HOME よみもの 波佐見の人 【住めばよかとこ波佐見 vol.7】東京から移住した4人家族の、暮らしの変化。 2021.11.19 【住めばよかとこ波佐見 vol.7】東京から移住した4人家族の、暮らしの変化。 by Hasami Life 編集部 ―――自分が暮らす場所は、自由に選ぶ。長崎県波佐見町にも、少しずつ移住者が増えています。波佐見町にやってきたきっかけは、みなさん十人十色。波佐見町に住んでみて、どうですか? 「住めばよかとこシリーズ」の第3弾の前編です。3年半前に、東京23区から波佐見町に移住してきた河内拓馬さん・友紀乃さん夫妻にお話を聞きました。 現在小学4年生(10歳)と小学2年生(7歳)になるお子さんを連れての移住。拓馬さんは地域おこし協力隊として活動し、これからは夫婦でセルフリノベーションした古民家で民泊をはじめるそうです。どうして波佐見町を選んだのでしょう? そして住んでみて、どんな変化が河内さんご一家にあったのでしょうか。 東京生まれ、東京育ち。田舎に住みたいとずっと思っていた。 ――:今日は、拓馬さんと友紀乃さんご夫婦ふたりに、移住についてうかがいたいと思います。東京から移住してきたとのことですが、それまではどんなお仕事をされてたんですか? 河内拓馬(以下、拓馬):僕は建築士として働いてました。自営業ですね。一般住宅の新築工事やリフォーム工事とかの図面をつくって……いわゆる工務店みたいな仕事です。 河内友紀乃(以下、友紀乃):私は傘のデザインです。生地のテキスタイルをつくるのがメインで、仕事は面白かったですね。新卒で就職してから、ずっと同じ会社で働いていました。 それぞれ東京で働いていた河内さんご夫妻。 ――:どうして波佐見に引っ越そうと思ったのですか? 拓馬:もともとあんまり東京が好きじゃなくて(笑)。僕は生まれたときから東京の西荻窪あたりに住んでいて、そのあたりのエリアをうろうろしていました。自分の人生を究極的に突き詰めて考えたときに、「死ぬまでずっと建築士の仕事を続けるのは違う」と思って、田舎でもう一度、イチから新しいことにチャレンジしてみようかなって。古民家を自分でリノベーションして住んでみたいとずっと思ってたんです。 友紀乃:わたしは結婚する前からずっと彼に「田舎で暮らしたい」って言われていました。夫の父親が、もともと佐世保出身なんです。それで彼は「九州に帰る、自分は九州の人間なんだ」ってずっと……。 ――:友紀乃さんは、東京からまったく環境の違う波佐見に引っ越してくることに、抵抗はなかったですか? 友紀乃:さっき彼も「東京で建築士の仕事を死ぬまでやるのか」って話してましたけど、わたしももともとアパレルデザインを学んでいたので、お洋服をつくりたかったんです。でも傘をデザインする仕事も楽しいし、環境を変えるくらいの大きな変化がないと、踏み出せなかった。生活コストが下がれば、自分で服のブランドをつくっていく上で選択肢も広がるし、いいなあと思っていました。夫と一緒で、わたしにとっても環境を変えてチャレンジしてみたい時期だったんです。 友紀乃さんは『ももんが洋品店』として、インターネットを中心に自作の洋服を販売している。 波佐見を選んだ理由。 ――:では移住する前も、九州に来ることは何度もあったんですか? 拓馬:毎年2回ぐらいは九州に遊びに来てました。とくに「引っ越そう」と本格的に考えるようになってからは休みの度にこっちへ来て、佐世保の実家を拠点に色んな所に行って、どこがいいか探してました。糸島とか、うきは市、八女、宗像(むなかた)……福岡県内を中心に探してましたね。そのころは、建築士の資格もあるしひとまず福岡で勤めるのもいいんじゃないかと思っていて。 ――:その段階では、波佐見は行ってないんですね。 拓馬:波佐見が候補に入ってきたのは、東京で移住相談会に行ったときです。長崎県のエリアに波佐見町のブースがあって、ふらっと寄りました。僕じつは、祖母が波佐見の人なんですよ。子どものころに遊びに行ってたなあ、と懐かしく思って相談して。そのときにブースに座ってたのが、福田奈都美さんでした。 『Hasami Life』でも最初に「住めばよかとこ波佐見」で取材させてもらった、福田さん。地域おこし協力隊として波佐見に来て、現在も住んでいる。 ――:福田さんには『Hasami Life』でも取材させてもらいました。移住相談会での出会いがひとつのきっかけになったんですね。 拓馬:すぐに決めたわけではないんですけど、候補の1つに波佐見がなりましたね。そのときに「地域おこし協力隊」として働きながらその土地になじんでいく、そういう働き方もありだなと思いました。