HOME よみもの 波佐見の人 窯元探訪【大新窯】vol.26『色イッチンという手仕事。』 2023.06.26 窯元探訪【大新窯】vol.26『色イッチンという手仕事。』 by Hasami Life 編集部 波佐見には、町の至るところに波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。中尾山に入ってすぐ、右手に見える小高い丘の上にある『大新窯(おおしんがま)』さん。大きな登り窯(しかも、世界最大・最長!)の跡地に建てられた工房では、たくさんのかわいらしい波佐見焼と出会うことができます。さっそく、のぞいてみましょう。 動物をモチーフにしたかわいい波佐見焼 くま、さる、ねこ、ふくろう、そして恐竜。このようなかわいらしい絵付を見たら、波佐見の人ならば、間違いなく「大新窯さんのだね!」とわかります。 「色イッチン(いろいっちん) 」と呼ばれるこの手法は、実はなかなか珍しいもの。というのも単色ではなく、複数色を使用するイッチンはあまりないからです。 イッチンとは…… 白化粧土などを口金から絞りだし、器に装飾を施す技法。 窯に入れて焼き上げたあとの元気でカラフルな仕上がりは、子どもだけでなく、大人のわたしたちまでワクワクさせてくれます。 この色イッチンの作業場を見せてもらえることになりました。ここから案内してくれるのは、大新窯で働く太田晃輔(おおた こうすけ)さんです。 今も昔も変わらない絵描き座の光景 ――本当に見晴らしのいい作業場ですね! 太田晃輔さん(以下、太田 )ここはもともと、登り窯が立っていた土地なので、下からの風が吹き上げてくる風通しのよい場所です。わたしは小さい頃から、ここによく出入りしていて、遊び場のようなものだったんですよ。 ――甥っ子さんなんですよね? 太田ええ。わたしの母が社長の妹にあたります。新卒で勤めていた会社も面白かったのですが、陶磁器業界への興味が尽きず、昨年こちらへ転職しました。働き出してからは間もないのですが、職人さんたちが働く姿は、今も昔も変わらず、とても身近な光景です。 ここが「絵描き座(えかきざ)」ですね。 ――作業場を絵描き座と呼ぶんですね。 太田そうです。今日は、従業員さんがひとりお休みですが、ここでみなさん、黙々と作業をされています。 人気イラストレーター・ミヤタチカさんのMOGUMOGUプレートの色イッチンも担当されたふたりの職人、「線描き」の池田さん(写真上)、「色塗り」の内田さん(写真下)にも再会! MOGUMOGUプレートについては、特集 【限定発売】人気イラストレーター・ミヤタチカさんと波佐見の絵付職人がコラボした『MOGUMOGU プレート』 をどうぞ。子どもが大好きな「人魚姫」と「恐竜」をモチーフにした2種類のキッズプレートを販売中です! 太田ちょうど今、内田さんが色塗りをしてくれているのが、うちの売れ筋商品「ネコ会議シリーズ」です。デザイナーが書いた原画をもとに池田さんが線を描き、内田さんが色を塗ってくれます。 ――1日、どのくらい描けるものですか? 太田池田さん、どうですか?(笑) 池田さん(以下、池田)そんなに何枚も描けんよ(笑)。プレートだけ描いてる訳じゃないからね。でも、どのくらいかな? 今、内田さんが色塗りしている分は、今朝、描いた分ですよ。 ――下書きをしてから、線を描いていくのでしょうか? 池田全部フリーハンドよ。一箇所だけ、鉛筆でネコの高さに目安をつけるかな? ネコがどんどん詰まって、全員が入りきらないようになったら困るからね。でも、それ以外は全部、フリーハンド! ちなみにいつも、このネコの親分から描いています。 一番、背が高く、高さに目安をつけるネコがネコ会議の親分らしい。かわいい! 太田ものすごい再現度ですよね。 池田でも、よくよく見ると、微妙に違うわよ! ▷「ネコ会議シリーズ」の詳細はこちらから!Hasami Life編集部も目を凝らして違いを探すも、本当に微妙な違い。これぞ、職人技!と感動しました。 窯へ入れる前は、まったく想像できませんが、焼きあがると、カラフルに発色。イッチンの絵の具は釉薬と同じ性質を持っているため、光沢のある焼き上がりが特徴です。そのためプクッと盛り上がった線になり、やわらかくやさしい雰囲気の焼きものに仕上がるそうです。 復刻版・鳥ポットやペット用フードボウル ――こちらも可愛いですね! 特注品でしょうか? 太田これは「鳥ポット」です。ここ15年くらい作っていなかったんですが、最近また作り始めました。もともとはシンプルな絵付だったのですが、色をつけてみたり、花柄にしてみたり。「復刻版」としてこれから売り出していこうと思っている商品です。 ――なんでしょうか、じわじわかわいいというか、見れば見るほど、クセになるかわいさですね。どうやって使うのでしょうか? 太田花の植木鉢入れとしてはもちろん、リモコン立てにも便利なんですよ。陶器市でも、密かに人気があって、お客様から質問やお声がけをたくさんいただきました。 工房内に並んでいた素焼きの鳥ポット。今後、新しい柄も登場するとのこと。Hasami Life編集部も楽しみにしています。 ――こちらはペット用のフードボウル。 太田これも隠れた人気商品ですね。名入れもできます。ふるさと納税で出しているんですよ。 愛犬、愛猫の名前がいっぱい。 太田せっかくですから、裏手にある登り窯の跡地にも行ってみましょうか? ――ぜひ! 世界最大・最長の登り窯跡地 太田今はすっかり野原になっていますが、ここが登り窯の跡地です。 ――39の窯室があったとか! 太田 そうなんです。全長は170mほどあって世界最大・最長の登り窯だとされています。ただ、最近になってわかってきたのは、39室が同時に存在したというわけではなく、使わなくなった窯室、追加された窯室、最終的にあわせて39室みたいですね。 ――それでも、想像できないほど、大きな窯ですよね。 太田この世界最大・最長の登り窯の名前が「大新登り窯」でした。貞享2年(1685年)に大村藩の藩窯として開かれ、江戸から明治にかけてたくさんの焼きものを産み出してきた窯だったそうです。 大正の終わり頃、わたしの曽祖父にあたる藤田新三郎が中尾山に移り住み「藤新」という名で焼きものを焼いていましたが、戦争の影響で窯を閉めてしまったそうです。 現在の大新窯は、祖父にあたる藤田恒之が、戦後にこの登り窯跡地に築窯しました。「先人陶工の技術と想いを伝承しよう」という想いから、同じ名を名乗っていますが、直接のつながりはないんですよ。今だと、二番煎じだと怒られそうですよね(笑)。 太田 じつは、工房もイチから建設したものではなく、使われなくなった建築物を探してきて移築しているんです。 (つづく) ======== 後編では、佐賀県多久市から移築されたという工房の話のほか、3代目の現社長の藤田隆彦さんに子ども食器の誕生秘話について伺います。 【大新窯】 〒859-3712長崎県東彼杵郡波佐見町中尾郷767 0956-85-2652 ※窯元を訪れる際は、事前に電話でご予約ください。土日祝は定休日ですが、対応できる場合も。 Instagramhttps://www.instagram.com/ohshingama/ webshophttps://oshin.thebase.in/ 大新窯さんの波佐見焼はこちら! MOGUMOGU プレート ¥3,850 Tweet 前の記事へ 一覧へ戻る 次の記事へ Hasami Life 編集部 この記事を書いた人 Hasami Life 編集部 関連記事 2023.09.29 窯元探訪【丹心窯】vol.28 長﨑忠義『水晶彫の秘密。』 波佐見には、町の至るところに波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。今回、おじゃましたのは、佐賀県武雄市との県境にある波佐見町小樽郷に窯を構える『丹心窯(たんしんがま)』さん。まるでジュエリーのような輝きを放つ、唯一無二の美しい波佐見焼、その手仕事の秘密に迫ります。 2023.09.22 窯元の火を止めるな! 技術と雇用をつなぐ、波佐見焼企業のM&Aに迫ります。 後継者不在を理由に事業をたたむケースも増えているなかで、窯元の高山陶器(現・株式会社高山)と、商社である西海陶器株式会社はどうやって事業承継に結びついたのか。その先にどんな未来を見据えているのか。 新旧の社長に話を聞きました。 2023.08.25 【編集スタッフ募集中】波佐見焼の魅力を伝える Hasami Life 編集部に密着! 「波佐見焼や波佐見町、職人の手仕事のことを知ってもらいながら、ご自宅に波佐見焼を迎え入れてほしい!」これがHasami Life編集部の願い。週1回のよみもの配信を中心にさまざまな活動をしています。実際、どんな仕事をしているのでしょうか? 今回は、編集部員のたぞえさんに密着します。
2023.09.29 窯元探訪【丹心窯】vol.28 長﨑忠義『水晶彫の秘密。』 波佐見には、町の至るところに波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。今回、おじゃましたのは、佐賀県武雄市との県境にある波佐見町小樽郷に窯を構える『丹心窯(たんしんがま)』さん。まるでジュエリーのような輝きを放つ、唯一無二の美しい波佐見焼、その手仕事の秘密に迫ります。
2023.09.22 窯元の火を止めるな! 技術と雇用をつなぐ、波佐見焼企業のM&Aに迫ります。 後継者不在を理由に事業をたたむケースも増えているなかで、窯元の高山陶器(現・株式会社高山)と、商社である西海陶器株式会社はどうやって事業承継に結びついたのか。その先にどんな未来を見据えているのか。 新旧の社長に話を聞きました。
2023.08.25 【編集スタッフ募集中】波佐見焼の魅力を伝える Hasami Life 編集部に密着! 「波佐見焼や波佐見町、職人の手仕事のことを知ってもらいながら、ご自宅に波佐見焼を迎え入れてほしい!」これがHasami Life編集部の願い。週1回のよみもの配信を中心にさまざまな活動をしています。実際、どんな仕事をしているのでしょうか? 今回は、編集部員のたぞえさんに密着します。