窯元探訪【重山陶器】vol.38 太田一彦『95年受け継がれてきた丁寧で地道なものづくり』

窯元探訪【重山陶器】vol.38 太田一彦『95年受け継がれてきた丁寧で地道なものづくり』

2025.06.20

波佐見には、町の至るところに波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。

今年で創業95年を迎える「重山陶器(じゅうざんとうき)」さんを訪ねました。地元では、波佐見を盛り上げる立役者との呼び声も高い窯元さんのひとつです。

今回は、3代目の太田 一彦(おおた かずひこ)さんにお話をうかがいました。

同じ窯で焼き上げてきたという「DNA」

重山陶器は、1930年創業。先月おこなわれた「波佐見陶器まつり」のメイン会場、やきもの公園のほど近くにあります。

「うちはもともと中尾山の一番上でやっていたんですが、1963年に山を降りてここに移ってきました。私が4歳のときです」

昔は多くの窯が中尾山にありました。山の傾斜を利用して登り窯を築き、たくさんの波佐見焼を協力しながら焼きあげていたといいます。

「波佐見町には大新登窯、中尾上登窯、永尾本登窯……と、世界ワンツースリーの登窯跡があるんですね。当時の生産量はおそらく世界一だったと思います。波佐見は横のつながりが深いけど、それは共同で焼き上げたっていう歴史がDNAにあるんじゃないのかなって勝手に思ってます」

一彦さんは、重山陶器の社長のほか、波佐見焼工業組合の理事長も務めています。

2000年頃の生産地表記の厳密化で、有田の名前で売っていたものを「波佐見焼」に変えなきゃいけなくなったことは、大変だったかもしれないけど、すごくいいきっかけになったわけですよ。
大ピンチがものすごいチャンスになって、波佐見焼が世の中に出たって言えるんじゃないですかね。

『波佐見焼』って多くの人がまだ知らないでしょう。私たちは知っているつもりですが、実際には知名度はまだまだ。400年の歴史をもっとPRしていかないと、と思っていますよ」

丁寧でプロフェッショナルな技の積み重ね

重山陶器の成り立ちを聞いたところで作業場へ。

工場を入ってすぐのところには軽トラックが。素焼きをするために、生地屋さんから仕入れた成型後の生地を荷台から下ろし、積み上げているところです。

アーチ型の窯にぴったり収まるよう、きれいに積み上げられています。少しも無駄のない職人技に脱帽です。

「素焼きでは釉薬が入りやすい硬さや、このあとの工程での扱いやすさなどを考えて、硬さの具合をチェックします。焼き直しをすることもありますね」

素焼きしたあとは、「はわき」といって羽根ぼうきなどのついた機械で、ほこりやゴミを取っていきます。
「飯碗など、“アール”がかかっているものにはとくに効果的です。目に見えにくい小さなほこりでも、そのまま次の段階にいってしまうと焼いたときに問題が出てきますから」

次は絵付けのラインです。昔は絵付けの職人さんだけでも50人ほどが在籍していたそう。現在は7人の職人さんが活躍されています。

「『イッチン』という手法ですね。この赤い線は捨て判といって、焼成時には消える、目安の判になります。それを上からなぞっていきます」

「焼き上がりです。上からなぞっていくけど、手で描いているから一つひとつ、違うでしょう。手描きならではの動きがありますね」

釉薬をかける作業です。手作業で行っていることから、ここでも細やかな技が必要とされます。

「釉薬がたれていないかをチェックしたり、焼き上がったときにくっつかないように底の釉薬をスポンジでこすって剥がしたりします。剥がしておかないと、焼きもの自体もダメになるし、道具もダメにするんですよ。二重にダメにするから、必ずやらないといけない大切な仕事です」

10年前に入れ替えたという窯で、いよいよ本焼成(ほんやき)。
生産量や商品のトレンド、窯元の規模などとも大きく関係してくる窯。ひと口に窯の入れ替えと言っても、なかなか難しそうな問題です。

「窯をスムーズに入れ替えることができたのは、工場が広く、既存の窯を焚きながらできたからです。窯の入れ替えとなったら使っている窯を止めないといけないけど、我々の心臓でもある窯は止められないですよ。

窯を入れ替えて、ガス代が浮き、歩留まりもよくなりました。
何より色釉薬ができるようになったのは、この窯のおかげです。色釉薬は、温度によって色合いに差が出るのでかなり難しいですからね」

最後に検品のエリア。窯で焼き上がった器は、入念にチェックが行われます。
ときには、品質の向上や技術の継承などを目的とした支援機関と助け合いながら、ものづくりを行っているようです。

「毎日、窯から上がってきたものを1個ずつ選別してチェックしていますよね。たとえば、 みんないつもと変わらない作業をしているのに、同じ問題を抱えたものが10個出たとします。
そういうときは、季節の変わり目とか自然現象で起こっている場合もあるんですけど、工場内で考えても原因がわからず解決しなかったときは、長崎県窯業技術センター(県の出先機関)に行って相談します。

そうすると、他の窯元でも似たケースがあったとか陶土の問題だとか、科学的にもいろいろ調べてくれるんですね。問題があったときにはとても助かっています」

環境問題に配慮したものづくり

地域に根付いたものづくりを行うにあたっては、環境ともうまく付き合っていかなければなりません。

重山陶器では、水処理技術にも積極的に力を入れているといいます。広い工場の奥にあるタンクを見せてくれました。

「残った絵の具や釉薬は流しに流すんですが、それをこのタンクにためています。釉薬とか絵の具の混ざった液体をフィルタープレスして、土みたいにして廃棄します。上澄みの水は浄化して、きれいなものだけを再利用しているんです。水道代も予想しているよりかからなくなっているかな」

プロダクトだけでなく、環境に配慮し循環させている取り組みにとても関心を持ちました。
産業を持続させていくこと、というのはこうした姿勢に表れるのかもしれません。

後編では、作業環境などハード面の工夫や、ロングセラー品の裏側などについて伺います。

(つづく)

【重山陶器】

〒859-3711
長崎県東彼杵郡波佐見町井石郷2150

公式サイト
https://jyuzan.jp/index.html

オンラインショップ
https://jyuzan.buyshop.jp/

Instagram
https://www.instagram.com/jyuzan.jp/


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この記事を書いた人
鈴木めぐみ

食やライフスタイルにまつわるコンテンツの編集制作に加え、ときには料理本専門書店ブックレディレクター時代の経験を活かした選書も行います。ご多分にもれずの器好き。波佐見焼についてはまだまだひよっこですが、たくさんの魅力をお伝えできればと思っています。Instagram @suuzuki_megumi