大塚さつきさんの暮らしとうつわ【前編】 〜育てた野菜を料理するよろこび〜
「焼き物は暮らしの中でこそ華やぐ」
これはHasami Lifeが誕生したときに掲げたスローガンです。400年以上続く歴史の中でふだんづかいの食器として愛されてきた波佐見焼は、今でもたくさんの暮らしの中で愛されています。
今回、ふだんから波佐見焼を生活に取り入れている大塚さつきさんにリアルな暮らしを見せていただくことになりました。Instagramではお弁当を紹介するアカウント @satukiotsuka と、暮らしまわりのあれこれを紹介する @satukiootsuka のふたつを合わせて2万3千人ほどのフォロワーが居る大塚さん。顔出しはNGとのこと、素敵な方なのでお見せできずにざんねんですが、その代わりに大切な器のコレクションのほか、キッチンの様子、農業を営みながらの暮らしの話、波佐見焼にまつわるエピソードを写真とともにご紹介します。
料理、農業、うつわ。お気に入りに囲まれて。
サンサンと降り注ぐ気持ちのよい太陽の光。清潔感のある白いタイルとぴかぴかのステンレス、しっかりと使い込まれた鉄製のフライパンに整理整頓された道具の数々。キッチンの真横には小さなパントリースペースがあり、電子レンジなどの調理家電のほか、野菜や果物の保存食がずらり。初めておじゃまするさつきさんのキッチンには、誰もが見てとれるような素敵なセンスとこだわり、愛着が随所に散りばめられていました。
「家を建てるとき、パントリーは必ず作りたいと思っていました。旬の素材を閉じ込めた瓶詰めや自家製のお味噌などの保存食、数が増えてしまったお弁当箱、そしてキッチン道具をまとめている場所。日常的に使用する家電製品もなるべくパントリーに置き、リビングから見えないようにしています。壁紙はウィリアム・モリス。どうしてもこの柄にしたかったんです!」と大塚さん。
日々の暮らしは無駄なく、スマートに。生活感をすべて隠すのではなく、ほどよく削ぎ落とされた空間にある“モノ”は、ひとつひとつ大塚さんが選んだお気に入りたち。
「長い間、東京で会社員をしていました。当時から料理や器、雑貨もインテリアも大好きでいつかフランスへ行こう!と決めていたほど。家族の事情で故郷の長崎にUターンしましたが、今でも変わらずパリで暮らしてみたいと思っています(笑)」
現在は、長崎県波佐見町に隣接する町で夫の晃さんと農業を営んでいる大塚さん。主に長崎の名産・アスパラガスを育てています。新規就農者として“さつき農園”を始めたのは今から約6年前。晃さんはもともと県内で飲食店を経営していたそうで、ふたりとも農家の生まれではありませんでした。
「夫はずいぶんと昔から自然と共に暮らす生活を求めていたようで、結婚と同時に農家として暮らしがスタートしました。“農業、いいですね” と言っていただくことが多いのですが、正直いうと楽しいことだけではありません。特にはじめた頃は毎日、記憶がないほど働いていましたね」と振り返ります。
「ヘトヘトになりながらも、自分で野菜を育ててそれを料理にできるなんてすごい! 自分が食べたい野菜まで育てられるなんて楽しい! この器にはあの野菜が合いそうだな、ビーツで作った真紅色のポタージュスープをあの器に盛りたいな。そんな気持ちはどんどん大きくなりました。料理が好きで、農業ができて。そうすると自然と“器欲”まで止まらなくなってしまいました」
器と料理の写真はInstagramのストーリーズでも配信。体力的にも、精神的にも楽ではなかったけれど、“食べること” を軸に置く農家としての生き方は、大塚さんに新たな喜びも運んでくれました。
「サラダや冷奴がこんなに豪華に見えるんですよ。器の力って、本当にすごいですよね!」
波佐見焼を含めて “うつわ” が大好き。
