ワケあり焼きもの、ウソ&ホント?
生きていれば、誰しも多かれ少なかれの「秘密」がありますよね。できれば、人には言いたくない「ワケあり」なことだってあるかもしれません。実はこれ、焼きものの世界でも同じです。ちょっとした事情があって、なかなか人目に触れることのできない焼きものは、ずいぶんと存在するんです。
焼きものの原料は、石や土などの自然物。だからこそ、自然環境に大きく影響を受けます。気温や湿度によって、生地の収縮率や窯の中の環境が変わるので、職人たちは季節や天気と相談しながら、その都度細かく調整を重ねます。また、すべての工程に人の手が加わっているのも波佐見焼の特徴ですから、形やサイズ、焼き色にわずかながら個体差が生じるのも自然なことです。この個体差が「出荷できるレベルか?」を判断する作業を『検品』といいます。
検品という最終関門をクリアした焼きものは、「A品」と呼ばれてそのまま出荷されていきます。一方、なんらかの理由で突破できなかった焼きものは「B品」、つまり、“ワケあり品”となってしまい、通常の販売ルートにのることができません。このワケあり商品は生産量の1割くらいを占めます。職人の目から見ると、100点はつけられなくても、わたしたちが見たら「これって、どこがダメなの?」と思うクオリティの焼きものがたくさんです。
一般の人には、気がつかない程度の欠陥。ならば、どんなものがA品で、どんなものがB品なのか。ちょっと詳しくみていきませんか? 検品担当歴33年の高月さん(西海陶器)に主なチェックポイントを伺いました。
①ゆがみ(上―A品、下―B品)
焼成温度や生地の状態で、器にゆがみが出る場合があります。
②釉薬ムラ(左―A品、右―B品)
ひとつひとつ手作業で釉薬(色みや光沢の素となる泥状の液体)をかけているため、釉薬にムラができ、厚みが均一ではない場合があります。
釉薬の濃度は比重計で管理されていますが、焼成する窯の場所、釉薬に付けている時間、器の生地のコンディション(乾燥度合い)によっても色の違いが出てきます。これらの条件を満たした上で焼成されたものがA品としての基準をクリアします。
③ピンホール
針穴のようなへこみのこと。不純物の定着や釉薬と陶土(焼きもののベースとなる土)の相性でできることがあります。
鉄粉(黒点)
陶土にもともとふくまれている鉄粉や不純物が、焼成後に現れる黒点のこと。ただし、商品によって“味わい”とみなされることもあり、鉄粉が複数あってもあえて良品とすることもあります。
ーーー他にもB品といえばーーー
- 釉薬飛び……釉薬が載っていない部分のこと。釉薬と生地の膨張率の違いから、この釉薬飛びが発生したり、釉薬が剥がれてしまうことがある。
- 突起物……表面にチリや石が付着したまま焼成してしまうことで現れる突起物のこと。
ーーーこれらはB品ではありませんーーー
- 貫入……陶磁器や陶器の釉薬の部分にできる細かいひび模様のこと。素地と釉薬の膨張率の違いで発生するが、意図的に貫入を入れることもある。実際のヒビとは異なり、割れる心配がなく、貫入に液体が入り込み、景色が変わっていく過程が味わいとされている。
- 凹み……生地の元となる泥漿(泥状の液体)を石膏型に流し込む際に注ぎ口(=鋳込み口)にできるわずかなへこみのこと。圧力鋳込みで成形すると必ず発生する。
世の中に出回っている焼きものは、たくさんのチェックを突破してお手元に届けられています。しかし、ちょっとした欠陥は、時として個性にもなり得ることがあります。釉薬のムラが美しかったり、ちょっとしたゆがみに味があったり。料理をのせたら、隠れてしまう欠陥だってたくさんあります。
使いこむことで自分の手になじみ、雰囲気が変わってくることも「器」の面白いところです。こうした商品が、波佐見陶器まつりなどのイベントで販売されることがあります。Hasami Lifeでも機会があれば取り扱っていきますね。いつもは日の目をみることのないB品ですが、食器としての機能はまったく問題ありません。チャーミングな欠点をも愛してくれるみなさんの元へ、お届けすることができたらうれしいです。