窯元探訪【一誠陶器】絵付職人  vol.12 丁寧に、繊細に描く絵付職人 

窯元探訪【一誠陶器】絵付職人 vol.12 丁寧に、繊細に描く絵付職人 

2021.01.07

波佐見町には全部で59の窯元があります。そして小さな町の至るところに、波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。このシリーズでは、窯元を順番に尋ね、器づくりについての話などをご紹介します。このシリーズでは、窯元を順番に尋ね、器づくりについての話などをご紹介します。

今回訪ねたのは、34名の職人のうち6割強の絵付職人をかかえ、手描きでしか出せない風合いを大切にしている窯元の『一誠陶器(いっせいとうき)』さん。現場を支える絵付職人さんを代表して、職人歴1年半の新人さんから、職人歴数十年以上のベテラン勢まで、4名の職人さんに絵付の楽しさや大変さを伺いました。

 

① 絵付職人・樋口陽一さん

伝統的な絵柄にこだわり、描き続けて40年。

ZOE L’Atelier de poterie(ゾエ ラトリエ ドゥ ポトゥリー。以下、ZOE)”のデザイナーとしても参加している、絵付職人の樋口さん。主に伝統柄を担当する樋口さんに、デザインするときに気をつけていることなど、お聞きしました。樋口さん本人にしか描けない器もご紹介します。

‟ZOE” の器について、「窯元探訪【一誠陶器】 江添圭介さん Vol.10 絵付を生かした器づくり。」の記事に記載しております。

絵付職人歴40年 樋口陽一(ひぐち よういち)さん。担当絵付は、フリーハンド。

 
ーー:
絵付の面白いところはどういうところですか?

樋口さん(以下、樋口):
仕上がったときの楽しみがあるところです。どういう焼き上がりになるか、綺麗に仕上がっているか、そういうところですね。

ーー:
絵付の大変なところはどういうところですか?

樋口:
同じように描くことが、難しいですね。100個なら100個同じように描くところです。

 

リズム感のある軽い筆さばきで、120個のポットを3日間かけて描いている。


ーー:
今、樋口さんが描いている柄は、何という柄ですか? 

樋口:
「蛸唐草(たこからくさ)」ですね。焼きものの絵柄といったら、縁起物ですもんね。6つのひょうたんは無病息災とか、葡萄は子宝とか、絵柄の意味をわかった上でデザインをしてます。反対に牡丹や椿は、花がボタって落ちるでしょう。縁起が悪いからあんまりそういう柄は描かかないですね。蓮の花とかもね。

ーー:
手描きのよさって、どういうところだと思いますか?

樋口:
筆でしか、味わえない、ふわっとした感じとか。筆のタッチも、人それぞれ違うんです。カチって描く人もいれば、ふわふわって描く人もいるので、それぞれに味わいがでますよね。 

ーー:
“ZOE” の網絵も樋口さんがデザインされたと伺いました。渋いんですけど、底に蟹が2匹いて、ユニークさもあっていいですね!

樋口:
あはは(笑)。‟ZOE” の網絵は、私1人だけで細々と描いていますよ。

 

樋口さんがデザインし、樋口さんしか描けないZOE の平碗 網絵。伝統的な網絵の中に、素朴な蟹が二匹絵付されている。

 

② 絵付職人・福田真奈美さん

職人歴33年、熟練技術をもつ職人

絵付職人のなかでも絵柄を幅広く担当している、福田さん。33年の職人歴のある福田さんは、絵付が忙しいときも、家へ持ち帰り描いていたそうで、数多くの絵付をこなされてきました。絵付のコツ、仕事の面白さなどをお聞きしています。

絵付職人歴33年 福田真奈美(ふくだ まなみ)さん。担当絵付は、フリーハンド。

ーー:
絵付の大変さはどういうところですか?

福田さん(以下、福田):
初めて描く柄は難しいですね。慣れないので時間もかかるんです。

ーー:
手描きのよさって、どういうところだと思いますか?

福田:
温かみがあるところですね。同じものを描いていますが、微妙に個体差がでます。わたしは、そういう個体差も、個性があっていいと思います。 

ーー:
mode012(モードゼロイチ二)」の絵付もされていると伺いました。シンプルな線なので、素人目には簡単なのかな?なんて思ってしまうのですが…… 

福田:
シンプルな柄こそ、少しでもミスすると目立つんですよ。平筆は、絵具を含められる量が少ないので、必ずどこかで絵具を含ませないといけません。器の縁の目立たない部分で一回筆を止め、もう一回筆に絵具を含ませて、まるでひと筆で描いたように仕上げるんですよ。 

ーー:
この仕事の面白さはどういうところですか?