大塚さんは自他共に認める器持ち。ある引き出しを開けると、豆皿がびっしり。パパッと出して見せてくれたそば猪口だけでも10個以上! 作家さんの作品から海外製品、中にはアンティークもあれば、全国各地の焼きものまで、様々なジャンルの器が揃っていました。
「地元の波佐見焼はもちろんですが、器全般が大好きなんです。磁器も、陶器もどちらもよさがあるので、どちらが好きとも言いきれません。好きが高じてこれだけの数になってしまったので“見せる収納”にはとても憧れていたのですが、ほこりなどを気にする夫の影響もあって棚に収納できるように引き出しをたくさん作りました。ただ、よく使う器、つまり選抜メンバーは常に見える場所に出しておくんです。さっと使って、さっと洗ってまた同じところに戻す。そうすると、器を選んだり使ったり洗ったりするのが億劫にならずにすむんですよ 」
現在の選抜メンバーを伺うと、①佐賀県有田町で作陶する川口武亮さんの器 ②波佐見町中尾山の中川紀夫さんの器 ③大分県の小鹿田焼(おんたやき) ④栃木県の益子焼(ましこやき)の4枚を選んで見せてくれました。
「よく使うのは、“土もの”と呼ばれる陶器。特に民藝の器はお気に入りです。一方、白い器も本当によく使うので、同じように別の場所に重ねて置いています。白とひとくちに言っても、それこそ磁器と陶器では質感も色みも違うし、雰囲気もだいぶ変わるので、白い器を見つけるとついつい買い足してしまうんですよね」
「こちらの2枚は波佐見焼。陶房青 さんのものです。数年前の『桜陶祭(おうとうさい)』で小さいほう(写真左)を見つけ、実際に使ってみて気に入ったので、翌年は大きいサイズを探しに行きました(写真右)。使い込んでいい感じに色がなじんできたら、前よりずっと料理との相性がよくなったように思います。波佐見焼は量産しているものが多いからこそ、気に入った器を後で買い足すことができるのもうれしいですね」
「こちらの染付も陶房青さん。手描きの絵付けが素敵でしょう? 波佐見焼って他の地域の焼きものや作家さんの作品と合わせても、なぜだかしっくりくるんです。地元の焼きものだから、という理由だけでなく、こういう使い勝手のよさからついつい増えてしまいます。特に毎年GWに行われる『波佐見陶器まつり』は一年で一番楽しみな日! 小さい頃からなじみがあるお祭りですし、宝探しに行く気分で出かけます。お財布の紐と自分の気持ちをキリッと引き締めて行かないと、爆買い必至です」
なかでも、中尾山で作陶する 紀窯 の中川紀夫さんの器は、もはやコレクションと呼んでも過言ではないほど。新しいものから数年前に作られたものまで、写真一枚には到底のせきれないラインナップです。
「中川紀夫マニアですよね(笑)。中川さんはスリップウェアをたくさん手がけられているのですが、民藝の器が好きなわたしにとって、好みのど真ん中! 桜陶祭や波佐見陶器まつりだけでなく、工房へ足繁く通っては新しいものを見つけると連れて帰ってきてしまい、気がついたらこんな数になりました。塩壺(写真奥)も中川さんの作品なんですよ。中川さん自身の柔らかくおおらかな性格がスリップウェアの線に映し出されているところが好きなんです」
窯元探訪【紀窯】中川紀夫さん vol.13 「スリップウェア」という世界。
今年は2022年4月2日〜3日に『桜陶祭(おうとうさい)』が、2022年4月29日〜5月5日に『波佐見陶器まつり』が行われます。
桜陶祭は中尾山を中心に開催される陶器のお祭りなので、さつきさん愛用の陶房青さん、紀窯さんのほか、Hasami Life【窯元探訪】でおじゃました 筒山太一窯(中尾山工場)さん も参加しています。お近くのみなさんはぜひお出かけくださいね。
大塚さつきさんの暮らしとうつわ【後編】〜農家の知恵が詰まった竹ざる弁当〜 へつづきます。