HOME よみもの 波佐見の人 窯元探訪【大新窯】vol.27『子ども食器、誕生秘話。』 2023.06.30 窯元探訪【大新窯】vol.27『子ども食器、誕生秘話。』 by Hasami Life 編集部 焼きものの町・波佐見の中でも、特に多くの窯元が集まる中尾山。その中でも「世界最大・最長の登り窯跡地」という、とびきりロマンある場所で波佐見焼を生み出す『大新窯(おおしんがま)』さん。 前編 では、色イッチンの作業場を見せてもらい、登り窯跡地を探索しました。後編では、歴史のある工房とギャラリーを見学。3代目社長の藤田隆彦(ふじた たかひこ)さんにもご登場いただき、子ども食器の誕生秘話について伺います。 太陽の光が差し込む、味わい深い工房 ――移築のお話、もっと詳しく教えていただけますか? 太田晃輔さん(以下、太田 )佐賀県多久市にあった公会堂を移築しているそうです。昔の木造建築は、1つ1つの部品をほどくことができたので、このように大きい建物でも遠くから移築することができたんです。 その公会堂にはどんな歴史があったのか、これだけ大きな建物なので、なにか情報がないか、写真が残っていないかと、気になって多久市の図書館に行って調べてみたのですが、わからないことが多いんですよね。でも、この味わいのある建物は、今の時代に新しく作ることはできないと思うので、大切にしていきたいと思っています。 太田2階は移築後につくったそうなので、公会堂の頃はこのような空間がさらに連なって、ホールになっていたのではないかと想像してします。 ――大新窯さんの工房は、天井が高く抜けていて本当に気持ちいいと思っていたのですが、公会堂の移築と聞いて納得しました。2階も楽しいですよね。秋陶めぐりで料理家のminokamoさんとおじゃましたときも、その掘り出し物の数に驚いていました。 特集『minokamoがゆく!中尾山・秋陶めぐり【前編】〜焼きもの 秋さんぽ〜』でもギャラリーを訪問。写真は、鳥獣戯画をモチーフにした大新窯の器に原田製茶さんの「鬼木みどり」にはちみつでさらに甘みを加え、米粉のお団子を入れた簡単おやつを盛り付けたもの(【後編】より)。 太田2階はアウトレットコーナーになっています。今では、あまり作られない袋もの(急須や汁次など)のほか、試作品も置いているので、一点ものが多いですね。職人による手描きの茶碗は「最後の1個」だけを集めて並べていたり。 ――ラスト1個、魅力的ですね。大新窯さんのベストセラー商品には、どんなものがありますか? 太田「かぶ」の絵付け皿でしょうか。「株が上がる」と由来されるように縁起のよい柄であり、愛用してくれる方も多いので40年近く作り続けています。 編集部員もこのあと、お買い上げ。福々と描かれた「かぶ」が魅力的です。何を盛り付けよう? 太田うちでは、転写シートはほとんど使いません。職人さんによる手描きを基本に「はんこ」も活用しながら、手仕事を大切に焼きものづくりをしているんです。この「か(・)ぶ(・)」も、葉っぱの線描きをはんこ、それ以外はすべて手描きで仕上げています。 ▼波佐見のはんこ職人、立石聰さんのインタビューもあわせてどうぞ。https://hasamilife.com/blogs/people/tateishi-seikoudou 子ども用食器&色イッチンの誕生秘話 現社長の藤田隆彦さんにもお話を伺います。 ――藤田さんは3代目とお伺いしました。これまでの大新窯さんの歴史についてぜひ、改めて教えてください。 藤田隆彦さん(以下、藤田)焼きものは、わたしの祖父が始めました。でも、一度畳んでいるんです。それは、戦争で焼きものが焼けなくなったから。燃料や材料がすべて軍事産業のために使われてしまったからね。波佐見でも、焼きものの裏判を窯元名から番号に変更させられたり、価格制限や減産の命令まであったそうです。 そのあと、わたしの父が再び窯業を再開しました。 ――そのとき、大新登り窯後に移築したのでしょうか? 藤田最初はここではなく、中尾山のふもとに工房がありました。生地屋の「藤田鋳込所」は親戚なのですが、当時はそこでみんなで一緒に焼きものをしていましたね。それが昭和40年前後。 窯を再開して数年後、この場所へ窯ができました。というのも当時、すごく儲かったんですよ。博多人形がとても忙しくてね。 ――昭和44〜45年、ふじた陶芸(=大新窯)の誕生。この場所で焼きものをスタートしてから今年で53年になるんですね。初代、先代の時代から、引き継いでいる技術はありますか? 藤田「とくさ」です。この染付けは、もうずっと作り続けていますね。職人の手仕事の素晴らしさが出ている器ですから。「もっと、売れるやろ!」と思っているけれど、意外とそうでもなくて(笑)。 ――人気の子ども用食器は、藤田社長の時代に開発されたのですよね? 藤田ええ。