取り除かれた液状のろうは、ノズルから桶に。
溶かしたろうは、専用の機械に流し込んで、いよいよ再びろうそくの形に生まれ変わります。流すろうの温度は130℃!
流したろうは、芯となる糸を通した溝に入っていき、固まると筒状のろうそくになります。溝の周りで固まったろうも後で削って溶かして再利用という徹底ぶり。

固まり方は季節ごとでも変化するため、冬場は機械を先にお湯で温めておくなど、均質なろうそくをつくるための工夫をしているといいます。
固まったら、連なるろうそくを引き上げて、それぞれひとつのろうそくになるように、芯をカット。
最後に、規格に合わせて余分な部分を機械で切り揃えたら、完成!
ろうそくの左に据えている木製の箱のような道具は、大きさがいくつかあって、きまった大きさに揃えることができるんだそうです。
「リサイクルしたろうそくは、火がつかない、流れて形が崩れてしまうなど、思わぬ問題がたくさんあります。
経験がないから、失敗しながら何度も試しました。ずーっと試行錯誤の日々です。
それでもこの取り組みに賛同し、信じて注文を入れ続けてくださるお客さんのおかげでこの事業を続けることができています。」
ろうそくを中心に、さらに広がる循環の輪
洋市さんは5代目に就いてから、福祉サービス事業所『幸房かおりや』を立ち上げ、障がいのある方々の就労を支援する事業を行っています。
「スタッフと利用者さんを合わせて15名ほどが所属していて、ろうそくの回収をしてもらっています。
また、九州のいくつかの事業所にも業務を委託しており、各地域で回収して汚れを取って、原料にするところまでお願いしています。それを『キロあたり何円』と決めて買い取らせてもらってます」
使用済みのろうそく、もう使われなくなってしまった機械、障がいのある方々……洋市さんはそれぞれを繋ぎ、再び活躍する場をつくり出しています。
「人と人との横のつながりは今後広げていきたいです。できることなら波佐見町全体の人を巻き込みたい!(笑)
鬼木の燈火まつりや、去年の秋に実施した夜のイベントのキャンドルナイトには、すべてうちのろうそくを使っていただきました。波佐見町の皆さんの理解があって、ここでこうして仕事ができるようになりましたから、恩返しだと思っています。
じつは、長崎市で毎年冬に行われる『ランタンフェスティバル』にも、今後2万個のろうそくをご提供するお話もしたんです。
そのろうそくも、イベントが終わればまた回収してリサイクルできる。そうやって少しでも輪が広がっていけばいいなと思っています」
さらに洋市さんは、焼きものの町・波佐見ならではの試みとして、割れてしまった器の陶片を使ったキャンドルづくりのワークショップにも協力しています。
イベントの場で陶片キャンドルづくりをし、思い出として楽しんでもらう。廃棄するのではなく、新たな価値を見出す取り組みは、ろうそくだけでなく波佐見焼の課題解決や魅力にも広がっていきます。
今後もこれまでのつながりを大切にし、ていねいに仕事をしていくのはもちろん、新たな取り組みも前向きにしていきたいと語る野田さん。
出会いを重ねるごとに、その想いは人から人へ、灯っていくのでしょう。
洋市さん、ありがとうございました!
野田武一商店
- 住所
- 〒859-3711
長崎県東彼杵郡波佐見町井石郷2255−8 - 電話番号
- 0956-76-7000
- slocan833
- 公式サイト
- https://nodabuichi.com/
- オンラインショップ
- https://nodabuichi.handcrafted.jp/
≫K一 さん
コメントありがとうございます。
お話をうかがい、野田さんが真摯に、着実に事業を進めてこられた姿勢を感じました。
ぜひ、今後のさまざまなイベントも見に来て下さったらうれしいです!
野田さん、お客様の声からろうそくの回収を始めて、採算ありきではなかったのでご苦労が多かったと思います。でも波佐見焼と繋がったろうそく🕯️素敵です!
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