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ディープなやきもの。Vol.5 陶石 ~朝鮮の磁器生産技術~

by Hasami Life 編集部
ディープなやきもの。Vol.5 陶石 ~朝鮮の磁器生産技術~

特定の世界では常識的なこと、知らなくても困らないけれど知っていたらちょっとツウ(!?)なこと。

窯業界で数多く存在する「ディープなやきもの」情報を何度かに分けてお届けしていきます。

第5回目のテーマは『陶石』。陶器生産から磁器生産に変化した波佐見町の歴史などについて、クイズを挟みながらご紹介します。

取材協力:長﨑窯業技術センター、波佐見歴史文化交流館

磁器生産の技術が日本へ入ってきたのは、今から400年以上前の1590年代。豊臣秀吉が引き起こした「文禄・慶長の役(ぶんろく・けいちょうのえき)」の際に連れ帰られた朝鮮の陶工たちによって伝えられました。

日本に来た陶工たちは、すぐには陶石が採れる山を見つけることができませんでした。数年にわたる探索の末、とうとう肥前地区で鉱脈を見つけたのです。

それから肥前地区では、それぞれ有田・波佐見・三川内などで磁器を作るのに適した陶石が見つかり、盛んに生産がなされるようになりました。

Q1 波佐見町で見つかった陶石の採れた場所はどこでしょう。
1.針尾三ヶ岳(はりおみつがたけ)、2.泉山(いずみやま)、3.三股(みつのまた)



答えはこちら

A.3三股(みつのまた)


波佐見町では最初、町の西部の平地で陶器の生産を行っていました。その後、三股で磁器の原料である陶石が採れることが分かり、陶工たちは三股地区へ生産拠点を移していったのです。

ちなみに、有田では泉山磁石場。三川内では、針尾三ヶ岳にあった採石場で陶石の採掘を行っていました。

三股で採れた陶石。

 

天草陶石の使用開始

当時、熊本県でも良質な「天草陶石(あまくさとうせき)」が見つかったのですが、江戸時代は藩制のため、輸入にお金がかかり、多くを使用することはできませんでした。しかし、明治時代以降になり体制も変化すると、地元の陶石と天草陶石を混ぜて使うようになります。そうして、現在の波佐見町では、磁器生産において天草陶石のみが使用されています。

天草の山奥で採れる天草陶石ですが、その採掘作業の過酷さから、11社あった採掘業者が現在は3社のみになっています。山を爆破し、磁器生産に使用できる岩を掘り出していくことは極めて危険な作業です。

これが天草陶石。その白さは唯一無二。

天草陶石は一種類の石だけで器が作れる、世界的にも珍しい陶石です。

掘り出された石は、陶土メーカーが集まる佐賀県の塩田地区に運ばれ、等級によって選別されます。天草陶石特有のねばりを損なわないために、原始的な臼と杵のような大型の機械で粉砕します。特に白い陶土を作る場合は、余分な鉄分をさらに手で砕いて取り除く作業もあります。

ハンマーで茶色い部分を砕く。

陶石を粉砕する大型の機械。

砕いた石を水に入れて粗い部分を取り除きながら、細かな上澄みだけを抽出し余分な水分を絞り出します。つまり、お酒を造るときとは反対に、酒粕にあたるところが陶土。余計なものをそぎ落とす『引き算』の方法で陶土にしていきます。


右は深くなっていて、段差を経て細かい上澄みだけが左の方へ流れていく仕組みになっている。

水分を抜いてできた陶土。

その後、板状にされた陶土を真空引きし、器に適した大きさの円柱形にして出荷します。

円柱の状態で生地屋へと運ばれる。

陶土をつくる工程や、その奥深さをより詳しく取材している『山脇りこの旅エッセイ【後編】』もぜひ併せてご覧ください。



ブレンドして作る磁器の陶土

一種類の陶石を使用する肥前地区とは異なり、美濃や瀬戸地区では、いろいろなものを混ぜ合わせた『足し算』の方法で器を作っていきます。粘土をベースに、珪石(けいせき)と長石(ちょうせき)を加えた3つが主な材料です。

さらに、それぞれの産地で採れる7~8種類の石を大きなミルに入れ、材料を砕くための玉石(ボール)と一緒に回して細かく粉砕しブレンドします。

大きなボールミルの機械。石と水を混ぜ合わせる。

Q2 長石の中にひとつだけ、珪石が混ざっています。どれでしょう?

1

2

3

4

 

答えはこちら

A. 3

色見や質感が異なるのが、写真からも伝わるでしょうか。珪石のほうがやや硬そうに見えませんか?

珪石は長石に比べ溶けにくく、高温で焼き上げる際に生地がへたらないようにする役割を持っています。

一方で長石は、他の成分に反応して「溶かす」成分を多く含んでおり、高温になると磁器の美しい光沢の基となります。※三つの長石の産地はそれぞれ異なります。

主に美濃地区では、地域で採れる石を複数混ぜ合わせて器を作ります。これは、一種類の石がなくなったとしても代わりの石で代用が利くようにするためでもあります。

美濃地区で作られた磁器は、波佐見や有田など天草の石を使用したものに比べると透明度は高くありません。しかし、足し算の生産だからこそ、割れてしまった器を粉砕して、もう一度原料に戻して器を作ることもできます。この技術を利用した取り組みは『リサイクル食器』と呼ばれています。


地域によってさまざまな作り方があるやきもの。波佐見焼では天草陶石というひとつの石で磁器を生産しています。現代では釉薬でさまざまな色を付けたり、転写紙を使って模様をつける方法などもあります。

波佐見の器はバリエーション豊かですが、陶石の質の高さがうかがえる、シンプルで真っ白な器の透き通った美しさにも、ぜひ注目してみてください。

Hasami Life 編集部
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Hasami Life 編集部