【福田利之さん×波佐見】コラボアイテム発売記念インタビュー〈後編〉

【福田利之さん×波佐見】コラボアイテム発売記念インタビュー〈後編〉

2024.11.29

このたび、人気イラストレーターの福田利之さんと、波佐見焼のコラボアイテムが誕生しました!

Hasami Lifeでは、完成したイヤープレートと豆皿4種を発売するとともに、2週にわたって福田さんへのインタビューをお届けしています。

後編では、今回のコラボレーションのきっかけや開発のこと、波佐見町に関するあれこれ、ものづくりやデザインについてもたっぷりお伺いしてきました。福田さんのファンも、波佐見焼のファンも必見です。

▶︎前編はこちら

福田利之 / Toshiyuki Fukuda

イラストレーター。1967年、大阪生まれ。
エディトリアル、装画、広告、CDジャケット、絵本、テキスタイルなど、様々なビジュアル表現を行う。
スピッツのCDジャケット、カズオ・イシグロ「クララとお日さま」、町田その子「52ヘルツのクジラたち」の装画など、多岐にわたる作品を制作。
プロダクトブランド「POSIPOSY」のデザインも手がけており、ほぼ日刊イトイ新聞では「福田利之のホーム&ロック」を連載中。

HP:https://to-fukuda.com/


=====

――:
波佐見焼は型屋、生地屋、窯元、商社といったふうに、それぞれの役割ごとの分業制で成り立っています。このことは、なかなか一般には浸透していない事実だと思います。

福田さんもいざ、波佐見でものづくりをするとなったときに、こうした仕組みによって難しいと感じたことや、驚いたことはありましたか?

福田さん(以下、福田):
そうですね。やっぱり、自分でさわって自分でこねて、という作業とは別のことをしてるので、色々考えますが……僕の場合は、職人さんよりも、今回の企画に伴走してくれた商社の開発担当の方とのやり取りが一番多かったです。

その方が大変だったでしょうね。実際に僕が窯元とかに行って直接話すのがいいんでしょうけど、普段はなかなか行けないし。

僕が言ってることを職人さんにわかるように、技術的な理解のある人が説明してくれたから、これができたと思っているんですよ。100%、そう思います。


だから、波佐見でものをつくるってなると、マネジメントやチームワーク的な……職人さんと、作家と、その間に入ってくれる人との三位一体だからできるってことがあると思います。

多分僕が実際に粘土をさわってやったとしても、最後に仕上げてもらうとなると、こうした役割はどうしても必要だと思うし。

――:
間に立つ方の手腕も大きいですね。 そして、実際のつくり手である窯元の職人さんたちも、福田さんの絵を焼きものにする試みをおもしろがって、細かく調整してくれたからこその完成度ですね。

福田:
ぼくはラッキーだったと思います。なんでも、相手に対するリスペクトですよね。

原画の風合いを器に表現するため、いくつもの調整が重ねられた。

でも、いつも思いますけれど、お皿ってほんとにもう、ものすごい数があるじゃないですか。いいものができたとは思うんだけど、埋もれちゃわないように、ちょっとでも見てもらえるような仕組みづくりとかは、僕も頑張りたいですよね。


――:
こちらの販売も含めて、12月から1月にかけて、各地で展覧会を開催されると聞いています。

福田:
東京と京都と、高松、波佐見、静岡で。

――:
全体でのメインテーマなどはあるのでしょうか?

福田:
いえ、各会場それぞれでやることは違ってて、波佐見はまず、今回の器がメイン。それに伴って、「冬至まつり」というテーマになってます。
色々なひとに来てもらって、西の原を盛り上げようという感じです。

高松は「まちのシューレ963」、あとは静岡(三保原屋ロフト)と、京都の「TOBICHI」さん、渋谷PARCOの「ほぼ日曜日」さん、表参道(Pinpoint Gallery)も……今回のお皿も色々なところで同時に置いてもらえると思います。

――:
波佐見でのイベントには、開催初日の14日と15日の土日にいらっしゃって、コーヒーを淹れてくださるとお聞きしましたが…!?

福田:
コーヒーのコンテンツをやってましたからね。ほぼ日の山下さんと一緒に、コーヒーと、絵本の読み聞かせもやろうという話になってます。

――:
豪華ですね。Hasami Life編集部員も楽しみにしています!

西の原9店舗散策まとめ」波佐見の会場となる西の原の紹介はこちら。福田さんのイラストとも雰囲気が合いそう。

――:
波佐見にいらしたときのこともお聞きしたいです。
町並みや人に対しての感想はいかがでしたか?

