窯元探訪【洸琳窯】江添三光さん vol.18 「絵付に近道はない」若手の育成が使命

窯元探訪【洸琳窯】江添三光さん vol.18 「絵付に近道はない」若手の育成が使命

2021.06.18

波佐見町には全部で59軒の窯元があります。そして小さな町の至るところに、波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。

今回は、総手描きの絵付で器を使う人の心を掴む、洸琳窯(こうりんがま)の社長、江添 三光(えぞえ かずみつ)さんを訪ねました。

器づくりについてはもちろん、ふだんは見られないプライベートな顔まで全3回でご紹介します。

達人になるには? “粋”ってどんなものなのだろう? 絵付の技術を上達させるためには、なにが必要なのか? そんなことを伺ってきました。

絵付をはじめ、なにかの道を極めたいと思う人に読んでほしい最終回、第3回目です。

江添三光(えぞえ かずみつ)
1941年、波佐見町永尾郷に稲作農家の長男として生まれる。15歳で波佐見焼の窯元・永峰製磁株式会社に入社し絵付師となる。1987年に45歳で独立、洸琳窯を起業。若いころに京都府の清水焼と愛知県の瀬戸焼の窯元で修行した経験を活かし、美しい手描きの絵付の焼きものを手掛ける。波佐見焼の伝統工芸士として若手の育成にも熱心。

 

挫折しながら、前へ進む。

――:
今回見学や取材をさせていただいているなかで、江添さんが絵付以外の窯仕事にも精通してらっしゃって、圧倒されました。

江添:
やっぱり窯元を営むとなったら、知らなきゃいけないことがたくさんありますね。釉薬や絵の具の配合や性質、それから土の性質も知って、焼く窯のクセも覚えないといけない。ちゃんと考えた上で焼かないと失敗してしまう。たとえば土は、白磁の生地ひとつとってもいろいろある。焼いたときの収縮が大きい生地もあれば、へたりやすい生地もある。そういう、いろんな性質を知ってはじめて、商品としてのデザインが成立するんです。

――:
焼きものをやりたいという思いがあって、その上でいろんなことを勉強しないといけないんですね。

江添:
更に、自分の力量をある程度のところで測れるようにようにならないと。そして、ときには挫折しながら、勉強を重ねてやっていくものです。私も「京都や有田などの細かい伝統文様の商品をそのままつくっても、もともとの産地には負ける」とわかった上で、窯元としての個性を打ち出してきました。

――:
江添さんも挫折したんですか?

江添:
そらもう、山のように挫折してきましたよ。他人の絵付を見て「こんなの一生描けないんじゃないか」と思ったこともある。でも、理想を脳内に描きながら、地道に手を動かすしかないんです。「果たしてあの域まで到達できるかな」と思って今もコツコツやってます。無理して上がるよりも、できる範囲でコツコツコツコツ。これ、大事なことですよ。

江添さんは今も仕事の合間に大きな作品を手掛け、自己研鑽に励んでいるという。

――:
スランプに陥ったことはありますか?

江添:
デザインに困ったことはありましたね。いくらデザインを考えて何十個とつくってみても、ひとつも売れるものができなかった時期があって。もうね、追い詰められてましたよ。 デザインを思いつく夢まで見てねえ。「ああ、よかデザインを考えついた!」って夢から覚めて、現実で描いてみたら「なんじゃこりゃ」って。全然ダメでした(笑)。

 

達人の”粋”は醸し出されるもの

――:
江添さんのデザインや絵付は洗練されていますよね。京都で修行されたこともあって、見ていてどれも“粋”だなあと思うんですが、そういう“粋”ってどうやったら身につくんですか?

江添:
私もそんなもの、さほど持ち合わせてないですけれども。洒落とか粋を身につけるには、それだけ遊ぶことです。生花や茶道も含めて、いろいろ遊んでるってことは、知識だけでなく経験があるってことですから。経験は財産ですよ。

――:
以前取材した、茶道具もつくっている窯元の利左エ門さんは、茶道やお茶事(おちゃじ)を大事にしてるとおっしゃってました。

お茶事の話も伺った「窯元探訪 vol.7」、ぜひチェックしてみてください。

江添:
うん、抹茶碗をつくるには、茶道やお茶事を知らんことにはね。その道をいこうとしたら大事。ちゃんと遊んでないと抹茶碗ひとつつくれないですから。

――:
形状はある程度決まっていると思うのですが、つくれないのですか?

