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長崎ちゃんぽんのおいしい秘密を探る!【前編】水谷製麺さんの工場見学

by Hasami Life 編集部
長崎ちゃんぽんのおいしい秘密を探る!【前編】水谷製麺さんの工場見学

みなさん、長崎の「食」といえば、なにを想像しますか? 甘党なら長崎カステラ? お酒好きなら新鮮な海の幸? 五島うどんや島原そうめん、佐世保バーガーなどのご当地グルメもたくさん浮かびますよね。

とはいえ外せないのは、いえ外してほしくないのが「長崎ちゃんぽん」。たっぷりの野菜とお肉、かまぼこなどの練りものを炒め、鶏ガラや豚骨スープを加えて仕上げる、旨みのデパートのようなフライパンの中につるんとした喉ごしのちゃんぽん麺をイン! ああ、想像しただけでおいしい。

ところで、ちゃんぽん麺って一般的な中華麺と何がちがうんだっけ? 見た目も食感もまったく異なるのはわかる、でも、うまく説明ができないHasami Life編集部一同。 「そうだ! 水谷製麺さんに教えてもらおう!」と、波佐見町内にあるちゃんぽん麺の製造所へ。

 

なんと、工場まで見学させていただくことができました。これまで(わたしたちが)知らなかったちゃんぽん麺、そして長崎ちゃんぽんの魅力を探るレポート「水谷製麺さんの工場見学」編のはじまりです。

 

《お話を伺いました》

水谷製麺・代表取締役

水谷浩幸(みずたに ひろゆき)さん

本場長崎ちゃんぽんの“ちゃんぽん麺”を製造する製麺所『水谷製麺』。ちゃんぽん麺だけでなく、皿うどん、うどん、そばなどの麺類を製造しています。「少数でも全国配送いたしますので、お気軽にご注文ください」と水谷さん。公式HPをチェック!

公式HP:http://www.nagasakichanpon.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/magococoromizutani/



“本場長崎”を語るには「唐あく」にこだわる


――水谷さん、本日はよろしくお願いします。

長崎ちゃんぽんの一食材屋さんだと思っていたので、お声がけいただけてうれしいです。どうぞよろしくお願いします。

――いいえ、長崎ちゃんぽんは麺があってこそ! さっそくなのですが、いろいろとお話をお聞かせください。ちなみに長崎ちゃんぽんはいつから食べられているのでしょうか?

諸説あるのですが、200年以上続いた鎖国が終わり、オランダをはじめ海外文化が日本に入ってきたとき、中国の影響を受けて生まれたといわれています。長崎には中華街があるでしょう? 中国から移住してきた人たちによってつくられたのでは?といわれています。

――ズバリ、ちゃんぽん麺ってどんな麺? 一般的な中華麺との違いを教えていただきたいです。

「かんすい」って聞いたことはありますか? 中華麺のコシや食感を生み出す添加物です。このかんすいも中国から入ってきました。小麦粉に混ぜると、うどんやそばとはまた全然違う食感が生まれるのですが、かんすいのひとつである「唐あく(唐灰汁)」を使っているのが、本場長崎のちゃんぽん麺なのです。

地元のスーパーでもよく見る水谷製麺さんのちゃんぽん麺。パッケージに「長崎唐あく使用」の文字を発見!

――「唐あく」ってなんだろう?と思っていました。かんすいのことなんですね!

そうなんです。唐あくは、もともと中国の人たちしか知らない独特な配合でつくられていました。しかも、薬品(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム)なので、食品衛生法上の許可を持っていなければ、扱うことができません。なので、わたしたち、ちゃんぽん麺をつくる会社ですら「唐あくからつくりたい!」と願ってもできないんですよ。

――唐あくは簡単につくることができないんですね。

はい、唐あくをつくれる会社は長崎県内に実質2軒しかありません。わたしたちもそこから仕入れているんですが、いずれも長崎新地中華街の近くで製造されています。

――つまり、唐あくを使っていないものは、ちゃんぽん麺ではない?

うーん、そういうわけでもないのです。実際、大手チェーン店などで使われるちゃんぽん麺には、実はこの唐あくが使われていないんですよ。

あくまでも、かんすいというカテゴリーの中のひとつが唐あく。ラーメンに使われる中華麺には、それぞれ独自のかんすいが使われており、博多ラーメンの細麺にはそれに合う配合を、北海道でよく食べられるちぢれ麺にはそれに合う配合があります。もちろん、小麦の違いもあるんですけどね。同じようにもともとは唐あくを使うのが一般的だったちゃんぽん麺ですが、今の時代、ちゃんぽん麺に合うかんすいの配合だってあります。

ただ、唐あくは使用できる地域にも制限があって、全国生めん類公正取引協議会の規定で、長崎県以外では使用できないことになっています。

――長崎県内でなければ、昔ながらの製法でちゃんぽん麺がつくれないということなんですね。

ええ。唐あくは昔から受け継がれる食の文化だと考えています。しかも、唐あくは値段がちょっと高い。でも、「本場長崎ちゃんぽん」にこだわりを持つちゃんぽん屋さんのほとんどが、唐あく入りのちゃんぽん麺を使います。ですので、わたしたちも長崎県内だけでなく、全国にちゃんぽん麺を発送しています。この文化を、伝統を守るためにも、わたし自身、お客さまには長崎でしかつくれない本場のちゃんぽん麺をぜひ味わってほしいという気持ちで製造しています。

――唐あく入りとそうでないもの、ズバリ味に違いはありますか?

