窯元探訪【永泉】vol.43 谷口禎二『生み出す、新しい定番』

窯元探訪【永泉】vol.43 谷口禎二『生み出す、新しい定番』

2026.07.03

前編では、多くの商品を生み出してきた永泉の歩みと、5代目・谷口禎二さんの変革に迫りました。

後編では、そんな窯元が生み出す魅力的なオリジナル商品の数々と、その開発の秘密を探ります。


多彩な表現が生まれる理由

永泉の器の魅力は、なんといってもその表現の多彩さ。
さまざまなシリーズが展開され、それぞれ形も、質感も、醸し出す雰囲気も異なります。

「技法で見ても、うちはいろいろあるね。
撥水、イッチン、パット、銅板転写、手描き、上絵……パットは最近はしてないけど、できないとは言わないです」

銅板転写という技法で花の絵柄をつけた上から、釉薬をかけて焼成。その上からさらに、パールのような輝きの上絵を施している。

波佐見町のなかでも、窯元によって得意とする表現手法は異なりますが、これだけ幅広い技法に対応できることも、永泉の強みのひとつです。

現場では、主に、絵付場で作業をするのは5名のスタッフさん。
転写を施したり、絵を描いたり、線を引いたり。
器の“見た目”を彩るのは、こちらのみなさんの仕事です。

また、ギャラリーに並ぶ無地の器を見ていると、絵柄だけでなく、釉薬のカラーバリエーションの多さにも驚きます。

「今はもう廃番のものもあるけれど、これまでの全部を合わせたら、100色以上はあると思います。波佐見焼で定番の“呉須”だけでも微妙なちがいがあるし、ピンクや黄色も、4色ずつくらいあるね。

商社さんのオリジナル商品やOEMの依頼では、細かい色指定があることが多いし、その要望には対応できるようにしています。そうしているうちに、色は自然と増えていきました」


大切なのは「形」

さまざまな技法の使い分けと、カラフルな釉薬の彩り。
その対応力は、永泉の大きな武器です。

しかし、禎二さんが商品開発でもっとも重視するのは、色や絵柄ではないといいます。

「形は一番大事だと思います。使いやすさとか、持ちやすさに直結するから。あとは、重なりのよさ。収納がしやすいかどうかは常に意識しています。

商品を開発するときは、わたしが図面を引いてますね。このギャラリーに置いてあるものの大半は、わたしが形を考えました」

なかでもイチオシはこちらのパン皿。陶器まつりでも完売するほどの人気商品です。

凹凸があることで、トーストを置いたときに湿気を逃がし、サクッとした食感を保つことができる優れもの。また、揚げ物を盛り付けると、油がよく切れるそう。
薄くて軽く、かさばらないのも魅力的です。

「最初はもっと凹凸の間隔が狭くて溝の深いものを作ったけれど、洗いやすさなども考慮して、今の形になりました」

こちらのスタッキングスープカップは、ワレニッカから着想を得て生まれたものなんだそう。
重ねたときの安定感と、すっきりした見た目は、まさに機能美です。
お店などでたくさん使う場合でも、収納がしやすそう。

ギャラリーに並ぶ器は、どれも使う人の暮らしを想像しながら生まれたものばかり。
禎二さんの「形が一番大事」という言葉の意味を実感します。

こうした機能性へのこだわりは、昔から受け継がれてきたようです。

そのうちのひとつが、こちらの醤油さし。
誕生から40年以上、多くの人の手に取られ続けている人気のロングセラーです。

「この醤油さしは、うちの親父が考えました。形を考えるときには、プラスチック製品を参考にしていたようです」

液だれしにくく、傾けても蓋が落ちない工夫が施されている。シンプルで丸みのあるフォルムも大きな魅力

新しい器にも、ロングセラーにも。形や機能性へのまなざしは貫かれていました。


現在の永泉では、形を決めるのは禎二さんの役目。
一方で、その器にのせる色や絵柄には、現場のみなさんの発想が活かされています。


アイデアが生まれる現場づくり

「形ができたら、従業員さんがしてくれるよ、勝手に(笑)。
『これどうですか』って持ってきてくれる。それをジャッジするのはわたしだけど、ダメって言うだけじゃなくて、『もっとこうしたらいいんじゃない』ってアドバイスまでするようにしています。

