minokamoがつくる!中尾山・秋陶めぐり【後編】〜料理旅×波佐見焼〜

minokamoがつくる!中尾山・秋陶めぐり【後編】〜料理旅×波佐見焼〜

2022.11.25

「日常のご飯でも、そのときの旅を、景色を、おいしかったものまでを思い出せる。旅先で出会った器には、そんな力があります。とっておきの一枚に自分で作った料理を盛りつけるとき、本当に豊かで幸せな気持ちになれるのです」

訪れた地で新しい器を迎え入れる喜びをそう語るのは、料理家・写真家・フードスタイリスト・イラストレーターと多才な顔を持つ minokamo(長尾明子)さん。

前編『minokamoがゆく!中尾山・秋陶めぐり【前編】〜焼きもの 秋さんぽ〜』では、たくさんの波佐見焼を手にとてもうれしそうな表情。

すると、「出かけた先でその土地の食材を料理することも、わたしにとって旅の大きな楽しみなんですよ」と教えてくれました。

「もちろん、波佐見でも料理をしていきます!」と話すminokamoさんに “いつもの感じ”を見せてもらうことに。中尾山・秋陶めぐり【後編】のスタートです。

(ここからの写真と文は、minokamoさんです)

 

料理旅、その土地の食材で。

ふだんからスーツケースにお気に入りの器を1枚しのばせて旅に出ています。それは、旅先で料理をすることもわたしのライフワークのひとつだから。今回は、秋陶めぐりで波佐見焼を迎え入れる気満々だったので、珍しく器を持たずに波佐見へやってきました。

その土地で初めて出会った食材、地域の方から教えていただいた食材、たまたまスーパーで見かけた食材、見るからにとても元気のよい食材、一度食べてみたかった食材、そして旬の食材。そういった“ご縁がある食材”から、逆算してメニューを考えるのがいつもの流れ。「○○を作ろう!」と決めて食材を探し始めることはほとんどありません。

ご当地調味料を調査中!(撮影:編集部)

旅先では、直売所やスーパーに立ち寄るだけでも十分に楽しいですよね。波佐見では主に「どろんこの里」と「エレナ」にお世話になりました。いつもの暮らしでは見かけない初対面の商品があったり、新しい発見もたくさん。まったく興味が尽きません。

「えー! こんなことに使うの? これが日常食なんて、どんな感じで食べるのかしら?」と考えるだけでも楽しいし、実のところを地元の方に教えてもらえるとさらに楽しいし、それをおいしく食べることができたらもっと楽しい。

九州ならではのちゃんぽん麺&ときめきカラフルな練り物、甘くておいしい麦みそのほか、お店に並んでいた種類豊富な豆腐群から「これだ」と豆腐を選び、柚子胡椒、南島原の「島原納豆みそ」、鯨、棚田米、地元産の果物やお野菜まで、たくさん食材を集めました。

お茶農家「原田製茶」さんには直接おじゃまし、緑茶とはちみつを購入。そして「トイモガラ」をおすそわけしていただきました。

茶畑もご案内いただき、せっかくなのでご家族をぱちり。原田さんが淹れてくださるお茶は、まるでおだしを飲んでいるようなうま味と甘みがあって本当においしかったです。おいしいお茶の淹れ方 はHasami Lifeでも特集されているそうなので、ぜひ、みなさんも読んで試してみてくださいね。

さあ、食材と器が揃ったところで、いよいよ料理スタートです。

器のお買いものの様子は【前編】でどうぞ!

 

料理を引き立てる、器のパワー。

どんなメニューにするか、初めはノープラン。でも、食材を集めるうちにどんどん妄想がふくらみ、つくってみたい料理がたくさん頭に浮かびます。 波佐見での滞在中、時間の許す限り、たくさんの食材を試し、いろいろな器に盛り付けてみました。



① 紀窯×かんたん前菜

紀窯さんのスリップウェアには「長崎産天然鯛とみかんのマリネ」と「椎茸とトイモガラのにんにく醤油」を。

おすそわけいただいたトイモガラは、ハスイモの茎の部分とのことで波佐見では「トイモ」と呼ぶようです。切るとスポンジのような断面で、やわらかいのにシャクシャクと食感もある不思議な野菜。味がしみ込みやすく、使い勝手がよくおいしい食材でした。フライパンでさっと炒めただけですが、素敵な器のおかげでまるでレストラン気分!


② 陶房青×ちゃんぽん&冷奴

陶房青さんの絵付プレートには「minokamo風ちゃんぽん」を。白菜やれんこん、カラフルな練り物を入れ、市販のスープは使わずに麦みそだけで味付け。麦みその優しい味わいが大好きでこのやり方を試してみたかったのです。


うん、とてもおいしい。もりっとボリュームの出る料理も、これまた素敵な器のおかげで品よく見えるような気がします。

赤い胡椒(=唐辛子)と黄色い柚子でできた真っ赤な柚子胡椒を添えました。ピリッとアクセントになる柚子胡椒もまた外せない九州食材ですよね!

