東北から世界へ!  波佐見焼の店『C.P.D.』 (岩手県花巻市)

東北から世界へ! 波佐見焼の店『C.P.D.』 (岩手県花巻市)

2025.10.31

この秋、岩手県花巻市に波佐見焼のお店『C.P.D.(シーピーディ)』がオープンしました。

花巻のランドマーク的存在「マルカンビル」からは徒歩4〜5分、東北本線と釜石線が乗り入れするJR花巻駅からも歩いて15分ほどのまちなかに誕生したこのお店は、陶磁器専門の商社である西海陶器(本社:長崎県波佐見町)の直営店という顔も持ち合わせています。

2025年9月8日(月)にオープンし、東北では数少ない、波佐見焼の専門店として今、注目のまと! 波佐見焼の魅力がギュッと詰まったNEWスポットについて、Hasami Life がどこよりも詳しくレポートします。

さあ、ドアを開けて、さっそく2階のショップへ上がってみましょう!


波佐見焼を中心に肥前地区の焼きものがずらり

「こんにちは。いらっしゃいませ」

階段を上がると、壁一面に並べられた波佐見焼(とスタッフさんたち)がやさしく出迎えてくれました。

『C.P.D.』は、波佐見焼 8ブランドを主軸に、かつてはともに「肥前陶磁器」と総称されていた有田焼や伊万里焼など、九州北部の焼きものも一部、取り扱っているお店です。

ロサンゼルス在住のデザイナー・篠本拓宏さんがプロデュースし、今では国内外で人気の高い『HASAMI PORCELAIN (ハサミポーセリン)』を常時、全ラインナップ揃えていることもめずらしく、飲食店など「うつわを毎日、がしがしと使う人たち」に愛され続ける『Common(コモン)』も全サイズを見て、触って、確かめることができるんです。

HASAMI PORCELAINは、波佐見の職人技とロサンゼルスの感性が融合したグローバルブランド。重ねて美しく、使いやすい。

カラーバリエーションと手に取りやすい価格帯、なによりも普遍的なデザインが人気の Commonは、ロングセラーシリーズ。

ほかにもたくさんのテーブルウェアが並ぶ。こちらは後半でご紹介!


ふとまわりを見渡すと、白を基調としたシンプルな店内に、ひときわ年季の入った什器が目を引きます。これは、窯業の産地ではおなじみの台車。ディスプレイの要として、どっしりとその存在感を放っていました。

焼きものの運搬や保管に使われる緑色のかご「サンテナ」も活躍中。

まるで波佐見焼の倉庫に足を踏み入れたかのような、そんな仕掛けのある空間。波佐見を訪れたことのある方には、きっと「この感じ、懐かしい!」と感じていただけるはずです。
まだ波佐見をご存じない方や、「九州はちょっと遠いな……」という方も、まずは花巻で、焼きもの産地ならではの風を感じてみてはいかがでしょうか。

波佐見焼をよく知るスタッフと、じっくり器を選べるひととき

こちらは『C.P.D.』の店長、阿部さやかさん。

西海陶器の本社に長くお勤めになり、出産を機に一度、退職されましたが、今回『C.P.D.』の立ち上げにあたって店長として復帰されたそうです。

波佐見のある長崎県に隣接する、佐賀県小城市のご出身だそうですが、まずは「岩手の暮らしはいかがですか?」と尋ねてみると……。

「寒くてびっくりしました。4年目の冬を迎えるので、ようやく慣れてきたところです。九州出身なので、初めは東北に住むのには抵抗があった……というのが本音ではありますが(笑)、今はここでの暮らしがとても気に入っているんです。こんなに自然が近くにあって、のびのびと暮らせるなんて、最高じゃないですか。近くに花巻空港があるので、実は九州に帰るのにもとても便利ですし。もちろん、東京からは新幹線で来られますしね」

