HOME よみもの 波佐見の人 窯元探訪【洸琳窯】江添三光さん vol.17 白磁を活かした器に、料理が映える。 2021.06.04 窯元探訪【洸琳窯】江添三光さん vol.17 白磁を活かした器に、料理が映える。 by Hasami Life 編集部 波佐見町には全部で59軒の窯元があります。そして小さな町の至るところに、波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。 今回は、総手描きの絵付で器を使う人の心を掴む、洸琳窯(こうりんがま)の社長、江添 三光(えぞえ かずみつ)さんを訪ねました。 器づくりについてはもちろん、ふだんは見られないプライベートな顔まで全3回でご紹介します。 機械化の流れのなかで、手描きの技術を誇り、貫いてきた江添さん。産地厳格化や波佐見焼全体の出荷額の低下など難しい時代を乗り越えてこられたのは、プロユースの器をつくり料理人たちに支持されてきたからでした。 器に料理を盛り付けた写真とともにお届けする第2回目です。 江添三光(えぞえ かずみつ)1941年、波佐見町永尾郷に稲作農家の長男として生まれる。15歳で波佐見焼の窯元・永峰製磁株式会社に入社し絵付師となる。1987年に45歳で独立、洸琳窯を起業。若いころに京都府の清水焼と愛知県の瀬戸焼の窯元で修行した経験を活かし、美しい手描きの絵付の焼きものを手掛ける。波佐見焼の伝統工芸士として若手の育成にも熱心。 料理が映える、白を活かした器。 ――:洸琳窯さんの絵付は白磁が美しく見えるデザインが多いですよね。 江添:絵付師として永峰さんで働いてるとき、当時の社長に「白磁を活かしたデザインをするように」と何度も言われていました。それが大きいですね。 かぼちゃの煮つけを、TOPのプリンの写真と同じ器にのせて。盛り付けるものによって雰囲気が変わる。(料理は中尾山にある『文化の陶 四季舎』にご協力いただきました) ――:器の白がお料理を際立たせて、絵柄が華やぎをプラスしてくれますね。 江添:やっぱり料理がおいしそうに見えるっていうことが大事ですよね。ちょっとしたおかずでも、ぐっと際立って見える。食卓で一番美しく見える器が理想です。 ねじり梅 6寸皿(青) に、長崎県大村市に伝わる郷土料理 “大村寿司”をのせて。(料理は中尾山にある『文化の陶 四季舎』にご協力いただきました) ――:皿や鉢と違い、マグやコーヒーカップでは染錦(そめにしき)などカラフルなものも多く、コーヒーやお茶の色が引き立ちますね。 江添:ご自宅でも、カフェや喫茶店にいるような気分を味わってもらえたらと思っています。 呉須の染付と色絵を組み合わせた「染錦」という技法のマグカップ。握りやすい取っ手で実用性も高く人気のシリーズ。 立体的な「一珍(いっちん)」の技法でつくられたコーヒーカップ&ソーサー。一珍については翔芳窯さんの窯元探訪vol.4でご紹介しています。(写真は洸琳窯さんにご提供いただきました) プロユースの世界で、ブランドは関係ない ――:洸琳窯さんの器は、有田の商社さんに卸すことも多いと聞きました。 江添:はい、そうですね。取引は多いですよ。 ――:以前は波佐見焼も有田焼として販売されていたんですよね。それが産地厳格化の流れで、2004年に「有田焼」と名乗れなくなった。影響はありませんでしたか? 江添:それ以前に、プロユースの器をつくるようになっていたのが幸いしました。創業時は、百貨店などでの販売が100%でしたが、プロユースの旅館や割烹で使う器をつくるようになったんです。そうしたら有田焼のブランドがなくても、なんとかなりました。 山水が描かれた小鉢。繊細なふちが美しい、プロユースの一品。 ――:それはどういうことでしょう? 江添:産地厳格化の波が来るまで、百貨店などのお店で器を売るときには「有田焼」と書かれたシールを貼って売っていました。お客さまもブランドを信じて安心して買ってくれますよね。でもプロユースの器の場合、ブランドはさほど関係ない。料理人さんが選ぶ基準は「料理をのせて映えるかどうか」だけ。その一点なんです。 ――:なるほど。いつからプロユースの器もつくるようになったんですか? 江添:具体的には覚えてないなあ。生地づくりも絵付もどんどん機械化していって、器ひとつあたりの単価も安くなっていって、手描きの洸琳窯では求められる単価に応えられなくなった時期があったんです。