
窯元探訪【重山陶器】vol39 太田一彦『器は「最高の脇役文化」』
前編では、重山陶器のトータルなものづくりをさまざまな視点でうかがいました。
後編では、その裏側に見える工夫、ロングセラーが生まれたきっかけなどについて聞いていきます。
ものづくりに合わせた「動線」の重要性
最盛期は100人ほど従業員がいたという重山陶器。そのため工場内はとても広く、動線がきちんと計算された造りになっています。
「1974年から約20年間、中小企業庁のモデル工場だったことがありました。工場見学もたくさん受け入れましたね。
素焼き、絵付け、釉掛け、焼成、そして検品……。このレイアウトは当時、隣にあった窯業試験場の職員さんといっしょに考えたものです。動線を考えて、その頃から床も段差なくフラットなつくりでしたね」
入口から出荷口まで、流れるような動線。取材をしているときも、とても見やすく工程を理解しやすいなと感じていました。
量産だからこその無駄のないレイアウトがものづくりに大きく関係しているんですね。
「いい形にはなってるんですよ。ただ、100人いたときの動線なので、30人ほどになったいまは広すぎるかなと思うこともあります。たとえば、モノの移動なんかは時間がロスしていたりとか。素焼きと本焼成の窯が両サイドにあるから、縮めるのも難しいんですけどね」
ロングセラー商品と、デザイン
昭和時代から続くロングセラーも多い重山陶器。ときには「昔、実家で使ってました」という人もいるのだとか。最近では朝の連続テレビ小説に登場した商品もあったといいます。
「うちの親父もデザインは本当に難しいとよく言っていました。当時はデザイナーが5人いたんですよ。それで1974年に作りはじめた『めばえ』シリーズが大ヒット。よく売れました(笑)。絵付け場の7ラインぜんぶに流れていたんですよ」
「葉の部分がスタンプで、線はもちろん手書き。うちの基本的な商品で、新人さんの練習用にもなるんです」
2011年からスタートした「小分け豆皿」は、豆皿がふたつなかよくくっついたデザイン。
「刺し身を食べるとき、しょうゆにわさびを溶かしたくない。溶かさずにわさびや柚子胡椒を乗っけてから、しょうゆにつけて食べたいっていうのが、商品化のきっかけです。
はじめは内側の円の幅が均一でカチッとした印象だったけど、調整をして円をずらしてみると、一気に動きが出ておもしろくなりました」
はじめは丸型、花型や菊型が主流でしたが、バリエーションを増やし続けています。テーブルウェアフェスティバルでも人気アイテムのひとつだそう。
「はじめは和の用途だったけど、こうしてマグカップとチョコレートを乗せたりなんかして、洋風にも使えるんですよ」
「面取りシリーズ」も看板商品のひとつ。2015年にスタートした商品です。12角に面取りされたスタイリッシュなデザインで、マグカップをはじめ、お皿やボウル、花瓶など幅広く展開しています。豊富なカラーバリエーションも魅力的です。
日用食器として日常と隣り合わせになり、たくさんの焼きものを世に送りだしてきた波佐見焼。
「いまは『夫婦茶碗(めおとぢゃわん)』ってなくなりましたね。同じサイズで色を変えています。1種類でいいので合理的ではあるんですけど、時代の流れなんでしょうか。
そうやってデザインや売り方が時代によってどんどん変わってきます。やっぱりテーブルウェアフェスティバルあたりが新商品の開発の目安になってる部分も大きいと思いますよ」
時代や流行、求められるものが変化していくなかで感じていることはあるのでしょうか。
「業界的にはいろいろ難しい問題ですけど、焼きものって真似しやすいし、されやすいんです。完全オリジナルなんて出てこないですよね。はじめに学ぶときは、やっぱり真似から始まると思うから。
逆に、きちんと真似ができれば技術があるってことだと思います」
焼きものへの意識を変えてくれたある言葉
最後に、重山陶器のこれからについて聞いてみました。
古くから愛されるシリーズ「ゆめじ」。シンプルに入った一本線に、ワンポイントの梅柄。
どこか素朴で長く愛用したくなるたたずまいです。実際、昭和のお茶の間人気バラエティで使われていたそうですよ。
「テレビに出たりするのは、やっぱり励みになります。たとえば、絵付けのとき、社員さんに『使っていただくお客様のことを考えて描いてください』って言うけど、本人たちも実感がわかないですよね。
でも自分たちの商品がどうやって使われてるのかっていうのを見るなり聞くなりすることでわかります。
だから、長く作り続けるっていうのは大切なことなんだなと。そして、それを使っていただけるってことは、形とかデザインが間違ってないということ。改めて知ることができるのは、うれしいですね」
重山陶器のビルの屋上からパシャリ。波佐見町を見渡します。
「『食器』って、食が最初で器はあくまでも脇役なんですよ。でもこの脇役文化が、世界を牛耳るんだって言ってくれた人がいて救われました。食があるからこそ器が必要。焼きものにかかわる人はみんな考えてほしい言葉だと思いました。
今までそういう意識は自分のなかになかったけど、これを聞いたときに、これからも引き継いでいきたいし、次を目指そうって思えましたね」
一彦さん、いろんなお話を聞かせていただきありがとうございました。
【重山陶器】
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