福田:
最初は商品づくりをお願いする窯元さんなど、色々行きました。
会う人会う人みんなくせが強くって。でもなんかこう、それぞれ職人さん、プロフェッショナルな方ばかりで。

色々行って、波佐見のことを教えてもらうなかで、波佐見ってこういう成り立ちでこういうふうになっているんだというのを学び……その「伝統と新しいもの」のうちの「新しいもの」の比重が少し大きくなっている産地だな、というのがわかりました。

最初は、昔からあるところって、よそものが行くとちょっと緊張するんだけど、そういった感じはあまりなかったですね。
ウェルカムな雰囲気がありました。

――:
わたしも初めて波佐見に来たときに、それをすごく感じました。

福田:
そうですよね。あとで色々お話を聞きましたけれど。
有田から独立して、波佐見だけでやるってなったときに、「じゃあ外の人を呼ぼう」となったところがよかったっていう。そこに僕らもこうして乗っからせてもらってますし。

波佐見焼のブランドを築いた立役者・兒玉盛介さんに聞く、波佐見焼の誕生秘話
400年の歴史を持つ波佐見が「波佐見焼」として誕生し、発展した経緯については、こちらの記事をご覧ください。

あとは、以前コラム(「福田利之のホーム&ロック 72『なにかと九州』」)にも書いた窯元の職人さんの発言も印象に残ってます。
そして、そのだいぶ年上の職人さんに対して、開発担当の人がツッコミまくってるから(笑)。その風通しのよさもすごくいいなと思いました。

しかも、下の世代から色々言われても、怒って突き放すんじゃなくて、楽しんでる感じもあったし。そういう柔軟性みたいなものがあるから、波佐見はこれからどんどんおもしろくなっていくんだろうな、という気がしています。

伝統を守りつつ、新しいことをやっていく。そんな波佐見の影響力っていうのは他産地、日本中に及んでるんじゃないかな。時代が変わってきている、というのもあると思いますけどね。


――:
伝統が長くて大きいほど、守らなければいけないものも多くなります。でも、それだけではどうしても、衰退してしまいますものね。

福田:
伝統を守ることはとても大事ですが、守りすぎてそれ一辺倒だとやっぱり……理解されなくなっている部分も多いので。

波佐見はそうした苦しさをちょっと前に経験したって感じですよね。でも、逆に言うと、みんながそこに追いついてきて同じになってきたら、また新しいことをしなきゃいけませんよね。

デザインの部分も、今後はつくる人のモラルを守っていかないとですね。
焼きものに限らず、AIが普及してきて、「誰が自分で考えてやったか」が付加価値になるので、そこにも焦点を当てて販売をしていかないと。

波佐見町という場所で、この人はこういう人で、どういう考えでつくってて……というのがわかること。そういうことに力を入れていくのが大切だと思います。

――:
Hasami Lifeもまさしく、「顔が見える焼きもの」を意識し、町や人から得られる生の情報を大切にして運営しているメディアです。
今回の福田さんのお話も受けて、今後も信念を持って発信を続けていきたいと思いました。

以前の来町時にプレートに描かれたイラストを添えて。

さて、イベントを控えていて、まだようやく新しい器ができたばかりのところで聞くのは少々気が早いのですが、今後、波佐見でやりたいことはありますか?

アイテムに関しては、色々な展開を見てみたいです。今回のような雰囲気で継続するのもありでしょうし、思い切ってまったく別のテイストにしてみたり、テーマを変えてみたりすることもあると思いますが。

福田:
そうですね。豆皿の人気が出るのであれば、シリーズ化して、年に4枚くらい出していけたら。今回とは別のレイアウトもやりたいし、今回みたいな流れ錆を使ったよりシンプルなシリーズもやりたい。


――:
イヤープレートつながりで、干支の箸置きなどはどうですか?

福田:
干支の箸置き。たしかに、それはいいんじゃないですかね。人々の生活に根付いた焼きものとして、日常で使うようなものは、やっぱり波佐見でつくりたいという想いはあるので。

――:
箸置きも平面の板に絵が入っているようなシンプルなものだと、より福田さんの絵が生きてきそうです。

福田:
そういう日用食器的な部分でやりたいなとは思います。

あとは、なんか「発明」したいなって。めちゃくちゃ大変なことだとは思いますけど、誰もつくったことのないようなものをみんなでつくってみたらおもしろいだろうなと。
「いらないけどいるもの」もひとつあったほうが。

――:
嗜好品のポジションですね。


福田:
ほかにやりたいこととしては、コーヒーに関する仕事がわりと多いので、形からオリジナルでマグカップとかつくれたらいいなとは思います。そうすると、コーヒー関係の方たちとも一緒に仕事できそう。

――:
こだわりのコーヒーとのセット販売とかもできたら素敵ですよね。
やっぱり波佐見は日用食器が主なので、マグやカップ&ソーサーなどは需要もあっていいと思います。

