ディープなやきもの。Vol.4  絵柄  ~真似から独自の柄へ~

ディープなやきもの。Vol.4 絵柄 ~真似から独自の柄へ~

2024.04.05

特定の世界では常識的なこと、知らなくても困らないけれど知っていたらちょっとツウ(!?)なこと。 窯業界で数多く存在する「ディープなやきもの」情報を何度かに分けてお届けしていきます。

今回は、波佐見町で最も焼きものが作られた江戸時代の絵柄を中心に紹介します。現代にも残っている絵柄や、ユニークなものまでさまざま。クイズを挟みながらご紹介します。

取材協力:波佐見歴史文化交流館



輸出から国内向けへ

1680年代に中国で続いていた内乱が終わり、景徳鎮(けいとくちん)では海外輸出を再開しました。景徳鎮の技術は衰えておらず、全世界のファンを魅了し、次第に日本からの輸出の割合は減少していきました。 すると、波佐見では景徳鎮の技術に圧倒され、日本国内の一般庶民向けに安い器を大量生産するようになります。

前回の「ディープなやきもの。 Vol.3 絵柄 〜朝鮮と中国からの技術~」では、景徳鎮の技術について解説しています。

この時代に作られた日用食器は「くらわんか手」と呼ばれました。「くらわんか」とは大坂(現在の大阪)の淀川で大型船へ食べ物や飲み物を売っていた小舟を「くらわんか舟」と呼んでいたときにつくられた造語。 ここで使用されていた器がとても安いものだったため、日用食器を「くらわんか手」と呼ぶようになりました。

Q1 「くらわんか」の意味はなんでしょう。


答えはこちら

A. 食べる・飲む

大坂のくらわんか舟で商売を行っていた人たちは、「酒くらわんか~、飯くらわんか~」という掛け声で大型船へ商売を行っていました。その言葉が派生してここで使用されていた器などに「くらわんか」という言葉が使われるようになりました。


くらわんか手の大量生産によって、波佐見は一時、器の生産量日本一を誇っていました。 量産が始まった頃は、形や染付が丁寧で模様も凝ったものが多かったといわれています。

国内用に大量生産された食器 [前期]

こちらは[後期]。染付の雰囲気が変化している。

1730年代頃から、波佐見町にある大新登窯や中尾上登窯は規模が大きくなっていき、その後、世界最大規模と認められるようになります。大きな窯で焼かれた大量の「くらわんか碗」は、全国に運ばれ、江戸時代の庶民の食卓を賑わせました。

この頃に庶民層の食や器の文化が著しく発展したといわれています。より多くの器を生産するために、簡単に早く描ける絵柄や職人の技術などが重宝されていきました。



バリエーション豊かな絵柄

波佐見ではこの時代に様々な絵柄や形状の器が生まれました。


蛇の目釉剥ぎ(じゃのめゆうはぎ)


器を重ねて焼くとき、溶けた釉薬によって器同士がくっついてしまうため、皿や碗の内面の釉薬をドーナツのように削り、削った上に器を重ねて焼く手法ができました。 これを「蛇の目釉剥ぎ」と呼びます。丸く跡が残るため、基本的に一般食器にのみ使われました。


五弁花(ごべんか)


皿の中央についている文様は「五弁花」と呼ばれる文様。波佐見では1800年代くらいまで使用されていました。周りに描かれているのは菊唐草文です。


コンニャク印判


コンニャクのような柔らかい判を利用して絵付けを行う手法。碗には外面、皿には内面の中央に施されたものが多く見られます。 コンニャクという名前ですが、本当にコンニャクが使用されていたかはわかっていません。


陶胎染付(とうたいそめつけ)

陶胎染付(陶胎=陶器という意味)は陶器の表面を白く塗った後、呉須で絵付け(染付)したものです。陶器を磁器に似せた器で、独特の雰囲気があります。


Q2 下の器にはそれぞれ同じ花が描かれています。その花は何の花でしょう?


答えはこちら

A. 菊

1枚目の写真は菊花文(きっかもん)、2枚目の写真は菊文(きくもん)と呼ばれます。どちらも菊の花が描かれています。


Q3 この器には二つの絵柄が描かれています。左側は宝ものを模した「宝珠」ですが、右側にはなにが描かれているでしょうか?


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A. かご

「宝珠蛇篭文(ほうじゅじゃかごもん)」という柄です。蛇篭とは、竹を材料に亀甲型網目の円形のかごを編んだものです。この中に石などを入れ河川工事などに使用されていました。



Q4 この柄は人とあるものが描かれています。その絵柄はなんでしょう?


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A. 筍

「筍掘り文(たけのこほりもん)」という柄です。人間が筍を握っている様子がとてもユニークな絵柄ですよね。春に描かれたのでしょうか。


Q5 この2つの柄は年代は違いますが同じ柄が絵描かれています。それはなんでしょう? ヒントは風景です。


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A. 海

「海浜風景文(かいひんふうけいもん)」と呼ばれます。日本人が大切にしてきた海辺の原風景ともいえる柄ですよね。


年代の違う江戸時代に描かれた器たち。様々な絵柄が描かれており、レパートリーの一番多い時代だったのではないでしょうか。

今回、ご紹介した器は陶芸の館の2階にある資料館でご覧いただけます。波佐見町へお越しの際は、ぜひ実際に確かめてみてください。



【イベントのお知らせ】

2024年4月6日(土)・4月7日(日)は、波佐見町内で「高山まつり」が開催されます。工場見学やワークショップ、新しいカフェのプレオープンなど、ご家族で楽しめる内容が盛りだくさん! 波佐見焼ができる工程を間近で見るチャンスです。よかったら、遊びにきてくださいね。

Hasami Life編集部は、Instagramにて現地の様子をライブ配信予定です。

この記事を書いた人
Hasami Life 編集部