窯元探訪【大新窯】vol.26『色イッチンという手仕事。』
波佐見には、町の至るところに波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。
中尾山に入ってすぐ、右手に見える小高い丘の上にある『大新窯(おおしんがま)』さん。大きな登り窯(しかも、世界最大・最長!)の跡地に建てられた工房では、たくさんのかわいらしい波佐見焼と出会うことができます。
さっそく、のぞいてみましょう。
動物をモチーフにしたかわいい波佐見焼
くま、さる、ねこ、ふくろう、そして恐竜。このようなかわいらしい絵付を見たら、波佐見の人ならば、間違いなく「大新窯さんのだね!」とわかります。
「色イッチン(いろいっちん) 」と呼ばれるこの手法は、実はなかなか珍しいもの。というのも単色ではなく、複数色を使用するイッチンはあまりないからです。
窯に入れて焼き上げたあとの元気でカラフルな仕上がりは、子どもだけでなく、大人のわたしたちまでワクワクさせてくれます。
この色イッチンの作業場を見せてもらえることになりました。ここから案内してくれるのは、大新窯で働く太田晃輔(おおた こうすけ)さんです。
今も昔も変わらない絵描き座の光景
――本当に見晴らしのいい作業場ですね!
太田晃輔さん(以下、太田 )
ここはもともと、登り窯が立っていた土地なので、下からの風が吹き上げてくる風通しのよい場所です。わたしは小さい頃から、ここによく出入りしていて、遊び場のようなものだったんですよ。
――甥っ子さんなんですよね?
太田
ええ。わたしの母が社長の妹にあたります。新卒で勤めていた会社も面白かったのですが、陶磁器業界への興味が尽きず、昨年こちらへ転職しました。働き出してからは間もないのですが、職人さんたちが働く姿は、今も昔も変わらず、とても身近な光景です。
ここが「絵描き座(えかきざ)」ですね。
――作業場を絵描き座と呼ぶんですね。
太田
そうです。今日は、従業員さんがひとりお休みですが、ここでみなさん、黙々と作業をされています。
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太田
ちょうど今、内田さんが色塗りをしてくれているのが、うちの売れ筋商品「ネコ会議シリーズ」です。デザイナーが書いた原画をもとに池田さんが線を描き、内田さんが色を塗ってくれます。
――1日、どのくらい描けるものですか?
太田
池田さん、どうですか?(笑)
池田さん(以下、池田)
そんなに何枚も描けんよ(笑)。プレートだけ描いてる訳じゃないからね。でも、どのくらいかな? 今、内田さんが色塗りしている分は、今朝、描いた分ですよ。
――下書きをしてから、線を描いていくのでしょうか?
池田
全部フリーハンドよ。一箇所だけ、鉛筆でネコの高さに目安をつけるかな? ネコがどんどん詰まって、全員が入りきらないようになったら困るからね。でも、それ以外は全部、フリーハンド! ちなみにいつも、このネコの親分から描いています。
太田
ものすごい再現度ですよね。
池田
でも、よくよく見ると、微妙に違うわよ!
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Hasami Life編集部も目を凝らして違いを探すも、本当に微妙な違い。これぞ、職人技!と感動しました。
窯へ入れる前は、まったく想像できませんが、焼きあがると、カラフルに発色。イッチンの絵の具は釉薬と同じ性質を持っているため、光沢のある焼き上がりが特徴です。そのためプクッと盛り上がった線になり、やわらかくやさしい雰囲気の焼きものに仕上がるそうです。
復刻版・鳥ポットやペット用フードボウル
――こちらも可愛いですね! 特注品でしょうか?
太田
これは「鳥ポット」です。ここ15年くらい作っていなかったんですが、最近また作り始めました。もともとはシンプルな絵付だったのですが、色をつけてみたり、花柄にしてみたり。「復刻版」としてこれから売り出していこうと思っている商品です。
――なんでしょうか、じわじわかわいいというか、見れば見るほど、クセになるかわいさですね。どうやって使うのでしょうか?
太田
花の植木鉢入れとしてはもちろん、リモコン立てにも便利なんですよ。陶器市でも、密かに人気があって、お客様から質問やお声がけをたくさんいただきました。
――こちらはペット用のフードボウル。
太田
これも隠れた人気商品ですね。名入れもできます。ふるさと納税で出しているんですよ。
太田
せっかくですから、裏手にある登り窯の跡地にも行ってみましょうか?
――ぜひ!
世界最大・最長の登り窯跡地
太田
今はすっかり野原になっていますが、ここが登り窯の跡地です。
――39の窯室があったとか!
太田
そうなんです。全長は170mほどあって世界最大・最長の登り窯だとされています。ただ、最近になってわかってきたのは、39室が同時に存在したというわけではなく、使わなくなった窯室、追加された窯室、最終的にあわせて39室みたいですね。
――それでも、想像できないほど、大きな窯ですよね。
太田
この世界最大・最長の登り窯の名前が「大新登り窯」でした。貞享2年(1685年)に大村藩の藩窯として開かれ、江戸から明治にかけてたくさんの焼きものを産み出してきた窯だったそうです。
大正の終わり頃、わたしの曽祖父にあたる藤田新三郎が中尾山に移り住み「藤新」という名で焼きものを焼いていましたが、戦争の影響で窯を閉めてしまったそうです。
現在の大新窯は、祖父にあたる藤田恒之が、戦後にこの登り窯跡地に築窯しました。「先人陶工の技術と想いを伝承しよう」という想いから、同じ名を名乗っていますが、直接のつながりはないんですよ。今だと、二番煎じだと怒られそうですよね(笑)。
太田
じつは、工房もイチから建設したものではなく、使われなくなった建築物を探してきて移築しているんです。
(つづく)
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後編では、佐賀県多久市から移築されたという工房の話のほか、3代目の現社長の藤田隆彦さんに子ども食器の誕生秘話について伺います。
【大新窯】
〒859-3712
長崎県東彼杵郡波佐見町中尾郷767
0956-85-2652
※窯元を訪れる際は、事前に電話でご予約ください。土日祝は定休日ですが、対応できる場合も。
Instagram
https://www.instagram.com/ohshingama/
webshop
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