窯元探訪【和山】 Vol.30 廣田和樹『侘び寂びの世界観と現代の感性を融合した器を』
波佐見には、町の至るところに波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。
今回、訪ねたのは波佐見町の中心部に直営店と工場を構える『和山(わざん)』さん。3代目社長、廣田和樹(ひろたかずき)さんにお話を伺いました。
和山は波佐見の中でも有数の、量産が可能な窯元として知られています。安定的な量産を支える秘訣は何なのか、また、自社のオリジナルブランドに込められた思いを、前編と後編に分けてお届けします。
「後継ぎさん」と呼ばれて
波佐見焼は、それぞれの作業をプロフェッショナルが担当する“分業制”が一般的で、その工程は大きく3つに分けられます。器をつくるための石膏の型を作る「型屋」、素焼き前の生地を作る「生地屋」、絵付けから焼成までを行う「窯元」です。
和山はもともと生地屋として、廣田さんの父、和好(かずよし)さんが昭和30年に創業しました。その後、昭和42年に窯元として事業をスタートさせます。
ご両親から直接、後継ぎをお願いされたわけではなく、子どものころから会社を営む父の姿を見て育った廣田さんは、自然と「あとを継がなければならない」という気持ちを持っていたのだそうです。
「まわりの人が私のことを『後継ぎさん』と呼ぶので、半分刷り込みのようなものでした」
廣田さんが会社を継いだのは、今から19年前の2005年のこと。現在はパート・アルバイト含め50名ほどのスタッフが働いています。
取材のため、和山の直営店を訪れたこの日。まず驚いたのは、置いてある商品のバリエーションの豊かさ。ぽってりとしたシンプルな器もあれば、華やかな絵付けのもの、薄くて繊細な磁器の器など商品のラインナップは多彩です。
「今、見てもらっているような、デザイン性が高く日常づかいできる商品が増えてきたのは、ここ15〜16年のことです。
それまで自社で開発する商品はスーパーや生協で売られているような、いわゆる量販店向けの食器でした。そのため、お買い求めいただくお客様の年齢層も高かったように思います。
われわれは量産型の食器を作ってきたのですが、2000年ごろになると波佐見町の中でも仲間の窯元さんたちがセレクトショップ向けの商品を出すようになり。うちもおしゃれで個性のあるお店に置いてもらえるようなオリジナルブランドを作りたいとずっと考えていたんです」
和山では大手外食チェーン店や飛行機の機内食で使われる器も作っています。今も昔も、他企業からの依頼を受けて製品を代わりに製造する「OEM」が売り上げの柱です。
量産が可能である自社の強みを活かしつつ、一方で、「波佐見焼」の名称が使われはじめた2000年頃から、会社の顔となるようなオリジナリティのある自社商品の開発にも積極的に取り組んでいます。
「オリジナルブランドの要素として日本っぽさ、いわば『侘び寂び』のエッセンスは入れていきたいと思っています。その想いを表現したのが、輪の中に『Bi』と書いたロゴです」
かたひじ張らずに日常づかいができて、食事によって人の「輪」ができる。日本らしい世界観と現代のライフスタイルに合ったデザインとをかけ合わせた製品づくりを行っています。
落ち着いた色味とデザインが人気の「Shabby chic style」の開発秘話
オリジナルブランドの中でも人気の高い「Shabby chic styleーシャビーシックスタイルー」はざらっとした手ざわりが特徴的。土物のような味わいと、「はんこ」を使った技法によって日本らしさを表現しています。
「撥水剤のついたはんこを押したあと、器を回転台に置いて、回しながら筆で釉薬を撒いていきます。そのため、こういったすじ模様ができます」
ただ釉薬をかけるだけでなく、裏と表に分けて釉薬を筆を使って円状に塗っていくので、一般的なやきものより手間がかかっている印象です。これは多くの職人さんを擁する和山だからこそ実現できる技法といえます。
また、はんこを押すときの加減や角度などにもばらつきがあり、それがうつわの個性になっているのだそうです。
「このシリーズが生まれたのは7〜8年ほど前。毎年、東京ドームで行われるテーブルウェア・フェスティバルに向けて新しい商品を開発したことがきっかけです。
どこの窯元も1年間かけてこのイベントに出品する新商品を開発するのですが、そのときに商品開発のアドバイザーとして波佐見焼に関わってくださっている今田先生から『変わったうつわを作ってみてはどうか』とアドバイスをもらいました。それまでマットな釉薬で作っていたのですが、より素材感を残す、ざらっとした質感の釉薬を施すことにしたのです」
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国内外の100のブースを見て知って買える! 「テーブルウェア・フェスティバル」開催レポ
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年に1度開催されるテーブルウェア・フェスティバルは、お客様の反応を直に感じられる貴重な機会となっているのだそうです。
「来場するお客様の層に合わせて、高級感のある器を開発する窯元も多いですが、うちはあくまでカジュアル路線。日常的に気兼ねなく使えるものを目指しました。会場では『うちの商品を手にとっていただきたい』と思っていた30〜40代の女性のお客様にも興味を示してもらえ、うちの方向性にマッチしているんだなと感じられました」
廣田さんは「ひと昔前の『食器はつるっとしているもの』というイメージは変わってきた」とも話します。
「同じようにざらっとした質感の『HASAMI PORCELAIN(ハサミ ポーセリン)』の立ち上げにも関わりましたが、当初は『売れない』と言われていました。実はわたしも『これ、売れるのかな?』と半信半疑だったんです。しかし、ニューヨークのギフトショーでブースにHASAMI PORCERINが並んでいる様子を見た瞬間、『わっ、かっこよか〜!』って。衝撃を受けました」
HASAMI PORCELAINの技術を活かしながらも「自社ならではの新商品を」と試行錯誤した結果、「Shabby chic style」は誕生し、今では和山を代表するオリジナル商品へと成長しています。
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後編では、波佐見焼の生産工程を追いかけながら、安定的な量産を可能にする体制や、多様なデザインが生まれる理由を伺います。
(つづく)
【和山】
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