窯元探訪【利左ェ門窯】武村博昭さん vol.8 400年の歴史の先に創りたいもの。
波佐見町には全部で59つの窯元があります。そして小さな町の至るところに、波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。このシリーズでは、窯元を順番に尋ね、器づくりについてはもちろん、ふだんは見られないプライベートな顔までをご紹介します。
※記事内で紹介する商品の中には、Hasami Lifeで取り扱いのないものもございます。利左ェ門窯さんのオンラインストア等も併せてご確認ください。
磁器(石もの)をつくる窯元が多い波佐見町で、陶器(土もの)を手がけている「利左ェ門窯(りざえもん)窯」さん。分業制ではなく自社で生地づくりから一貫生産を行う、町内では珍しい窯元でもあります。
前回に引き続き、主に商品開発を担当する専務・武村博昭(たけむら ひろあき)さんにお話を伺いました。職人に囲まれて育ったからこその哲学、窯元のチームワークの重要さ、波佐見焼400年の歴史の先につくりたいもの……熱い思いをチャーミングに語ってくださいました。
職人さんが大好き!
――:
利左ェ門窯さんでは一貫生産をされていて、ほかの波佐見町の窯元と比べても手作業の部分が多いです。手作業となると、より職人さんの存在が大きいですよね。
博昭:
職人さんあっての仕事やねえ。
――:
どんなふうに職人さんの採用をされているのでしょうか。
博昭:
"根気よくやれる"というのが大事です。手先が器用に越したことはないけど、不器用でも逆によかったりします。手先が器用だからって自信過剰になって、マイナスになるときもありますからね。不器用でも地道に仕事をし続けると、安定してくるんですよ。そうすると10年後には器用な人を不器用な人が追い抜く。結局、努力した人が道を極めてます。
――:
働きたいという人たちも多そうです。
博昭:
連絡してくれますね、「やりたいです!」って。ただ、現実を知ればやっぱり厳しい世界です。職人さんになったら、1日に100個、200個つくっていかないといけないからね。絶えず集中力がいる。あとは、腕力。気合いだけじゃなくて筋肉も必要です。そういうことを最初に隠さず伝えてますね。
――:
スピード感を持ってつくる100個200個を、同じクオリティーで仕上げなければならないですものね。
博昭:
そうです、そういう世界に耐えきれるかどうか。厳しいけど、職人さんたちは達成感を知ってるから、やる気になるんですよ。窯で焼くと器って必ず縮んだり色が変わったりと変化するので、焼きあがったあとに「こんな風になってしまった!」ってがっかりすることも、どうしてもあるんです。そのぶん、よく焼けると、工房のみんなが「よく焼けたばい」って笑顔になる。そのときが一番うれしいですよ。結局、よい品物がお客さまに届くので。そういうよろこびを共有できる人に、うちで働いてほしいですね。
――:
博昭さんも商品開発を手がけるだけでなく、職人のひとりでもあるとうかがいましたが、焼きものの生地づくりや成形、細工など、すべて作業されるんですか?
博昭:
窯で焼くのは兄貴の仕事だけど、そこまでの作業は基本的にはすべてします。親父から習ってもいたし、自分でも修行してきた。それができる環境でもあったからね。
――:
博昭さんご自身で焼きものをつくっていて、達成感はありますか。
博昭:
私にとってはもう達成感以上に、快感やね(笑)。焼きあがったときはもちろん、"しのぎ"っていうカンナで生地を削る作業とかも快感です。ずりっずりって削っていって、ピタっと思った通りに仕上がれば、すーっと気分が高揚する。
――:
ひとつ一つの作業の中に、達成感や快感があるんですね。
博昭:
そうですね。それ以上に一番の幸せは、お客さまから「使ってよかった、ありがとう利左ェ門さん」って言われること。インスタグラムも活用してるんだけど、販売促進というより私たちがお客さまから元気をもらうためにやってるようなもの。うちの焼きものを使ってくれてる写真を見たら、たまらんもんね。疲れがふっとびます。使ってもらうのが幸せです。
――:
博昭さん自身が職人でもあり、窯元で働く職人さんを大事にされている。博昭さんに工房を案内していただいてるときにそう思いました。
博昭:
大事っていうか、職人さんが大好き! 私はガキのときから職人さんにかわいがられてきたし、遊んでもらって育った。だから、職人さんが大好きですね。尊敬しています。
職人はチームプレーが大事。
――:
職人さんってそれぞれ自分で探求心があってお仕事されていると思うんですけど、こうして個人ではなくみんなで焼きものをつくるのは、やはりチームワークが必要になりますか?
