窯元探訪【光春窯】Vol.35 馬場春穂『若い人から刺激をもらい、自らの手で作り続ける』

窯元探訪【光春窯】Vol.35 馬場春穂『若い人から刺激をもらい、自らの手で作り続ける』

2024.08.30

波佐見焼の「源流」とも呼ばれる中尾山で1984年に創業した『光春窯(こうしゅんがま)』さん。

前編では京都での修行時代のお話や繊細な色表現についてお聞きしました。後編では根強い人気のある商品「ホタルめだか」を開発した経緯や、機械と手仕事の関係、若手育成への思いについて伺います。



20年来のロングセラーアイテム「ほたるメダカ」が生まれるまで

光春窯さんの代表作でもあり、20年という長きにわたり愛され続けている「ほたるメダカ」。

シンプルで日常使いしやすい形に、可愛らしいメダカが泳いでいるかのようなデザインが魅力です。メダカの部分から中に入れたものや光が透けて見えて、ぽっとホタルの光が灯ったように見えます。

生乾きの生地をくり抜いて模様を施す「透かし彫り」に透明な釉薬を埋め込んだ「ほたる手」という伝統的な技法で作られています。


「50年ほど前、この地域で『ほたる手』がブームになった時期があるんです。100〜200人ものお客さんを呼んで結婚式をしていた時代でしたので、引き出物を中心にギフト需要が伸びていました。

ドットや桜の花びらを彫るのが定番でしたが、ブームが終わってしばらくして、ほたる手の技法を使って斬新でちょっとモダンなものを作りたいなと思ったときに思いついたのがメダカです。

波佐見では丹心窯さんの「水晶彫り」は、一つひとつ手が込んでいてきれいですよね。

うちが作るものはあくまで雑器で気軽に使えるものを目指していて、フォルムを変えつつも長く続けていきたい商品です。この生地を作る人が激減しているので、それも自社で内製化して作っていかなきゃならないかなと思っています」



3Dプリンターの導入と、機械と手仕事の関係

現在は家族とパートのスタッフを含めると15名が働いている光春窯。月の生産数は16,000個ほどで、馬場さんのお父様の代では同じ量を作るのに40〜50人のスタッフが働いていたそうです。

「外注している工程もありますが、今は昔の5分の1の人手で済みます。燃料の効率化や焼き損じを減らすため窯を自動制御に変えるなど、付加価値のある機械化は進めています」

5年ほど前には3Dプリンターを導入。新たな技術の研究開発も積極的に行っています。

「3Dプリンターではパソコン上で図面を引き、原型を自動的に削り出すのでオリジナルの型が作れるんです。小ロットの生産にも柔軟に対応できるようになりました。人材が減ってきている分、機械化は大事かなと思います」

とはいえ、人間の持つ勘を必要とし、言葉や数字だけでは伝えきれない部分も多くあると馬場さんは話します。

「たとえば釉薬をかけるときには濃度計を使うけれど、同じ濃度でかけたとしても形や土の質によって、あるいは素焼きしたときの焼き締まり方でも釉薬のかかり具合は違います。最後は人間の目や手触りを頼りに作っていくんです」



「恩恵を受けたのは自分たちのほうだった」若手育成

馬場さんは若手の育成にも熱心で「『焼きものが好きだ』『焼きものを勉強したい』と言って来た人は拒まずにほとんど受け入れてきた」と言います。

「10年間、波佐見町の事業で、この地区の窯元で大学生を研修生として受け入れていたんです。近くの宿泊施設に寝泊まりして、窯での作業を手伝いながら20日間ほどで自分の作品を作り上げます。

『育成』と言いつつ、自分が育成されているというか。若い人からの情報や感覚に触れないと自分も成長しないじゃない。研修を通して窯業大学の子たちや波佐見町の職員の方とのつながりもできて、今でもやりとりできる関係になりました。

通常業務をこなしながら研修生を受け入れることは大変だったけれど、学校を卒業してからこの地区の窯元に就職する子もいて、結果、恩恵受けたのは私たちのほうだったねって仲間ともよく話すんです」

馬場さんの息子、康貴さんも陶芸の道に進み、岐阜での修行を経て数年前に波佐見に帰郷。家業を手伝いながら、国内外の展示に出展する作家としてオブジェなどの作品を作っています。

波佐見町の中にも新しい作家さんをサポートするような仕組みが必要なのではないか、と馬場さんは話します。

「世の中には移住という話もたくさんあるけれど、波佐見町の中にそういう場所がありそうでない。この地区にも30軒ほどの空き家があるんですが、インフラや設備など手を入れないと住めないので空いたままになっています。

窯元で修行をして次の道に進むにしても3年ほどはかかります。移り住んで焼きものを学びたい、手工芸をしたいという人向けの住まいや訓練の場がもっと増えるといいですけどね」

最後に、馬場さんご自身が今後やりたいことについても伺いました。

「自分で手を動かして商品を作りたいですよね。現場の仕事をもっとしたいなと。もちろん経営は会社を存続させ、生活をしていくうえで絶対に必要なことです。特にうちみたいな少量多品種がモットーである窯では、管理しなければ利益が出ませんし、仕組みづくりや工場内の情報共有も大切。

一方で、自分の手を動かす時間も持たないといけないなと感じています。指導は大事だけど、その前に自ら作ってみる。図面と立体では違いますから。それがものを『伝える』ということにつながるのではないでしょうか」

冗談も交えながら一つひとつの質問に真摯に答えてくださった馬場さん。インタビューを終えると「工場内は自由に見て行ってくださいね」との言葉を残し、足早に作業へと戻って行きました。

最後に聞かせていただいた「ものを作っていたい」という言葉のとおり、すぐに手を動かしはじめる馬場さんの背中からは、静かに内側に秘めた、ものづくりにかける熱き思いを感じとることができました。


光春窯をはじめ20近くの窯元がある中尾山では、桜の咲く頃に「桜陶祭」、秋には「秋陶めぐり」が開催されます。焼きものの直売や普段はなかなか見ることのできない窯元の工場の一般公開もありますのでぜひ足を運んでみてくださいね。


【光春窯】

〒859-3712
長崎県東彼杵郡波佐見町中尾郷627

公式サイト
https://www.koushungama.com/

オンラインショップ
https://koushungama.theshop.jp/

Instagram
https://www.instagram.com/koushungama

この記事を書いた人
寺田さおり

会社員としてタウン誌・企業広報誌の編集部でコンテンツ制作を経験し、独立。現在はライター・編集者としておもにライフスタイル、ものづくり、地域、働き方をテーマに取材・執筆をしている。また、フードスタイリストとして料理撮影でのスタイリングを手がけることも。Instagram @sor.trd