今回のイヤープレートのようなインテリア路線の展開も魅力的ですし、それに加えて毎日の食卓で出番があるタイプのアイテムもほしいです。

福田:
呉須でやってもいいなと思いますね、そうしたカップとかも。
形は新しく考えてつくりたい。絵柄はシンプルで、高台の裏側にマークが入っているくらいの。

――:
奇をてらいすぎないラインが難しいですね。

福田:
そうなんですよね。そこが悩みどころなんです。絵柄だって、あんまりやりすぎてもね。
みんな最終的にはシンプルなものを求めるので、そこがいつも難しいなと思ってます。

――:
福田さんはテキスタイルも手がけられていて、「衣・食・住」という要素を意識されていると伺いましたが、器はまさに「食」の分野ですね。
「食」ではやはり、食べ物がメインですが、食べ物は食べたらなくなってしまうので、消えずに食べ物を引き立て続ける器って「最高の脇役」ですよね。

福田:
うん。名バイプレーヤーになりたい。

「衣・食・住」が大事っていうのは、世の中になんでもあるし、色々なデザインがあるなかで、なくならないものがこの要素だと思うから。そこにコミットした商品づくりをするのは、僕らが生き残っていくうえでも大事だと思う。
一方で、文化的なもの、オブジェ的なものもあってもいいよね。


――:
バランスが大切ですね。

しかし、イラストを軸にして、それを紙だけでなく、さまざまなプロダクトに落とし込んで、ちゃんと仕事にしていくことって、本当にすごいですよね。

福田:
最初はみんな一緒だと思うんですよね。
僕も最初はめちゃくちゃ絵が上手だったわけでもないし、もっと周りにうまい人はいっぱいいたし、学校の絵の成績がよかったかといわれるとそうでもないですし。でもやりたいなっていう気持ちだけでした。

まあでも色々、苦杯をなめてきたし、いやな思いもたくさんしたし……そこは、いい意味で無神経だったんですかね。『もうダメだ』って思うことはありましたけど、『ほんとにダメだからやめよう』とは思わなかったっていうのがよかったんじゃないですかね。
なんとなくでも続けていけば、いい出会いもあるし。

いや、ラッキーだったと思います。冗談抜きで。
この職業はかなり「運」ってあるなと思いますね。


――:
クリエイティブの世界って、なんでもそこに通じるものがありますよね。
でも、決して「運任せ」ではない。

福田:
そうですね。たしかに「運任せ」ではないです。その運をなんとか……なんとかこう、ちっちゃくても手繰り寄せていく、というのはあると思います。

――:
そこを尊敬します。今でも常に挑戦されているんだろうなと思います。それこそ、今回の企画もですが。

福田:
そう言っていただけると、なんかすごいことのように聞こえますけど、「挑戦」っていうよりは、目の前のやりたいなってことをやってきたし、「これはしんどいな」って思うことも何かしらにつながりそうだと感じたらやったし。

でも、なかにはほんとにやってはいけないこともあるので、そこの見極めだけはしっかりつけられるようにしてきたつもりです。それでもやっぱり失敗はありますけどね。

――:
迷ったら相談する相手はいらっしゃったんですか?

福田:
いや、わりともう、人に話す時点で決着しているところはありますね。そこは図々しいです。細かくは色々あったかもしれませんけど、大きく言えば、全部自分で決めたかな。決めたっていうか、ほんとに、目の前にあることに向かってひたすらやって、気が付いたらこんな感じっていう。

それを「チャレンジ」って言ってもらえるんだったら、そうなのかもしれないけど、本人はあんまり「よーし、やるぞ!!」っていう感じではなかったですね。

――:
やらないとわからないですものね。でも、その「まずやる」っていうのが意外と難しい。見習いたいと思います。

今後も、波佐見焼とのコラボを含め、福田さんのさまざまなチャレンジに期待したいです!

福田:
期待してください!(笑)
波佐見焼の今後も楽しみにしています。

=====

最後には、福田さんのこれまでの歩みや仕事に対する考え方まで語っていただき、取材した編集部も福田さんからパワーを頂きました。

今回のコラボアイテムには、開発に携わった波佐見のひとたちと、企画に賛同し、原画を描きおろしてくださった福田さんの技術や想いがこもっていて、本当に素敵な器に仕上がっています。
ぜひ、お手に取ってみてくださいね!


福田さん、お忙しいスケジュールの合間を縫って、取材のお時間を頂き本当にありがとうございました!


イベントのお知らせ▼

福田利之×波佐見 コラボレーションアイテム発売記念展
同時開催:冬至まつり

日時 2024年12月14日(土)~12月20日(金) 11:00~18:00

会場 西の原 monné porte gallery(水曜定休)
〒859-3711 長崎県東彼杵郡波佐見町井石郷2187-4

開催スタートの14・15日は「冬至まつり」。
福田利之さんが会場にいらっしゃるほか、おいしいもの、楽しいものが集うスペシャルなマーケットが開かれます。
また、東京での「大福田展」と連動し、「ほぼ日」グッズも販売。ほぼ日ファンも必見の内容ですよ。

この記事を書いた人
Hasami Life 編集部(すぎた)