HOME よみもの 波佐見の人 窯元探訪【一誠陶器】池田希美さん vol.11 手描きの技術を絶やさないためのデザイン 2021.01.06 窯元探訪【一誠陶器】池田希美さん vol.11 手描きの技術を絶やさないためのデザイン by Hasami Life 編集部 波佐見町には全部で59の窯元があります。そして小さな町の至るところに、波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。このシリーズでは、窯元を順番に尋ね、器づくりについての話などをご紹介します。手描きでしか出せない風合いを大切にしている窯元の『一誠陶器(いっせいとうき)』さん。2020年7月1日に、新しくスタートさせたブランド ‟ZOE L'Atelier de poterie(ゾエ ラトリエ ドゥ ポトゥリー、以下ZOE)”のデザイナーも務める池田希美(いけだ のぞみ)さんにお話を伺いました。 デザイナー・池田希美(いけだ のぞみ)さん。埼玉県出身。佐賀県有田窯業大学校(現:佐賀大学芸術地域デザイン学部)卒業後、ニュージーランド留学、陶土屋、アパレル業界を経て、2013年に一誠陶器にデザイナーとして入社し現在に至る。 職人の仕事が光るためのデザイン ーー:自分がデザインされたもので、お気に入りの1枚はありますか? 池田さん(以下、池田):そうですね。ZOEだと『チルダ』という柄です。絵付に使う絵具も私が調合しています。青い呉須(絵具)を使っているんですけど、試しにサンプルを焼いてみたら黒に近い青で仕上がり、滲み加減も、意外で面白かったですね。『チルダ』のデザイン自体も描く人によって線の太さが変わることを想定して、波打った線のデザインにしました。この模様なら、一つひとつの違いがかわいらしい個性として表現できると思ったんです。 滲みがでるよう太めに絵付した、池田さん手描きのZOE 平碗『チルダ』。 ZOE 平碗の『チルダ』。線の太さや、滲み具合、柄の書き方は、1点1点個体差がありそれぞれに味わいがある。 ーー:確かにくらわん館でみかけた『チルダ』は、線の太さや滲み具合が全部違いました! 1点1点線の太さも違いますよね。 池田:私と他の人が絵付するとき、器の傾け方も違うんで、線の出方も人によって変わります。チルダは職人によって、1点1点違いが出てくるところも魅力なんです。描き方も、デザイナーとして自分のこだわりを伝えたくなることもありますが、職人さんの技術力が高いので信じてお任せしています。仕上がってみると、それぞれに個性があって素敵なんです。 ーー:絵具も、デザイナーさん自ら準備されていたとは驚きです。 池田:はい。絵具もですが、下書き用の判子の準備や修理も私が行っています。でも結構手探りなんです(笑)。判子用のスポンジは、特殊なので売っている会社を探し出すのは大変でしたね。判子屋さんに頼めば、もちろん綺麗に修理してもらえますし、お願いした方が良い時もたくさんあります。ですが微力ながら修理代の節約と時間短縮のため、職人さんから「直してほしい」と言われたらすぐに対応できるようにしています。 下書き用の判子も、池田さん自ら消しゴムを削って作ることもある。数種類の判子を場所によって使い分ける。 ーー:デザインも考え、道具も準備し、作業がしやすいように、いろんな配慮をしているんですね。 池田:現場がスムーズに動くよう、周りでちょこちょこ動いています(笑)。 積み重ねで生まれたデザイン ーー:ZOEの平碗 チルダ以外に、思い入れのあるデザインはありますか? 池田:商社の西海陶器さんと制作した「mode012(モードゼロイチ二)」ですね。4年くらい前にデザインしました。 編集部でSNS用に撮影したmode012 のプレート。大胆な絵柄の上に、食材が栄える(現在、通販サイト「Hasami Life」もしくは、長崎県波佐見町にある器のお店「O YANE」で販売中)。 ーー:mode012(モードゼロイチ二)をデザインしていて難しいところはありましたか? 池田:シンプルなデザインなので、形状によって柄の配置が難しかったですね。最初、西海陶器さんから、「丸と直線の柄に加えて、もう1種類の柄が欲しい」とお題をいただいたんです。何種類か提案したなかで、クロスしたアーガイル模様のような柄を選んでもらいました。クロスする角度をどう入れるかすごく悩みましたね。 ーー:シンプルなデザインこそ、絵付や柄の入れ方も難しそうですね。 池田:選んでもらった絵具は溜りすぎると、焼いたときに焦げたようになります。それが味なんですけど、溜りすぎると線がくぼんで販売できない出来になってしまうので、絵具の濃さを調整するしかないんです。 描く人によって筆を動かすスピードが違うし、筆に含ませる絵具の量も全然違います。初めて量産するときは、絵付に慣れた人でも慎重になるので、どうしても時間がかかってしまうんです。追加オーダーをいただいたときくらいから、みなさん慣れ始めて、より精度の高い絵付をしてくださるようになりました。 西海陶器さんが展示会でメインの商品として飾ってくださって、注文数が多くなりました。mode012のお陰で、デザイナーとして初めて大きな成果をあげることができたので、会社の中でも私のことをより認知してもらえたところはありますね。 新しいデザインが生まれるとき ーー:デザインするときはどういうものを参考にされるのでしょうか。 