THE HASAMI-YAKI vol.5

THE HASAMI-YAKI vol.5

2020.04.30


波佐見焼が“分業制で”できるまで。

波佐見では、ひとつの焼きものを一社だけで作り上げることが、ほとんどありません。器を大量に生産する中で、質の高い仕上がりを維持するためには、この「分業制」という仕組みが大きな鍵となっています。各々のプロフェッショナルは、各々の持ち場でどのような仕事をしているのでしょうか? 今回は、波佐見焼ができるまでの工程を追いかけていきたいと思います。



① 陶土屋

陶土屋(とうどや)では、焼きもののベースとなる「陶土」をつくります。陶土屋は佐賀県塩田町周辺に多いのですが、これは運搬に便利な川が近くにあったため。波佐見焼の基盤を生み出すプロフェッショナルです。波佐見焼の特徴である白磁の美しさの秘密は、陶土づくりにあり!

原料は“天草陶石”。天草陶土、天草石とも呼ばれる。

天草陶石をきれいに丁寧に洗ってから、細かく砕いて粉末状にする。

粉末状になった天草陶石を水に溶かし、不純物を取り除いて粘土に仕上げる。




② 釉薬屋(絵の具屋)

焼きものの色みや光沢、つまり表情を決める「釉薬(ゆうやく、うわぐすり)」を扱うプロフェッショナル。窯元がイメージする製品に仕上げるため、何度も足を運びながら、釉薬のセレクトや配合を調整していきます。頼りになる色のアドバイザーです。

釉薬は、長石、石灰などを調合して作る。見た目は白いドロドロした液体だが、焼成することで美しく発色する。

波佐見町に唯一ある釉薬屋「窯研株式会社」。波佐見町だけでなく、お隣の有田町にある窯元へも走り回る日々だそう。




③ 型屋

器の設計図を立体的な「型」に仕上げるプロフェッショナル。急須や土瓶、茶碗など、型の種類は食器の種類だけあります。それだけでなく、ひとつの食器を作るのにいくつもの型を組み合わせることが多いのです。型は“石膏(せっこう)”で作られ、陶土や焼成方法などさまざまな条件を想定しながら、生地の収縮率を計算して仕上げていきます。技術と経験がものをいい、職人技の集大成ともいえるとても繊細な仕事です。

 

まずは、原型(元となる器の形)を作る。円型の器の場合、ろくろを回しながら棒でカンナを支えて削っていく。円型の器以外は、石膏を手作業で削って仕上げる。

 
原型をもとに「ケース」と呼ばれる石膏型を完成させる(写真右)。このケースを使って「使用型」(写真左)をいくつも作成し、生地屋さんに納品する。どちらの型も石膏と水でできているが、ハンマーでケースをたたきながら使用型を作成することもあるため、ケースには樹脂を加えて強度を高めている。




④ 生地屋

陶土屋が作った「陶土」を型屋が仕上げた「型」に流し込み、目的の形に“成形”するプロフェッショナル(量産されている波佐見焼の多くは、型が使われています)。ローラーマシン、機械ロクロ、鋳込みなど、各種製法があります。

※動画でご紹介します。

【成形1】写真はローラーマシンによる成形。セットされた石膏型に、次から次へと陶土が入れられていく。

【成形2】石膏型にフィットする鉛のローラーが回転することで、あっという間に成形完了!

【成形 3】成形された生地は一度乾燥させたあと、手作業で余計な生地(=バリ)を削り、水ぶきで仕上げていく。さらに十分に乾燥させてから、窯元へ出荷。




⑤ 窯元

釉薬屋から「釉薬」を、生地屋から「生地」を仕入れ、陶磁器を焼き上げる場所。素焼き、下絵付け、釉薬(ゆうやく、うわぐすり)、本焼成(ほんやき)、さらには上絵付け、転写、検品など、たくさんのプロフェッショナルが集まる場所でもあります。

※一部、動画でご紹介します。

 

【素焼き】約900度の窯で6〜7時間かけて焼く。下絵付けや釉かけをするために必要な工程。

【下絵付け1】焼成で発色する顔料(下絵具)で絵柄を付ける。これは「パット印刷」という染付方法。やわらかいスポンジのような素材に顔料を付け、器に転写する。もちろん、手描きで絵柄を付けることもある。

【釉かけ1】“釉かけハサミ”という道具を使い、器に釉薬をかけているところ。素手でかけることも多い。表面をなめらかに、液だまりができないようにかけるのは、まさに職人技。

【釉かけ2】釉薬の濃度は、天気や湿度によって微調整しながら、仕上げている。

【本焼成】釉薬をかけてから乾燥させた器を支柱と棚板を使って積み上げ(=窯積み)、約1300度のガス窯で約12時間かけて焼き上げる。

【窯出し】7〜8時間おいて冷却したあと、手作業でラックから取り出す。このあと、絵を描いたり(=上絵付け)、転写シートで模様をつけることも(=転写)。その場合、さらに約800度で焼成を行う。

【検品】器全体を手でまんべんなく触りながら、厳しい製品検査を行う。


でき上がった波佐見焼は、このあと商社に運ばれ、再び検品が行われたあとに全国のショップやお客さまの元へ運ばれていきます。

今回ご紹介したのは、「波佐見焼が“分業制で”できるまで」の基本的な流れですが、生地屋も兼ねる窯元や上絵付け・転写の専門業もあるんですよ。また、原料である石を掘る職人はもちろん、筆やカンナなどの道具を作る職人、新しい器の可能性を探るデザイナー、窯や機械を製造する工場など、さらに多くのプロフェッショナルの力を借りています。

たくさんの人の想いをのせて生まれる波佐見焼。まだまだ、ご紹介しきれていないことばかりですが、このTHE HASAMI-YAKIシリーズでは、今後も波佐見焼にまつわるたくさんの仕事を紹介していきたいと思っています。



【取材協力】

株式会社西山 http://www.cf-nishiyama.jp/

一真窯 https://www.issingama.com/

窯研株式会社波佐見営業所 http://www.yaeshima.co.jp/index.html

原型工房フクタツ

 



(最初から読む)

 

 

 

この記事を書いた人
Hasami Life 編集部