博昭:
必要ですよ、結局チームですから。生地をつくって、成形して、細工して……ぜんぶの作業に流れがあるから、うまく周りとのバランスが取れないといけません。個人作家とは違いますよね。
――:
作家と職人の違いって、なんだと思いますか?
博昭:
作家が個、職人はチーム。スポーツでいうと、ゴルフとラグビーくらい差があるかな。窯元はラグビーみたいにがっちりしたチームプレーが求められます。
――:
利左ェ門さんは、どういうチームを目指していますか?
博昭:
ワールドカップへ出場できるくらいのラグビーチーム! レベルが高い試合を見てると、感動します。背が低い選手でも屈強な相手にどんどんアタックしていく。最も助け合いが重要視されるスポーツなんじゃないですか。私たちも窯元として、技術力の高い職人さんが集まっていて、その上で助け合える組織でありたいです。
――:
ラグビーみたいに、強くて助け合えるチームを。
博昭:
ラグビーって荒々しいスポーツっていうイメージが強いけど、紳士的でかっこいいですもんね。戦いのあとはノーサイド。お互いの健闘をたたえ合って、握手します。チーム利左ェ門も、紳士的な窯元でありたいです。
――:
ラグビー、お好きなんですね。
博昭:
好き(笑)。そういえば、同じ波佐見焼の一龍陶苑の社長さんもラグビー好きですよ。やっぱり窯元を経営してると好きになるのかもしれません。まあそれは置いといても、考えてみると波佐見の窯元さんはどこもいいチームですね。一龍陶苑さん、西山さん、和山さん、一真窯さん……みんな個性があって雰囲気は違うけど、いいチームワークがありますよ。
――:
真剣に戦って、だけど試合が終わったら握手して……なんだか、波佐見町全体がそんな感じだなあと思います。窯元さんはそれぞれの作風を極めようと研鑽(けんさん)していますが、展示会や陶器まつりなどではみなさん協力してますよね。
博昭:
ああ、確かに。昔、焼きものの一大生産拠点だった中尾山の登り窯は、共同窯だったんです。助け合って、みんなで窯焼きをしていました。だから、うちみたいに中尾山を下った窯元も多いけど、町全体に一体感が残ってるのかもしれません。そうやって暮らしてきたご先祖さまの遺伝子が私たちに流れてる。やっぱり、波佐見の人はみんな仲がいいもんね。
違う焼きものをつくっていても、
同じ遺伝子が残っている。
――:
波佐見の人たちは仲がいいですけど、それでいて閉塞感も強くないと感じています。結束力はありますけど、ほどよくゆるさもあって。
博昭:
そうそう。ゆるさも持ちつつ、なにかあったときに団結する。うん、やっぱり遺伝子があると思いますね。西山の社長さんとも、そういう遺伝子があるんじゃないかなって語り合ったのを覚えてますよ。同じ波佐見焼をつくるライバルではあるけど、お互いに気安く話せる関係でいられるのはありがたいです。窯元さん同士、本当に仲がいい。親戚も多いしね。
――:
そういえば、利左ェ門窯さんと、白山陶器さん、一真窯さんは、"いとこ"だと聞きました。
博昭:
ええ、親父たちがいとこ同士なんです。武村の一族は、昔はみんな中尾山に住んでました。武村さんが何軒かあって、うちは分家でね。白山陶器さんも、さかのぼると昔は武村姓だったんですよ。
――:
同じご先祖さまがいて、まったくタイプの違う焼きものをつくる窯元さんになっているのが、またおもしろいです。
博昭:
どんどん系統が分散していくんじゃないでしょうか。差別化しないと生き残っていけないですから。白山陶器さんはモダンな焼きものが多くて、一真窯さんは手彫りの技術が売り。うちは陶器の土のよさで勝負。ね、全然違うでしょう? でもシンプルさは似てるかもしれません。3社ともあまり装飾が多いものはつくってないですね。そこは血なのかねえ。
兄弟で、最善を尽くし合う。
――:
20年以上、兄弟で窯元を続けてこられたんですよね。お兄さまとの関係性はどんな感じですか?
