窯元探訪【一誠陶器】池田希美さん vol.11 手描きの技術を絶やさないためのデザイン
波佐見町には全部で59の窯元があります。そして小さな町の至るところに、波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。このシリーズでは、窯元を順番に尋ね、器づくりについての話などをご紹介します。
手描きでしか出せない風合いを大切にしている窯元の『一誠陶器(いっせいとうき)』さん。2020年7月1日に、新しくスタートさせたブランド ‟ZOE L'Atelier de poterie(ゾエ ラトリエ ドゥ ポトゥリー、以下ZOE)”のデザイナーも務める池田希美(いけだ のぞみ)さんにお話を伺いました。
職人の仕事が光るためのデザイン
ーー:
自分がデザインされたもので、お気に入りの1枚はありますか?
池田さん(以下、池田):
そうですね。ZOEだと『チルダ』という柄です。絵付に使う絵具も私が調合しています。青い呉須(絵具)を使っているんですけど、試しにサンプルを焼いてみたら黒に近い青で仕上がり、滲み加減も、意外で面白かったですね。『チルダ』のデザイン自体も描く人によって線の太さが変わることを想定して、波打った線のデザインにしました。この模様なら、一つひとつの違いがかわいらしい個性として表現できると思ったんです。
ーー:
確かにくらわん館でみかけた『チルダ』は、線の太さや滲み具合が全部違いました! 1点1点線の太さも違いますよね。
池田:
私と他の人が絵付するとき、器の傾け方も違うんで、線の出方も人によって変わります。チルダは職人によって、1点1点違いが出てくるところも魅力なんです。描き方も、デザイナーとして自分のこだわりを伝えたくなることもありますが、職人さんの技術力が高いので信じてお任せしています。仕上がってみると、それぞれに個性があって素敵なんです。
ーー:
絵具も、デザイナーさん自ら準備されていたとは驚きです。
池田:
はい。絵具もですが、下書き用の判子の準備や修理も私が行っています。でも結構手探りなんです(笑)。判子用のスポンジは、特殊なので売っている会社を探し出すのは大変でしたね。判子屋さんに頼めば、もちろん綺麗に修理してもらえますし、お願いした方が良い時もたくさんあります。ですが微力ながら修理代の節約と時間短縮のため、職人さんから「直してほしい」と言われたらすぐに対応できるようにしています。
ーー:
デザインも考え、道具も準備し、作業がしやすいように、いろんな配慮をしているんですね。
池田:
現場がスムーズに動くよう、周りでちょこちょこ動いています(笑)。
積み重ねで生まれたデザイン
ーー:
ZOEの平碗 チルダ以外に、思い入れのあるデザインはありますか?
池田:
商社の西海陶器さんと制作した「mode012(モードゼロイチ二)」ですね。4年くらい前にデザインしました。
ーー:
mode012(モードゼロイチ二)をデザインしていて難しいところはありましたか?
池田:
シンプルなデザインなので、形状によって柄の配置が難しかったですね。最初、西海陶器さんから、「丸と直線の柄に加えて、もう1種類の柄が欲しい」とお題をいただいたんです。何種類か提案したなかで、クロスしたアーガイル模様のような柄を選んでもらいました。クロスする角度をどう入れるかすごく悩みましたね。
ーー:
シンプルなデザインこそ、絵付や柄の入れ方も難しそうですね。
池田:
選んでもらった絵具は溜りすぎると、焼いたときに焦げたようになります。それが味なんですけど、溜りすぎると線がくぼんで販売できない出来になってしまうので、絵具の濃さを調整するしかないんです。
描く人によって筆を動かすスピードが違うし、筆に含ませる絵具の量も全然違います。初めて量産するときは、絵付に慣れた人でも慎重になるので、どうしても時間がかかってしまうんです。追加オーダーをいただいたときくらいから、みなさん慣れ始めて、より精度の高い絵付をしてくださるようになりました。
西海陶器さんが展示会でメインの商品として飾ってくださって、注文数が多くなりました。mode012のお陰で、デザイナーとして初めて大きな成果をあげることができたので、会社の中でも私のことをより認知してもらえたところはありますね。
新しいデザインが生まれるとき
ーー:
デザインするときはどういうものを参考にされるのでしょうか。
池田:
もともと、小さい頃からテキスタイルデザインに興味があって、国内外でいろいろ見てきました。そのなかでも、海外のインテリアやテキスタイルデザインを参考にしています。テキスタイルデザインは、服飾やインテリアに使われる布のデザインのことなんですが、焼きものにおこしたときに、どうしたら面白い、違った表現ができるかなと考えながらデザインしています。気になったものをメモしておくと、後々ヒントになることもあるんです。メモは、捨てる覚悟で気軽に描ける裏紙を利用しています。ちゃんとしたノートだとラフには描きづらかったりしますよね。
ーー:
確かに、メモを捨てる覚悟だと気軽に描けますね!
池田:
そうなんですよ! でも裏紙にメモしても、捨てるにも捨てられず、いっぱい引き出しに入っているんです。見返したり、追加でメモすることもありますよ。
ーー:
機械で行う絵付もありますが、手描きのよさって何だと思いますか?
池田:
パット印刷などの機械で行う絵付は、一度にそれなりの数を生産しないといけません。少ない数量でも注文したいというお客様もいるので、手描きなら柔軟に対応できます。そういう部分ですごく融通がきくと思います。もちろん機械の性能も認めているのですが、手描きの方が個体差があって選べる楽しさと、温かみのある筆さばきも魅力なんですよ。意図せずに生まれるデザインがあるのも、手描きならではです。
※パット印刷とは、インクを載せたシリコンゴムをスタンプのように印刷すること。
ーー:
意図せず生まれるデザインもあるんですね。
池田:
ありますね。この器の白い部分はピンク色の釉薬と、水を弾く撥水剤を混ぜたものを塗っています。本当は白い部分をピンク色にしたかったのですが、実際焼いてみたら、透明にしか見えなくて、生地の色が出てしまいました。でも、その生地の色をあえて見せるための調合としてアリだという発想が生まれました。これをきっかけに一時期、撥水剤にはまって、いろいろ試作しましたね(笑)。
手描きの技術を絶やさないためのデザイン
ーー:
デザインするうえで、最も難しいことはなんですか?
池田:
そうですね。目新しく見えるデザインにしないといけないという難しさはあります。
ーー:
波佐見町内でもたくさんの窯元があるなかで、今までに見たことがないようなものをデザインするのは大変ですね。そういった難しさがあるなかで、今後、どのような器をデザインしたいですか?
池田:
一誠陶器は手描きできる方がほとんどなので、職人さんの技術を絶やさないために、手描きを活かした器のデザインを続けていきたいですね。
それから私自身は、人がみて、思わず笑顔になるものやユニークなもの、ついつい触りたくなってしまうものが好きなんです。そういうデザインを生み出すために、洋服や雑貨などさまざまなものを見て刺激を受け、勉強しています。楽しさが伝わるようなデザインで多くの人に波佐見焼の魅力を届けられたらうれしいです。
※ZOEの器はHasami Lifeで取り扱っておりません。詳しくは、ZOEオンラインショップをご覧ください。
【一誠陶器】
長崎県東彼杵郡波佐見町永尾郷2103-3
0956-85-5882
公式通販サイト
https://zoe-latelier-de-poterie.com/
※波佐見町に実店舗をオープン予定。
https://www.instagram.com/zoe_latelier_de_poterie/
くらわん館(ZOEのお取扱い店)
http://kurawankashop.sakura.ne.jp/