HOME よみもの 波佐見の人 窯元探訪【陶房青】vol.25 望月祐輔『これからの陶房青がつくる波佐見焼。』 2023.01.21 窯元探訪【陶房青】vol.25 望月祐輔『これからの陶房青がつくる波佐見焼。』 by Hasami Life 編集部 波佐見焼の業界の中でも一目置かれ、ファンの多い窯元「陶房青(とうぼうあお)」さん。前編 では、先代の吉村聖吾さんと、窯元を継いだ現・代表の望月祐輔さんにお話を伺いました。後編では、工場やギャラリーを案内していただきながら「これからの陶房青」について尋ねます。望月さんがいつも心に携えている「夢とそろばん」の話とは? 「継続」への鍵とは? 新体制で約3年、事業継承への本音。 ――望月さんはいつか独立しようとは思っていたんでしょうか? はい。隣町の有田に家を買って、窯もつくっていたんですよ。ろくろ場もあります。じつは、ここで知り合った女性と結婚しているんですよね。妻も絵付師なので、いつかはふたりで始めようと思っていました。 ――すでに準備をされていたのですね! すぐに独立しようとは思っていませんでしたが、少しずつ焼きものを貯めるため、早いうちに工房はつくっていました。陶房青にも3〜5年の修業と思って入社させてもらっていました。当時28〜29歳だったので、35歳までには故郷の千葉に戻って、ものづくりができたらいいな〜というざっくりしたイメージで働き出したのですが。 ――すっかり波佐見に根が生えましたね。 はい(笑)。子どもも3人います。下が小学3年生、上は中学3年生。 別の未来もあったんです。でも、やっぱり今まで陶房青がつくってきたものをなくしてしまうのは、すごくイヤだなと思いました。吉村社長から事業継承の話があって、代替わりしても残ってくれるという同世代の職人もいましたし、受け継ぎたいとだんだん思うようになりました。今はわたしのほうが「譲ってもらった」という気持ちでいます。 現場で働く前と違って、見えてくることも多いんです。もちろん、焼きものや流通についてですとか、個人作家はどんなふうに仕事をしているのか、なども含めて。同時に自分の才能や性格と、それらを天秤にかけて考えると、「ひとりじゃ、どうしようもならない」という結論になったのも事実です。ですから、ここ波佐見のように「産業としての焼きもの」を生み出すところで生きていくのが、わたしにとっては合っているんじゃないかという判断もありました。やっぱり人と働くのが、刺激になっているんですよ。 昔、吉村社長が話していた「夢とそろばん」 ――実際に窯を継いでから変わったことはありますか? これまでも工場全体の動きは見ていましたが、経営にまつわる細かいところまで全部を見るようになって、昔、吉村社長が話していた「夢とそろばん」の話がなんとなくですが、理解できるようになりました。 自分のやりたいことにかける夢の時間と、会社を継続していくためのそろばんの時間。 納期を守って、利益を出して、雇用を継続させて。でも、つくりたいものをつくる時間を確保しなければならない。これがやっぱり本当に大変なんだな、と実感しています。今、ちょうど夢とそろばんの配分を一生懸命、必死に考えているところです。 ――これから望月さんがつくりたいものとは、なんでしょうか? そうですね。焼きものはこれから二極化すると思うんです。嗜好品じゃないですけど、だんだん「趣味のもの」という要素が強くなってくるんじゃないかと。この現実を目の当たりにすると、商品群をしっかり分けていかなければと思います。 これまで陶房青がつくってきたものを継続していくことはもちろん、転写やパット印刷も上手に活用しなくちゃならないと考えています。そこに「手技」をどう加えるか?がこれからの波佐見焼なんじゃないのかな。例えば、100つくらなきゃいけないけれど、職人はひとりしかいない場合。手技でなくても何とかなる部分を、クオリティを保たせながら別の方法に移行できるのか? これを考えるのが窯焼きの主な仕事になる可能性が高いですね。それに加えて経営者としては、予算なども含めてさらに複合的に考える必要が出てきます。新しい市場も開拓していかなければなりませんから。 太陽に照らさて気持ちよさそうに伸びる、あけびのつると葉に覆われた陶房青さんのギャラリー。 中尾山の中腹にある陶房青。平日はギャラリーにふらりと立ち寄ることができる。 ――今は「手技」を持った職人も少なくなっているということでしょうか? そうです。特に若い子が絵付職人をやっているのをほとんど見たことがないから、ここ5〜 10年でグッと減ってしまうだろうと思います。うちの絵付職人も40代ですし、50〜60代がいなくなってしまえば、教える人もいなくなってしまうし、染付という文化そのものがなくなることを危惧しています。 でも、わたしはどんな時代になっても「手技は絶対に捨てない」と決めているんです。デザインを可愛くして、ワンポイントを転写にしたとしても、その周りには筆で描き添えた赤の線が生きてくるような仕上がりにしよう、とか。