福田:
自分が描いたものが、店頭に並んでいることです。うれしいですよね。私たちは絵付するだけで、サンテナ(陶磁器の運搬に使う、プレスチック製のコンテナのこと)に入った出荷前の器しか見たことがないんです。「mode012」が、波佐見町にある器のお店のO YANE さんで実際に並んでいるところを見たのですが、とても素敵でした。

線の角度も書かれている「mode012」の絵付サンプルと、実際に絵付で使用している平筆。 

 

③ 絵付職人・小田典子さん

職人技がひかる、フリーハンドの絵付職人。

佐賀県立有田窯業大学校(現:佐賀大学芸術地域デザイン学部)卒業後、一誠陶器に入社の小田さん。職人歴26年のベテランさんでも、新しい柄の絵付は緊張するのだそう。繊細な柄や線を得意とする小田さんは、新しい絵柄もコツをつかみながら、すらすらと描く姿が印象的でした。

絵付職人歴26年 小田典子(おだ のりこ)さん。担当絵付は、フリーハンド。

 
ーー:
絵付の面白いところはどういうところですか?

小田さん(以下、小田):
なんだろう。やっぱり焼き上がりを見たときですかね。きれいに焼き上がっていればそれだけうれしいですし。休憩時間に窯まで仕上がりを見に行っています。 

ーー:
絵付の大変なところはどういうところですか?

小田:
初めて描く絵柄は難しいですね。慣れてないと時間がかかります。あと、コップの中や凸凹した生地の表面に描くのも大変です。筆がうまく走らずに、線が途切れたようになるんですよ。そういうときは、絵具を薄めにして描いています。

「このポットの絵柄も、初めてなので緊張します」と小田さん。絵具の色を使い分けながら、下絵なしですらすらと描く。


ーー:
絵具を薄めたりするのは、教えてもらうのですか? 

小田:
初めての絵付は、自分で位置や色を理解して描いた後に、見本をつくった人に確認して許可をもらっています。 

ーー:
手描きのよさって、どういうところだと思いますか?

小田:
一つひとつ違うところもそうですし、筆の柔らかさが手描きのよさだと思います。柔らかい感じが私は好きですね。

 

④ 絵付職人・足立里美さん

一つひとつ丁寧に絵付を行う職人。

熟練の職人さんのなかに混じり、11点丁寧に絵付を行う職人歴1年半の足立さん。取材時に、4色の絵具を使い「ZOE マルチ碗 クコノミ 桃色」を絵付中で、素人目からすると一見同じ色で絵付されているように見える器。焼く前と焼き上がり後の絵具の色が、変化することも丁寧に教えてくれました。

絵付職人歴1年半 足立里美(あだち さとみ)さん。担当絵付は、イッチン、ダミなど。


ーー:
絵付の面白さはどういうところですか? 

足立さん(以下、足立):
描いた後の焼き上がりを見ることが楽しみですね。まっさらな生地に自分が絵付したものが世に出ていくという面白さがあります。 

ーー:
絵付の大変さはどういうところですか?

足立:
色味ですね。焼く前と焼いた後の色が違うので、焼く前に絵具の濃淡などを見てもらっています。 

ーー:
1つひとつ勉強しながら技術を習得されているんですね。アダチさんにとって、手描きの良さはどういうところだと思いますか? 

足立:
何人かの職人さんが同じものを描いたとしても、微妙に筆のタッチも違い1点1点異なります。そういう個体差が、私にとっては温かみであり、手描きの良さだと思っています。 

ーー:
職人歴は、1年半と伺いました。どこかで勉強されていたんですか? 

足立:
まったくの素人だったのですが、絵付がしたくて佐世保から通っています。毎日の通勤となると少し遠いのですが、楽しくて続けられています。

 

+++

 

絵付の経験年数が長くても短くても、職人の皆さん全員が、器の焼き上がりが楽しみで自分たちの出来栄えをチェックしていると答えてくれました。担当の絵付に最後まで責任をもち、真剣に絵付と向き合っている姿がうかがえます。

丁寧に、繊細に、絵付を行う職人がいるからこそ、一誠陶器の絵付の技術が続いているんだと思います。

 

【一誠陶器】

長崎県東彼杵郡波佐見町永尾郷2103-3

0956-85-5882

 

公式通販サイト

https://zoe-latelier-de-poterie.com/

※波佐見町に実店舗をオープン予定。

 

Instagram

https://www.instagram.com/zoe_latelier_de_poterie/

 

くらわん館(ZOEの取扱い店)

http://kurawankashop.sakura.ne.jp/

 


一誠陶器のみなさん、ありがとうございました! 次回は紀窯さんを訪ねます。


 


 


この記事を書いた人
Hasami Life 編集部