窯元探訪【永峰窯】vol.32 長崎隆紘『“小規模”に注目した、着実で丁寧なモノづくり』
波佐見には、町のいたるところに波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。
今回、おじゃましたのは、『永峰窯(えいほうがま)』さん。波佐見町の永尾郷地区に1936年に創業。
4代目社長の長崎隆紘さんご夫婦とご両親をメインに、家族で営む窯元です。小規模ならではの利点を生かしたモノづくりのお話と、4代目の隆紘さんが思う今後の展望を前後編に分けて伺います。
焼きもので食べていく、波佐見焼のリアルと現実
隆紘さんが4代目を継ぐことになったのは2017年、25歳のとき。いまから7年前のことでした。40、50代で代替わりをする窯元が多いなか、20代の社長が代を引き継ぐことになった永峰窯さんは珍しかったそう。
三兄弟の末っ子という隆紘さんですが、後継者になるまでにはどんな経緯があったのか聞いてみました。
「二人の兄貴次第かなと思っていたところはありました。高校卒業後はとくに目的もなく東京に行って、20歳になる前に波佐見に戻ってきたんです。そのときは地元はまた出るつもりでした。
でも21歳になる頃からここ(永峰窯)で働くことになり、ろくろ教室や絵付教室にも通い始めて。そうして、焼きものの面白さや、この仕事が『お客さんに喜んでもらえるもの』という素晴らしさを知りました。焼きものに目覚めて、純粋に楽しくて仕方なかった頃です。
2年くらい経ったときに、兄たちは戻ってくる気配もなく、『頼むぞ』みたいな流れになっている空気を感じました(笑)。それで正式に継ぐことに。」
先代であるお父さんは、後継者についてはどう考えていらっしゃったのか気になります。「継いでほしい」と言われたことなどはなかったのでしょうか。
「逆です。父は父で事業を縮小し、従業員を減らして最終的に夫婦2人で食べていけるくらいにしようと考えていたところでした」
量産型の波佐見焼では、2人体制でやっているケースはほぼないといいますから、とても大きな決断だったことがうかがえます。
そのタイミングで会社を継ぐことになった隆紘さんは、波佐見焼が置かれている実情に直面します。
「それまでは、焼きものだけで食べていけること、家族を養っていけることが当たり前だと思っていました。でもそれが実はまぁまぁ『奇跡の連続』だったんだなと」
ここでいう、 奇跡の連続というのは……。
20年ほど前までは、波佐見町で作られた器も「有田焼」として出回っていました。ところが2000年頃から厳密な生産地の表記が必要となり、「波佐見焼」としてリスタート。町全体で分業制で取り組み、以降、広く知られるようになったことを隆紘さんはそのように捉えているのだといいます。
※波佐見焼の歴史については、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
“生き残り”をかけ、試行錯誤する日々
波佐見焼のリアルに直面した隆紘さんは、SNS戦略とECサイトに着目します。業界でも現在ほど定着していない頃でした。
「いったんしぼんでしまったこの会社をイチから立て直さなければならない状況でした。うちはこの業界の中では量産の生産力もなく、かといっていいデザイナーさんがいるわけでもない。生き残るためには、周りの皆さんと同じことをしていてもだめだなと考えました」
社長になって今年で8年目。その間には急速なEC市場の拡大やコロナ禍などいろいろなことがあり、作り手と買い手の距離感も変わってきました。
「はじめの頃は、SNSとECサイトを見据えた商品開発を続けて、方向性もはっきりしていました。実際、この6年ほどで業績も伸びました。でもだんだん世の中も同じ方向に走るようになってしまった。だから個性を生み出すには、SNS戦略とかを見直していったん逆方向に走ってもいいのかなとか思ったり。
コロナ禍でおうち時間が増えたことでオンラインストアの売上は右肩上がりでした。この調子なら従業員を増やしてもいいかなと考えていたときにコロナ禍が明け、いまは業績に少なからず影響が出ている状況です。もう少し様子を見ようかなと考えています」
現在は、隆紘さんご夫婦、お父さん、お母さんの家族4人に、パートさん2人を加えた6人体制。
隆紘さんはデザインも含めた業務全般を担当しています。新しい商品を生み出すときは、どんなものからインスピレーションを受けたり、インプットをしているのでしょうか。
「ほかの器をチェックしているというより、雑貨屋さんやカフェ、化粧品やアパレルなどを気にして見ています。机の前に座っているよりは、出かけるようにはしていますね」
永峰窯の商品ラインナップでは、ペールカラーが多用されていたり、美しいグラデーションが表現された商品が印象的です。
「売上はいちばん大きいです。でも実は、そろそろ別のラインでいきたいという気持ちもあります。
シリーズを立ち上げた頃は7〜8色で試していたんですけど、なかにはB品が出やすいものや色がきれいに出にくいものもあって、最終的には6色で展開するようにしました。一年を通して常に人気なのはグレー。冬はこの色が人気、春はこの色がよく動く、っていうのもあるんですけど、グレーは年中売れるカラーですね」
下の写真左は、直営店限定の「HALF」シリーズ。「掛け分け」という技を駆使した人気アイテムです。掛け分けは、ひとつの作品に色の異なる複数の釉薬を掛けることで、焼きものが持つ表情をより豊かにしてくれます。
では、「HALF」シリーズは、どんなきっかけで誕生したのでしょうか。
「マット釉を使った商品は、お話ししたようにグレーが人気なんですが、火から離れたところでしか焼けない。だから反対側には直火があたっても大丈夫な釉薬を使ってみたらどうだろう? と、2トーンで実験的に作ってみたら好評でした」
シンプルなルックス、マットな質感、比較的どんな料理にも合わせやすいのが人気の秘密です。
「この商品は、SNSと相性がよかったとも思います。ただ、マット釉を使っているので、一度に焼ける数が限られています」
マット釉は、窯のなかでも火が直接当たらない場所を選んで焼く必要があります。だからこそ個体差も生じやすくB品が出やすいのだといいます。
「なかでも、人気のグレーはとくにB品が出やすいです。マット感が大切なのに焼きすぎるとツヤが出てしまったり、色味も微妙に変わってきてしまいます。量産してしまうと商品にブレが出てしまうんです」
数を多く焼けないというのは、商売的にデメリットにもなるのでは?と思ってしまいますが、そのあたりはどうなのでしょう。
「マット釉は大量に焼けないからこそ、うちのような規模の窯には合っているんですよ」
なるほど、窯の規模に着目したモノづくりがうまく回っているんですね。
「大量生産に向いていない」という一見デメリットとも思える現状を、「小規模経営だからこそ」の視点でメリットに変換し、プロダクトや売上という形にしていく—、少数精鋭の底力を見た気がしました。
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後編では、モノづくりとの向き合い方を通して、これからの永峰窯の展望などを伺います。
(つづく)
【永峰窯】
〒859-3705
長崎県東彼杵郡波佐見町永尾郷306-2
公式サイト
https://www.eiho-porcelain.com/index.html
オンラインショップ
https://eiho-gama.stores.jp/
Instagram
https://www.instagram.com/eiho_gama/