
窯元探訪【一龍陶苑】vol.37 一瀬龍宏『変わらないために、変わり続ける』
前編では不動の人気を誇る「しのぎシリーズ」の誕生秘話を中心に伺いました。
後編では、七代目・一瀬龍宏さんが見据える未来、そして窯元としてこれから必要となることについて、さらに深く掘り下げます。
窯変を生かした、唯一無二の「雅シリーズ」
「これに今、一番力を入れていきたいと思っているんです」と一瀬さんが見せてくれたのは、きらりとした光沢のある質感が特徴の「雅(みやび)シリーズ」です。
雅シリーズは、窯変(ようへん)と呼ばれる “焼成中に偶然生まれる色や模様” を生かした器。同じものが二つと存在しない、唯一無二の美しさがその魅力です。自然が織りなす表情に向き合い、自分だけの一枚を見つけたくなります。
「今は、青や銀色の窯変が特に人気ですね。最初に出したときは『これ、何?』って不思議がられることも多かったんですよ。でも、続けるうちに少しずつ共感してくださる方が増えてきました」と一瀬さん。
“雅”というと、和食用なんでしょうか?
「買ってくださったお客様が、どんな風に使ってくださっても全然構わないんです。和でも洋でも、自由な発想で楽しんでいただけたらうれしいです。たとえば、少し大きめのお皿なら、花器として使っても良いですよね。生け花の剣山を置いて、大胆に花を生けても、きっとかっこいいだろうなと」
その言葉の端々からは、“こうあるべき”という固定観念にとらわれず、手に取った人それぞれの暮らしの中で、うつわがのびのびと使われてほしいという願いが感じられました。
窯元としてこれから必要なこと
「自分たちの作品をもっと多くの人に知ってもらいたい」という想いから、2000年代初頭にオープンしたのがギャラリー「くらふと龍」。ここでは、窯元ならではの空気感を感じながら、器を手に取ることができます。
「ここはもともと、ほったて小屋だったんです。奥の天井に見えている棚板はトイレの奥までずっとあったので半分打ち壊して。お金もなかったので、コンクリートむき出しの壁を白く塗り、そのまま利用して仕上げたんですよ」
また、一龍陶苑は、オンラインショップの立ち上げにも早くから取り組んできた窯元でもあります。
「当時、インターネット販売は、ほかの業界では当たり前でしたが、焼きものの世界ではまだ少なかったんです。いざ始めてみると、注文が入る一方で、お客様からの問い合わせや、ときにはクレームもあって。『電子レンジにかけても大丈夫ですか?』なんていうご質問にも一つひとつお答えして。最初は全部自分で対応していたので、夜遅くまでパソコンに向かう毎日でした。でも、そうやっていくうちに、少しずつ売上が伸びていくのが嬉しかったですね」
現在では、ギャラリーとウェブショップの両輪で、全国のファンに商品を届けています。
「もともと新しいものを生み出すのが好きなんです。それと、自社で生産された商品や自分のつくった器の魅力を、ちゃんとお客様に伝えることも、大事な仕事だと思っています」
たしかに、ギャラリーに訪れたときも、笑顔で接客中だった一瀬さんが印象的でした。東京ドームでのテーブルウェア・フェスティバルなどでも、きっと来場者一人ひとりと丁寧に言葉を交わし、器に込めた思いを伝えているのでしょう。
「どんなに理想論を語っても、きれいごとを並べても、それがお客様に届かなければ意味がない。
それは、たとえば、音楽の世界とも同じだと思います。売れないのは時代のせいかもしれませんが、その時代を読み間違えた自分が悪い、という厳しい世界です。
みんな同じ条件で戦っているわけですから。焼きものの世界も本当に厳しいですよ。波佐見の中だけでなく、ほかの産地のものとも競合しなければならない。
お客様に『欲しい』と思っていただけるというのは、本当に高いハードルなんです。だからこそ、手に取っていただけただけでも嬉しいんです」
現在、一龍陶苑では、体制の転換期を迎えているそうです。
「これまでは分業制が当たり前だったけれど、後継者不足の問題などから、今後は生地屋さんの数が減ってしまうかもしれません。将来的には生地(素地)づくりから自社で取り組んでいく必要があると感じています。もちろん、今ある生地屋さんとの関係は大切にしていきたいです」
地域の中で、多様な働き方を実現する
最後に案内していただいたのは、鹿山工場。
現在、一龍陶苑ではアルバイトを含めて、約40名のスタッフが働いています。
中尾山の窯場では4名ほどの職人が、主力商品の「しのぎシリーズ」を中心に製作中。
伝統的な窯と、大量生産が可能なローラー方式の窯。 商品の特性や数量に応じて、適切に作り分けができるのも、一龍陶苑の大きな強みのひとつです。
また、地元の主婦や子育て世代の女性たちが多く活躍しているのも特徴です。
「今、青森にリモートで働いてくれている女性がいるんですが、旦那さんの仕事の都合で波佐見にいた3年間、うちでクレーム処理から受発注、ふるさと納税の関連業務まで仕事をこなしてくれました。今は青森に帰ってしまいましたが、リモートで継続的に仕事を任せています」
現在では、パートタイムで働くスタッフが約半数を占めているとのこと。絵付けを担当する人たちの多くは、未経験からのスタート。近隣に住む主婦たちが、日々器づくりを支えています。
「小さなお子さんがいると、急な休みもありますよね。でも、そこはお互い様で、助け合えるような空気づくりができているのではないかと思っています。最近は30代の方も少しずつ増えてきました」
とはいえ、課題もあります。
「人手不足ということもあり、現在パートタイムで働くスタッフには『子育てが落ち着いたらフルタイムで働いてみない?』と声をかけることもありますが、現実的にはまだ難しい面もあって……。それでも、定着率は良いほうだと思います。女性が多い職場ですが、地域の中でそれぞれの力を活かしながら、これからも器づくりを続けていきたいですね」
200年という長きにわたり受け継がれた伝統を守りながらも、時代の変化を恐れず、新しいことに挑戦し続ける一瀬さん。朗らかに、ときに大胆に。その行動力こそが、一龍陶苑を時代の変化に対応できる強い窯元へと成長させてきたのだと感じました。
たくさんのお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
今年も4月29日〜5月5日には『波佐見陶器まつり』が開催されます。一龍陶苑さんをはじめ、多くの窯元が参加しますので、ぜひ足を運んでみてください。波佐見焼を見て触れて、直接窯元さんからお話を聞ける貴重な機会です。きっと波佐見焼の新たな魅力に出会える7日間になるはずです!
【一龍陶苑】
〒859-3712
長崎県東彼杵郡波佐見町中尾郷975
公式サイト
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