博昭:
喧嘩ばっかりしてますよ。会社中が知ってます(笑)。
――:
あんなに波佐見町には仲よくやっていく遺伝子があるとお話されてたのに(笑)。どんな理由で喧嘩するんですか?
博昭:
結局は、"よか焼きもんをつくるため"の喧嘩です。たとえば、釉薬の濃度をどうするかって決めるときに、私は50度、兄貴は45度と主張して意見が合わないんです。「なんでそげんすっとかー!(なんでそんな風にするんだー!)」って喧嘩がはじまって、ヒートアップしていく。ひどいですよ(笑)。工房の職人さんたちも「あー、またはじまった」って。
――:
工房の中で、大きな声で言い合いをされてるんですか?
博昭:
言い合いじゃないです、もう怒鳴り合い(笑)。2歳差で年も近い兄弟だから、ぶつかるんですよね。でも、いいことだと思ってます。私は商品開発していろいろアイデアを出しますが、細かい原価計算までは難しい。兄貴は経営目線で「原価がこのラインじゃないと、採算が合わない」と言ってくれるので、なんとか利益が出るように話し合って工夫します。
――:
お互いの立場で、最善を尽くしていらっしゃる。
博昭:
せめぎ合いなんですよ。うちはかなり手間暇をかけているんですけど、その割には販売価格を抑えてますからね。それも「一枚何万円もしたらお客さまが買いきれないから」っていう、親父の考えからです。だから、ギリギリのラインを兄貴と私で考える。会社の職人さんを養っていくためにも、大事なところです。
――:
兄弟でしっかり役割分担ができていて、腹を割った話ができる関係性もあって、バランスが取れているんですね。
博昭:
そうですね。デザイン、絵付、細工とかは私。兄貴は経営をして、それから窯に入れる焼きものを積んで、窯をたく。チーム利左ェ門ですから(笑)。
――:
チーム利左ェ門。そして一番トップのふたりがいつも……。
博昭:
そうそう、いつも言い争い(笑)。でもすぐノーサイド! まあ、厳しい世界ですからね。仕方ないことです。辞めたいと思ったことも何度もありましたよ。それでも続けてこられたのは「兄貴を支えて、助け合ってやっていけよ」っていう親父の遺言も大きかったです。親父自身がひとりで経営して、職人さんたちと一緒に作陶もしてたので、大変さがわかってたからこその言葉だったんでしょう。
400年の歴史の先につくりたいもの
――:
一貫生産で土を生かした陶器をつくること、多くの人にとって手が届く価格帯で販売すること、兄弟で協力してやっていくこと。お父さまの存在が、博昭さんたちに本当に大きく影響を与えているんですね。これまでご兄弟でバランスをとりながら、職人さんたちと一緒にさまざまな焼きものをつくってこられました。これから新しくチャレンジしたいことってありますか?
博昭:
「新たなやきもん」をつくりたいって思う。
――:
波佐見だけでも陶磁器の歴史が400年くらいある中で、新しい焼きものですか。
博昭:
その400年の中で、私が歩んできたのはたった30年くらいです。親父や職人さんたちから多くのものを受け継いで、これまでいろんな焼きものをつくってきました。
――:
その上で、これまでの400年の歴史にないものをつくりたい、と?
博昭:
つくりたい! 生きた証になるようなものを。「博昭、生きた証」ってね(笑)。
――:
とっても、かっこいい職人だと思います。
博昭:
それが生きがいでもあります。だから「新たなやきもん」を目指して常に研究して、積み重ねています。デザインや土のブレンド、釉薬との合わせ方、「この組み合わせはいいな」って思いついたときに、すぐメモして。
――:
メモをされてるんですか?
博昭:
必ずメモしてますよ。デザインも土も釉薬も、思いついたらぜんぶ。「さあ、今から2時間でデザインを出して。よーいスタート!」って言われても、急に浮かびませんからね。365日ずっと、頭の片隅であっても考えをめぐらせて、ぱっとひらめいたときにメモします。それをずっと、大事に保存してるんです。
――:
そのメモ帳、気になります……! よかったら見せてもらえませんか?
博昭:
それはプライベートだから、ダメ(笑)。
【利左ェ門窯】
長崎県東彼杵郡波佐見町稗木場郷548-3
0956-85-4716
●公式サイト
http://www.rizaemon.jp/index.html
●オンラインストア
https://rizaemon.jp/shop/html/
https://www.instagram.com/rizaemongama/