江添:
なにも知らないで形だけ模倣しても「ヘンな小鉢ですか?」とか言われるんじゃないかねえ。抹茶碗とか茶道具は、茶道を学んで、器を買ってみて、お茶会にも出てみて。でないと本当にいいものはつくれませんよ。

――:
なるほど。江添さん自身は、謙遜されますけど、やっぱり洸琳窯さんの焼きものを見ると、粋だなあと思います。粋ってどうしたら身につくと思いますか?

江添:
うーん。わからないですよね、粋って。奥が深すぎる。

――:
では粋な人に憧れて「自分もあんな風になりたい」と思った場合、どうしたらいいのでしょう……?

江添:
粋っていうのは、その人がいろんなことを学んで遊んで、体から醸し出すものですよ。自分じゃなく、他人が見て「粋だなあ」と思う。そこまで経験を積まないと、難しいですよね。他人が認めるだけ、ということ。「粋に描こう」とか、そんなふうに思って描けないですもん。

――:
「粋にしよう」という自意識でいたら、描けないですか。

江添:
縮こまってしまいますよ。どこをどう描けばいいのかまるでわからなくなる。描いたものが粋に見えるかというのは、お客さまの判断。「あの人のつくった焼き物は粋で洒落てるね」ってファンになる人が増えてきて、またその絵付をした人が活きてくるんです。客観的な評価にすぎません。長年培ったものが出てくるんです。

――:
では絵付の達人になるにはどうしたらよいですか?

江添:
達人っていうのも、粋かどうかの話と同じで、他人が決めること。自分が決めることじゃない。そうそう、昔テレビ番組で「料理の鉄人」ってあったでしょう、あれも他人が決めてるよね。誰も自分で鉄人と名乗ってはいない。

細かい部分の絵付も驚きのスピードで描いていく江添さん。その腕前を称賛する声は多い。

――:
江添さんは達人と称されることもあると思います。そう言われるだけの技術を身につけるには、どうしたらよいのでしょう?

江添:
淡々と自分の仕事をするだけです。自分のできる範囲のことを淡々と65年間。できる範囲をすこしずつ広げながら技術を高めてきた。 描けないものは紙に描いて練習して、少しずつ学んでね。一生勉強だから、ここで極めたっていうことはないでしょう。

 

未来の伝統工芸士を育てているわけ

――:
そして最後に、若手の育成についてお聞きします。江添さんは絵付教室の先生もされてらっしゃいます。

江添:
はい。これはね、私が死ぬまでやっていこうと思っています。手が動くかぎりは。

――:
すごい、今の答えは即答でしたね。どうして江添さんは絵付の指導をされてるのですか?

江添:
自分が学んできた技術を、いろんな人に託すためです。洸琳窯はね、私がいなくなったら今の作風ではなくなります。

――:
……それはどうしてですか?

江添:
やっぱり経営者が変われば、つくるものも変わる。私のやり方をそのまま引き継ぐっていうのは、無理なんです。

――:
たとえ、現在の洸琳窯さんのような手描きの絵付がよいと思っていたとしても?

江添:
そう思っていても変わる、変わりますよ。有田焼の柿右衛門さん、今右衛門さんとか、老舗の窯元は代々伝統を継いで守っているけれども、波佐見は違う。普通の日用食器をつくる産地なので、時代に合わせて変わっていくのが当たり前。経営者自身がつくりやすいもの、 売りやすいものになってくると思います。

――:
なるほど。今の洸琳窯の焼きものが好きな人にとっては、すこしさみしいですね。

江添:
そういう人には今の洸琳窯の焼きものを買って楽しんでもらえたらうれしいですね(笑)。なかなか伝統を継承していくのは難しい。わたしが京都で修行していた窯元も、後継者がいなくて終わってしまいましたから。だからせめて、こうして伝統的な絵付が好きな人に教えているんです。生徒さんたちに洸琳窯と同じ作風のものをつくってほしいとは思わないけれど、私が修行して身につけた伝統的な技法を活用してもらえたら。洸琳窯でも必要なことは逐一指導しています。

「絵付の基礎がそこそこできてる人なら、縁があればうちで働いてみてほしい」と江添さん。絵付の技術を高めたい人には魅力的な職場だ。

――:
すこしでも、今までの伝統を残していくために育てていると。

江添:
絵付の伝統継承が私の使命。「私がやらなかったら誰がやる」くらいの気持ちでいます。

 

絵付教室の指導方針は、リラックス&楽しく!

