THE HASAMI-YAKI vol.7
波佐見焼は「分業制」で大量生産されています。大量生産といえども職人たちによる手仕事も多いので、町全体で協力しあいながら、たくさんつくれる仕組みづくりをしているのです。
今回は分業制のなかでも、「型屋」をクローズアップ。多くの方は「焼きものをつくる」というと、ろくろを回して土を成形しているシーンをイメージするかもしれませんが、現在波佐見町では型を使う場合がほとんどです。その型を専門につくっている職人が、波佐見にはいます。
「型」を使った焼きものづくりって?
型職人の仕事のすごさを知っていただく前に、まず「波佐見焼ってどうやって作られるの?」という説明をさせてください。
焼きもののベースになるのは “生地”。生地のもとになるのが、どろっとした水分の多い流動体で、泥漿(でいしょう)といいます。この泥漿を型屋が製作した型に流し込むことで、型の原料である石膏に水分を吸収させて生地を成形していくのです。身近なものにたとえるなら、溶かしたチョコレートを型に流し込んでハート型や星型にするようなイメージが近いでしょうか。つまり、波佐見焼を一度にたくさんつくるためには「型」が必要不可欠なのです。
もっと詳しく型の仕組みについて知るため、波佐見町内にある長崎県窯業技術センターにお伺いしてきました。案内してくれたのは、デザインが専門分野の友池知郁(ともいけ はるか)さん。
「焼きものの型って、ちょっとややこしいんです。わたしも最初は理解するのに時間がかかりました」と友池さん。
型ができるまでの複雑な工程について、友池さんがわかりやすく図解したものを用意してくれました。
「すこしはイメージしていただけますか? 図解だけではわからないと思うので、窯業技術センターに展示してある実物を見てみましょう」と実物を見ながら順番に説明してくださいました。
最終的に使用型を量産するために、ケースを複数つくることになります。捨型のクローンをつくるイメージですね。使用型が完成すれば、生地屋が一度にたくさんの生地をつくることができます。その生地に窯元が絵付をしたり、釉薬をかけたりして焼き、波佐見焼はできあがります。
焼きものは、成形方法の違いで4種類の型を使い分ける。
今回紹介してくださったのは、「排泥鋳込み」という成形方法の型。つくる焼きものによって、いくつかの成形方法があります。型屋さんは依頼内容に合わせて、成形方法の違う型をつくっています。
友池さんいわく、近年は型づくりにも最新の技術の導入も進んでいるそうです。
「窯業技術センターには3Dプリンターがあるので、パソコン上で図面を引いて、原型をつくることもできるんですよ。窯元さんからの依頼で制作協力しています」
型づくりでもっとも重要な、原型師の仕事。
ここからはさらに成型全般に詳しい、小林孝幸(こばやし たかゆき)さんにバトンタッチ。長く窯業技術センターで働かれている方です。
「型屋さんの仕事でもっとも重要なのは、原型づくり。原型師が手作業で削ってつくります。この原型があれば、あとは石膏を流して製品をつくるための型をつくることができます」と小林さん。
型屋の仕事のすごさは、原型づくりにあるのですね。
「焼きものの原型をつくるには、熟練の技が必要になります。波佐見町内にはだいたい15軒ほどの型屋さんがあり、それぞれの会社に原型をつくる原型師がいますが、高齢化が進んでいて、ほんとうに貴重な技術者になっています。現在は3Dの技術も導入していますが、焼きものの特性を熟知していないと使いこなせない部分があります」
窯元が自社で原型をはじめとした型づくりまで手掛けることは稀。多くの場合は型屋に依頼をしています。型屋で原型をつくれる原型師は、どこもほとんどが50歳以上。いちばん若くて30代半ばだそうで、今後の人材育成が課題とおっしゃっていました。
「原型師として働く人が増えたらいいですね。さまざまな経験と勘が必要になる仕事なので、どうしても修行期間が長いんです。少なくとも、6〜7年はかかります。ですが、一人前になればしっかり稼げる職種ですし、独立もしやすい。魅力も多いのでぜひ若い人に挑戦してほしいです」
今回は窯業技術センターで、型のつくり方から、型屋の現状まで教えていただきました。分業制のうちのひとつ、型屋。どうやらとっても奥が深そうです。
次回は型屋を営む原型師の職人に、お話を伺います。