
地産地消にとどまらない、波佐見町が仕掛ける「米粉」の取り組みとは?
やきものの町、波佐見町では実は古くから米づくりも盛ん。「やきもの」と「米」の両輪でやってきた歴史があります。しかしここ数年、環境や地域活性の観点から「米粉」に注目し、循環型のあたらしい取り組みを積極的に行っているのです。
波佐見焼の商社・西海陶器の常務取締役でありながら、米粉事業を大きく担う稲作農家の小林善輝(こばやし よしてる)さんにお話をうかがいました。
波佐見は「半農半陶」の町
Hasami Lifeでも紹介したことのある、「波佐見陶箱クッキー」。おくりものや自分へのごほうび……、波佐見では人気のおみやげとして広く知られていますね。コレクションしたくなるような陶器の箱のなかには、米粉を使ったおいし〜いクッキーが詰められています。
そして、クッキーに使われている米粉は波佐見町でつくられたもの。
ではこの米粉、どうして波佐見町で栽培されるようになったのでしょうか。
400年以上も前から、日常食器を作り続けてきた波佐見町。やきものだけでなく、米どころとして知られる「半農半陶」の土地でもあるのです。「棚田百選」にも選ばれたことのある名勝地「鬼木の棚田」が、それを証明しています。
「ちょうど昭和になったあたりから窯元が中尾山から平地に降りてくるようになって、窯業の生産量が急激に増えました。昭和40年代になると行政による耕地整理などの影響もあって、米の生産と窯業を兼業する農家が増えていったんです。そうして米づくりが盛んになりました。米づくりが忙しい夏場には窯業が閑散期なので、農業と窯業の両立のバランスが自然と根付いていったんです」
「2000年代に入ると、これまでの農業と窯業の地場産業にプラスして、波佐見町を訪れる人たちに暮らしや自然、仕事などに触れてもらう『グリーンクラフトツーリズム』を盛り上げる動きが出てきました。でも、波佐見にはやきもの以外のお土産がなかった。そこで、米に発想を戻しました。米粉を作って、それを使ったスイーツをつくろう、と」
「廃石膏」をアップサイクル
米粉用の米「ミズホチカラ」の栽培から製粉までを担当する小林さん。まずは米の栽培に取りかかります。
小林さんたちは、年々問題となっていた波佐見焼の製造工程で生じる石膏型の処理問題に注目しました。波佐見焼は、石膏型に生地を流し込んで成形を行います。石膏型は100回ほど使用すると劣化して使えなくなるため、廃石膏となり産業廃棄物として埋め立てられてきましたが、あるときから県の最終処分場が廃石膏の受け入れをしなくなったのだといいます。
「町や専門家と協力して打開策を模索した結果、廃石膏を粉砕して土壌改良剤として畑にまくことを思いつきました。そうすれば、産業廃棄物を出さないし、地域内で処理して循環させていける。いまから7、8年前のことです」
米を粉砕して米粉にする過程でも苦労があったといいますが、その課題を解決するために、本格的な設備投資に踏み切りました。
「ひとくちに『米粉』といってもいろいろ。たとえば、せんべいなどに使われている新潟の米で作った米粉。この米粉と同じようにしても挽きが粗く、クッキーなどのスイーツには向いていないことがわかりました。
そこで思い切って粉砕機を購入することにしました。
それと、『ミズホチカラ』はスイーツづくりには適している品種といわれていますが、季節や気温で違ったりもするので、浸水時間にはとくに気をつけていますね」
季節や米の状態によっても変化する浸水時間を毎回記録し、ベストな状態を探っています。
カルシウムを豊富に含む粉砕された石膏が改良剤となり畑をよいものにする。その畑で栽培された米粉専用米「ミズホチカラ」でつくった米粉で特産品づくり――。そんな地域内循環が行われています。
波佐見町での米粉を使ったスイーツの販売は、冒頭でもふれた「波佐見陶箱クッキー」がはじまりでした。現在は、より多岐にわたり活用できるよう、飲食店での使用や自社でのレシピ開発にも力を入れています。
今回、小林さんにお話をうかがった「喫茶室はなれ」でも米粉を使ったクッキーがいただけます。
ざくざくのチョコレートがトッピングされた、もっちり食感のチョコチャンククッキー(1枚250円)。大きめですが、ぺろりといけてしまいます。
「喫茶室はなれ」は、「波佐見町歴史文化交流館」内に併設されたカフェ。
きれいに手入れされた庭を眺めながら、のんびりティータイムがかないます。思わず長居をしてしまう素敵な空間です。
「喫茶室はなれ」がある「波佐見町歴史文化交流館」では、波佐見焼の歴史にたっぷりふれることができますよ。ぜひ足を運んでみてくださいね。
これからの「米粉」の役割とは?
これまで米粉事業に深く関わってきた小林さんが、いまどんなことを感じ、考えているのか聞いてみました。
「環境に対してポリシーを持って、産地での産業廃棄物を減らしていこうとする取り組みは、企業としては絶対に続けていかないといけません。将来、西海陶器の事業として本格的にやっていければいいですね。
社内外問わず、まずはいろいろなところで使ってもらって事例を増やしていければいいと思います。米粉を使う文化が地元にできてくると地産地消になるし、地元の食材を使っていってくれると、地域の特色もどんどん出てきますからね。
また、いまは小麦アレルギーの悩みを抱える人も多くグルテンフリーも注目されているので、問い合わせも徐々に増えてきているんですよ」
昔から窯業と農業がつながっていた波佐見町。そのあり方を時代とともに追い続け、
町全体の取り組みとして形にしているところにとても共感をおぼえました。
次回、波佐見町を訪れたときに、米粉の新しい魅力に出会えることを楽しみにしています。
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【はさみの生米粉に関するお問い合わせ】
西海陶器株式会社
住所 〒859-3701 長崎県東彼杵郡波佐見町折敷瀬郷2124
メール info@saikaitoki.com
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