本人たちも楽しんでしてるし、積極的にやってくれるのはありがたいことです」

ステンドグラスのような縁取りと発色が斬新な“モザイク”シリーズ。こちらもスタッフさん考案。


現場のアイデアを支えるのは、禎二さんだけではありません。
ギャラリーや催事、Instagramの運営や商品開発にも携わる奥さまの貴子さんも、日々新しい提案を行うひとりです。

ギャラリーには、器だけでなく、箸置きやアクセサリーなど、ちいさな焼きものも並びます。そのひとつを手に取りながら、貴子さんがこんな話をしてくださいました。

「あるとき、従業員さんが生地の余りで箸置きをちょこちょこ制作してて、『こうしてこうすると、花びらができるんですよ』って教えてくれて。

それがきっかけで、生地のかけらでアクセサリーをつくろう、という流れになりました」

手仕事の繊細さがぎゅっと詰まったちいさなパーツ。

「わたしたちも、『好きなことをしてみて』っていうスタンスだから。絵付場のまだ若いスタッフさんにも、手が空いたときには『思い思いに、好きなデザインをつくってごらん』って言ってます。自分がどこまでできるかを知る機会にもなると思うし」

そこには、スタッフさんの挑戦を後押しする空気がありました。
自由な発想でものをつくることができる現場では、みなさんがのびのびと働いているようです。


直接売って、直接聞くこと

こうして生まれたアイデアは、禎二さんの判断で商品化に至ります。

その判断軸は「自分の好み」だという禎二さん。
長年の経験と感覚で、売れる商品を見極めているそうです。


しかし、器づくりの答えは、実際に売ってみなければわからないことも多いといいます。

「うちは催事に多く出てるから、そこに持って行けば売れるか売れないかって反応もわかる。従業員さんたちも、自分が考えたものがどう受け取られるか、反応を気にしてます。

正解はなかね~。自分が売れると思って持っていったらそうでもないこともあるし、その反対もある。直接お客さんのニーズを聞くのがやっぱり大事ですね。だから、催事にはたくさん出ています」

「永泉として出展する大きな催事は、姫路、松山、名古屋、北九州、岡山、福岡……年に6回。あとは、ほぼ毎月、他社さんと一緒に福岡の天神地下街に出すのがメインですね。

仙台とかにも出るけれど、地域によって人気のある形や色も変わってくるから、むずかしいです。そんななかでも、コンスタントに売れる商品っていうのは出てくるね。それが柱になっていきます」

また、そうした定番商品を育てていくなかでは、商品そのもののデザインだけでなく価格の設定も大切だと、貴子さんは話します。

「催事など、直接売る場でのみ出しているアクセサリーは、無地のもので1,300円台から販売しています。パーツの接着とかも考えるともちろん手間はかかっているけれど、うちはあくまで『手頃で良質な器』がコンセプトです。手に取りやすい価格帯であることは大切ですよね。それは、食器であっても同じ」

手頃でありながら、長く使える品質を備えること。
食器はもちろん、アクセサリーや小物に至るまで、永泉の器にはその考え方が息づいています。

形をつくり、色を試し、お客さんに届ける。
永泉の商品づくりを支えているのは、そうした日々の積み重ねです。

「自分でものがつくれるか。工場の流れなんかはやっているうちに覚えられるけど、まずつくれんとやっていけないし」

禎二さんのその言葉からは、ものづくりへの責任と、まっすぐな姿勢が伝わってきました。

「まあ、わたしはつくるのが好きやけんね、もともと」

永泉のものづくりを支える原点は、案外シンプルなのかもしれません。

その言葉を聞いていると、次はどんな器が生まれるのだろうと、永泉のこれからが楽しみになりました。


禎二さん、ありがとうございました!

【永泉】

〒859-3705
長崎県東彼杵郡波佐見町永尾郷341

公式サイト
https://www.hasami-eisen.com/

Instagram
https://www.instagram.com/happyhasami/


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この記事を書いた人
Hasami Life編集部(すぎた)