ロングセラーを味わう。
※2023年9月4日修正
半世紀を生き抜いた器
この50年の間だけでも、世の中では、次々と新しいモノが生み出され、数多くのモノが消えてきました。もちろん、波佐見焼の世界でも同様です。
昭和40年代、日本は高度成長期の真っただ中にいました。大量生産や大量消費が当たり前になる中、日常食器を得意としていた波佐見焼は全国に普及。庶民の生活を支えてきました。時を同じくして培われた技術やノウハウは、産業としての波佐見焼の“礎”となり、現代へとつながっています。
激動の時代を生き抜き、今も昔も変わらない姿でひっそりと長らえているモノ。例えば、西海陶器の器でいえば、『西花』と呼ばれるシリーズです。いつか、おばあちゃんやおじいちゃんの家で見たことがあるような、なつかしい模様。 “染付(そめつけ)”という技術が施されている器です。
染付に込められた人々の思い
染付とは、やきものの装飾技法のひとつ。呉須と呼ばれる絵の具で、白地の素地に線を描いたり、“だみ”と呼ばれる作業(輪郭を線描きし、だみ筆と呼ばれる太い筆で内側に呉須をむらなく塗る技法)を施したりしたものをいいます。
染付の佇まいは簡素で目立ちません。しかし、手仕事で施された絵柄には、素朴な風情と愛嬌があります。また、それぞれの絵柄には、豊かな暮らしを願う人々の思いが込められています。
「ゆめじ」
【ゆめじ】シンプルな一本線にワンポイントの梅柄。寒い時期に花を咲かせ、春を呼ぶとされる梅は『不老長寿』を象徴としています。線描きとゴム印と綿判(スポンジ製の判子。窯元の手作り)で染付を行っています。よりよいものを作るために、ひとつひとつの道具にまでこだわり、生産されていることがわかります。
「まんりょう」
【まんりょう】万両の葉と実を模した柄。大金を彷彿とさせるめでたい名前から、『商売繁盛』の縁起物とされています。口(口縁)には、1点1点ろくろで縁錆(ふちさび)が施されています。縁錆(鉄の入った下絵具を口縁に塗ります)を施すことで、可愛らしさが残るまんりょうの柄が一気に引き締まった印象になります。
「わかたけ」
【わかたけ】竹林を模した柄。成長が速く、真っすぐに伸びる竹には、『子孫繁栄』の意味があります。竹の濃淡は奥行があるさまを感じさせてくれます。わかたけの染付は、ゴム印製作の技術と、打つ人の技術が重要になります。
「とくさ」
【とくさ】シダ植物の「木賊(とくさ)」を施した縦線の柄。「木賊の葉で金を磨くと光沢が増す」ことから、『金運』を呼ぶといわれています。木賊=十草と表記することもある。ふだんづかいにもおすすめの器です。
「あみ」
【あみ】漁猟の網を模した連続性の柄。網は福を「すくいとる」といわれており、『商売繁盛』の意味が込められています。大柄の器が1つあるだけでもテーブルが栄えそうです。
「ぶどう」
【ぶどう】葡萄の房を模した柄。房に沢山の実を付けることから『子孫繁栄』の意味があります。勢いがある筆さばきは、熟練した職人の技が見られ、”線描き”と“だみ”が施されています。
庶民の等身大の営みを映し出した器だからこそ、時代を越えて求められる。高度成長期から続く良質な波佐見焼の技術を見つめ直し、日の当たる場所へと導いていく標となっているのが、この「西花」というシリーズです。波佐見焼の“いまだからこそできる”技術を持って、再構築した6種類の染付は、今日も職人たちによって丹精込めて製作され続けています。