池田:もともと、小さい頃からテキスタイルデザインに興味があって、国内外でいろいろ見てきました。そのなかでも、海外のインテリアやテキスタイルデザインを参考にしています。テキスタイルデザインは、服飾やインテリアに使われる布のデザインのことなんですが、焼きものにおこしたときに、どうしたら面白い、違った表現ができるかなと考えながらデザインしています。気になったものをメモしておくと、後々ヒントになることもあるんです。メモは、捨てる覚悟で気軽に描ける裏紙を利用しています。ちゃんとしたノートだとラフには描きづらかったりしますよね。 ーー:確かに、メモを捨てる覚悟だと気軽に描けますね! 池田:そうなんですよ! でも裏紙にメモしても、捨てるにも捨てられず、いっぱい引き出しに入っているんです。見返したり、追加でメモすることもありますよ。 実際のデザインのメモと、試作された器。 ーー:機械で行う絵付もありますが、手描きのよさって何だと思いますか? 池田:パット印刷などの機械で行う絵付は、一度にそれなりの数を生産しないといけません。少ない数量でも注文したいというお客様もいるので、手描きなら柔軟に対応できます。そういう部分ですごく融通がきくと思います。もちろん機械の性能も認めているのですが、手描きの方が個体差があって選べる楽しさと、温かみのある筆さばきも魅力なんですよ。意図せずに生まれるデザインがあるのも、手描きならではです。 ※パット印刷とは、インクを載せたシリコンゴムをスタンプのように印刷すること。 ピンクの釉薬に撥水剤を混ぜて絵付したもの。ピンク色にはならず、生地の色が分かるように仕上がった。 ーー:意図せず生まれるデザインもあるんですね。 池田:ありますね。この器の白い部分はピンク色の釉薬と、水を弾く撥水剤を混ぜたものを塗っています。本当は白い部分をピンク色にしたかったのですが、実際焼いてみたら、透明にしか見えなくて、生地の色が出てしまいました。でも、その生地の色をあえて見せるための調合としてアリだという発想が生まれました。これをきっかけに一時期、撥水剤にはまって、いろいろ試作しましたね(笑)。 手描きの技術を絶やさないためのデザイン ーー:デザインするうえで、最も難しいことはなんですか? 池田:そうですね。目新しく見えるデザインにしないといけないという難しさはあります。 ーー:波佐見町内でもたくさんの窯元があるなかで、今までに見たことがないようなものをデザインするのは大変ですね。そういった難しさがあるなかで、今後、どのような器をデザインしたいですか? 池田:一誠陶器は手描きできる方がほとんどなので、職人さんの技術を絶やさないために、手描きを活かした器のデザインを続けていきたいですね。 それから私自身は、人がみて、思わず笑顔になるものやユニークなもの、ついつい触りたくなってしまうものが好きなんです。そういうデザインを生み出すために、洋服や雑貨などさまざまなものを見て刺激を受け、勉強しています。楽しさが伝わるようなデザインで多くの人に波佐見焼の魅力を届けられたらうれしいです。 ※ZOEの器はHasami Lifeで取り扱っておりません。詳しくは、ZOEオンラインショップをご覧ください。 【一誠陶器】 長崎県東彼杵郡波佐見町永尾郷2103-3 0956-85-5882 公式通販サイト https://zoe-latelier-de-poterie.com/ ※波佐見町に実店舗をオープン予定。 Instagram https://www.instagram.com/zoe_latelier_de_poterie/ くらわん館(ZOEのお取扱い店) http://kurawankashop.sakura.ne.jp/ 次回は、一誠陶器の絵付職人さんを代表して、ベテランさんから新人さんの4名の方をご紹介します。 ¥0 ¥0 ¥0 ¥0 ¥0 Tweet 前の記事へ 一覧へ戻る 次の記事へ Hasami Life 編集部 この記事を書いた人 Hasami Life 編集部 関連記事 2023.09.29 窯元探訪【丹心窯】vol.28 長﨑忠義『水晶彫の秘密。』 波佐見には、町の至るところに波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。今回、おじゃましたのは、佐賀県武雄市との県境にある波佐見町小樽郷に窯を構える『丹心窯(たんしんがま)』さん。まるでジュエリーのような輝きを放つ、唯一無二の美しい波佐見焼、その手仕事の秘密に迫ります。 2023.09.22 窯元の火を止めるな! 技術と雇用をつなぐ、波佐見焼企業のM&Aに迫ります。 後継者不在を理由に事業をたたむケースも増えているなかで、窯元の高山陶器(現・株式会社高山)と、商社である西海陶器株式会社はどうやって事業承継に結びついたのか。その先にどんな未来を見据えているのか。 新旧の社長に話を聞きました。 2023.08.25 【編集スタッフ募集中】波佐見焼の魅力を伝える Hasami Life 編集部に密着! 「波佐見焼や波佐見町、職人の手仕事のことを知ってもらいながら、ご自宅に波佐見焼を迎え入れてほしい!」これがHasami Life編集部の願い。週1回のよみもの配信を中心にさまざまな活動をしています。実際、どんな仕事をしているのでしょうか? 今回は、編集部員のたぞえさんに密着します。
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