窯元探訪【丹心窯】vol.29 長﨑忠義『白磁ひとすじ、表情が変わる焼きものを。』

窯元探訪【丹心窯】vol.29 長﨑忠義『白磁ひとすじ、表情が変わる焼きものを。』

2023.10.06

佐賀県武雄市との県境にある波佐見町小樽郷にある『丹心窯(たんしんがま)』さん。

田んぼに囲まれた自然が溢れる小さな集落で作られるのは、まるでジュエリーのような輝きを放つ、唯一無二の美しい波佐見焼。

前編 では、華やかで繊細な「水晶彫(すいしょうぼり)」の作業場を見せてもらい、生地から自社で作る理由を教えていただきました。後編では、丹心窯と水晶彫の歴史を深掘りします。

 

秘伝のレシピから生まれる 唯一無二の焼きもの

丹心窯の創業は1980年(昭和55年)。初代の長﨑譲さんは、長﨑忠義さんの義理の父親にあたります。

「わたしは有田出身なんですよ。実家が商社だったので、九州や山陰のホテルや旅館、レストランへ営業をしていました。当時は割烹食器が中心でしたね。主に有田町の窯元とやりとりすることが多く、波佐見町の丹心窯は取引先のひとつでした」

初代の三女と縁があってご結婚された長﨑さんは、2代目を引き継ぐことになります。

初代の長﨑譲さん。すらりと伸びる持ち手と、無色透明の円が美しいシャンパングラスとともに。

「水晶彫は先代が開発しました。わたしが丹心窯へ入社したとき、すでに主力商品でしたので、どのようなきっかけで生まれたのか、詳細まではわからないんです。それでも、開発には相当な年月がかかっていると思いますね。透明になる素材は、とてもとても特殊なものですから」

水晶彫のベースになっているのは、中国から伝わった「蛍焼(ほたるやき)」という技法。焼きものに彫りを入れ、そこに釉薬を埋め込んでから焼成し、半透明にして光を通すことができる焼きものです。

当時、白濁した蛍焼しかなかったものを、先代が試行錯誤と苦心の末に完成させたのが、新しい蛍焼。無色透明で美しい輝きを放ち、まるでクリスタルのように光ることから、丹心窯では「水晶彫」※と名付けて売り出すことになりました(※登録商標されています)。

「このワイングラスでビールを飲むのが好きなんです」と長﨑さん。

「透明になる素材は、自社で複数の材料をブレンドして作っています。先代から受け継いだ秘伝のレシピは、未だにわたししか知りません。妻もスタッフも知らないんですよ(笑)」

 

白磁だけど、あたたかい。それが理想。

秘伝のレシピから生まれる透明な部分。どうしても、そこに注目してしまうけれど、肝になるのは「白磁の質感」なのだと長崎さんは話します。

「白磁って、本当に奥が深いんですよね。流行りのカラーリングとは、ずいぶん違う世界観を持っています。水晶彫の場合、せっかくの透明な部分が濁ってしまうので色釉薬が使えないんです。生地は白、それも真っ白でなければ。水晶彫ならば、グラスが最もおすすめかもしれないですね」

緑茶、ビール、赤ワイン。注ぐ飲みものでグラスの表情が変わる。それが水晶彫の魅力。

ワイングラスに代表される「袋もの」と呼ばれる湾曲した生地づくりは、特に難しいとされています。

薄くてとても繊細。

ワイングラスだけでなく、丹心窯の焼きものの多くは、生地を薄く仕上げているのが特徴です。それは口あたりのやさしさや上質感を追求するこだわりから。生地がぶ厚いと、水晶部分が魚眼レンズみたいになってしまうのです。

「天草陶石の撰上陶土(えりじょうとうど)を使用しています。主に人間国宝が選ぶ特上陶土(とくじょうとうど)の次に不純物が少ない土。これでないと、薄い生地が作れないし、求めている白さが出ないんです。それに歪みやひずみも少ない。白いけれど、冷たい印象がない。白磁だけれど、あたたかい。それが理想の白です」

「水晶ぶどう」と呼ばれる人気シリーズ。

花びらの形をした「水晶花詰」シリーズ。桜の季節にぴったり!

スクエアおよびカラフルスクエアは四角い形の水晶彫。2代目が開発。

水晶彫以外のシリーズも続々。こちらのキルティングプレートは、オリーブオイルの楽しみ方を提案するために誕生した。触りたくなるような質感が魅力。

白磁のうつわが9割以上を占める丹心窯。それは幅広い年齢層に人気です。手間ひまがかかっているため、決して安いものではないけれど、若い人からの注目度も高いのはどうしてでしょうか?

「陶器市などでは “なんだか漏れそう” というコメントも非常に多いですね(笑)。 食材の彩りや料理を引き立てるのが食の器。どうせなら、“盛りつけを楽しく。食卓を華やかに”がわたしの最近のテーマのひとつですし、幅広く手に取ってもらえるのは本当にうれしいものですね。これからも使い方やアレンジで表情が変わるうつわをたくさん生み出していきたいです」

ワイングラスも、逆さにして光源にかぶせれば、美しいライトに。発色を変えると、違った趣が味わえるので、ぜひ、こちらも試してほしい使い方。

 
現在は、前編に登場した新人職人さんを含め、9名のスタッフの手で丁寧に作られています。昨年は60代がふたり、今年は20代がふたり、入社したといいます。年齢層も幅広く、ちょうどいい人数で焼きものを生み出せているそうです。

「白磁ひとすじ。フォルムで勝負できる焼きものが好きなんです。白磁と透明感をモットーに、上品で質感にこだわった手仕事から生まれるうつわを作り続けていきます」

終始、穏やかに丁寧にインタビューに応じてくださった長﨑さん。凛としたプレミアムな波佐見焼には、そのお人柄とユーモアが見え隠れ。

「じつはワイングラスには、ハートがひとつだけ隠れているんですよ」と教えてもらい、再びよく見てみると……

みなさん、お気づきでしたしょうか?

唯一無二の「水晶彫」を守りながら、新しい白磁を追求し続ける丹心窯さん。ぜひ、どこかで出会ったら、その美しさを手に取って感じてくださいね。

長﨑さん、ありがとうございました。

【丹心窯】

〒859-3704
長崎県波佐見町小樽郷372-4

0956-85-5672

Instagram
https://www.instagram.com/tanshingama.hasami/

オンラインショップ
https://www.tanshingama.com/

※『丹心窯』の器は、現在 Hasami Lifeでは取り扱っておりません。

この記事を書いた人
Hasami Life 編集部