「酒器がよく売れるんですよ。やっぱり東北ですね!」とさやかさん。売れ筋の商品が異なることがまたおもしろいそう。ぐい呑みとして使える、そばちょこも人気。


もともと営業職をされており、『C.P.D.』で紹介しているブランドの多くを担当。企画から関わっている器も多く、取り扱い商品への思い入れはひとしお。『essence of life』は、特に思い入れのあるブランドだそうです。

「C.P.D.のプロデューサーでもあり、陶磁器デザイナーの阿部薫太郎がこのessence of lifeを立ち上げた2006年、企画営業を担当していました。めぐりめぐって、こうして花巻という地で店長としてessence of lifeをお客さまにご案内しているのはちょっと不思議な気持ちです」

essence of life の薬味入れも、人気商品のひとつ。「九州では、柚子ごしょう入れとして購入されるかたが多いんです。お客さまは何を入れるのかな? と一緒に考えるのがたのしいですね」


さやかさんと薫太郎さんは、今はご夫婦。薫太郎さんのふるさとへの想いがひとつの形となって完成した『C.P.D.』ですが、波佐見焼のことをよく知るさやかさんと、うつわの話ができることもこのお店の唯一無二の魅力。使い勝手はもちろんのこと、開発ストーリーのほか、もしかしたら裏話だって聞けるかも?

オンラインでの買いものが便利な時代になりましたが、実店舗ならではの楽しみとして、ぜひ、知りたいこと、気になること、どんどん話しかけてみてくださいね。


波佐見焼を真ん中に、地域に開かれた場所へ

ショップのある2階から1階へ移動し、今度は『C.P.D.』のプロデューサー・阿部薫太郎さんにお話を伺います。

薫太郎さんは、国内外で活躍する陶磁器デザイナー。西海陶器に所属しながら、花巻にもアトリエを持ち、自身の感性を生かしたものづくりを続け、今、活躍の場をますます広げています。

「いずれは地元・花巻に拠点を持とうと決めていました。コロナ禍をきっかけにその思いが動き出し、今は波佐見と花巻を行き来しています。毎月10日間ほどは波佐見に滞在していますよ。波佐見では20年以上、焼きものと真剣に向き合ってきました。これからは、東北で、岩手で、花巻で、また新たな視点から陶磁器の魅力を探ってみたいと思っています」

「例えば、寒冷地は、焼きものづくりにあまり適していないんですよね。生地が凍ってしまう恐れがあるから。だから、東北地方には陶磁器の産地がほとんど見られませんよね。
それでも制作を続ける作家たちは、さまざまな工夫を重ねています。たとえば、夜中に成形作業をして、気温の上がる昼間に乾燥させるなど、昼夜逆転の生活スタイルを取る方もいたり。
作る側だけでなく、使う側も、焼きものに対する意識がずいぶんと違うように感じています」

九州の人と、東北の人では、まず色の好みがまったく違うそう。花巻では、グレーやネイビーの人気が高いとか。


拠点を花巻に移してまだ日が浅いものの、いわて花巻空港内の「いわて花巻大食堂」では波佐見焼の器が採用されるなど、早くもその広がりを見せています。さらに、盛岡発のアートライフブランド「ヘラルボニー」とのコラボレーションも実現。波佐見焼のカルチャーを、着実に岩手の地へと根付かせ始めています。

「ここならではの焼きものの価値が、きっと見つかると思うんですよね」と薫太郎さんは続ける。

地域との関わりは、薫太郎さんが大事にしていることのひとつです。

「C.P.D.は、これまでわたしが手がけてきた焼きものを展示・販売するギャラリー兼ショールームであると同時に、地域に開かれた“体験の場”としても育てていきたいんです。この1階の空間や、目の前の“ピロティ”と呼んでいる屋外空間では、ワークショップやポップアップショップなどを通して、地域のみなさんがものづくりや新しい価値観に触れられる機会を、積極的につくっていけたらと思っています。

ちなみにここの空間設計を手がけたのは、東京とブリュッセルを拠点に活動する建築チーム“UM”。気鋭のメンバーたちなんですよ」

既存の柱を活かしながら構成された1階の空間では、建物の歴史と新たなデザインが心地よく共存している。

イエローのカラーリングが目立つ建物からは、花巻中央広場がよく見える。中心商店街からも近いので、まちのランドマークになっていくに違いない。

 

