THE HASAMI-YAKI vol.8

by Hasami Life 編集部
THE HASAMI-YAKI vol.8

波佐見焼をつくる上で欠かせない「型屋」。焼きものの生地の型をつくる仕事です。今回は実際に型屋の工房にお伺いして、型づくりのことを教えていただきました。

波佐見町内で「原型工房フクタツ」を営む、福嶋辰也(ふくしま たつや)さん。型づくり30年のベテラン職人。

 

型づくりには、100点の教科書が存在しない。

前回の THE HASAMI-YAKI vol.7 では、長崎県窯業技術センターで型屋の仕事の流れを教えていただきました。とくに最初の原型(製品の形状をした石膏)づくりでは、熟練した技術が必要だ、と。その仕事をしているのが、原型師である福嶋辰也さんです。

「焼きものは、焼くと縮みます。だいたい10%ちょっと縮む。それを見越して、完成品よりも大きいサイズの型をつくる必要があるんですよ」と福嶋さん。

窯に入れると縮むだけでなく、1000度以上の温度で焼くため、土がすこし溶けて器の形状自体も若干変わってしまいます。それらをすべて予測した上で、図面通りではない形状の原型をつくりださねばなりません。製品の形状をそのままをコピーするだけでは、原型師の仕事は務まらないのです。

「型づくりは長年の経験と勘が大事。『こうしたらできる』っていう100点の教科書がないんですよ。原型は何度もつくって、実際に自分でつくった型の生地を窯で焼いてみて、失敗もしないとうまくならんのです」

 

長年の経験が、最適解を導き出す。

「ちょっと見て」と福嶋さんがプレートの原型を見せてくれました。

「プレートの底の高台がある部分は、支えがあるからいいんです。でも、プレート底の中心部分は支えがないからどうしても焼いてるときに重力で落ちてきてしまう。だから、落ちることを見越してやや中心部分を高くしておいて、最終的に水平になるように調整します」

すると、プレートに定規をあてて見せてくれました。

中央部分が高くなるよう、原型がつくられている。

「ほんのわずかですが、定規の両端と中央のすきまが異なるのがわかりますか? 中央はくっついているけれど、両端は空いているでしょう? これが焼き上がりに大きな影響を与えるんです。焼くと生地のどこが下がってしまうのか、どの厚みが歪みなく焼けるベストなのか。長年の経験をもとに、焼き上がったときにちゃんと求められる形になるように原型をつくるのが原型師の仕事です」

もちろん、完成形の設計図しか、福嶋さんのもとへは届きません。すべて原型師である福嶋さんが計算して、型をつくりあげます。

「図面を見ただけじゃわからない部分もあるけん、打ち合わせで細かい段取りをします。カーブのアールの形も、やわらかい感じか、ちょっとカチッとした感じか、話し合って」

生地づくりに使う土や焼成温度も確認して、型の形状を決める判断材料にしているのだそうです。さらに窯元それぞれにある窯によっても焼き上がりが異なるため、丁寧にヒアリングしてオーダーメイドで最適な原型の形状を導き出します。

ぶれないよう固定しながら、三角カンナで原型を削る。

取引のある窯元や商社は20社以上、依頼される形状も、依頼の仕方もさまざま。

「依頼のなかには、発泡スチロールをカッターで削って製品の形状を持ってくる方や、おもちゃ用の粘土で見本を持ってこられる方もおりますよ。そういう場合にも、大きさとか深さとかイメージを話し合って、しっかり打ち合わせしてつくります。設計図が書けないお客さまの依頼でも、一緒に原型をつくることはできます。

逆に波佐見で陶磁器デザイナーをしている阿部薫太郎さんのように焼きもののことがわかってる人は、話が早い。図面をもらったあと、電話で『フチを若干厚くしようかね』って言っただけで『そうですね、そこは歪みやすいから、そうしましょう』ってすぐ理解してくれるので、スムーズに話が進みますね」

阿部薫太郎さん。陶磁器デザイナーとして、Hasami Life でも販売している「essence of life」をはじめ、数多くの波佐見焼を手掛けている。

長年の経験で、どんな依頼でも柔軟に対応してきた福嶋さん。型を手掛けた焼きものを手に取る瞬間は、やっぱりいつもうれしいそう。

「でもね、仕上がったものを見る前から、原型つくってたらどんな焼きものができるか、大体わかるよ。原型がよかったら、完成品もよかたいね」

 

石膏は微調整の連続。その日の気温・水温に左右される。

原型ができると、そのまわりに石膏を流し込んで、型を取ります(詳しくは前回の THE HASAMI-YAKI をご覧ください)。原料となる半水石膏(固める前の石膏)に水を加え、撹拌(かくはん)してから時間を置くことで、二水石膏(固まった石膏=石膏型)になるのです。

(画像提供:長崎県窯業技術センター)

「石膏のつくり方にも、100%の教科書はありません。季節やその日の天気によって、石膏の粉(半水石膏)と水を撹拌する時間を変えています。とくに水温の違いが影響を与えるので、井戸水と水道水でも違うし、1日のうちでも朝と午後では異なります。その日その時で、最適な撹拌時間が変わってくる。これも経験と勘でつくってますね」

また、石膏の粉自体も販売されているロットによって状態が変わるため業者に確認して、撹拌時間を変えていくのだそう。

使用している石膏の粉(半水石膏)。

石膏の粉(半水石膏)に水を入れて、機械で空気が入らないように真空状で攪拌する。

普段はひとりで原型づくりをしている福嶋さんですが、石膏を流し込む作業はパートの方に来ていただいて一緒に作業しているとのことでした。とくに大きなプレートなどをつくるときには、石膏型も大きくなります。力持ちの人がいないと作業が大変とおっしゃっていました。

効率よく生地をつくれるよう、一度に複数生地をつくれる石膏型を製作する場合もある。

チャレンジできる“ものづくりの産地”、波佐見。

近年、福嶋さんは磁器のワイングラスを手掛けたそうです。脚の部分がすらりと華奢な、とっておきの一脚。この脚の細さを出すために、原型の製作に試行錯誤を重ねたといいます。

手掛けたワイングラスの脚部分の原型。

「波佐見ではいろんな窯元さんや商社さんが『新しいものをつくろう!』と企画して、依頼してくれます。いろんなものにチャレンジしてるけん、ノウハウも多いです。だから、お客さまの『つくりたい』という要望に真面目に取り組んで、応えられるように勉強していると、新しい技術も自然と身につくんですよ」

図面から仕上がりを考えて原型をつくるのが楽しい、と話す福嶋さん。「これまでいろんな型をつくってきました。石膏型は使用回数に約100回ほどと限界があるので、追加で注文があったときのために数多くの型を保管しています。だから工房の中に型が増えていってしまう(笑)」と笑います。

どんどん新たな器の形を生み出していく。そして魂を込めて完成させた原型があれば、何十年先でも、同じ形状の器をつくることができる。それが波佐見という “町がまるごと焼きもの工場” のような産地で、型屋が担う大切な仕事です。

福嶋さん、ありがとうございました!
次回のTHE HASAMI YAKIもお楽しみに!

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