移住したら「古民家をセルフリノベーションしてみたい」という夢があったので、地域おこし協力隊になってその土地に住めば古民家探しもスムーズかなと。いろいろ探して悩んで2、3年経ってから波佐見町で地域おこし協力隊として採用されて波佐見町に移住してきました。 移住して3年半、取材した2021年10月現在はすでに古民家での暮らしをスタートさせている。民泊として近日オープン予定。 友紀乃:わたしたち夫婦のあいだで、子どもが小学校に入る前に移住しようと考えていたので、最後のほうはけっこう焦ってたんですが、下の子が小学校に入るタイミングになんとか間に合いました。やっぱり友だちづくりとか、環境の変化も大きくなるので。 ――:波佐見町に決めたいちばんの理由はなんですか? 友紀乃:私はもともとデザイナーで、ものをつくる人間なので、波佐見みたいな焼きものの町で、ものづくりをしてる人がいっぱいいるところの方がなじめるような気がしたんです。 拓馬:地域おこし協力隊の採用面接を受ける前の段階で、一度波佐見町を見に来てました。幼少期に見た波佐見と全然イメージが変わっててびっくりしましたね。 西の原あたりが盛り上がっていて、波佐見焼自体も人気が出てました。自分が小学生ぐらいのときの記憶だと、波佐見焼なんて名前はなくて、隣町の有田焼の下請けだったし。20年前くらいまでは、本当に低迷していたのを知っていたので、実際に来てみて「子どものころのイメージと全然違う町になってる!」と思ったのは大きかったです。 河内さんのお家では、波佐見焼の「HASAMI PORCELAIN」などが使われていた。 家族で波佐見暮らしをスタートさせて。 ――:波佐見町に来て、地域おこし協力隊として、どんな仕事をなさってたんですか? 拓馬:地域おこし協力隊って人によって全然違うミッションで動いているんですけど、僕の場合は波佐見町側から建築士の資格に合わせて提案していただきました。メインは空き家についての調査をしたり、空き家再生の計画を立てたりすることですね。 ――:具体的にはどんなお仕事を? 拓馬:最初は空き家の調査から、中尾郷とか鬼木郷とかそれぞれの郷ごとに町内を全部調べて、空き家の劣化度をランク分けしました。 倒壊の恐れがある建物に関しては行政指導で崩してくださいと提言して、これからどういう風に空き家対策をとっていけばいいのかまとめました。それから、空き家バンクの登録を手伝って、建築士として家の状態を見て、住める建物なのか、どの程度お金をかければ住めるのかを判断する仕事もしてましたね。 ――:空き家については波佐見町でも大きな問題のひとつですし、拓馬さんにも経歴にも合った仕事ですね。では、実際に波佐見町に引っ越してきて、東京と違って驚いたところはありますか? 友紀乃:彼が猪を捌いてきたときは、すごいびっくりしました。いきなり猪肉を持って帰ってきたんですよ。東京にいたころは考えられなかったし、もう衝撃でしたね。 害獣駆除は地域おこし協力隊の仕事のひとつで、拓馬さんはこれまで100頭くらいのイノシシを捌いてるそう。拓馬さんいわく「魚も捌くので、そんなに抵抗感はなかった」とのこと。 拓馬:僕は人との距離が近いのに驚きましたね。みんなアポなしで訪問することが多い(笑)。最初は驚くこともありましたけど、それだけみんな気にかけてくれて、不慣れな僕たちのことを助けてくれるので、ありがたいです本当に。 ――:子育ての面では、変化はありましたか? 友紀乃:都会での子育てって窮屈だなって思うことが結構あって。 子どもって石を拾うじゃないですか。でも東京でその辺に落ちてる石は、誰かが買ってきて置いた石なんですよね。駐車場に落ちてる石も自然のものじゃない。子どもはお花も摘もうとしちゃうけど、誰かが植えて管理してる花ってことがほどんど。だからなんでもかんでも「さわっちゃダメ、取っちゃダメ、ダメダメ」って……そう言い続けるしんどさが、波佐見に来てなくなりましたね。 ――:確かに自然が豊かですし、そういう息苦しさは波佐見だと少ないですよね。もう引っ越してきてすぐにお子さんたちは波佐見での暮らしに慣れましたか? 友紀乃:うーん、息子は波佐見に来たのが小学1年生になってからだったから、最初はちょっと大変そうだったけど、まだ幼稚園児だった娘はすぐ慣れたし、結構野生化してます(笑)。そこら辺になってる柿を、「ちょっとおやつに柿食べる」と言って取ってきて皮付きのままかじったり、アケビを採ってきてウッドデッキで種を吐きながら食べたり。 小学校から帰ってきたお子さんふたりのティータイム。娘さんは庭になっていた柿を自分で包丁でカットして、皮ごと食べていた。 ――:子育てをする環境としては、どうですか? 友紀乃:幼い子どもをのびのび育てられるのはすごくいいですね、本当に。東京にいたときは待機児童が多すぎて、仕方なく無認可の保育園に子どもを入れてた時期もあったんですけど、波佐見は待機児童も少ないです。子どもたちが今より幼い頃に連れてきてあげてたら、もっとのびのび育ててあげられたのかなって思うこともあります。 波佐見で暮らすことで、価値観が変わった。 ――:河内さん一家が波佐見町に住むようになって、もう3年半以上が経ちます。自分自身の価値観の変化はありますか? 拓馬:僕はけっこう自信家だったんですけど、ちょっと謙虚になったかもしれないです(笑)。自然に生かされてるなって、ものすごく感じるようになりました。今、地域おこし協力隊の3年の任期も今年3月に終わって、前からの夢だった古民家をセルフリノベーションして民泊をはじめようとしてます。その工事でも、「ただコンクリートで固めればいい」みたいな発想はしなくなりましたね。 友紀乃:やっぱり自然に囲まれてるっていうのは大きいですね。東京にいるときは、映画を観に行く、テーマパークやカラオケに行くとか、お金を払って娯楽を得るのが普通でした。波佐見に来たら、 生活と娯楽がいい具合にミックスした状態になったんです。柿が実ったから収穫しよう、食べきれないくらいいっぱいあるからどう保存するか調べよう、柿酢ができるじゃん!ってわかったらワクワクしながら作ってみる。そんな風に、お金を払って娯楽を楽しむより、自然の恵みを受けてそれをどう暮らしに活かすかを楽しむ価値観に変わったなと思います。 大きな容器で、柿酢をつくっている。できあがったらお世話になっているご近所さんにもおすそわけしたいとのこと。 ――:波佐見町に移住を考えてる人に向けてアドバイスはありますか? 拓馬:うーん、僕らが今つくっている民泊に遊びに来て、田舎暮らしを試してもらって考えてもいいかもしれないですね。宣伝になっちゃいますけど(笑)。でも、本当に経験者としてアドバイスもいろいろできるし、そうやって活用してもらえたらうれしいです。 「天空のウッドデッキ」と名付けた、ご自宅の古民家のウッドデッキ。鬼木の棚田がよく見える。 次回は、【住めばよかとこ波佐見 vol.8】夫婦で古民家をセルフリノベーション。民泊を営みます。 をお届けします。 (シリーズを最初から読む) ◎福田奈津美さん編◎ 【住めばよかとこ波佐見 vol.1】わたしが波佐見へやってきた理由 【住めばよかとこ波佐見 vol.2】「空き工房バンク」がスタートするまで 【住めばよかとこ波佐見 vol.3】結婚、子育て、波佐見でのリアルな暮らし 【住めばよかとこ波佐見 vol.4】地元の人を大事に。移住者としての心得 ◎倉科聡一郎さん編◎ 【住めばよかとこ波佐見 vol.5】新天地で人生を再開拓、司法書士の10年。 【住めばよかとこ波佐見 vol.6】早朝の交流会に100回参加してきた理由。 Tweet 前の記事へ 一覧へ戻る 次の記事へ Hasami Life 編集部 この記事を書いた人 Hasami Life 編集部 関連記事 2023.05.26 茶碗を選ぶ、旅がはじまる。長崎・大村湾を一望できる「さいとう宿場」の朝ごはん。 「わたしにとっては、器は料理を出すためだけのものじゃないかな」カラッとした明るい声でそう話すのは、さいとう宿場の女将・齊藤晶子さん。お茶摘みの手伝いにきた人、釣りやカヤックに夢中な人、のんびりワーケーションしにくる人、ハウステンボスへ出かける人など。旅の目的も、出身や国籍も、さまざまな人たちが日々やってきます。 2023.04.21 【窯元探訪】確かな手仕事、新入荷!最大4000円OFF/オンライン陶器市2023 窯元を順番に訪ね、ものづくりにかける想いや作り手の暮らし、波佐見焼と真摯に向き合う「人」へのインタビューをお届けするHasami Lifeの人気よみものシリーズ『窯元探訪』。今年はオンライン陶器市にあわせて3つの窯元の新商品を入荷しました! 2023.03.31 鼻歌まじりに、生きた線を彫る。ジャズ喫茶も営むハンコ職人 ・立石聰さんと過ごした2時間。 今回、焼きもの用のハンコをつくる職人さんの取材ということで、訪ねたのが立石清光堂。現地に到着すると、そのすぐとなりに「Doug(ダグ)」の看板が立っています。 じつはこの2つのお店、同じ人が営んでいました。昼間は手彫りのハンコ職人、夜はジャズ喫茶のマスターという2つの顔を持つ、立石聰(たていしさとし)さんです。
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