窯元探訪【丹心窯】vol.28 長﨑忠義『水晶彫の秘密。』
波佐見には、町の至るところに波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。
今回、おじゃましたのは、佐賀県武雄市との県境にある波佐見町小樽郷に窯を構える『丹心窯(たんしんがま)』さん。
田んぼに囲まれた自然が溢れる小さな集落で作られるのは、まるでジュエリーのような輝きを放つ、唯一無二の美しい波佐見焼。その手仕事の秘密に迫ります。
※2023年初夏に取材しました。
華やかで繊細な「水晶彫」の技法
まるで水晶のような透明感と、真っ白い白磁、しっとりと加えられた伝統紋様コントラスト。ズバリ、「美しい」という表現が似合う上品なグラスは、華やかでとても繊細。
9日間で250000人以上の来場者が訪れる「テーブルウェア・フェスティバル」の波佐見焼ブースでは、特等席に並べられていた「水晶彫(すいしょうぼり」。記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。
無数に並ぶ透明円は、向こう側が見えてしまうほどの純度。
「穴があいているの? 飲みものが溢れてしまうのでは?」
初めて見る人の多くは、不思議な錯覚を覚え、また素朴な疑問がよぎることでしょう。
「みなさん、そのようにおっしゃいます」と笑うのは、2代目の長﨑忠義(ながさきただよし)さん。「もちろん、飲みものはこぼれないですよ」と続けます。
この透明な部分はガラス? 焼きものの世界でいうところの釉薬※なのでしょうか? 素人目で見ても、手間ひまがかかっていることは容易に想像ができます。
どうやって作っているんだろう? という疑問をストレートに長﨑さんにぶつけてみます。
「その質問がいちばん多いですね。テーブルウェア・フェスティバルでは1日中、説明しています(笑)」
やっぱり! 何度も聞いてしまってごめんなさいと伝えると、いえいえ、いいんですよ、と教えてくださいました。
「水晶彫の透明な部分は、もちろん穴があいているわけでもなければ、透明な釉薬でもありません。秘伝の粘土を詰めて焼くと、水晶のような輝きが生まれるんです。不思議でしょう?」
「素焼きをしてからさらに2度の本焼成をしているので、他の陶磁器より手間ひまがかかるし、歩留まり※も余りよくない。想いを込めて手仕事を体現できるのが水晶彫のいいところでもあるかな。こうやって覚えてもらえるし、インパクトを与えることができますから」
※歩留まり…生産量に対して、1級品が取れる割合。
天草産の上質な白磁の生地に穴をあけ、そこに秘伝の粘土を詰めて焼く製法はすべて手作業。
「実際に見てもらったほうが早いですね。作業場へ行ってみましょうか!」
手で穴を彫り、手で粘土を詰める。
これが水晶彫の主な作業工程。
この日、編集部はまず「手で穴を彫る」現場を見せてもらうことに。作業をしていたのは、今年4月に入社したという新人職人さん。
穴をあけた生地は、素焼きをしてから絵付をし、釉薬をかけていったん1300℃で本焼をします。
ここでようやく秘伝の粘土が登場!
外側にマスキングテープを貼って、内側から指を使ってすき間なく、なめらかに詰めます。
「わたしの担当なんですよ」と長﨑さん。インタビューの真っ最中なので、実際どのように作業されるのか、実践してもらいました。
「マスキングテープは貼っていませんが、粘土を詰めるのはこんな感じ。内側から塗りつけるように穴を塞ぎます。ね、至ってシンプルでしょう?」
生地から自社で作る理由
丹心窯では、3種類の成型方法(機械ろくろ、手鋳込み、圧力鋳込み)で生地作りから自社で行っています。分業制が発達する波佐見ですが、水晶彫は「生」であり、「半乾き」の状態で穴をあける必要があるためです。
機械ろくろで生地を作っているところです。
電動の回転台に石膏型をのせ、ヘラで陶土を抑えながら、形を作っていく様子は、まさに職人技!
「生地屋さんに頼むと、運搬する間に水分量が変わってしまうでしょう。水晶彫は、生地の状態を見極めて作業に入ることが大切。生の状態ひとつ取っても、少しやわらかいと変形するし、少しかたいとヒビが入りますから」
天気にも相当、影響を受けるそう。冬場、あまりに寒すぎると、生地に霜がついてしまうし、夏場はどうしても乾きが早まり扱いにくくなります。
これらを総合的に調整しながら、水晶彫は誕生しているのです。
========
後編 では、白磁ひとすじで商品開発を進める理由や、水晶彫が誕生したときのことを伺います。
(つづく)
【丹心窯】
〒859-3704
長崎県波佐見町小樽郷372-4
0956-85-5672
Instagram
https://www.instagram.com/tanshingama.hasami/
オンラインショップ
https://www.tanshingama.com/
※『丹心窯』の器は、現在 Hasami Lifeでは取り扱っておりません。