窯元探訪【一誠陶器】江添圭介さん Vol.10 絵付を生かした器づくり。
波佐見町には全部で59の窯元があります。そして小さな町の至るところに、波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。このシリーズでは、窯元を順番に尋ね、器づくりについての話などをご紹介します。
今回伺ったのは、手描きでしか出せない風合いを大切にしている窯元の『一誠陶器(いっせいとうき)』さん。34名の職人のうち、なんと6割強が絵付職人なのだそう。これは波佐見町でも珍しいことなんです。絵付を活かしたモノづくりについて、2代目の江添圭介(えぞえ けいすけ)さんにお話を伺いました。
絵付を活かしたモノづくり
ーー:
波佐見町には、さまざまなタイプの窯元がありますよね。そのなかでも、一誠陶器さんはとくに手描きの絵付が得意とお聞きしました。
江添さん(以下、江添):
はい、手描きの絵付がメインです。うちは、分業制の波佐見町では珍しく、成形から手がけているんです。土を成形し、素焼きして、絵付し焼成するところまでを行っています。
ーー:
工場内を見せていただいたら、楕円状のベルトコンベアを囲むようにたくさんの絵付職人さんがいらっしゃいましたね。
江添:
そうですね。現在、34名の職人さんがいて、そのうち絵付職人だけで20名います。波佐見で、これだけの絵付職人を抱えている窯元は多くはありません。手の凝ったものをリーズナブルな価格で提供できるよう、社内の体制を整えたくさんの従業員さんが作業しています。
ーー:
どのような絵付をされているのでしょうか?
江添:
ほとんどが筆を使った手描きの絵付です。下絵なしで直接描く“フリーハンド” と呼ばれる絵付や、スタンプと手描きを併用するものもあります。また、表面に凹凸のある生地や、急須の注ぎ口の部分など、機械での絵付が難しい部分にも手描きなら描くことができるので、そこをあえて意識してデザインしてもらっていますね。
ーー:
手描きの絵付って、筆のタッチなど風合いがあって温かみがありますよね。
江添:
手描きは波佐見焼の魅力の一つです。400年廃れずに手描きの焼きものを作ってきた産地なので、一誠陶器としても残さないといけないと思っています。そのために、従業員さんをたくさん雇用して、絵付を続けていくことで、地域にも貢献していきたいですね。
未来に残すものと活かすもの
ーー:
一誠陶器さんは手描きがメインの窯元さんですが、波佐見には自動印刷ができる機械を導入しているところも多いと聞きます。これまでに、そのような機械を入れようと思ったことはありますか?
江添:
手描きの代わりに、自動印刷ができる機械を入れようと思ったことはないですね。でも、絵付の経験が浅い人でも、線をなぞるだけで絵付ができるように、下書き用の判子が自動で打てる機械を入れたいと一瞬思ったことがあります。でも、まだ実現していないですね。
ーー:
下書き用の自動印刷を導入したとしても、最終的には手描きなんですね。
江添:
機械にも機械の良さがありますが、うちは手描きの絵付を残していきたいんです。数年前に、カラフルな釉薬を使った器が流行った時も、絵付の技術を活かせないので手を出しませんでした。
ーー:
これまで手描きの絵付を続けてきたからこそ、絵付の技術が保たれているんですね。今後、一誠陶器が目指すところは何でしょうか?
江添:
産地になくてはならないメーカ―になりたいですね。もうすぐ40周年なるんですけど、うちはまだ若いメーカーなんですよ。波佐見町で100年以上続く、伝統のあるメーカーになれたらと思っています。
伝統への敬意がひかるうつわ
ーー:
長崎県波佐見町にあるくわらん館を訪れたときに、ZOË L’Atelier de poterie(ゾエ ラトリエ ドゥ ポトゥリー。以下、ZOE)の平碗を見つけました。2代目江添圭介さんの妹、川上ひとみ(かわかみ ひとみ)さんが、ZOEの監修をしているそうですね。ぜひお話を聞かせてください!
ーー:
いつもこうやってテレビ会議をしているんですか?
