窯元探訪 vol.6

by Hasami Life 編集部
窯元探訪  vol.6

波佐見町には全部で59の窯元があります。そして小さな町の至るところに、波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。このシリーズでは、窯元を順番に尋ね、器づくりについて話を聞くだけでなく、ふだんは見られないプライベートな顔までご紹介。

波佐見町の折敷瀬郷(おりしきせごう)という地区に窯を構える『翔芳窯(しょうほうがま)』への窯元探訪、最終回です。翔芳窯の採用基準や育成方法、福田さんの新しい試みについてお話を伺います。





よりよい商品を作るためのデザイナーの力

福田雅樹さん(以下、福田) デザインができる職人が5人、常駐しているのもうちの強みですね。これほど、デザイナーを持っている窯元は、波佐見でもそうないんじゃないかな?

波佐見陶磁器工業協同組合の展示会が年に2回あるのですが、ここで各窯元が新作を発表するんですね。そこは僕らにとっては賞レースなんです。


――5人で順位を争うんですか?

福田  そうです。一番になった人には、僕のポケットマネーから賞金も出します。賞レースにすることで、やっぱりみんなが必死になりますね。日曜日にも出てきて、作業したりする者も出てくるくらい。みんな、それぞれ本気を出して楽しくやってると思いますよ。

最初、単純に出品していたときは、「自分はここまでできるんだ!」という技術を見せつけるような作品が多かったんですね。でも、賞レースにすることで、作品が変わりました。それは、みんなが売りやすい値段と決めやすい模様をしっかり考えるようになったこと。

個々のデザイナーの最高レベル、つまり「俺はここまでできるぞ」みたいな腕自慢の新作を考えても商社さんから気に入ってもらえなければ、商品としては意味がない。より本来の商品開発に近い価格と技術の作品を追求できるようになってきました。

スタッフは全員で15人。そのうち5人はデザインができる。

――「売るため」に本気で作るようになった。

福田  そうです。「会社のために、新しいデザインを考えてください」と言っても、すでに給料を貰っていたら、なかなか頑張れないですよね。「御社のために身を粉にして…」という時代ではないですから。

賞金を懸けて一生懸命やってもらうなんて、もしかしたら健全でないのかもしれないけれど、本人も会社も確実に伸びます。デザイナーが5人も居るんですから、5人でサンプルが作れるようになったら、技術面でも圧倒的に強いですし、いいものがたくさん生まれるようになると思ってます。デザイナーだけに展示会の臨時ボーナスがもらえるチャンスがあるのは、他の従業員さんはおもしろくないかもしれないので、デザイナーだけ呼んでこっそりと告知しています。でも、それだけデザインは重要だと僕は考えています。

ほとんどの従業員が染付の作業をすることができる。

ブルーシリーズのマグカップ“ペタル”を制作中。

完成品はこちら。


釣りは採用基準のひとつ?

――採用基準が「釣り」だと聞いたことがあるのですが、本当ですか?

福田  それは会長の話ですね(笑)。でも、僕も面接で聞いてましたね。「釣りする?」って。それで「します」と言ったら、「じゃあ、とりあえず釣り一緒に行こう」と、仕事をする前に海へ誘っていました。

釣りがすごく嫌いでも、もちろん大丈夫ですよ。実際にそういう従業員もいます。その従業員には「じゃあ、お酒飲める?」と聞いたのですが、「飲まない」との返事をもらって。釣りもしない、酒も飲まない、これは僕と気が合わないかも?と思ったりもしたけれど、実際に採用したら、その子が一番一生懸命に働くんですよ。だから、もう聞かないことにしようかなと思ってます(笑)。


――――「釣りバカ日誌」の世界みたいですね!

