窯元探訪【一真窯】眞崎善太さん vol.1 焼きものは “もやう”もの
波佐見町には全部で59つの窯元があります。そして小さな町の至るところに、波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。このシリーズでは、窯元を順番に尋ね、器づくりについてはもちろん、ふだんは見られないプライベートな顔までをご紹介します。
トップバッターは、波佐見町の中でも多くの窯元が集まることで有名な中尾山にある『一真窯』さん。デザイナー・作家である眞崎善太さんにお話を伺いました。
武士出身、13代目の窯元
―― 中尾山には、今でもたくさん窯元があるんですよね?
眞崎さん(以下、眞崎) 今は16〜17ぐらいかな。これでもずいぶんと減ってね。
―― 全盛期はもっとあったのですか?
眞崎 そうね。波佐見焼は江戸時代にスタートしてますから、どの時代を全盛期と言うかにもよるけど、もっともっとありましたね。今風の器になってからだとして、昭和30年代以降? 僕が生まれた昭和33年は、中尾山の人口は大体1300人なんですけど、今は340人くらいです。
―― 人口も減っているんですね。
眞崎 中尾山でやられてた方が、生産ロットや供給が間に合わないからって、山を降りて町の方に工場を作っていったんです。西海陶器さんも元々はここ中尾山にありましたもんね。
―― 一真窯さんはいつからあるんですか?
眞崎 一真窯としては平成元年からです。でも、先代も先々代も窯元だったんですよ。眞鐵(しんてつ)窯という名前でした。薪や石炭を燃料としていた時代まではやってたんですが、ガス窯に変わる時について行けず、無念にも一旦閉じてしまったんです。
―― それでは、善太さんは3代目?
眞崎 いえ、眞崎の姓としては13代目。江戸時代は武士だったんです。つまり、今でいう管理職。江戸時代は、登り窯も藩が管理してたんですよ。
民間の産業になったのは、明治になって廃藩置県が制定されてからです。使われていた登り窯も取り下げてあげますよって。炉内を1、2、3、4、5、6、7と数字で仕切って、「3番窯ババフクザエモン」みたいな感じで割り当てて。「4番窯マサキテツタロウ」、「5番窯イチノセキザイエモン」、「6番窯タナカキュウハチ」……っていつまで言わせるの?(笑)
焼きものは“もやう”もの
眞崎 登り窯のことは「もやい窯」ともいうんですよ。“もやう”っていうのは、「みんなで協力をしながら」っていう意味。農家でいうところの“結い”の精神かな。水も流れ処は1つなんだけど、みんなで共有しなくちゃいけないじゃないですか。登り窯も火の焚き処が1つですから。
―― みんなで協力して焼きものを焼いていたんですね。
眞崎 だって協力しないと成功しないじゃない? 焚き処は一番下にあって、火が回って次の窯に行くわけですから。うちの窯が1000度ぐらいまで上がった頃には、隣の窯がもう500〜600度ぐらいになってますから。やっぱり、隣同士は仲良くしないと。だから“もやい”ですね。もやいもの同士。
―― 仲良くしないと!みたいな精神は、今も?
眞崎 うーん、どうだろう? 昔の人はよくケンカもしてたから。仲がいいのか、悪いのか(笑)。分業制になって、石炭窯になってからは、それぞれ単窯を持つようになって、一緒の窯で焼かなくてもよくなりました。今、中尾山に残ってる大きな煙突は石炭窯の名残なんですよ。
―― 登り窯の後に石炭窯に変わったんですね。
眞崎 そうですね。でも、石炭窯はかなり難しかったと先代から聞きました。うちもかなり失敗してるみたいです。ガス窯に変わってからは、みなさん活躍されてる。安定して焼きものが作れるようになった。大成功!
―― 薪よりも石炭の方が難しかった。
眞崎 火点けに時間がかかるしね。1回失敗したら、借金を負うわけですよ。大きい窯にいっぱい焼きものを入れるでしょう? 成功すればいいんでしょうけど、失敗したら燃料代、人件費、あれこれ全部パー。僕は当時の事を知りませんけど、夜逃げをしたりする人もいたそうです。賭けですよ。
―― じゃあ、石炭の時代に窯元が減ってしまったとか?
眞崎 石炭窯になってからは、個人窯が増えたんじゃないですか。さらにガス窯になってから、もっと個人窯が拡大したっていう。まあ、石炭窯の時代っていうのはそう長くないからですね。大正時代から昭和20〜30年ぐらいまでかな? 30年代入ったら、ガス窯にぐーっと切り替わってますからね。
―― ガス窯〜現代までは、焼きものづくり自体、大きく変わってない?
眞崎 そうですね。大きくは変わっていないです。ただ、燃料ガスになったことで、今度は窯の種類が増えましたね。うちのはシャトル窯。もっと大量に焼くのが、トンネル窯やローラーハース窯ですね。
長崎県東彼杵郡波佐見町中尾郷670
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【一真窯ショップ"とっとっと”】
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