川上:
そうですね。私は、結婚して千葉に住んでいるので、リモートでZOE の打ち合わせをしていますね。
ーー:
どういった経緯で、このブランドはスタートしたのですか?
江添:
きっかけはコロナウイルスが流行り出したことでした。このままではいかんぞと考えて、2020年7月1日にブランドをスタートさせました。立ち上げまでの期間は2ケ月くらい。従業員さんの6割強が絵付のできる体制や、生地づくりの技術、企画に携わってくれたメンバーのお陰で、それほど時間はかかりませんでした。もともと、一誠陶器の技術を活かした自社オリジナルの商品づくりがしたいという思いもあったんです。
日常つかいができるカタチ
ーー:お茶碗の形にはさまざまな種類がありますが、どのような形を選びましたか?
川上:
ZOEのインスタグラムでも紹介しているんですが、使い方次第でいろいろ使えるお茶碗のイメージがあったので、縁が広がった平碗を選びました。絵柄もよく見えますし、上品な雰囲気がでる形だと思います。
ーー:
ZOE の平碗は、お茶碗にしては薄いですよね。
川上:
ZOE の平碗は一誠陶器オリジナルの陶土を使用していているので薄く、軽く、そして上品につくることができるんです。透けるような薄さですが、上質な陶土を使用しているので強度も高いんですよ。
ーー:
使い勝手はどうでしょう?
江添:
小ぶりな大きさなので、女性の人でも手に取りやすく使いやすいと評判です。平碗は、縁に向かって緩やかに広がっている形状なので、熱いものが冷めやすいんですよ。子どもの離乳食を真ん中で混ぜて広げ、冷ましてから食べさせるというお客さまもいます。そういう意味で、猫舌の人にもいいと思います。
未来へ生まれるデザイン
ーー:
ZOE の器は、モダンな柄から懐かしいような柄までありますよね。どなたがデザインを担当されているんですか?
江添:
デザイナー2名、絵付職人1名、社長の私と妹の合計5名がデザインに関わっています。渋めの柄からポップな柄まで、幅広い絵柄が魅力なんです。普段は、商社さんと打ち合わせしながら開発していきますが、ZOE は自社企画なのでデザイナーの自由度が高い。結果、いい柄が出てきて、お客様からの反応もよかったですね。デザイナーにとっては非常に楽しい仕事になったんじゃないかな。
ーー:
5名の方が、デザインに関わっているんですね。
川上:
5名で作ったZOE の絵柄は、現在32種類あります。まとまった数をいっぺんに絵付するのが効率がいいんですけど、いろんな柄を少しずつでも作れるのも手描きのよさなんです。少しずつたくさんの柄を絵付することによって、お客様の選択肢を増やして見つけてもらえたらうれしいですね。
ーー:
川上さんにとって一誠陶器の絵付はどんなイメージですか?
川上:
自分にとって一誠陶器と言えば、葡萄柄やつるの動きが複雑なイメージがあります。
ーー:
これまで一誠陶器として、そうした伝統的な柄を多く手がけてこられました。新しいブランドZOE として、これからの目標はなんでしょうか。
川上:
今後、伝統的なよさを残しつつ、新しいエッセンスを入れたモノづくりができればと思っています。ZOE のコンセプトの『伝統への敬意がひかるうつわ、日常によりそううつわ』ですね。敷居が高くなく電子レンジでも使えて、日常使いができる器をつくりたいです。実際にZOEの器を手に取ってもらえるよう、今後波佐見町内に実店舗をオープン予定です。
※ZOE の器はHasami Life で取り扱っておりません。詳しくは、ZOE オンラインショップをご覧ください。
【一誠陶器】
長崎県東彼杵郡波佐見町永尾郷2103-3
0956-85-5882
公式通販サイト
https://zoe-latelier-de-poterie.com/
※波佐見町に実店舗をオープン予定。
https://www.instagram.com/zoe_latelier_de_poterie/
くらわん館(ZOE の取扱い店)
http://kurawankashop.sakura.ne.jp/