福田  本当にそうですよ。釣りに行ったら、上司であろうが、部下であろうが、年上年下も関係なし。僕が釣れてたら「ねえねえ、こっち手伝ってよ!」だし、相手が釣れてたら僕がヘルプに行きます。それって仕事でも一緒じゃないですか。だから、釣りに一緒に行けるかどうかは、一緒に働ける人かどうかを見ているだけ。特に最初は、仕事以外のコミュニケーションこそ必要なんです。これはもう最初だけでいいんです。仕事ができるようになったら、技術だけでやっていけるので。

時間で動くか、物で動くか、そのあたりの価値観も大きいですね。例えば、17時で帰るためにとにかく終わらせようとするのか、たとえ17時を過ぎたとしても、ひとつひとつを確実に歩留まり率(良品の出来高)を上げるのか。うちのスタッフは、歩留まり率を上げようと考えるタイプが多いんですよ。

「よく見ると、染付にもクセがあるんですよ」と福田さん。誰が描いたか、すぐわかるそう。


勤務中にはじまるバーベキュー

福田  うちは突然、会長が「ウナギが釣れたけん、15時で仕事は終わり。ウナギば焼いて食べるぞ!」と言って炭を起こし出すような会社。急に仕事をやめさせて、せっかくだから肉も野菜もと、バーベキューの準備をさせるのだから、周りは大変ですよね。「まだ、今日の焼きものが窯につまっとらん!」っていう時もありました(笑)。

でも、そういうサプライズみたいなイベントもちょっとした気分転換にはなりますし、時には大事かなと僕も思ってます。そういうのもあってか、うちはたぶん辞表を出されたことがないですね。


――ちなみに最近、釣りには行っていますか?

福田  うーん、最近は行ってないですね。仕事が安定している時にしか、釣りには行かないんですよ。というよりも、調子が悪くなると釣りに行けないんです。途中で心配になっても、すぐに帰って来れないでしょ? つまり、いつも仕事のことで頭がいっぱいだけど、僕が釣りに行っている間だけは仕事のことを考えていない時間なんです。反対に釣り以外は、ずっと仕事のことを考えてるってことなんですが(笑)。

釣りに行く準備の時は、まだ仕事のことを考えてますよ。でも、車に乗ってここから1歩出たら、ようやく頭を空っぽにできます。まあ、あまりにも釣れないと、また仕事のことが浮かぶんですけど、ザバーンという音を聞きながら波を眺めていたら、また忘れますね。

調子がいいときは、土曜の夜から海へ行って、日曜の夕方に帰ってきます。道具を洗ったら、お風呂に入ってご飯も食べずに寝ます。土曜の夜から一睡もしないで釣り続けるので。大げさかもしれないけれど、この時間がないと死んじゃうかもしれない(笑)。だって、そうじゃないと、ずっと焼きもののことばかり考えてますもんね。でも、波佐見の窯元の経営者はみんなそうなんじゃないかな。

小さい頃は車屋になりたかった福田さん。愛車に釣り具を詰め込んで、海へ向かうのが唯一の息抜き。


同級生から刺激を受ける日々

――コロナウイルスの影響はありますか? ※2020年3月上旬に取材しました。

福田  大きなキャンセルが相次いでいます。その代わりといってはなんですが、これまで会長の許可が降りなかった仕事もやっているんですよね。

今は有田の窯元さんと組んで、新しいことを始めています。今は陶器の茶筒を開発中。もう完成間近ですが、うちから出す予定は特にありません。彼とは高校も同じで、修業先も一緒でした。

ほかにも、別の友人とコラボレーションして作品を作ったりしています。彼も高校の同級生だったんですが、今は愛媛で作家をやってるんですよね。「龍泉窯(りゅうせんがま)」というところなんですけど、今では海外にも進出している人気のある砥部焼の窯元です。

龍泉窯とのコラボレーション商品。

福田  ただ、これが絶対に5000円でしか売れないんです。友人の要望なのですが、何年かかってもいいから価格は落とさずに売ってほしいと言われています。作り方が本当に独特なんです。全部ろくろでやってるんですけど、初めて見たときは想像を絶しましたね。人に言うなって言われてるので秘密なんですけど(笑)。絶対にひとつとして同じ形は作れません。

二人にはめちゃくちゃ刺激を受けています。人と組んで何かを考えることで自分のアイディアも広がりますし、違う視点が加わっていくのを実感していますね。これからはどんどんタッグを組んで、画期的で誰もやらないことをやってみたいと思っています。



福田さん、ありがとうございました。


※記事内で紹介する商品の中には、Hasami Lifeで取り扱いのないものもございます。翔芳窯さんのオンラインストアも併せてご確認ください。




【翔芳窯】

長崎県東彼杵郡波佐見町折敷瀬郷761-8

0956-85-4724


●公式サイト

https://shohogama.com/

オンラインストア

https://shohogama.stores.jp/sale

Instagram

https://www.instagram.com/shohogama/




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