食器自体はありましたが、顔料などを調整して今の状態にしたのはわたしです。下絵でもっときれいに色が出る方法はないか? と考えて、この「色イッチン」という手法が生まれました。 ――7〜8年前からの商品とは思えないほど、本当に存在感のあるシリーズだと思います。 藤田顔料は3〜4色から試行錯誤をし、今では10色以上きれいに色が出るようになりました。釉薬のバランスが決まるまでは難しかったですね。2〜3年はかかったと思います。 ちなみにこのプレートが色イッチンで最初に仕上げたものです。 藤田今のところ、色イッチンはうちしかやってないですね。これでひと花咲かせようと思ったんですけど(笑)。 ――え! もう咲いているのではないですか? 藤田 うーん。もう少し! 一同 (笑) 藤田じつは8年前に病気をし、今は現場を従業員さんたちにまかせています。それまでは釉がけをしたり、波佐見では「あらしこ」と呼ぶ「荒仕事(あらしごと)」をしていました。つまり、なんでも屋。 ――これから作りたいものはありますか? 藤田う〜ん、そうだな。 新しいものは、きっと甥っ子が考えてくれるでしょう(笑)。CAD(訳:コンピュータ支援設計)など、新しい技術を使って、新しいものを。あとは、お前たちの好きなことをしろ、と伝えてあるんです。 波佐見焼の、陶磁器の魅力を学ぶ日々 最後にもう一度、甥っ子の太田さんにお話を伺いました。 太田初めて一人暮らしをしたとき、器を持っていかなかったんです。100円均一で買ったプラスチックの茶碗でご飯を食べたとき、本当に味気ないことに気がついて。その年の夏休み、実家からたくさん焼きものを持っていきました。あのときが茶碗って、陶磁器って、本当にいいもんだな、と思った瞬間です。 ――昨年から働き始めていかがですか? 太田今は催事など営業のお仕事をメインに、工房では窯積みや釉掛けなどを行っています。いずれ絵付も勉強しなきゃ! と思ってはいるのですが、すべてフリーハンドで描いていると思うと、やっぱり腰が引けてしまいます(笑)。 お客さんからも日々、多くのことを教えてもらっています。「子ども食器は割れるのが大事なの。もったいないんじゃなくて、子どもにとっては割っちゃうことも勉強なの」という話を聞いて、なるほどと思いましたね。 現在、30歳。工業組合では、最年少だそう。「これからの大新窯を背負って立つかもしれない?」というわたしたちの質問に「正直に話すと、迷いや不安もあります」と言いながら、すぐに「でも、すごく楽しいです!」という真っすぐな言葉が返ってきました。 太田さん、そしてお母さまの栄子さんの笑顔に見送られて工房を後に。これからの大新窯さんの焼きものも楽しみにしています。 【大新窯】 〒859-3712長崎県東彼杵郡波佐見町中尾郷767 0956-85-2652 ※窯元を訪れる際は、事前に電話でご予約ください。土日祝は定休日ですが、対応できる場合も。 Instagramhttps://www.instagram.com/ohshingama/ webshophttps://oshin.thebase.in/ 大新窯さんの波佐見焼はこちら! MOGUMOGU プレート ¥3,850 Tweet 前の記事へ 一覧へ戻る 次の記事へ Hasami Life 編集部 この記事を書いた人 Hasami Life 編集部 関連記事 2023.09.29 窯元探訪【丹心窯】vol.28 長﨑忠義『水晶彫の秘密。』 波佐見には、町の至るところに波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。今回、おじゃましたのは、佐賀県武雄市との県境にある波佐見町小樽郷に窯を構える『丹心窯(たんしんがま)』さん。まるでジュエリーのような輝きを放つ、唯一無二の美しい波佐見焼、その手仕事の秘密に迫ります。 2023.09.22 窯元の火を止めるな! 技術と雇用をつなぐ、波佐見焼企業のM&Aに迫ります。 後継者不在を理由に事業をたたむケースも増えているなかで、窯元の高山陶器(現・株式会社高山)と、商社である西海陶器株式会社はどうやって事業承継に結びついたのか。その先にどんな未来を見据えているのか。 新旧の社長に話を聞きました。 2023.08.25 【編集スタッフ募集中】波佐見焼の魅力を伝える Hasami Life 編集部に密着! 「波佐見焼や波佐見町、職人の手仕事のことを知ってもらいながら、ご自宅に波佐見焼を迎え入れてほしい!」これがHasami Life編集部の願い。週1回のよみもの配信を中心にさまざまな活動をしています。実際、どんな仕事をしているのでしょうか? 今回は、編集部員のたぞえさんに密着します。
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