いつも食べている人なら、間違いなくわかります。でも、たまに食べる人だと……正直、どうかな?(笑)。絶妙なさじ加減で配合するので、わかりやすく“これが唐あく”といった味ではありません。

でも、普通のかんすいには出せない風味があるんです。香り、というほうがわかりやすいかもしれません。

「地元の人でも、唐あくについて説明できる人は少ないでしょう」と水谷さん。水谷製麺さんのちゃんぽん麺には、裏面にしっかり解説が!

――本場の長崎ちゃんぽん麺の香り、わかるようになりたいです!

唐あく独特のまろやかさもあるんですよ。これからちゃんぽん麺を仕上げるので、工場をのぞいてみましょう。



ちゃんぽん麺の製造現場へ突撃!


唐あくを加えてミキシングした原料を帯状にのばします。まるでバームクーヘン!

カッターで切り出された麺は順番にゆで釜へ飛び込んでいきます。

冷水で3回、しっかりしめてコシを引き出します。麺づくりの最大のポイント。

水気をしっかりきって計量。ここもしっかり手作業です。

なんと、ここで出来立ての麺を試食させていただきました。びっくりするくらいコシがあり、噛めば噛むほど小麦のうま味が感じられます。このコクが唐あく?

こちらは飲食店へ運ばれるちゃんぽん麺のため、パッケージなし。給食のソフト麺を思い出しますね!


波佐見では「ちゃんぽんは家庭料理」


水谷製麺さんのレシピ開発を担当する惠美美子(えみ よしこ)さん、中尾山・秋陶めぐりの取材で波佐見を訪れていた料理家のminokamoさんも加わり、長崎ちゃんぽん談義が続きます。

――プライベートでもちゃんぽん麺をよく召し上がりますか?

惠美さん:
はい、家でも月に23回はつくりますね。キャベツ、にんじん、もやし、あとは手軽にシーフードミックスを入れて、彩りに色のついたかまぼこ、豚肉を加えます。たぶん、この辺りの家の冷蔵庫には、すぐちゃんぽんがつくれるように食材が揃っているんじゃないでしょうか?(笑)

水谷さん:
確かに家庭でつくって食べるほうが一般的かもしれません。逆に長崎市内へ行くと、ちゃんぽん専門店がたくさんあるので、「ちゃんぽんはお店で食べるもの」という感覚の人が増えるはず。100店舗以上はあるので、自分の好きなちゃんぽん屋さんをいくつか持っている人が多いんじゃないかな?

町内のスーパーには、ちゃんぽんや皿うどんがすぐできる練りものミックスが!

粉末スープを使って手軽につくる家が多数。それぞれ、お気に入りのメーカーのスープがあるようです。

水谷製麺さんおすすめの「美味しいちゃんぽんの作り方」動画もどうぞ!

――ちゃんぽんって野菜も、魚介も、肉も入って、うま味たっぷりのトリプルスープですよね。

水谷さん:
本当に! オールインワンなんですよ。野菜も入っているから、バランスもいいですし。一度ゆでてあるから、気負わずに調理してくれたらと思います。

minokamoさん:
ちゃんぽんってスープにコクがあるから、どんな食材を入れても仲良くなってくれる。一皿でも満足感があるし、本当にいい料理ですよね!

水谷さん:
ちゃんぽんはとても自由。長崎だけでなく、全国にいろいろなご当地ちゃんぽんがありますしね。ちゃんぽん麺を使っていなくても、中華麺でつくる五目ラーメンのようなものだってちゃんぽんと呼んでいいわけですし。醤油味でも、味噌味でも、地域によって色々あって楽しいですよね。
あと、みなさんはちゃんぽん麺で焼きそばはつくらないですよね? 東京からやってきた人にはすごく驚かれますが、わたしたちはそれが当たり前だと思っていました(笑)

惠美さん:
ほかにも、フライパンで両面を香ばしくこんがり焼いて、あんをかけてかた焼きそば風にするのもおいしいですよ。

水谷さん:
飲食店では、ラードやごま油などを使ってさらに風味プラスするとか! あとは、ナポリタンをちゃんぽん麺でつくる“ちゃポリタン”もおすすめです。もつ鍋の〆にちゃんぽん麺は当たり前、すき焼きの〆にもとっても合いますよ。

――へええええええ!!!

水谷さん:
昔はすき焼きといえば、うどんでしたけれど、試してみるとおいしいんですよ。どんな料理でも、その土地ならではの麺をつかうのはすごく自然なことだと思っています。麺が風土に根付いているということですものね。ぜひ、みなさんもたくさんアレンジしてたのしんでほしいです。

波佐見町にある『寿司 善』さんで大人気の寿司とちゃんぽんのセット。こちらでは水谷製麺さんのちゃんぽん麺が味わえます。

本場のちゃんぽん麺としてのこだわり、奥深い長崎ちゃんぽんの世界。最近では、ちゃんぽん用小麦「長崎ちゃん麦」の麺も製造しています。

長崎の農家が育てた国産小麦からつくられる準強力粉でつくるちゃんぽん麺は、コシが強く、唐あく入り。まさに「長崎でしかつくれない味」です。みなさんも今度、長崎ちゃんぽんを召し上がるときには、ぜひ麺にも注目して味わってみてくださいね。

水谷さん、惠美さん、ありがとうございました!

【後編】では、水谷さんのお話からインスピレーションを受けた料理家のminokamoさんによる「ちゃんぽん麺アレンジレシピ」を紹介します。

 

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