窯元探訪【和山】 Vol.31 廣田和樹『機械と人の手が織りなす、多彩な表情の器たち』
波佐見町の中でも有数の、量産が可能な窯元として知られる『和山』さん。
前編では、ロゴに込められた思いやオリジナルブランドが誕生した背景を伺いました。後編では波佐見焼の生産工程を追いかけながら、安定的な量産を可能にする体制や、多様なデザインが生まれる理由を深掘りします。
生産現場をレポート!
直営店の奥にある工場におじゃまして、波佐見焼ができるまでの工程を見せていただきました。工場に入ると想像をはるかに超える広さで、ところ狭しと器が積み上げられていました。素焼き、絵付け、焼成、検品とそれぞれの工程によってセクションが分かれています。
波佐見焼は分業制が基本。まずは生地屋さんからトラックで生地が運ばれてきます。生地をのせた長い皿板を絶妙なバランスで運び、パズルのように「窯積み」を行っていきます。その後、生地を素焼き窯に入れ、約900度の低温で8時間ほどじっくりと焼き、冷却。素焼きによって水分をなくし、かたく引き締まった丈夫な生地に仕上げます。
素焼きされた器に割れや傷がないかチェックし、ほこりを取り除きます。ピンク色の部分は傷が見つけやすいようにつけた検査液で、傷がある部分だけ色が濃く出るのだそう。
検査を終えた器が運ばれる楕円型のベルトコンベアのまわりには、ずらっと絵付け職人さんの作業スペースがありました。ここでは一つひとつ手作業で表面に色を塗ったり、絵付けをしていきます。器に向けられる真剣な眼差し、繊細な筆づかいの職人技に編集部も思わず息をのみます。
機械で絵柄を転写する「パット印刷」もこの段階で行います。量産に適した最新の技術です。
釉薬と呼ばれるガラス質の液体を一つひとつ手作業でかけていきます。器をはさんでいる「釉かけハサミ」は、指の跡が残らずきれいに釉薬をかけることができる優れもの。
波佐見焼は量産型で多くの工程で機械化が進んでいるとはいえ、まだまだ随所に人の手が加えられているのだということがわかります。現在は商品に応じて、手仕事と機械のバランスは半々なのだそうです。
量産を支える「ローラーハースキルン」
釉薬をかけた生地をいよいよ本窯で焼いていきます。和山では20年ほど前から「ローラーハースキルン」と呼ばれる、50メートルにもおよぶトンネル状の窯を使用しています。この窯を使っているのは波佐見町の窯元の中でも3軒だけなのだそう。
「導入のきっかけは省エネです。以前より使用するガスの量が少なくなりました。それだけでなく、ローラーで動く床の上を製品が流れていくので窯積み作業をする必要もなくなりました。器をベルトコンベアーに乗せて降ろすだけなので特別な技術も必要ありません。窯に関わる担当者も以前は5〜6人必要だったところを、現在は1人で済むようになりました」と廣田さん。
ほかにも、通常の窯は、器を置く場所によって火のあたり具合が異なるため、よく考えながら窯に積んでいるのですが、その必要がなく、均一な品質で製品ができることや、1300℃を頂点に窯の中で余熱・焼成・冷却の温度を自動制御してくれるため、割れることが少なくなるなど、さまざまなメリットがあります。
ローラーハースキルンは24時間連続して器の焼成が可能であるため、量産型の窯には適しているのだそうです。
本焼成を経た器は高台を研磨し、検品へ。和山では1日につき6000〜7000個の製品が生まれています。
チャレンジできる環境で誇れるものづくりを
デザイン企画室マネージャーの林恵深(はやしめぐみ)さんにもお話を伺いました。
「最近デザインを手がけたのは、en-poire(エンポワール)シリーズです。盛り付けが収まりやすいかたちで、重ねた際に高台がお皿の表面に触れない構造なので、スタッキングしても傷がつきにくいのもポイントです。ご家庭だけでなく飲食店さんでも使ってもらっています。小さなボウルはスプーンですくいやすい形状なので、ほっこりするような小どんぶりをイメージしてデザインしました」
en-poire(エンポワール)はどこかやさしく包み込んでくれるような、フラットなデザインで使い勝手がよさそうです。デザインは独学なのでしょうか。
「はい、ほぼ独学です。もともと実家が量販店向けに商品を卸している窯元で、そこで働いていました。父の代で廃業することになり、実家で製造していた商品も和山に移行するとのことで、そのタイミングでわたしもこちらで働くようになりました。自分でデザインしてみたい企画はチャレンジさせてもらえる環境だと思います」
縁のフリルが可愛らしさを感じさせる「メリーゴーランド」が生まれた経緯を、再び廣田さんに伺いました。
「名前のとおり、メリーゴーランドをモチーフにしたシリーズですが、デザインしたのは65歳の男性のデザイン課長です。意外でしょう(笑)。デザイン課長は、古伊万里のように繊細な絵柄が得意なので元となる図案を手書きし、最終的にはそれをプリントして作っています。時代の流れに敏感な人なので、北欧の食器が流行ったときには『フラワーパレードシリーズ』を作りました」
多彩な表情の器を生み出す和山。そのアイディアの源は何なのでしょうか。
「波佐見の器づくりに携わる人たちはみんな仲が良いですよね。直接的な情報共有はしないけれど、やり取りの中でインスピレーションをもらうことも多いです。また、波佐見の中でも常にどこのどんな製品が売れているのかは気にしていますし、焼きもの以外の市場も見るように心がけています。東京で生活雑貨を取り扱う店を見て回ることが多いかな。ギフトショーにも年に数回は行くようにしています。
今後はさらなる会社の軸となるようなオリジナル商品を作りたいと考えています。自社のブランド名が刻印されている商品は社員の誇りにもつながりますし、海外へ持っていけるような波佐見焼も作りたいですね」
量産に対応できる最新の設備を備えながらも、どこかあたたかみのある器をつくり続ける和山。波佐見町の中心部にある直営店と、隣接するアウトレットショップでは、オリジナリティのある多彩な器を実際に手に取ることができます。波佐見町にお越しの際は、ぜひお立ち寄りください。
廣田さん、ありがとうございました!
【和山】
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