――:
どれだけの数の生徒を教えてきたんですか?

江添:
もうずっとやってますからね。長く教えてる人も短期間の人も合わせたら、何百人かにはなるでしょう。

江添さんの実演を生徒のみなさんが見て学ぶ。江添さんが絵付教室で教えた生徒のうち、7人は伝統工芸士になっているそう。

――:
教える時に大切にしていることはありますか?

江添:
楽しく。楽しくしないとね、おもしろくないと長続きしないでしょう。

――:
教室も取材させていただきました。生徒のみなさん真剣にやるんですけど深刻にはならない。その雰囲気を江添さんがつくっているなと思って。

江添:
そうそう。 深刻になっちゃね、だめです。頭が疲れてしまう。冗談とか言って、リラックスしてやらないとね。伸びません。
波佐見ではない産地で習ったあとに私の絵付教室に来た人は、「前の教室では、誰もひと言も喋らなかった。お茶を飲む休憩もなかった」ってびっくりしてました(笑)。

――:
ふふふ(笑)。

江添:
疲れるやろなぁと思いますね。休憩しないと、きついですもん。

江添先生の絵付教室では、お茶休憩の時間がある。お茶菓子も江添さんをはじめ、生徒みんなで自然と持ち寄っている。

――:
どうして楽しい雰囲気にしようと思えたのでしょう? 先生が絵付をはじめた約60年前は「楽しくリラックス」という時代ではなかったのではありませんか?

江添:
そうね、厳しかった。でもやっぱり楽しくやらないと長続きしないですよ。頭が固くなると体も固まって、筆遣いに影響する。頭と体、両方が疲れてしまいます。

――:
いいものを描くために、 リラックスしたほうがいい、ということですね。

江添:
リラックスリラックス、笑いながら練習したほうがいいです。

描き方や色の塗り方など、細かく指導している。写真はすずめの羽の描き方を教えている場面。

――:
絵付師に向いているのは、どんな人ですか?

江添:
傾向として器用な人は早く伸びて慣れる。あと、やっぱり性格はあるね。私の血液型診断だと、 A型は多少おもしろみに欠けるけどきちんと描く。B型はちょっと雑。 O型は飽きやすい。

――:
なんでしょう、ぜんぶ難アリに聞こえてきます(笑)。

江添:
誰だって、そんな完璧にはなれないですよ。でも一番向いているのは「絵付が好きな人」です。じゃないと続かないですから。

――:
この記事を読んでいる人のなかに、「絵付をはじめて、極めてみたい」と思っている人がいたとしたら、どんな言葉をかけますか?

江添:
最初からそんなに重々しく考えなくていいんじゃないですか(笑)。わたしの絵付教室でも、はじめて来る人は志があって力んでます。でもまず、リラックスが大事です。「極めたい」なんて大きなことは考えないで、コツコツ練習していく。「次はもうちょっとレベルアップしたものが描けそうだ」とちいさな欲が出てくるのはいいけれども、最初から壮大な目標を持っても続きません。自分で自分を諦めてしまうことにもつながります。「すばらしいものは私には描けない」なんて、すぐ落ち込むのはもったいない。

絵付に近道はありません。繰り返しになりますが、コツコツやることです。大丈夫ですよ、一つひとつステップを踏んで学んでいけば、必ず上達しますから。

<江添さん、ありがとうございました!>

+++


【洸琳窯】

公式サイト
https://koringama.net/

オンラインストア
https://koringama.official.ec/

Instagram
https://www.instagram.com/koringama/

長崎県東彼杵郡波佐見町永尾郷34−1
電話: 0956-85-6620
定休日:不定休

※洸琳窯さんの商品は現在、Hasami Lifeでお取り扱いがございません。上記の洸琳窯さんのオンラインストアなども併せてご確認ください。


江添さん、ありがとうございました! 次回は筒山太一窯さんを訪ねます。


 


 


この記事を書いた人
Hasami Life 編集部