そのとき、プロユースに路線変更しようと決めて、すっと切り替えた。軌道に乗るまでは何年かかかりましたけど。 ――:数年かかったんですね。 江添:料亭や割烹と取引のある有田の商社さんに「どんなものがいいでしょう?」って聞きながら、要望に合わせてつくっていきました。どういうものが必要とされるのか、最初はわからなかったので。家庭用食器とは形状や求められる柄が違いますからね。 プロユースの器は、有田の商社さんでの取引がほとんど。産地厳格化のあとのほうが取引が増えているそう。 ――:現在、洸琳窯さんでつくるプロユースの器は、全体の生産数に対してどのくらいの割合を占めていますか? 江添:もう60%以上ですかね。 ――:すごい! 現在は人気の波佐見焼ですが、1991年ごろをピークに、その20年後には出荷額が1/3ほどに落ち込んでしまった時期もありましたよね。もしもプロユースの器の販路がなかったら、この会社は今……。 江添:もう潰れてたかもしれません。それか私たち夫婦ふたり、ぽつぽつやってたかもしれないですね、うん。プロに認めてもらえるものがつくれる技術はあると自負していましたが、料理人さんが選んでくださるようになってうれしかったですよ。 洸琳窯にある展示室には、これまで製作した器のサンプルが所せましと並んでいる。プロユースの器もバリエーション豊富。 ――:プロユースの器づくりで大切にしていることはありますか? 江添:なんといっても、四季が大切。たとえば春はさくら、夏はめだかやあじさい、秋は桔梗や紅葉。季節を感じる器をつくります。しかも、先取りしてつくっておかないといけない。春の器はもう一月には旅館や割烹で使われはじめますからね。そういう知識は必要です。 手描きだからこその自由 ――:江添さんが絵付師として働きはじめて60年。この60年は焼きものづくりの機械技術の進歩がすさまじかったんじゃないでしょうか。 江添:私が焼きものの世界に入ったときは、まだ量産品でもろくろでつくってる人が普通にいましたからね。今は量産品はまずろくろでつくらない。成形方法がどんどん機械化していって、 それから絵付も印刷が増えて機械化していきました。 ――:今は、手描きの絵付で量産をしている窯元さんはそこまで多くないですよね。手描きを続けるという意志を貫けたのは、なぜなのでしょう? 江添:なんででしょうね?(笑)うーん、意地かもしれません。もし私がろくろの職人だったら、機械の絵付を導入していたかもしれない。でも、自分の絵付の技術を失いたくなかった。だって、自分だったらいろんなものがすぐ描けるんですよ。機械と違って「あれをちょっと描いてみよう」って思いついたときにすぐ実現できる。自分の人件費だけだから、費用もかからないようなもの。私にとって手描きは、限りない自由があるんです。 絵付をする江添さん。筆を持つ手は迷いなく、あっという間に絵付が進んでいく。 ――:江添さんが考える手描きの焼きもののよさって、どういうところでしょう? 江添:字と一緒です。書道の手書き文字と機械で印刷された文字、違うでしょう? 筆をつけはじめたところは少し濃く、最後にはねたところは少し薄くなる。絵柄に自分の思いが伝わるんです。魂が入ってるとも言えますね。 すべて手描き。独自ブレンドの呉須が活きる。 ――:洸琳窯さんの焼きものは、プロユースの器も含めて総手描きなんですよね。ゴム判子なども使わず、筆だけで。 江添:そうですよ、すべての絵柄が職人による手描きです。高台(器の土台部分)の中に書く「洸琳」の銘まで手描きをしてます。手描きで絵付していても銘は判子にしている窯元も多いので、総手描きって今はなかなかないかもしれないですね。 高台(器の土台部分)の銘まで手描き。ちなみに江添さんは洸琳窯をつくる際、自身の名前「三光」をあわせてひとつの漢字「洸」として窯の名前を考えたそう。 ――:絵の具については独自の呉須(藍色の絵の具)を使っているとホームページに書かれてますが、どのようにつくっているのですか? 江添:3ヶ所の絵の具屋さんから集めた絵の具を自分で混ぜて、配合を試行錯誤して理想に近いものをつくりましたね。色の明るさや鉄分の配合する量を調整して、3色の呉須をつくりました。 たとえば酸化鉄を多くすると、藍色の中にほんのすこし錆びの風合いが出て、昔の伊万里焼のように古風に見えるんです。絵の具にも、“侘び寂び”があるんですよ。 今は、独自ブレンドの呉須の割合をお伝えして、絵の具屋さんにつくってもらってます。 ――:呉須を使った「染付」と呼ばれる焼きものは、この波佐見を含む肥前地区で、日本ではじめて江戸時代につくられたんですよね。そこから長い間、波佐見焼のスタンダードとして愛されてきました。洸琳窯さんでも染付をメインにされていますが、どういうよさがあると思いますか? 江添:普遍的な美しさがあって、飽きがこないんですよ、呉須の色は。料理も美しく見せてくれるし、着るものも藍染ってすごく日本人になじむでしょう。藍色は、日本人の心に合うんじゃないかなあ。 +++ 【洸琳窯】 公式サイトhttps://koringama.net/ オンラインストアhttps://koringama.official.ec/ Instagramhttps://www.instagram.com/koringama/ 長崎県東彼杵郡波佐見町永尾郷34−1電話: 0956-85-6620定休日:不定休 ※洸琳窯さんの商品は現在、Hasami Lifeでお取り扱いがございません。上記の洸琳窯さんのオンラインストアなども併せてご確認ください。 次回は、窯元探訪【洸琳窯】江添三光さんの最終回。どうしたら絵付を極められるのか? 洒落や粋を身につけるためには? などをお届けする予定です。 (最初から読む) 窯元探訪【一真窯】眞崎善太さん vol.1 焼きものは “もやう”もの 窯元探訪【一真窯】眞崎善太さん vol.2 話題の「白磁」、デザインの原点 窯元探訪【一真窯】眞崎善太さん vol.3 食器つくりから心の器つくりへ 窯元探訪【翔芳窯】福田雅樹さん vol.4 修業時代に知った焼きものの面白さ 窯元探訪【翔芳窯】福田雅樹さん vol.5 器と料理の関係。「ホワイトライン」が目指す姿 窯元探訪【翔芳窯】福田雅樹さん vol.6 採用基準や育成方法、新しい試み 窯元探訪【利左ェ門窯】武村博昭さん vol.7 土から生まれる色、質感、表情。 窯元探訪【利左ェ門窯】武村博昭さん vol.8 400年の歴史の先に創りたいもの。 窯元探訪【利左ェ門窯】武村博昭さん vol.9 魔法のような職人たちの手仕事 窯元探訪【一誠陶器】江添圭介さん Vol.10 絵付を生かした器づくり。 窯元探訪【一誠陶器】池田希美さん vol.11 手描きの技術を絶やさないためのデザイン 窯元探訪【一誠陶器】絵付職人 vol.12 丁寧に、繊細に描く絵付職人 窯元探訪【紀窯】中川紀夫さん vol.13 「スリップウェア」という世界 窯元探訪【紀窯】中川紀夫さん vol.14 スリップウェアに出会って"夢中"を知った 窯元探訪【紀窯】中川紀夫さん vol.15 かっこよすぎないバランスで。 窯元探訪【洸琳窯】江添三光さん vol.16 鳥獣戯画の絵付も習得した京都修行 窯元探訪【洸琳窯】江添三光さん vol.17 白磁を活かした器に、料理が映える。 窯元探訪【洸琳窯】江添三光さん vol.18 「絵付に近道はない」若手の育成が使命 Tweet 前の記事へ 一覧へ戻る 次の記事へ Hasami Life 編集部 この記事を書いた人 Hasami Life 編集部 people 関連記事 2022.03.30 大塚さつきさんの暮らしとうつわ【後編】〜農家の知恵が詰まった竹ざる弁当〜 長崎県波佐見町に隣接する町で夫とふたり農業を営む大塚さつきさんは、『毎月農業共済新聞』でレシピ連載を持つほどの料理の腕前! 前編に引き続き、後編では実際にさつきさんに作っていただいた“ふだんごはん”をいただき、Instagramで人気に火がついたきっかけについても伺います。 2022.03.29 大塚さつきさんの暮らしとうつわ【前編】 〜育てた野菜を料理するよろこび〜 ふだんから波佐見焼を生活に取り入れている大塚さつきさんのリアルな暮らし。Instagramでも2万3千人ほどのフォロワーが居る大塚さんの大切な器のコレクションのほか、キッチンの様子、農業を営みながらの暮らしの話、波佐見焼にまつわるエピソードを写真とともにご紹介します。 2022.02.27 窯元探訪【筒山太一窯】福田太一さん vol.20 料理を盛ってなんぼ。模索し続ける、和食器の可能性。 波佐見焼・窯元探訪、7軒目。最新話では、筒山太一窯さんを訪ねています。2代目・福田太一さんに聞く、料理と器の関係と焼きもののおもしろさとは? 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