2025年11月にはさっそくポップアップが予定されています。今後のイベント情報は店舗のInstagramをご確認ください。


まだまだ見つかる、おすすめの波佐見焼

さて、2階のショップに戻って、もう少しだけ売り場をご紹介しましょう。

まずは、店長さやかさんの“最近のイチオシ”を伺います。「HASAMI PORCELAINの新色“グレー”でしょうか。通常のHASAMI PORCELAINは陶器と磁器をミックスさせた半磁器ですが、グレーは完全なる磁器。内側の釉薬が2色あるのもポイントですよ」

トレイと組み合わせても、おしゃれ!


新しいスタッフの舛森健太さんのおすすめは、essence studio lineのマグカップ。「釉薬がぽってりとかかっている部分と、かかっていない部分の触り心地、見た目のコントラストがお気に入りです」

essence studio lineは、それぞれの技法を得意とする窯元が担当する、職人の技術を活かした遊び心のある制作手法がコンセプトのシリーズ。

飲食店での経験を持つ舛森さんは、地元・花巻のご出身。器と料理の相性を大切に考えながら、ていねいに波佐見焼をリコメンドしてくれる。


うつわだけでなく、カトラリーやグラスウェアも揃っています。Commonのカトラリーは燕振興工業株式会社、ガラスウェアは東洋佐々木ガラス株式会社が担当。歴史ある、技術力にすぐれた企業によって製造されています。皿とセットで揃えても、比較的リーズナブルなので、ぜひ、チェックしてみてくださいね。

マットな仕上がりが特徴のカトラリー類は、サイズもとにかく豊富!

グッドデザイン賞も受賞しているタンブラーは3色。どの色も捨てがたい。


最後にご紹介したいのが、ここでしか手に入らないオリジナルグッズ。ロゴ入りのTシャツやパーカーに加えて、特に人気なのが「手ぬぐい」です。柄には、江戸時代に庶民の器として親しまれた「くらわんか碗」の模様があしらわれています。

これがくらわんか碗。歴史とともに受け継がれてきた、波佐見焼の魅力を感じられる。

広げてみると、そのデザインが一面に表現されていて、まさにくらわんか碗の世界が一枚の布に映し出されている。

店名『C.P.D.』の由来は、江戸時代に醤油や日本酒の輸出に使われていた陶磁器製の「コンプラ瓶」。その瓶に記されていた「CPD」という文字列は、貿易に関わる仲介人を意味するポルトガル語「コンプラドール(comprador)」の略称なのだそうです。

さらにCには「Ceramics」、Pには「Pottery」「Porcelain」「Products」、Dには「Design」「Development」という意味を込めて。

コンプラ瓶も、くらわんか碗と同様に、波佐見焼の歴史を語るうえで欠かせない存在。海を越えて日本と世界をつないだ焼きものの背景や物語が、この店名には重なっているのですね。

九州から東北へ、そして東北から世界へ。

みなさんもぜひ、『C.P.D.』で波佐見焼の魅力にふれてみてください。次の旅先の候補に、花巻を加えてみるのはいかがでしょうか?

C.P.D.
住所
岩手県花巻市鍛冶町4-2(花巻中央広場隣)
営業時間
11:00〜18:00 / 冬季(11月~2,3月ごろ)は11:00~17:00
定休日
火曜・水曜
電話番号
0198-41-4161
Instagram
c.p.d.store

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この記事を書いた人
長嶺李砂

編集者/青森県十和田市の本屋『TSUNDOKU BOOKS 』店主。Hasami Life の立ち上げから携わり、波佐見町にはもう10回以上おじゃましています。現在も東京と青森を行ったり来たりしながら、ときどき波佐見に出没。第二のふるさととして、波佐見焼の魅力について勉強していくつもりです。Instagram @lisa123daaaa ▶︎本屋『TSUNDOKU BOOKS 』https://www.instagram.com/tsundoku_twd