判子の器が焼き上がるまで。

判子の器が焼き上がるまで。

2021.04.26

判子で絵付された器には、独特のよさがあります。判子を押す弾力でふくらむ線、たまる色。機械の絵付とは違う"揺らぎ"も判子の器を魅力的にします。Hasami Life で取り扱うブランド「essence of life」の判子シリーズも、判子のよさを活かした器です。今回は普段はなかなか見ることができない、その制作過程に迫ります。

以前こちらの器のデザインについて「ふくらむ線、たまる色。判子の器。」の記事でご紹介しています。合わせてご覧ください。
【essence of life】
判子 猪口
1100円(税込)
詳しく見る

 

実際、焼きものの判子ってどういうものなんでしょう? 日常的に使う、自分の名字の判子とはどんな風に違うんでしょう? 

そこで制作現場へおじゃまして工程を見せていただくことにしました。

こちらのブランドは、柄の絵付けや各色の釉掛けを、それぞれを得意とする窯元が担当し、職人の技術を最大限に活かしているのが特徴。判子の器は、素焼きしたあとの工程を波佐見老舗の窯元・中善さんが担っています。中善でデザイナーとして活躍する太田早紀さんに、案内してもらいました。

中善のデザイナー・太田早紀さん。子ども用食器などカジュアルな商品を手掛けている。

 

使う判子をご紹介!

判子のカップに使われている判子が、こちらです。焼きもの用の判子は、曲面にもしっかり押せるように土台の素材はスポンジの場合がほとんど。それだけでなく、素焼きの器は判子を押す圧力で割れてしまう恐れもあるため、やわらかくて均等に力の入るスポンジが土台に採用されています。

 

銘判を押す

「essence SAIKAI JAPAN」と書かれた銘判を押していく。

 

内側の判子を押す

内側の底にリヤカーのタイヤをモチーフにした判子を押していく。これは昔からある五弁花(ごべんか)という文様を元にデザインしたもの。

 

撥水剤を塗る

裏の銘判が乾いたら、撥水剤を筆で塗る。薄く色が付いているが、焼けると見えなくなる。底の部分のさらりとした土の感触はこのため。

 

外側の判子を押す

ゆきはなは、リズムよくバランスを見て押していく。見本を参考に見ながら、判子を押す位置を決めている。

うさぎは横長の判子なので、足や耳の線が途切れないように気をつけながら押す。左から右へ、テンポよくかつ慎重に。

ひょうたんのスポンジ判子は絵の具の成分が沈殿しやすいため、素早く作業しないとスポンジの中で絵の具が分離してしまう。何回か判子を押したらまた絵の具をスポンジに含ませて、押していく。

目印もつけずに、左から右へ、曲面に当てて押していく太田さん。一定のリズムで、強すぎず弱すぎず、絶妙な力加減で押していきます。

太田さんいわく「判子を押すには技術が必要ですが、手描きの絵付に比べると上達しやすいですし、作業がスピードアップします。ただ、一発勝負なので手描きの絵付より誤魔化しがきかないですね。それから、何百個も美しく揃えるのが大変です。水平をとりながら押していくのも難しい」とのこと。

手で判子を押しているため、一点一点に個性はありますが、どれも一定の基準を満たした出来でなければ出荷されないため、この判子を押す作業ができる職人さんは限られているそうです。編集部でも試しに体験させてもらったのですが、むずかしくてとても売り物にはならない出来でした。

判子にチャレンジさせてもらったHasami Life 編集部くりた。職人さんの技術力の高さを改めて実感。

 

ふちに塩化コバルトを巻く

釉薬をかける前に、ふちに色をつけます。くるりと円を描くように塗ることを職人さんたちは“巻く”と表現していました。

じつはふちに指をかけて釉薬に沈めるので、作業上ふちには絵の具をつけられません。それを"塩化コバルト"という特殊な顔料を染み込ませることで実現させます。つまり判子の絵柄とは異なる顔料で、手間をかけてふちを彩っているのです。

ろくろに器をのせて回し、筆で塩化コバルトを"巻いて"いく。塗ったことがわかるようにピンク色がつくが、窯で焼くと塩化コバルトが青色に発色する。

 

釉薬をかける

職人技の釉薬掛け。大きな容器に入った釉薬に、流れるような動作でくぐらせる。

 

窯積み・焼成

窯積みのため、釉薬をかけた器を"皿板"と呼ばれる長い板に乗せて運ぶ。慣れた職人たちの動きは重さを感じさせない軽やかさ。

乾燥させた器を支柱と棚板を使って積み上げ(=窯積み)、約1300度のガス窯で約15時間かけて焼き上げる。

 

手仕事が生み出すうつわ

いかがでしたか?

「essence of life」の 判子シリーズはこうして人の手をかけて、波佐見町でつくられています。

同じブランド「essence of life」のes cup<s>と合わせて。

江戸時代からの歴史を踏まえて、縁起のよい図柄の判子の器がデザインされました。その器が焼きものの400年の歴史が残る町で、職人の手によって生み出されているのです。

波佐見で思いを込めて焼き上げられたカップ、ぜひおうちでお使いになってみてください。

(最初から読む)

【取材協力】

株式会社中善 http://nakazen-yakimono.co.jp



この記事を書いた人
Hasami Life 編集部