波佐見焼に欠かせない石膏型の秘密。

波佐見焼に欠かせない石膏型の秘密。

2023.10.20

波佐見町の陶磁器の歴史は400年ほど前から。江戸時代から庶民用の器を作っており、昔から大量生産を行ってきました。

現在、波佐見焼の大半は石膏型で作られています。この石膏型は昭和初期頃に美濃地区から職人を呼び、「鋳込み講習会」などを行うことで生産が普及しました。

石膏型の使い方や種類、「鋳込み」についてはこちらから


「廃石膏」ってなに?

石膏型は、一般的に100回程度使用をすると摩耗し、同じサイズの器を作れなくなるため廃棄されてしまいます。使用できなくなった石膏型は「廃石膏」と呼ばれます。

(画像提供:波佐見町役場)

この廃石膏は一般的なごみと違い専門の処理をしなくてはいけません。一部の石膏はコンクリートの材料として再利用されていますが、コストが高くついてしまうほか、近くにリサイクル施設がないといった問題もあり、波佐見町では廃棄の仕方について長年悩んでいました。

20年ほど前からこの問題が大きくなっていき、ついにコンサルタントの河野公彦さん(inc1合同会社)とともに、官民一体となって廃石膏問題について動き出しました。5年ほど前のことです。

以前はリサイクルコストが埋め立てよりも高い傾向がありましたが、様々な取り組みの結果、現在はリサイクルコストは下回るようになりました。


使い終わった石膏型

石膏型を粉砕する機械(高山独自のもの)

また、石膏は水に溶けやすい硫酸カルシウムを含んでいるので、土壌の深くまでに栄養を与え、作物にとてもいい影響を与えることも分かりました。波佐見町では昔から半陶半農が行われてきたこともあり、すでに廃石膏を砕いて粉にしたものを田んぼや畑に土壌改良剤として撒くことが実験的に進められていたのです。この結果から、今年3月(2023年)に正式に肥料として認定され、今後「波佐見のめぐみ」という名前で販売されることが決まっています。


粉砕し粉にした石膏(画像提供:波佐見町役場)

農業用の機械で畑に撒く(画像提供:波佐見町役場)


波佐見町にはお土産がない?

波佐見町では焼き物以外に気軽に購入できるお土産品がありませんでした。6~7年前からお土産品の開発も行われており、フードコーディネーターである平尾由希さん監修のもと、2年ほど前に「陶箱クッキー」が発売されました。

クッキーに使用されているのは小麦ではなく米粉。この米粉は、廃石膏を撒いた田んぼで作った米粉専用米「ミズホチカラ」を粉にして使用しています。製造しているのは、波佐見町の鬼木地区にある鬼木加工センター、販売は波佐見町観光協会(以下略、観光協会)とオンラインサイト、ふるさと納税で行っています。


鬼木加工センターでは味噌や柚子胡椒、漬物やお菓子などを製造・販売しています。(画像提供:波佐見町観光協会)

陶箱クッキーは毎週土曜日に販売されています。陶箱はaiyu和山、外箱は岩嵜紙器が手がけています。(画像提供:波佐見町観光協会)

季節ごとに中身が変わったり、陶器の入れ物は季節限定色が販売されるのも人気の理由の1つ。(画像提供:波佐見町観光協会)


町の問題解決のために

地域の課題に取り組みそれを活かして新たな循環を作っている波佐見町。

窯業や農業、販売までをまち全体で取り組むことができる循環型社会は徐々に町に浸透しています。


画像提供:inc1合同会社

陶箱クッキー以外にも地域循環で生産しているのが「八三三米(はさみまい)」です。

画像提供:波佐見陶磁器工業協同組合

主に波佐見町の波佐見陶磁器工業協同組合(以下、工業組合)が取り組んでいる事業で、窯元や生地屋などで集めた廃石膏を、農家が田んぼの土壌改良材として再利用して栽培した新ブランド米です。

八三三米を単体で販売するだけでなく、選べるお茶碗と箸置き&波佐見の郷土料理を紹介したガイドブックとセット販売もしています。このセットは工業組合や観光協会、ふるさと納税で販売中です。

画像提供:波佐見町役場

他にも、昨年から波佐見町の長崎県陶磁器卸商業協同組合(以下、商業組合)が中心となり、廃石膏を撒いた畑でさつまいもを作っています。昨年の「HASAMI no WA」イベントでは陶片で焼いた「磁器焼いも」や八三三米と一緒に炊いた「いもごはん」が販売されました。


割れない限り半永久的に使える波佐見焼。やきものの産地として続いていくためにも、町全体で問題解決をしていくだけではなく、器を使っているすべての人が産地の現状についてもっと知っていくことも重要です。



今年も開催『HASAMI no WA』

今年は11月3日から11月5日の3日間開催されます。開場時間は、9:00~17:00 までです。会場では商業組合に加盟している商社が「HASAMI drop」と呼ばれる製品の基準を満たさなかった商品の販売を行ったり、工業組合の八三三米や磁器焼いもなどを販売しています。他にもスタンプラリーなど参加型イベントもありますので詳しくはイベントホームページをご覧ください。

この記事を書いた人
Hasami Life 編集部