さきほど話した赤絵もね(前編参照)、おそらくどんな柄でも転写で起こすことはできるんです。それでもやっぱり、手で描いたものとの差は出ます。高いクオリティと単価と生産性、3つの折り合いをしっかりつけた商品づくりは、ひとつの分野として確立していきたいです。 陶房青らしい、染付の器。焼きものの生地は型押しでつくることも多いそう。 人気の「つぐみ鳥」シリーズ。鳥が木の枝でくつろいでいる姿が繊細に絵付されている。 カラフルな「手技」が活きる碗。高台のあしらいまで、さりげなく手が込んでいる。 無地の器も。波佐見焼をコレクションしている 大塚さつきさん も陶房青さんの器を愛用中! ――これから、どんな陶房青にしていきたいですか? 「この人なら、こんなことができるんじゃないかな?」という気持ちですべての社員と接して、新しいものをつくっていきたいのは、先代の吉村社長と同じです。工場内工房の考え方も受け継いでいきますし、夢を持つことが「継続」のための大切な部分であるのだろうとも感じています。会社を大きくするというよりも、「こんなことがやりたい!」と常に思い続けることで前へ進んでいきたいです。 先代の吉村さんは今でも、ギャラリーにある小さいろくろ場で作業をしている。「作ったものは、ここでも売るし、有田の料理屋さんにも卸すし。気のむくまま、赴くまま」 最近、作ったものはこちら。やわらかいうねりが優雅で上品な印象。 もちろん、わたしもいつかは好きなものだけつくって暮らしてみたいです。妻に描いてもらうのもありだと思っていますし、自分はざっくりした土ものも好きなんですよ。65過ぎたあたりからは、ハイエースなんかで全国を旅しながら、ぶらぶら出かけていってはどこかで焼きものを売るとかもいいですよね。焼きものとほのぼのと向き合う未来を夢みています。そのためにも、今は「ものをつくり続けるためには?」としっかり考えていきたいです。 しばらくは、経営者としての挑戦が続きそうな望月さん。先代の吉村さんから受け継いだDNAを守りつつ、望月さんならではの「味」や、従業員のみなさんの「感性」がにじみ出た新しい焼きものの誕生を楽しみにしています。 たくさんお話を聞かせていただき、どうもありがとうございました! みなさんもぜひ、中尾山の陶房青さんへ遊びに行ってみてくださいね。 【陶房青】 〒859-3712長崎県東彼杵郡波佐見町中尾郷982 営業日:平日 8:30~17:00(ギャラリー見学可)定休日:土日祝日 ※中尾山交流館にて常設展示あり Instagramhttps://www.instagram.com/toubou.ao/ webshophttps://www.ao-shop.jp/ ※「陶房青」の器は、現在 Hasami Lifeでは取り扱っておりません。 今年もHasami Lifeでは、波佐見町の窯元を順番に訪ねてコツコツと取材を続けていきたいと思っています。 窯元探訪シリーズ に登場してほしい窯元がある方は、Instagram や twitter で ① 窯元名 ②取材してほしい理由(「どんな人が作っているか知りたいから」「〇〇という波佐見焼を愛用しているので、どんなふうに作られているか知りたい!」」など、簡単でけっこうです) を添え、ぜひメッセージをお送りください。リクエスト、お待ちしております! Tweet 前の記事へ 一覧へ戻る 次の記事へ Hasami Life 編集部 この記事を書いた人 Hasami Life 編集部 関連記事 2023.09.29 窯元探訪【丹心窯】vol.28 長﨑忠義『水晶彫の秘密。』 波佐見には、町の至るところに波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。今回、おじゃましたのは、佐賀県武雄市との県境にある波佐見町小樽郷に窯を構える『丹心窯(たんしんがま)』さん。まるでジュエリーのような輝きを放つ、唯一無二の美しい波佐見焼、その手仕事の秘密に迫ります。 2023.09.22 窯元の火を止めるな! 技術と雇用をつなぐ、波佐見焼企業のM&Aに迫ります。 後継者不在を理由に事業をたたむケースも増えているなかで、窯元の高山陶器(現・株式会社高山)と、商社である西海陶器株式会社はどうやって事業承継に結びついたのか。その先にどんな未来を見据えているのか。 新旧の社長に話を聞きました。 2023.08.25 【編集スタッフ募集中】波佐見焼の魅力を伝える Hasami Life 編集部に密着! 「波佐見焼や波佐見町、職人の手仕事のことを知ってもらいながら、ご自宅に波佐見焼を迎え入れてほしい!」これがHasami Life編集部の願い。週1回のよみもの配信を中心にさまざまな活動をしています。実際、どんな仕事をしているのでしょうか? 今回は、編集部員のたぞえさんに密着します。
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