柚子胡椒についてもっと知りたい方は 「どんなふうにつくるの?波佐見の柚子胡椒と、おすすめの食べ方。」もあわせてどうぞ!


仙茶碗には冷奴を。のっけるだけ、豆腐3種です。

写真手前から時計まわりに島原納豆みそ、大根の抜き葉と柚子胡椒、青ねぎ。ちょこちょこ少しずつ違う味を楽しめちゃいます。

お盆代わりには、Commonのプレート Navyを。

ちなみにプレートの色をYellowに変えるだけでこんなに印象が変わるんですよ。

白磁の仙茶碗はどんな色とも相性がよく、ほどよいサイズも使い勝手◎。お茶時間だけでなく、お料理にもぴったり。やっぱりね!(実はそれを見越して8個もゲットしました。笑) 今度は、蒸し碗として茶碗蒸しをつくる時に使ってみたいと思っています。


③ 大新窯×ぼうぶらずうし&茶スイーツ

印刷ではなく、手描きで仕上げられたという大新窯さんの鳥獣戯画の器。窯元で職人さんの話を教えていただいたからこそ「より一層、絵付を生かしたいな」と料理をするのも、楽しいひとときです。

まずは、原田製茶さんのお母様から教えていただいた「ぼうぶらずうし」。鯨の塩漬けを一度塩抜きし、かぼちゃ、お米と一緒に煮た郷土料理です。味付けは淡口醤油を少々。初めて作りましたが、鯨の脂のコクがきいておいしい。仕上げにオリーブオイルをかけたらイタリアのリゾットですよね。

そして「鬼木みどり」にはちみつでさらに甘みを加え、米粉のお団子を入れた簡単おやつ。もちもちしたお団子と、緑茶のうま味、はちみつの甘みがやさしい和スイーツになりました。

 

米粉でつくる、すいとん教室 in 波佐見

今年の秋、わたしは『粉100、水50でつくる すいとん』という本を出しました。すいとんはシンプルでとても自由な料理。小麦粉でも、米粉でもつくれて本当に簡単でおいしいんです。

波佐見はおいしい棚田米が有名な町でもありますよね。そのお米からつくる「米粉」にも最近はとても力を入れていると知り、急遽「米粉でつくる、すいとん教室」を開催させてもらうことになりました。

(撮影:編集部)

食材探しをする中で出会ったみなさんにもお声がけをしたので、日を空けることなく、うれしい再会。“料理教室”といっても、料理をつくりながら、おしゃべりしながらなので「みんなでおいしいものをつくって食べる会」に近い雰囲気です。

この日も波佐見の食材をたくさん使ってメニューを組みました。

・米粉のクリームすいとん
・水谷製麺のちゃんぽん麺でナポリタン
・お茶ハム
・長崎産鯛の柿ソース
・トイモの鶏だしスープ
・鶏もも肉の茶照り焼き  
・緑茶スパークリング  ほか

米粉すいとんもとても好評で、翌日すぐにつくってくださった参加者の方も。「家族のために毎日つくる料理が少し義務的に感じて楽しくなくなっていた時に、思いがけずminokamoさんと出会えて…また楽しんで料理できそうです」という感想もいただき、うれしくて涙がちょちょぎれそうになりました。わたしのほうこそ、食の仕事を楽しく、ますます背筋を伸ばしてやっていこうと心に決めた会になりました。みなさん、ありがとうございました。

(撮影:編集部)

今回、初!波佐見の旅。波佐見焼がきっかけで出向いた旅でしたが、おいしいものや温かい人との出会いがたくさん。出かける前の想像を超える、うれしい旅になりました。

どこへ行っても初めて見るものばかりだから、質問もたくさん出てくる。そんなとき、地元のみなさんにお尋ねすると、本当に丁寧に教えてくださいました。翌日、またどこかでお会いできた時は「あら、こんにちは!」と笑顔であいさつする仲になったりして。こんなことが旅先で増えると、「また伺いたいな」と強く思うのです。この原稿を書いているたった今も思っています。

迎え入れた器が卓上に上がるたび、うれしい出来事や風景を思い出しながら、地元のみなさんとの再会を楽しみにまた波佐見へ遊びに行く予定を立てようと思っています。次は、どんな食べものや景色、器との出会いがあるのかな。

(前編から読む)

『minokamoがゆく!中尾山・秋陶めぐり【前編】〜焼きもの 秋さんぽ〜』

 

この記事を書いた人
minokamo(長尾明子)
岐阜県美濃加茂市出身、料理家、写真家、フードスタイリスト、イラストレーター。祖母と過ごした経験がきっかけで料理家に。地の食材を活かした提案、郷土食の取材を行う。テレビ、ラジオ、雑誌各メディアでもレシピを紹介。食、手仕事、酒場を求め旅することもライフワーク! 近著は、手軽に手打ちパスタやうどんも作れる『粉100水50でつくる、すいとん』(技術評論社)、『料理旅から、ただいま』(風土社)、PAPERSKYweb「japanese Local Cuisine」、岐阜新聞「毎日ごはん」連載中。